釜石ー花巻南 1回無死二、三塁から3番大尻悠矢が右前打を放ち2点を先制する=20日、花巻球場
第68回秋季東北地区高校野球県大会で快進撃を続ける釜石は20日、花巻市の花巻球場で行われた準決勝で花巻南を3―1で破り、決勝進出と東北大会出場を決めた。2008年に釜石南と釜石北が統合して以降、初の快挙。釜石南は1995年の第48回大会で準優勝し東北大会に出場。東北大会でも準優勝し、初のセンバツ出場を果たしている。以来、20年ぶりにめぐって来た大きなチャンス。釜石南OBでもある佐々木偉彦監督(31)は「東北大会でもこれまで通り、ともかく一戦、一戦」と気を引き締める。県大会決勝は22日、花巻球場で強豪・盛岡大付と対戦する。
▽準決勝
花巻南
0000100001
20001000×3
釜 石
(花)佐々木悠、前野―伊藤
(釡)岩間―大尻
▽二塁打 古舘(花)奥村、菊池勇2(釡)
エース岩間熱投 花巻南に3-1
釜石は初回、連打で無死二、三塁とし、大尻悠矢(1年)の右前打で2点を先制。1点を返された後の五回には、2死一、三塁から新沼康大(1年)の内野安打で1点を追加。投げては県大会4連投の岩間大(2年)が散発4安打1失点に抑えて逃げ切った。
気力だけで投げ抜いたエース岩間の「粘投」が、20年ぶりの東北大会出場の原動力となった。「一番いいピッチャー。彼でないと勝てない」。佐々木偉彦監督は迷わず、岩間に準決勝のマウンドを託した。
その岩間。地区予選初戦こそ継投したものの、その後は2連続完投。県大会でもこれまで3試合全てを一人で投げ抜いてきた。県大会初戦から肩に痛みがあり、「きょうは立っているだけで痛かった」と明かす。
しかし、投球はさえにさえた。直球は130キロ弱のスピードだが、得意のスライダーを効果的に決め、チェンジアップで空振りを取った。1球ごとに魂を込めて投じた130球が勝利を呼び込んだ。
県大会で4連続完投勝利。肩の痛みをこらえて熱投する岩間投手
地区予選の初戦で高田にコールド負けしたことが、粘りの原点となった。「センバツを目標にやってきた。こんなところで負けてはいられない」。地区予選の代表決定戦では延長十三回を投げ抜き、第3代表の座をつかみ取った。
大槌町出身の岩間は赤浜小6年時に震災で被災。自宅を流され、母親は今も行方不明のままだ。現在は父・茂さん(47)の釜石市小川町の実家で、祖父母と4人で暮らす。大学生の兄・仁さんは昨年、釜石高野球部の主将として活躍した。
「負けん気は強いですよ。私の言うこともあまりきかない。意地っ張りは兄譲り」と茂さん。「チームの中で一番気持ちが強く、周りを鼓舞する強さもある」と佐々木監督の信頼も厚い。震災で母親を失った悲しみを逆に力に変え、準決勝を投げ抜いた。
エースの奮闘に1年生捕手の大尻悠矢が応えた。初回、無死二、三塁の場面で2点先制打。エースを助けたい、との思いが打球を右翼線に運んだ。「強気のリード。インコースに、びっくりするようなサインも出す」という佐々木監督の期待にも応えた。
「初回に点を取ろう、と言ったことを選手がそのまま表現してくれた」と佐々木監督。就任1年目で手にした東北大会出場切符に、「正直、力はないと思う。気持ちで勝ち抜くしかない」と思いを込める。
父母席も快進撃に熱狂「すごい、信じられない」
校訓に掲げる「鋼鉄の意志(はがねのこころ)」を体現した釜石高ナインの破竹の快進撃に、応援席を埋めた父母会も沸いた。最前列でメガホンを取った事務局長の沖裕之さん(54)=釜石市教委スポーツ推進課長=は「きのう(準々決勝)勝っただけで、すごいと思った。信じられない」と絶句した。
同大会は課外授業と重なり、生徒応援の予定はなかった。代わって応援スタンドには父母会約30人と野球部OB約20人が陣取り、一投一打に熱い声援を送った。最後の打者を岩間投手が外野フライで打ち取ると、「やったー、決勝だ」「東北大会だ」と歓声を上げ、喜びを爆発させた。
地区予選の初戦で高田にコールド負け。「まさか、こうなるとは思ってもみなかった」と沖さん。「岩間君の男気がチームを一つにした」と奮闘をたたえた。
統合後初の決勝進出、東北大会出場に沸く父母会の応援席
準々決勝 延長十回 宮古に逆転勝ち〜沿岸対決、釜石に軍配
▽準々決勝(八幡平球場)
釜 石
00000000134
00010000001
宮 古
(延長十回)
(釡)岩間―大尻
(宮)伊藤虎、高橋、山本―佐々木夢
▽二塁打 佐々木尚、新沼(釡)大川原、高橋(宮)
釜石は八回まで0―1と追い詰められたが、九回に追い付き、延長十回に一挙3点を加え、逆転で宮古との「沿岸対決」を制した。
1点リードされたまま迎えた九回、2死一、二塁。平野雄哉(1年)がフルカウントからしぶとく左翼線に打球を運んで同点。延長十回には1死満塁から、新沼康大(1年)がセンターの頭上を越える勝ち越しの二塁打を放ち勝負を決めた。
釜石—宮古 十回1死満塁、5番新沼康大の右中間二塁打で2者が生還、3ー1と逆転する=19日、八幡平球場
いずれも佐々木監督の1年生起用がズバリと的中した。
2回戦でけがをしたメンバーに代わり公式戦で初先発した平野について、監督は「積極的にバットを振れるし、打撃もシャープ。一本出るのではないかという勘があった」。打撃不振ながら5番に打順を上げた新沼は「必ずキーマンになる」と送り出した。
165センチ、52キロと小柄の平野は甲子中出身。「ダウンスイングを心がけているが、フライになってしまって…。頼む、ヒットになってくれと祈りました」と、チームを救った殊勲の場面を振り返る。「正直言ってメンタル面はあまり強くない。監督の『信じてやれ』という言葉が支えになった」
一方、「県大会初戦から調子を落とし、チームに迷惑をかけていた」という新沼は釜石東中出身。2球続いた変化球のあと、「絶対来ると思っていた」直球を思い切り振り抜き、準決勝進出を決定付けた。目標はあくまでセンバツ出場。「まだ通過点。守備、走塁面で(自分は)レベルが落ちるので、バッティングで取り戻さないと」と、さらなる貢献を胸に誓う。
「序盤は粘り、追い上げる。予想した通りの展開。最後まで選手を信じていた」と佐々木監督。「目標はセンバツ出場」と選手に言い続けてきた。そのセンバツにつながる東北大会進出まで、あと1勝。「1戦ごとに選手に自立心が付いてきた。もっともっと、うまくなる」と期待を膨らませる。
(復興釜石新聞 2015年9月23日発行 第421号より)
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