東日本大震災から6年連続で釜石高体育館を会場に開かれた「かまいしの第九」
東日本大震災から5年9カ月の11日、「かまいしの第九」が今年も師走のまちに希望の歌声を響かせた。実行委が主催する39回目の演奏会は、今回も甲子町松倉の釜石高体育館が会場。オーケストラと市民らの合唱が一体となって奏でるベートーベンの交響曲第9番が、復興への歩みを続ける市民らに明日への活力をもたらした。ちょうど40回目に当たる次回は、来年秋に完成予定の市民ホール(仮称)の「こけら落とし」として公演が予定されており、新たなステージへ期待が高まる。
1部は03年から始まった市内の中学生による「オーケストラと歌おう」のコーナーで、今年は釜石東中(佐々木賢治校長)の全校生徒132人が出演した。震災のあった11年の演奏会で、当時の同校生が歌った「地球星歌」(作詩・作曲ミマス)、震災を経験した当時の東中生の思いをミマスさんが歌に仕上げた「いつかこの海をこえて」など3曲を美しいハーモニーで聞かせた。
精いっぱいの歌声を響かせた釜石東中の生徒ら
2部の「第九」は、東京周辺の演奏家で構成するウッドランドノ―ツと釜石市民吹奏楽団のメンバーなど45人がオーケストラを編成。3楽章から4人のソリストが登場し、最終の4楽章で、県内外から集まった幅広い年代の合唱団140人とともに「歓喜の歌」を壮大に響かせ、感動のクライマックスを迎えた。鳴りやまない拍手に応え、約550人の観客と出演者が「歓喜の歌」を大合唱。震災前の市民文化会館での演奏会に勝るとも劣らないステージを繰り広げた。
東京都東村山市の小学校教諭眞鍋愛子さん(38)は、勤務校でミマツさんの曲に取り組んだのを機に釜石東中や「かまいしの第九」のことを知り、足を運んだ。震災に負けない姿を目の当たりにし、「歌う喜びや当たり前のことをできる大切さを感じさせてもらった。東中の合唱も素晴らしい。帰ったらクラスの子たちにも伝えたい」と話した。
釜石東中3年の菅原常慈君は、先輩が残した曲について「今でも(震災の)つらい記憶がよみがえるが、『いつかこの海をこえる』という歌詞がとても心に響き、やはり次につないでいかなきゃと思う」と自分たちの使命を実感。今回、大舞台へ全校で取り組んだことに「いつも以上の力を発揮できて良かった」と充実感をにじませた。佐藤健副校長は「今までで一番の演奏。気持ちを作るのに苦労したが、生徒たちは精いっぱいの歌声を響かせてくれた」とたたえた。
1977年の初演からフルート奏者で参加し、現在は指揮者を務める山﨑眞行さん。今年は、2度の大病を克服して臨んだ演奏会だった。「途中でへたばってしまいそうになったが、演奏家からエネルギーをもらい奮い立った」と、渾身(こんしん)のタクトで約2時間の演奏を見事に率いた。来年の市民ホール公演に向けて「40回を機に新しいホールで再出発することになるが、この5年間が本当の意味での”釜石の第九”を築いてくれた。苦難を乗り越える釜石人のパワーはすごい」と、本格的な音楽文化再興へ意欲をみなぎらせた。
(復興釜石新聞 2016年12月14日発行 第546号より)
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