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釜石駅付近にクマ、市内初「緊急銃猟」で1頭駆除 岩手県内で2例目

釜石市中心部に出没したクマ。緊急銃猟で駆除された

釜石市中心部に出没したクマ。緊急銃猟で駆除された

 
 クマの出没を受け、釜石市は11月26日、自治体判断での発砲を可能とする「緊急銃猟」を実施し、1頭を駆除した。岩手県内初の緊急銃猟となった同月20日の洋野町に続いて2例目で、同市では初めて。
 
 市によると、駆除されたクマは体長約120センチの雌(体重80キロ)で、成獣とみられる。26日午前7時25分ごろ、鈴子町で「クマが木に登っている」と住民から市に連絡があった。駆け付けた市職員や釜石大槌猟友会、県警などが木の上にいるクマ1頭を確認。木の下に箱わなを設置し、警戒に当たった。
 
木の上に居座るクマの様子をうかがう関係者

木の上に居座るクマの様子をうかがう関係者

 
 現場はJR釜石駅の沿線で、駅から東側に約200メートルの鈴子排水区雨水ポンプ場近く。国道283号沿いで交通量が多く、日中は人通りもある。周囲には土産物店が入る「シープラザ釜石」や魚屋などが入る市場「サン・フィッシュ釜石」、ホテル、レンタカー店などが点在する。
 
 市は追い払いを試みたものの、クマは木の上からほとんど動かず、付近にとどまり続けた。わなにもかからず、約5時間半こう着状態に。「山に追い払おうにも市街地を通っていかなければいけない状況だった。危険だということで緊急銃猟しかないな…」と関係者間で協議、判断した。
 
木の下に箱わなを設置するもクマは木の上から動かず

木の下に箱わなを設置するもクマは木の上から動かず

 
近くの線路を列車が通ってもクマは木の上から動かず

近くの線路を列車が通ってもクマは木の上から動かず

 
市街地に出没したクマを警戒する警察官とにらみ合い

市街地に出没したクマを警戒する警察官とにらみ合い

 
 クマを貫通するなどした銃弾を遮る「バックストップ」が確保され、列車が通らない時間帯だったことなどの条件もそろい、市長に状況を報告。午後0時半ごろに市長が許可し、緊急銃猟のため釜石署が同0時50分ごろから現場付近で交通規制した。
 
 周囲の安全を確認した上で、市鳥獣被害対策実施隊の隊員が午後1時ごろに1発撃った。銃弾を受けたクマは近くにある別の木の上に移動。同1時半ごろ、さらに2発を発砲し、駆除した。同1時45分ごろに交通規制を解除。けが人や物的被害は確認されていない。
 
国道283号を通行止めにして緊急銃猟を実施。弾を受けたクマは別の木に移ったが、駆除された

国道283号を通行止めにして緊急銃猟を実施。弾を受けたクマは別の木に移ったが、駆除された

 
 市の担当者は「こうした状況(緊急銃猟の実施)にはなりたくないというのが正直な話」としつつ、「関係機関と良好な関係が築けていたのでスムーズにできた」と振り返った。緊急銃猟について、市はマニュアルを作成し、9月には関係機関と対応訓練を行っていたことが、今回の円滑な連携と対応につながったという。
 
 一方で、緊急銃猟の難しさを感じる場面も。1発目の弾丸は命中したもののクマが移動したため、再度、市長への報告や許可を得る必要が生じた。市の担当者は「(緊急銃猟を行う)一連の場所が動けばシチュエーションが変わり、その都度、市長の判断が必要になる。ややもすれば忘れてしまうかもしれないと心配にはなった」と話した。
 
 市によると、昨年11月のクマの目撃情報は4件だったが、今年は26日現在で27件と大幅に増加。クマを人間の生活圏に近寄らせないための対策として、生ごみを出さないことや放置果樹の撤去などを呼びかける。
 
市街地に出没し緊急銃猟で駆除されたクマ

市街地に出没し緊急銃猟で駆除されたクマ

 
 緊急銃猟は鳥獣保護法が改正され、今年9月に始まった制度。人の生活圏にツキノワグマなどが出没した場合、人に弾丸が当たらないよう安全確保した上で市町村の判断で銃猟を可能とする。市町村長は①住宅地などに侵入またはその恐れがある②危害防止のため緊急に対応が必要③銃猟以外で的確かつ迅速な捕獲が困難④住民らに弾丸が当たる恐れがない―と判断した場合、市町村職員や委託したハンターに緊急銃猟をさせることができる。

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読書の秋だから!? 釜石市と東京大の連携イベント「海と希望の学園祭」 テーマは“本”

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本を通し交流が広がった「海と希望の学園祭」

 
 釜石市と東京大学がタッグを組み展開する交流イベント「海と希望の学園祭 in Kamaishi」は22日と23日、同市大町の市民ホールTETTOを主会場に開かれた。4回目となった今回のテーマは「本」。同大教授らが“推し本”との思い出を振り返るトークを繰り広げた。市が進める「本のまちプロジェクト」にちなんだもので、PRポスターコンクールの表彰式やコンサートを開催。鉄文化や郷土芸能にまつわる物語に触れる鉄の学習発表会も催され、新たな“知”との出合いや読書の秋を体感する機会とした。
 
 「いつでも、どこでも、だれでも」をキーワードに読書に親しめるまちづくりを目指し、今年から本格的な取り組が進む同プロジェクト。市内8地区の生活応援センターにある図書コーナーを充実させたり、市広報紙などで市民のおススメ本を紹介している。TETTOにも可動式の本棚「お楽しみ図書館」がお目見え。誰かが読み終えた本が棚に並び、読みたい誰かが手に取る方式で、気になる一冊との出合いを楽しむ姿がみられた。
 
umitokibou01TETTOに置かれた「本のまちプロジェクト・お楽しみ図書館」

 
 市民らを対象に10月末まで募集したPRポスターコンクールの表彰式は22日に実施。市長賞に輝いた今入美智瑠さん(30)の作品「開けば飛び出す物語」は、読書の楽しさやページをめくるワクワク感が表現されている。ほか、未就学児から中学生まで7人が入賞。「日本一、本を読むまちにしたい。読書をきっかけに新しい交流が生まれることを期待」と話した小野共市長らが入賞者に賞状を手渡した。
 
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本のまちをPRするポスターが並ぶ会場で表彰式が行われた

 
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本や物語にちなんだ曲が披露されたコンサート

 
 イベントは同大や社会科学研究所(社研)、大気海洋研究所(大海研)、先端科学技術研究センター(先端研)と結んだ覚書・協定に基づいたもの。生産技術研究所(生研)を加え、各種研究をパネルなどで紹介した。同大の玄田有史副学長や4研究所長、釜石市の高橋勝教育長によるトークイベントは「大切な本」をテーマに和やかに展開。「発見がある」本との出合い、「複数冊を同時に読み進める」など独自の読書スタイルを明かした。
 
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「大切な本」にまつわるエピソードを語る東京大教授ら

 
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東京大学社会科学研究所の所員らの“推し本”がずらり

 
 社研の所員らの“推しの本”42冊を集めた展示コーナーも登場。宇野所長が監修した「選挙、誰に入れる?」など社会科学関連度が高めのものから、「不良のための読書術」など関連度は低めながらも気になるタイトルの本がずらりと並んだ。市内の及川幸世さん(68)は「普段読まないようなものもあったけど、紹介文を見て興味を持った。偏らず、いろんなものを広く浅く読んでみたい」と刺激にした。
 
 海を身近に感じられる展示やワークショップもあり、親子連れらが楽しんだ。岩手大釜石キャンパスは海生生物に触れられるタッチプール、文京学院大(東京)の学生クループはペットボトルのキャップなどを使った巨大絵本の制作体験などを用意。大海研の作品展示の一つ、ヤドカリを模した巨大バルーンアートは写真スポットとして人気だった。
 
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ヤドカリを模した巨大なバルーンアートは子どもに人気

 
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来場者は海に関する展示やワークショップを楽しんだ

 
 今回の学園祭は、複数のイベントが同時開催され、盛りだくさんの内容に。環境省の「脱炭素先行地域」に選定されている釜石市で進行中の取り組みを紹介する「ゼロカーボンフェスタ」はイオンタウン釜石も会場となり、東北電力グループが岩手大生のサイエンスショーや脱炭素化に向けた行動を学ぶアプリの体験などを用意した。
 
 手回し発電や磁力を活用した釣り遊びを楽しんだ小学生藤元爽和さん(3年)は「学校での科学の実験が楽しみなった」とはにかみ、妹の叶和さん(1年)はTETTOで巨大バルーンアートの中に入る体験が「ふわふわで不思議だった」と目を輝かせた。母の聡美さん(40)は「いろいろなことに興味を持ったようだ」と見守った。
 
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同時開催の「ゼロカーボンフェスタ」を楽しむ子どもら

 
 脱炭素化に向け、東北電力は太陽光発電など再生可能エネルギーを活用した各種メニューを提案。同社岩手支店の佐藤利幸部長(岩手三陸営業所長も兼務)は「脱炭素と聞くとハードルが高いと感じられがちだが、実際は身近なところからできる取り組みがいくつもある。体験を通して、感じてもらえたら」と期待した。
 
 鉄の学習発表会は釜石PITであり、釜石小5年生(11人)の代表5人が「鉄の町釜石」と呼ばれる理由を紹介した。釜石の鉄文化や戦争の歴史、暮らし、郷土芸能などを散りばめた物語を朗読で伝える「かまいしのこえ」も上演。京都を拠点に活動するアーティスト集団「安住の地」の作家・演出家、私道かぴさんが地元の人たちに話を聞いて創作し、釜石のタレント養成所「C-Zero(シーゼロ)アカデミー」の生徒らが言葉に感情をのせ届けた。
 
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鉄の学習発表会で発表する釜石小5年生。佐々木結音さんは「鉄の連続出銑ができるまで諦めず努力したのがすごい」と感心した

 
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私道かぴさん(右の写真)が創作した短編作を朗読で披露した

 
 朗読に耳を傾けた佐々木伸一さん(81)は、釜石製鉄所OBで私道さんに話題を提供した一人。「鉄の話、まちの様子、住む人の思いをよくまとめてくれた。私たちの代わりに伝えてくれて、うれしい」とにこやかに話した。
 
 23日は、海に関する本や南極の魅力を紹介するトークイベントなどが行われた。

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“ラグビーのまち”を体感 釜石の小学生 タグラグビー大会で躍動 SW選手もコーチでアシスト

7回目を迎えた釜石東ロータリーカップ釜石市小学校対抗タグラグビー大会

7回目を迎えた釜石東ロータリーカップ釜石市小学校対抗タグラグビー大会

 
 釜石東ロータリーカップ「釜石市小学校対抗タグラグビー大会」(釜石ラグビー応援団主催)は16日、釜石鵜住居復興スタジアムで開かれた。ラグビーワールドカップ(W杯)2019釜石開催の機運醸成を―と2017年から始められた大会は7回目を迎えた。市内5校と釜石シーウェイブス(SW)ジュニアから約120人が参加。日本製鉄釜石SWの選手23人がアシスタントコーチとしてチームをサポートし、“熱い”戦いと“温かい”交流にたくさんの笑顔が弾けた。
 
 開会式で中田義仁大会長(釜石ラグビー応援団団長)は「釜石ラグビーには皆さんを成長させてくれる大きな力がある。ラグビーW杯が行われたこの素晴らしい芝生の上で、他校の仲間とも友情を深めてほしい」とあいさつ。釜石SWの河野良太主将は「練習の成果を全て出し切れるように頑張って。選手もサポートするので一緒に楽しもう」と呼びかけた。
 
釜石SW選手がサポートする14チームが勢ぞろい。選手宣誓(右上)は小佐野バーバリアンズの野田大耀主将

釜石SW選手がサポートする14チームが勢ぞろい。選手宣誓(右上)は小佐野バーバリアンズの野田大耀主将

 
 参加14チームが3ブロックに分かれて予選リーグを行った後、上位8チームによる決勝トーナメントで優勝を競い合った。1チームは4~6年生の男女5人で編成。選手の入れ替えは自由で、登録選手全員が出場するのがルール。予選リーグは1試合7分、決勝トーナメントは前後半5分ずつで行われた。各ブロックの下位チームもフレンドリーマッチで交流を重ねた。
 
平田ブルースターの選手のタグを取り高く掲げる鵜住居エタニティーズの選手(予選Aブロック)

平田ブルースターの選手のタグを取り高く掲げる鵜住居エタニティーズの選手(予選Aブロック)

 
釜小タグラグビー戦隊クックルンAの攻撃を止めようとタグに手を伸ばす鵜住居ゴリラーズ(予選Bブロック)

釜小タグラグビー戦隊クックルンAの攻撃を止めようとタグに手を伸ばす鵜住居ゴリラーズ(予選Bブロック)

 
3年生以下の子どもたちはSW選手とタグやボールを使った遊びを楽しんだ

3年生以下の子どもたちはSW選手とタグやボールを使った遊びを楽しんだ

 
 平田小からは3チームが参加した。4年生5人でチームを結成した猪又葵央斗さんは「みんなの心がつながって決勝トーナメントまでいけた」と初の大会に手応えを感じた様子。普段はミニバス少年団で活動。球技にはなじみはあるが、「ラグビーはボールを後ろに投げるのが大きく違うところ。タグを取るのが面白く、取れた時は『よっしゃー!』って感じ」と心を躍らせる。同級生と「来年も絶対出る」と声を合わせ、「2位ぐらいまではいきたい」と目標を掲げた。
 
平田ファイヤーズvs小佐野バーバリアンズブルー(予選Cブロック)。平田の4年生が小佐野の5年生に挑んだ

平田ファイヤーズvs小佐野バーバリアンズブルー(予選Cブロック)。平田の4年生が小佐野の5年生に挑んだ

 
 今大会では各チームにSW選手が1人ずつアシスタントコーチに就いた。試合の合間には一緒にパス練習をしたり、戦略を話し合うメンバーにアドバイスを送ったり…。試合中は応援にも熱が入り、トライまで持ち込むと両手を挙げて喜びを分かち合った。川上剛右選手(31、WTB)は釜石小のチームをサポート。「学校の仲間と協力しながら(タグ)ラグビーに触れ合う姿がとても新鮮で、釜石ならでは」と感激。(ラグビーの)才能を感じる児童も何人かいて、「SWジュニアへの入団に興味をもってくれた子もいた。この中から将来、SWで活躍する選手が出てくれたらうれしいですね」と顔をほころばせた。
 
SWの村田オスカロイド選手のアドバイスを受けながらパス練習する小佐野小生

SWの村田オスカロイド選手のアドバイスを受けながらパス練習する小佐野小生

 
試合の合間にはSW選手と記念撮影も! たくさんの思い出を作った

試合の合間にはSW選手と記念撮影も! たくさんの思い出を作った

 
本物ラグビーさながらのダイビングプレーも!

本物ラグビーさながらのダイビングプレーも!

 
子どもたちの頑張りにSW選手や釜石東ロータリークラブ会員の応援も白熱

子どもたちの頑張りにSW選手や釜石東ロータリークラブ会員の応援も白熱

 
 注目の決勝は小佐野バーバリアンズ(6年)と平田ゴブリンズ(5、6年)が対戦し、7-1で小佐野が勝利。大会2連覇を果たした。小佐野バーバリアンズの野田大耀主将は「連覇でき、とてもうれしい。たくさん声をかけ合って、負けても崩れない明るさがチームの持ち味」と自負。重点的に練習したアタックも「作戦がうまくいった。後輩たちにも3連覇に向けて頑張ってほしい」とエールを送った。
 
決勝トーナメント1回戦 釜小タグラグビー戦隊クックルンAvs平田ゴブリンズ

決勝トーナメント1回戦 釜小タグラグビー戦隊クックルンAvs平田ゴブリンズ

 
トーナメント決勝は小佐野バーバリアンズと平田ゴブリンズが対戦。7-1で小佐野が優勝を飾った

トーナメント決勝は小佐野バーバリアンズと平田ゴブリンズが対戦。7-1で小佐野が優勝を飾った

 
 小佐野小の菅原祥太教諭(29)は「いつも仲良く練習していた。作戦も自分たちで組み立て、ポジティブな声がけが多い素敵なチーム」と児童らの取り組み姿勢をたたえた。今大会最多の4チームが参加した同校。タグラグビーの活動は年間を通して行っていて、各種大会に出場している。合言葉は「良きプレーヤーは良き生活者」。日常生活の態度がプレーに直結することを表した言葉で、児童らは肝に銘じて実践。競技力向上につなげているという。次の目標は12月14日のSMBCカップ全国小学生タグラグビー大会県予選(奥州市)。昨年、準決勝で敗れた悔しさをばねにさらなる高みを目指す。
 
小佐野小の4チーム。前列が優勝したチームのメンバー。6年女子で結成したバーバリアンズレッドは同ブルー(5年)と対戦し、5-4で勝利し3位入賞

小佐野小の4チーム。前列が優勝したチームのメンバー。6年女子で結成したバーバリアンズレッドは同ブルー(5年)と対戦し、5-4で勝利し3位入賞

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釜石の園児へ「絵本、楽しく読んでね」 岩銀取引先・中妻岩友会、10保育施設に贈る

絵本を手に笑顔を見せる園児、小泉嘉明会長(右)

絵本を手に笑顔を見せる園児、小泉嘉明会長(右)

 
 釜石市中妻町の岩手銀行中妻支店(安田重行支店長)の取引先でつくる親睦団体「中妻岩友会」(小泉嘉明会長、会員53事業者)はこのほど、市内の幼稚園や保育園、こども園10カ所に幼児向けの絵本計210冊を贈った。19日、代表として同市野田町の甲東こども園(野田摩理子園長、園児89人)の園児を同支店に招き、贈呈式を開催。小泉会長は園児に絵本を手渡し、「楽しく読んでね」と声をかけた。
 
 「おっ!」「ぱかっ」「ひみつのたからもの」「にじいろのさかな」「のこったのこった」―。テーブルの上に真新しい絵本がずらりと並ぶ。パラパラパラ…。甲東こども園の鮎田恭介くん(5)、板澤梨瑚ちゃん(5)は次々と絵本に手を伸ばし、ページをめくる音を響かせる。贈呈式で見られた一場面だ。
 
絵本のページをめくり笑顔になる甲東こども園の園児

絵本のページをめくり笑顔になる甲東こども園の園児

 
「見てー」。絵本を“見せ合いっこ”して楽しさ共有

「見てー」。絵本を“見せ合いっこ”して楽しさ共有

 
 同園では「甲東文庫」と称した読書活動があり、園児は週1回、約5000冊の中から好きな本との出合いを楽しむ。2人は「多読賞」をもらうほどの“絵本好き”。「見たことない本、あった。うれしい」「いっぱい読みたい」と笑顔を重ねた。
 
 付き添った園関係者によると、絵本が好きな子は多く、「同じ本を何度も借りたり、すぐに汚れたりしてしまう。本は消耗品」とのこと。子どもに人気の本は「すでに園にあったとしても何冊あってもいい。助かる」と喜んだ。
 
笑顔を添えながら絵本を園児に手渡す小泉会長

笑顔を添えながら絵本を園児に手渡す小泉会長

 
 同会の地域貢献活動の一環。子どもたちが本に親しむきっかけを増やすとともに、保育施設での読み聞かせ活動を支援しようと願いを込める。2023年に続く取り組みで、小泉会長は「絵本に触れ、子どもたちに伸び伸び成長してもらいたい。情操教育をバックアップできればいい」と期待。他の園には同会の事務局を置く岩銀釜石支店(安田支店長)の行員らが絵本を届けた。
 
 新型コロナウイルス禍以降の取り組みは絵本寄贈のほか、▽JR釜石線全線開業70周年を記念したラッピング列車の運行企画の提案・協賛▽定内公園へのベンチ設置▽釜石高校への理科実習用機器の寄贈▽中妻地区見守り隊へのベンチコート寄贈▽能登半島地震への義援金寄付―など。まちの活気づけ、地域活動の応援を続けている。

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根浜ビオトープに「地域活動貢献賞」 津波流出の水辺環境再生、地域の未来へ協働の取り組み評価

根浜ビオトープの「地域活動貢献賞」(日本ビオトープ協会第17回顕彰)受賞を喜ぶ関係者=根浜シーサイド

根浜ビオトープの「地域活動貢献賞」(日本ビオトープ協会第17回顕彰)受賞を喜ぶ関係者=根浜シーサイド

 
 釜石市鵜住居町の根浜海岸観光施設「根浜シーサイド」内に昨春整備された「根浜ビオトープ」が、特定非営利活動法人日本ビオトープ協会(東京都)の第17回ビオトープ顕彰で、「地域活動貢献賞」を受賞した。東日本大震災の津波で失われた水辺環境を地元企業、団体が連携して再生。多様な生き物の生息空間を確保し、観察を通して環境保全教育につなげる取り組みが評価された。関係者は受賞を励みに、自然と人との共生、体験型環境教育の充実を図り、同所を地域の宝として守り育てていくことを思い描く。
 
 同顕彰は、優れたビオトープの事例を全国に発信し、多様な生き物の生息環境が人間の生活にとっても重要であることを伝えていこうと2008年度から実施。17回目となる本年度は全国5カ所のビオトープが表彰された。その一つが「地域活動貢献賞」を受賞した根浜ビオトープ。本県で同顕彰を受けるのは6カ所目。沿岸では22年度に「環境活動推進賞」を受賞した「大槌町郷土財活用湧水エリアビオトープ」(ミズアオイ遊水池)に次ぎ2例目となる。
 
 根浜ビオトープは震災前、水田が広がり多様な生き物が生息していた場所に造られた。長年、同所の生き物観察を続けてきた市民団体「かまいし環境ネットワーク」の加藤直子代表(79)が、被災後も山からの沢水が豊富な点に着目。津波被災跡地に整備された市の観光施設の指定管理者「かまいしDMC」(河東英宜代表取締役)にビオトープ構想を持ちかけ、両者の協働で実現の可能性を探ってきた。
 
10月24日には受賞を小野共市長に報告(左下)。かまいし環境ネットワークの加藤直子代表が日本ビオトープ協会相談役の野澤日出夫さんらと訪問した

10月24日には受賞を小野共市長に報告(左下)。かまいし環境ネットワークの加藤直子代表が日本ビオトープ協会相談役の野澤日出夫さんらと訪問した

 
 構想から3年―。国際的奉仕団体「釜石東ロータリークラブ」(現在:平松篤会長、会員29人)が創立60周年記念事業として、同所の環境整備にと寄付を申し出たことで事業が進展。佐野建設(甲子町)が施工にあたり、市から借りた約80平方メートルの土地に沢水が流れ込む大型の池を造成した。
 
根浜ビオトープの造成を行う佐野建設の作業員ら=2024年4月、根浜シーサイド

根浜ビオトープの造成を行う佐野建設の作業員ら=2024年4月、根浜シーサイド

 
芝グラウンドの西側、山林が隣接する土地に整備された大型の池。解説看板(写真左上)も設置されている

芝グラウンドの西側、山林が隣接する土地に整備された大型の池。解説看板(写真左上)も設置されている

 
ビオトープ完成後のお披露目イベントでは、参加者が池のほとりに生き物のすみかを作った=2024年5月

ビオトープ完成後のお披露目イベントでは、参加者が池のほとりに生き物のすみかを作った=2024年5月

 
 昨年4月の完成以降、池にはトウホクサンショウウオや各種カエル、イモリ類がすみ付き、夏にはトンボも見られるようになってきた。同DMC企画のイベントのほか、市内の学校や子どもエコクラブの体験活動で生き物観察、周辺環境の整備が行われていて、環境教育の場として活用される。多様な生き物が見られる環境は、津波で被災し高台に集団移転した根浜地区住民にとっても心安らぐ場になっている。
 
 同ネットワークの加藤代表は、昔ながらの生き物が戻ってきている状況を喜ぶとともに、完成後も環境維持に協力を続ける地域住民や関係者に深く感謝。今回の受賞について、「ビオトープとしての価値はまだまだこれからだが、実現に至るまでの背景、経緯、地域の協働の取り組みなど、そのストーリー性が評価されたものと思う」と同所の意義を改めて実感する。
 
開設1周年記念イベントでは、かまいし環境ネットワークの会員らがエゾエノキの幼木を植樹=2025年5月

開設1周年記念イベントでは、かまいし環境ネットワークの会員らがエゾエノキの幼木を植樹=2025年5月

 
かまいし環境ネットワークの加藤直子代表(左上)、かまいしDMCの佐藤奏子さん(右上)が、釜石東ロータリークラブの中田義仁副会長(写真下右)、同ネットワーク会員の臼澤良一さん(同中)とこれまでの活動を振り返る

かまいし環境ネットワークの加藤直子代表(左上)、かまいしDMCの佐藤奏子さん(右上)が、釜石東ロータリークラブの中田義仁副会長(写真下右)、同ネットワーク会員の臼澤良一さん(同中)とこれまでの活動を振り返る

 
 資金提供した同ロータリークラブの中田義仁副会長(57)はビオトープで子どもたちが生き生きと活動する様子を見聞きし、「クラブとしても子どもたちの成長に少しでも役に立ちたいとの思いがある。地域貢献ができ、こういう受賞にもつながったのは大変うれしい」と喜びを表す。
 
 同ネットワーク会員で、居住地の大槌町でミズアオイ池の保全活動にも取り組む臼澤良一さん(77)は「地域の環境に興味を持ってくれる人がたくさんいることは、私たちの活動のエネルギーの源。ビオトープが自然を大事にする心を醸成する場になれば」と期待を込める。
 
池の周りで生き物を探す子どもたち=2025年5月、開設1周年記念イベント

池の周りで生き物を探す子どもたち=2025年5月、開設1周年記念イベント

 
加藤代表(左)からトウホクサンショウウオの卵を見せてもらう子ども

加藤代表(左)からトウホクサンショウウオの卵を見せてもらう子ども

 
オタマジャクシやカエルの卵に触れてみる。観察後は「元気に育ってね」とリリース

オタマジャクシやカエルの卵に触れてみる。観察後は「元気に育ってね」とリリース

 
 同観光施設内にはキャンプ場や芝グラウンドがあり、年間を通じて多くの利用がある。ビオトープはそうした利用客にも、気軽に生き物と触れ合い、同所の環境に理解を深められる機会を提供する。同DMC地域創生事業部の佐藤奏子さん(47)は「ここは震災の時も水が絶えなかった場所。人々が命をつなぎ、生き物たちもひそかに生き残っていた場所ということからも非常に意味がある」と価値を強調する。
 
 同ネットワークの加藤代表は「自然の生き物を実際に見て、手で感触を確かめる体験は、ゆくゆくは自分の命、他者の命を大切にすることにつながっていくと信じている。これからも多くの子どもたちが足を運び、本物(の命)に触れてほしい」と願う。

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海と希望の学園祭 in Kamaishi

海と希望の学園祭 in Kamaishi
 
「海と希望の学園祭in kamaishi」を11月22日(土)、23日(日)の2日間、釜石情報交流センター釜石PITと釜石市民ホールTETTOで開催します。
 
東京大学の先生等によるトークイベント、海の生き物に触れ合えるタッチプールをはじめ、さまざまな展示や体験コーナーなど、子どもから大人まで楽しめるイベントをご用意しております。
 
海のことを学び楽しめる2日間のイベントとなっておりますので、どうぞお越しください!。
 
海と希望の学園祭in Kamaishi(PDF:1.59MB)

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総務企画部 総合政策課 企画調整係
〒026-8686 岩手県釜石市只越町3丁目9番13号
電話:0193-27-8413 / Fax 0193-22-2686 / メール
元記事:https://www.city.kamaishi.iwate.jp/docs/2025110500033/
釜石市

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釜石中で最後の「長唄三味線」授業 杵家会釜石支所・鈴木絹子さん 23年の学校指導に足跡

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釜石中の2年生に最後の長唄三味線指導を行う杵家会釜石支所代表の杵家弥多穂(本名・鈴木絹子)さん

 
 釜石市内外の学校で長唄三味線の授業を行ってきた杵家(きねいえ)会釜石支所代表の杵家弥多穂(本名・鈴木絹子)さん(79)は13日、釜石中(佐々木一成校長、生徒284人)で最後の指導を行った。2002年の中学校学習指導要領改定で和楽器の実技指導が明示されて以降、同校では毎年2年生が釜石支所の授業を受け、日本の伝統音楽に理解を深めてきた。鈴木さんらメンバーの高齢化で継続が難しくなったため、本年度をもって同授業を終了することになり、最後の生徒となった92人は貴重な学びに感謝しながら邦楽の素晴らしさを心に刻んだ。
 
 午前中は1~3校時を利用し、3学級がそれぞれ順に授業を受けた。鈴木さんは三味線の素材や音が出るしくみを説明。「三味線は弦楽器と打楽器の2つの要素を持っている。すごく面白いし、いい音が出る」などと魅力を伝えた。バチの持ち方や弦の押さえ方を教わった生徒らは、さっそく音出し。聞き覚えのある音が響くと笑顔を見せた。
 
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鈴木さんと門弟が指導にあたった長唄三味線の授業=3校時・2年3組

 
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初めて三味線に触れる生徒らは講師の手ほどきを受けながら実技に挑戦

 
 50分の授業の到達目標は、日本の伝統歌曲「さくら」の演奏。3本の弦を表す横線に指で押さえる場所が数字で書かれた「三味線文化譜」を見ながら練習した。鈴木さんのほか、盛岡、北上からも集まった鈴木さんの門弟9人が生徒の指導にあたった。指の使い方に慣れてくると自然と曲になり、最後は鈴木さんと一緒に演奏に挑戦した。
 
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楽譜を見ながら「さくら」の演奏に挑む。真剣なまなざしで両手を動かす生徒

 
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和楽器に触れる機会はなかなかない。生徒らにとっても思い出に残る授業に…

 
 午後の5校時は2年生全員での授業。冒頭、各学級から選ばれた生徒3人が講師陣と一緒に習いたての曲を演奏した。続く長唄鑑賞では、講師が演奏する「元禄花見踊り」と「雪の合方(あいかた)」の2曲を聞き比べ。春の訪れと雪がしんしんと降り積もる情景をまぶたに浮かべ、季節の表現の違いを感じた。長唄「鶴亀」より「楽の合方」、同「都風流」より「新内流しの合方」も聞き比べ。旋律の違いを味わった。
 
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各学級の代表生徒3人が「さくら」を演奏。練習の成果を披露した

 
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講師陣が長唄の代表曲を演奏。鈴木さんは釜石小唄や釜石中の校歌も演奏し、生徒らの興味を引いた

 
 最後は歌舞伎の舞台について学んだ。舞台仕様やお囃子(はやし)の基礎知識を教わったほか、現在、音楽教科で学習中の歌舞伎十八番「勧進帳」の一場面を生徒有志が寸劇で熱演。源義経が兄頼朝に追われ、山伏に扮(ふん)して奥州に逃れる際、家来の武蔵坊弁慶が機転を利かせ、関守の追及から義経を守る有名な場面を演じてみせた。講師らは三味線伴奏の「寄せ」「こだま」「滝流し」「舞」の4つの合方を高度な技で聞かせた。
 
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鈴木さんはひな人形の“五人ばやし”を例に歌舞伎のお囃子について解説

 
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歌舞伎十八番「勧進帳」の名場面を寸劇で表現する生徒有志

 
 3組代表で演奏した佐々木茜さんは和楽器の音色が大好きで、「いつかはやってみたいと思っていた。バチを持つ小指が痛くなったが、曲が完成していく感じが楽しかった」と感激。最後となった同授業に「後輩たちにもやってほしかったが…残念」。機会があれば「琴もやってみたい」と願った。寸劇で弁慶を演じた2組の岩間英史さんは歴史にも興味があり、自ら手を挙げて役者にも挑戦。「三味線は難しかったが、あまり触れることがない文化に触れられて、良い経験になった」。日本の伝統文化は次世代への継承が課題。「担い手が少ないのは魅力を知らないという側面もあると思う。自分も東前太神楽が楽しくて続けている。こういう体験を通してやってみたいという人が増えればいい」と話した。
 
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弁慶役の豪快な演技に同級生や講師から笑みがこぼれる。最後は拍手喝采で終演

 
 同校音楽教諭の池田百合子さん(46)は「生の音を聞き、実際に三味線を手に取って弾いてみることで初めて分かることがある。本物に触れることは一番の学び」と、生徒たちが貴重な機会を得られたことを喜ぶ。同授業を機に、釜石支所が開く子ども教室に通い始めた生徒もいたといい、鈴木さんらの長年の尽力に改めて深く感謝した。
 
 5歳から三味線を始めた釜石市出身の鈴木さん。「私たちが子どもの頃は三味線を習う人たちがいっぱいいた」というが、自身が指導者となる頃にはその数が大幅に減少。日本の伝統文化継承に年々、危機感を募らせる中、2002年の学習指導要領改定で中学校の音楽授業に和楽器を用いることになり、市内の中学校で指導に着手。市内のみならず、盛岡市や葛巻町など県内各地に出向いて授業を担当するようになった。小学校や高校にも招かれ、これまでに教えた児童生徒は延べ6500人に上る。
 
 2011年の東日本大震災では、経営する大町の旅館が津波で全壊した。門弟15人中3人が犠牲になり、所有する楽器も全て流された。絶望から奮い立たせてくれたのは、子ども教室で学んでいた生徒からの言葉。がれきの中で偶然再会した2人が発したのは「先生、三味線が弾きたい…」。この一言に大きな力をもらい、支援の楽器で学校訪問授業、子ども教室ともに翌12年から再開した。
 
釜石中での最後の授業を終え、生徒にメッセージを送る鈴木絹子さん(中央)

釜石中での最後の授業を終え、生徒にメッセージを送る鈴木絹子さん(中央)

 
 情熱を持って子どもたちの指導にあたってきた鈴木さんだが、自身や手伝ってきた門弟らの高齢化により、今年度での授業終了を決めた。16年間続けた子ども教室も開講を見送った。「本当は続けたいが…。十分な指導態勢が取れないので」。苦渋の決断だが、この20年余りを振り返り、「子どもたちが上手になっていく姿に元気をもらった。震災後は特にも助けられた。教えるのは本当に楽しかった」と語る。
 
 最後の生徒となった釜石中の2年生には「勉強だけでなく、自分の好きなこと、楽しみを見つけて一生ものにしてほしい」と、人生の先輩としてもエールを送った。学校での授業は一区切りとなるが、後進の指導は継続していく考えで、今後の邦楽の普及・継承にも意欲をにじませた。

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海×鉄は…“釜石っぽい”脱炭素社会の実現!? 製鉄会社と漁協タッグ、藻場再生へ

脱炭素、藻場再生の取り組みに活用される鉄鋼スラグ製品

脱炭素、藻場再生の取り組みに活用される鉄鋼スラグ製品

 
 環境省の「脱炭素先行地域」に選定されている釜石市では、再生可能エネルギーの導入や脱炭素をテーマにした企業研修受け入れなど、産学官29の共同提案者による各種事業が展開されている。その中で、「釜石ならでは」として挙げられる事業の一つが「鉄鋼スラグ」を使った「藻場再生」。地域資源を活用し、水産資源を守ろうとする取り組みだ。日本製鉄(東京)が釜石東部、唐丹町の両漁業協同組合と連携し、昨年から挑戦を継続。11月14日に市や同社担当者らによる事業の説明があった。
 
 釜石市新浜町の岸壁の一角。鋼製のかごの中に石などが詰め込まれた2つの物体が並んでいた。重さは1つ約9.5トン。鉄鋼スラグと腐植土を配合し人工的に鉄分を供給する施肥材「ビバリーユニット」と、スラグの微粉末などを練り混ぜたもので藻類など生物が着生する基質材となる「ビバリーロック」がぎっしり入っている。
 
鉄鋼スラグが含まれた石がぎっしり。袋に入った施肥材が下部に敷き詰められている

鉄鋼スラグが含まれた石がぎっしり。袋に入った施肥材が下部に敷き詰められている

 
 藻場再生に役立てようと、同社が開発した鉄鋼スラグ製品だ。昨年、両漁協の意向を聞きながらそれぞれの藻場再生希望地に計約50トンを設置。同社によると、その一部で海藻の再生を確認しているという。
 
釜石海域の様子。日本製鉄では一部で海藻の再生を確認する

釜石海域の様子。日本製鉄では一部で海藻の再生を確認する

 
 海と鉄?…近年、漁業関係者を悩ませる磯焼けの原因の一つとされるのが、鉄をはじめとする栄養分の不足。そこで同社は海藻類の鉄分不足解消に向け、鉄鋼スラグを混ぜた施肥材を製品化した。自然にもどせる生分解性の袋に入れることで、スラグ中の鉄分が溶け出し海藻類の成長を促すという流れ。これまで森から川を通じて海へと届けられてきた鉄分を人工的に生成するもので、磯焼け地域に設置して藻場の再生につなげる「海の森づくり」として2004年から全国各地で展開する。
 
 20年以上続く取り組みが、今、鉄の町釜石で進む。鉄は鉄鉱石を主原料に、石炭や石灰石を加えて生産されるが、その過程で副産物として生成されるのが鉄鋼スラグ。鉄1トンあたり300キログラムほどの鉄鋼スラグが生成されるのだという。
 
 鉄鋼スラグは道路やダム、トンネルなどのコンクリート用骨材、護岸工事、軟弱地盤の改良などの用途で使用される。同社北日本製鉄所で生成されるスラグは東日本大震災の津波で破壊された釜石湾口防波堤などの復旧・復興工事や、がれき(災害廃棄物と津波堆積物)を再生資材に変える改質材として利用されたりした。そして今、海を育む事業へと活用の幅を広げている。
 
鉄鋼スラグ製品を説明する日本製鉄の小野本憲人さん

鉄鋼スラグ製品を説明する日本製鉄の小野本憲人さん

 
 同社スラグ事業・資源化推進部スラグ営業室の小野本憲人さんは「釜石は鉄づくりが始まった地。産業としてだけでなく、環境面でも地域に貢献できる取り組みだ」と意義を強調する。また、「鉄の会社と海はあまり関係がないように思えるかもしれないが…」と前置きしつつ、「海がないと仕事ができない。製品を輸送するため海を使うから」と加えた。
 
 今年度、釜石海域への設置は昨年度と同規模になる見込み。小野本さんは一定の効果を感じながらも、「波があったりする中で、『一年やったからすぐに』と結果がつながるものでもない。継続していくことが重要になる。漁業者のみなさんの声を聞きながら、われわれの持つ資材を生かす形で取り組み、製品をアップデートさせていきたい」と先を見据える。
 
唐丹漁港の様子。藻場再生の取り組みははるか沖合で進む

唐丹漁港の様子。藻場再生の取り組みははるか沖合で進む

 
 取り組みに協力する唐丹町漁協の柏直樹総務課長は「資源回復に期待」と見守る。ウニやアワビなどの魚介類が豊富に採れていた釜石海域では近年、「餌となる海藻が生えていない。魚介類を育む藻場が失われる状態の磯焼けが深刻だ」との認識。現在進められているのは試験的ものと考えており、「費用対効果がどれほどか」「スポット的でもいいのか」と手探りだが、「何か手立ては必要。続ける価値はあると思う」と表情を引き締めた。
 
 脱炭素先行地域の事業期間は29年度まで。鉄鋼スラグを使った藻場再生の取り組みでは、ブルーカーボンクレジット(海洋植物の二酸化炭素吸収量を数値化し取引する仕組み)の創出につなげるほか、ウニ食害対策モデルの可能性も探る。
 
 太陽光発電の導入拡大に向けた取り組みなども進行中。市企業立地港湾課ゼロカーボンシティ推進室の担当者は、市が掲げる50年度の「温室効果ガス排出量実質ゼロ(ゼロカーボンシティ)」の目標達成に向け「各種事業を着実に進めていきたい」とした。

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“つなごう”釜石の歌声 第45回市民合唱祭 観客と一緒に「第九」も 歌い手増に期待

釜石市民歌を観客と歌い、幕を開けた第45回釜石市民合唱祭(つなコンその2)

釜石市民歌を観客と歌い、幕を開けた第45回釜石市民合唱祭(つなコンその2)

 
 第45回釜石市民合唱祭(市芸術文化協会、市合唱協会主催)は9日、釜石市大町の市民ホールTETTOで開かれた。第55回釜石市民芸術文化祭発表部門の参加事業として実施。市内の合唱7団体が1年の活動の成果を披露した。一昨年、45年の歴史に終止符を打った「かまいしの第九」を、新たな形で歌い継ごうと模索する市合唱協会。今年は同合唱祭の中に、観客がコーラスの一部を歌ってみる体験コーナーを設けた。「歌い手を増やしながら、第九を次世代に“つなぐ”」取り組みを続けていきたい考えだ。
 
 団体名のプラカードを手にした各団体の代表がステージに並び、釜石市民歌を歌って開幕。あいさつに立った市合唱協会の柿崎昌源会長は「市民合唱祭は互いの歌声を聞き合うことで、切磋琢磨できる場でもある。観客の皆さんと共に楽しみ、長く続けていけたら」と願った。
 
 今年の合唱祭に参加したのは▽音楽集団Sing▽釜石フィルハーモニック・ソサィェティ▽釜石童謡を歌う会▽甲子歌う会▽釜石ユネスココーラス▽鵜住居歌う会▽親と子の合唱団ノイホフ・クワィアー。各団体が昨年の同祭以降、取り組んできた楽曲などを2~5曲歌った。混声合唱、女声合唱それぞれのスタイルで、合唱曲、童謡、人気アーティストのヒット曲など多彩なジャンルを聞かせた。
 
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写真上:「Ave Maria」など3曲を歌った音楽集団Sing 同下:「なんとなく・青空」を混声合唱で聞かせた釜石フィルハーモニック・ソサィェティ

 
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手話を交えた「童神(わらびがみ)」など4曲を披露した釜石童謡を歌う会

 
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写真上:活動34年の甲子歌う会は「旅人よ」など3曲を歌唱 同下:釜石ユネスココーラスは女声合唱曲2曲で熟練の歌声を響かせた

 
 「鵜住居歌う会」は東日本大震災の津波で大きな被害を受けた同市鵜住居町の住民有志が2012年2月に立ち上げた。市内で音楽教室を開く山﨑眞行さん、詔子さん夫妻が講師として協力し、活動を継続する。今年の合唱祭には長年、同会の活動に参加を続ける県内陸部のボランティア3人を含む21人が出演。ロシア民謡5曲を歌った。会が同民謡に取り組んだのは10年前。「ともしび」「カリンカ」などの訳詞で知られる森おくじさん(1925-2008)のご子息が震災復興支援で釜石を訪れたのがきっかけだった。講師の眞行さんが森さんのことをよく知っていたこともあり交流が続き、同合唱祭にご子息と森さんの奥様が歌とダンスで参加してくれたこともあったという。
 
震災の翌年から活動する「鵜住居歌う会」。多くの支援を力に活動を継続する

震災の翌年から活動する「鵜住居歌う会」。多くの支援を力に活動を継続する

 
「カリンカ」のリズムに合わせ手拍子をして楽しむ観客

「カリンカ」のリズムに合わせ手拍子をして楽しむ観客

 
 「ロシア民謡は私たちにとっても思い出深い曲。歌う側も楽しいし、お客さんも(手拍子をしてくれるなど)反応が大きくうれしかった」と同会の菊池弘子代表(72)。2度の大病を患いながらも、会員を熱心に指導してくれる眞行さんに深く感謝し、「みんな、先生と一緒に歌うのが大好き。先生が頑張っているから私たちも頑張ろうという気持ちが強い。会員が若々しくいられるのは歌のおかげ」と笑った。
 
親と子の合唱団ノイホフ・クワィアー(上)は2曲を披露。12月14日には恒例のクリスマスコンサートを開催予定

親と子の合唱団ノイホフ・クワィアー(上)は2曲を披露。12月14日には恒例のクリスマスコンサートを開催予定

 
 会場に足を運んだ釜石市の女性(88)は「一人一人の声が合唱という形で一つになって本当に素晴らしい。すごく充実した心が洗われる時間だった」と感激。共に楽しんだ大槌町に暮らす長女(56)は「久しぶりの合唱鑑賞。高齢の方々も声がきれいで驚いた」と話し、親子で合唱の魅力を感じていた。
 
 合唱祭の中盤に入れたベートーベンの交響曲第9番「第九を歌おう」のコーナー。第4楽章の13コーラスのうち、最も耳なじみのある「第6コーラス」を観客と一緒に歌った。ドイツ語の歌詞の発音を練習した後、ステージに上がった合唱協会有志の先導で観客が歌声を重ねた。
 
市合唱協会の小澤一郎さん(右上)からドイツ語の発音を習い発声練習

市合唱協会の小澤一郎さん(右上)からドイツ語の発音を習い発声練習

 
「かまいしの第九」を長年、指揮してきた山﨑眞行さん(右上)が指揮者を務め、会場の全員で“歓喜のうた”を大合唱

「かまいしの第九」を長年、指揮してきた山﨑眞行さん(右上)が指揮者を務め、会場の全員で“歓喜のうた”を大合唱

 
 同協会は一昨年まで続けられた年末恒例の演奏会「かまいしの第九」(実行委主催)を合唱メインで後世につなごうと、昨年12月、「つなコン」という新たな演奏会を企画。合唱が入る第4楽章を抜粋し、協会員を中心とした約50人の合唱、釜石市民吹奏楽団有志ら20人による管楽器主体の演奏で第九を聞かせた。
 
 今年は「第九の歌い手を増やしたい」との思いから、合唱祭の会場で観客にコーラスを体験してもらう企画を用意。参加団体からも初心者を含め数名ずつ壇上に上がってもらい、歌いやすい音域で声を合わせた。同協会の小澤一郎事務局次長(48)は「第九を歌うメンバーが固定化してきている。参加しやすい形を取りながら、少しずつでも歌い手を増やし、何年後かにまた以前のような第九ができれば」と夢を描く。

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釜石まんぷくフェス2025

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開催日程

令和7年11月22日(土)、23日(日・祝)10:00~15:00

場所

シープラザ釜石周辺

内容

【鈴子公園】

  • オープニングセレモニー・農業祭り(餅まき、椎茸まき)
    11月22日(土)11:00~
  • 農業祭り(餅まき、椎茸まき)
    11月23日(日・祝)10:00~
    ※両日とも当たり餅をキャッチするとリンゴ2個プレゼント!(各日50名様)
  • 忠犬立ハチ高ステージ
    11月22日(土)12:00~
  • 水産まつり
    11月22日(土)・11月23日(日・祝)10:30~
    サンマ焼きのお振舞い(各日500尾)
  • かまいし軽トラ市
    11月22日(土)・11月23日(日・祝)10:00~
    新鮮な市内産農産物や加工品等の販売会を開催
    11月23日(日)11:00~
    “食材全て釜石産”の鶏肉と野菜のスープのお振舞い(300食)
  • 親子木工教室コーナー
    県産材を使用した大人気の木工教室!

 
【シープラザ釜石西側駐車場】

  • 交流物産展
    市内外から特産品や美味しい物が大集合!
    39店舗のキッチンカーやテント出店で「まんぷく」間違いなし! 姉妹都市の愛知県東海市や友好交流都市の富山県朝日町、東京都荒川区をはじめ市内外の特産品販売もあります。

 
【釜石消防署隣駐車場】

  • 働く自動車展
    11月22日(土)
    建設業協会などによる車両展示、重機乗車や高所作業車体験体験など
    11月23日(日・祝)
    「防災そばっち号」(地震体験車)による体験や消防署ツアーの実施、自衛隊車両展示など
  • のりもの広場
    スリリングなカート走行は大人気
    1才〜10才対象 200〜500円
  •  
    【シープラザ釜石2階】

    • パネル展:釜石市国際外国語第学校
    • ラグカフェ・パブリックビューイング
      11月22日(土)13:00 開場、14:30 キックオフ
      日本製鉄釜石シーウェイブス 対 江東ブルーシャークス戦
      フィットネスバイク体験も開催

     
    【サン・フィッシュ釜石】

    • パネル展:橋上市場
    • マグロの解体ショー
      11月23日(日・祝)12:00〜

     
    【シープラザ釜石 ステージイベント】

    • 11月22日(土)13:00〜 MACHERIE、花怜、夕茜 ダンスステージ
      14:00〜 釜石虎舞
    • 11月23日(日・祝)14:00〜 釜石市国際外国語大学校学生発表

    主催・共催

    主催:(一社)釜石観光物産協会
    共催:釜石市、釜石水産まつり実行委員会、釜石市農業祭実行委員会

    お問合せ

    (一社)釜石観光物産協会 TEL:0193-27-8172
    本部携帯:080-4516-0333(当日のみ)

    かまリン

    (一社)釜石観光物産協会

    釜石市内の観光情報やイベント情報をお届けします。

    公式サイト / TEL 0193-27-8172 / 〒026-0031 釜石市鈴子町22-1 シープラザ釜石

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釜石で学ぶ!震災復興の歩み、避難行動 米ミネルバ大の学生 地域課題探り、戦略提案も

避難体験で高台に続く階段を駆け上がるミネルバ大学の学生ら=11月8日

避難体験で高台に続く階段を駆け上がるミネルバ大学の学生ら=11月8日

 
 世界の各都市を巡りながら実践的な学びを深める教育に取り組む米・ミネルバ大学(本部・サンフランシスコ)の2年生約50人が11月8日から10日にかけて釜石市を訪問。「災害復興と防災」をテーマに東日本大震災の被災状況や復興まちづくりの過程を学んだ。同市と同大、ミネルバジャパン(東京)の3者で結ぶ包括連携協定によるもの。被災者の体験談を聞いたり避難行動を追体験したり、復興後のまちの課題について関係者への聞き取りも行いながら、防災や観光などの面から市への提言や新たな取り組みのアイデアを残した。
 
 同大は2014年に開校した4年制の大学。キャンパスを持たず、学生は世界の複数の都市に移り住みながら、少人数での議論を中心とするオンライン授業に参加する。現地の企業やNPOなどと協働し、課題解決型の学習も展開。約640人の学生(大学院生を含む)のうち、世界約100カ国からの留学生が85%以上を占めているのも特徴だ。
 
 世界8カ所目となる日本拠点を8月に東京に開設。フィールドワークの場の一つとして釜石市が選ばれ、10月に協定を結んだ。受け入れ先の市や観光地域づくり法人かまいしDMCなどが学びと交流の場を提供すべく準備を進めてきた。
 
釜石市、ミネルバ大など3者が10月に協定を結んだ

釜石市、ミネルバ大など3者が10月に協定を結んだ

 
 釜石入りしたのは、26カ国の学生とドルトン東京学園高の生徒らの一行。岩手県主催の総合防災訓練が市内で展開された8日、住民参加の避難訓練はクマの出没が相次いでいるため中止となったが、一行はプログラムの一つとして独自に避難訓練を行った。
 
 学生らは引率者の合図で、宿泊先のホテルから近くの高台にある仙寿院(大只越町)に向かった。寺に続く階段を急ぎ足で上って避難。その様子を見つめた芝崎恵応住職は「歩いて坂を上る学生がいた。のんびり歩いていたら助かりません。もし津波が来ていたら、みなさんの3分の1はお亡くなりになっていた」と告げた。
 
学生らは仙寿院で避難訓練を体験し、映像で震災当時の状況を学んだ=11月8日

学生らは仙寿院で避難訓練を体験し、映像で震災当時の状況を学んだ=11月8日

 
 本堂に招き入れ、震災の津波襲来時の映像を見せながら講話。津波から命を守る避難行動を意識づけるため継続する「新春韋駄天(いだてん)競走」にも触れ、寺に続く急坂を懸命に駆け上がる市民らの様子も紹介した。
 
 一行はその後、大槌町へ。NTT東日本が企画した防災プログラムでデジタル活用の事例と課題などを考えるワークショップなどに臨んだ。さらに、釜石・鵜住居町に移動し、いのちをつなぐ未来館や祈りのパークを見学。震災時に小中学生がとった避難行動をたどる追体験にも取り組んだ。案内役は同館職員の川崎杏樹さん(29)。当時、釜石東中2年生で、学生は当時の状況を聞きながら、釜石鵜住居復興スタジアムから恋の峠まで約1.6キロの道を歩いた。
 
震災時に鵜住居地区の子どもたちがとった避難行動を追体験

震災時に鵜住居地区の子どもたちがとった避難行動を追体験

 
 自然災害が少ないというエストニア出身のレティ・イードラさん(20)は、坂道を走って逃げるのは初めての体験だった。体験者の「リアルなストーリー」から「当時、何を感じていたのか、どんな思いで行動したのか、心に触れられた。小さい頃から自衛的に得られたものがここにはあり、人として学ぶことが多い」と受け止めた。
 
 同年代との交流の時間も。震災の伝承や防災活動に取り組む釜石高校の生徒有志グループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」副代表の高橋美羽さん(2年)は「災害が多い地域で高校生が立ち上がって行動していることを海外の人に伝えられた」とうれしそうに話した。将来、語学を駆使した仕事を視野に入れていて、「英語をもっと勉強し、質問に直接答えられるようにしたい」と、学生から刺激をもらった。
 
釜石高生から震災の語り部活動や防災の取り組みを聞いた

釜石高生から震災の語り部活動や防災の取り組みを聞いた

 
 9日は、かまいしDMCの河東英宜代表取締役や市オープンシティ・プロモーション室の佐々木護室長から復興まちづくりの過程などの説明を聞き、ハード整備を終えた市中心部の街並みを見て回った。海を生かした観光などに取り組む人らとの意見交換も行った。10日は学びの成果を発表。10のグループに分かれ、▽高齢者の避難を助ける乗り物の導入▽防波堤の野外アートギャラリー化―などのアイデア、課題解決策を提言した。
 
復興まちづくりに関する講話に耳を傾ける学生=11月9日

復興まちづくりに関する講話に耳を傾ける学生=11月9日

 
釜石の未来戦略を提案⁉学びの成果を発表する学生=11月10日

釜石の未来戦略を提案⁉学びの成果を発表する学生=11月10日

 
ミネルバ大の学生は多様な考え方に触れながら学びを深め合う

ミネルバ大の学生は多様な考え方に触れながら学びを深め合う

 
 被災者の体験談や都市再生の過程から「生きるために必要なレジリエンス(回復力)を学ぶ場」としての可能性を見いだしたのは、アメリカ人のウォルフガング・サンダーさん(18)。「災害があってもこの地で生き続ける覚悟や、ふるさとを受け継ぐために希望を作り続ける人々に触れた。習慣化された心のあり方や思考に変化をもたらすような体験を提供することは観光振興にもつながるだろう」と想像した。
 
 同じグループの入江颯志さん(20)は福岡県大野城市出身。震災のニュースは記憶するが、「外から見るのと現地で実体験を聞くのではギャップが大きかった。コミュニティーのつながりを大事にし、不屈の精神を持つ人が多いと感じた」と学びを振り返った。印象に残ったのは「つながり人口」という言葉。外部との交流で新たな活力を育み、復興後の持続的成長を導こうとする市の「オープンシティ戦略」に掲げられるもので、「新しいポジティブな考え。発見として持ち帰り、深堀りしてみたい」と感化された。
 
新たな視点を学び合ったミネルバ大の学生、釜石市の関係者ら

新たな視点を学び合ったミネルバ大の学生、釜石市の関係者ら

 
 発表を聞いた市関係者から「人口減、高齢化の課題はあっても、災害から命を守る行動の重要性は変わらない。解決につながりそうな提案であり、他の自治体でも使える考え。この話、進めましょう」などと声が上がっていた。学生たちの知見に期待感を示し、次年度以降も受け入れを続けたい考え。学びの場の提供に加え、子どもらとの交流も見込む。
 
 同大学の2年生は1年間、日本で学ぶ。現地学習は釜石市のほか和歌山県田辺市、兵庫県姫路市で行われる。

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釜石、大槌両市町で県総合防災訓練 関係機関・団体が連携確認 避難者対応の課題共有

外部から入った保健医療福祉の支援者らが釜石市の担当者から避難所の状況の説明を受ける=県総合防災訓練・釜石東中会場

外部から入った保健医療福祉の支援者らが釜石市の担当者から避難所の状況の説明を受ける=県総合防災訓練・釜石東中会場

 
 2025年度の県総合防災訓練は8日、釜石市と大槌町で行われた。釜石市が同訓練会場となるのは2012年以来。巨大地震が発生、大津波警報が発表されたとの想定で、72項目の訓練を実施。83の関係機関、約4300人が参加し、救出救助、避難所運営、支援チームの活動などに関し、自治体と関係機関、団体が連携を確認した。住民が防災意識を高めるための各種体験もあった。当初予定されていた津波避難訓練は、クマ出没の危険回避のため中止された。
 
 訓練は前日の(先発)地震に続き、三陸沖を震源とするマグニチュード8を超える大地震が発生。本県沿岸部で最大震度6強を観測、大津波警報が発表されたとの想定。地震、津波災害で必要となる各種対応を訓練した。釜石市では5会場で実施。鵜住居町の釜石東中では避難所開設後、3日から1週間後を想定し、避難者への各種ケアを中心とした訓練が行われた。
 
日本医師会災害医療チーム(JMAT)の医師や日本赤十字社派遣の医師や看護師らが避難所を巡回し患者(役)の診療を行った

日本医師会災害医療チーム(JMAT)の医師や日本赤十字社派遣の医師や看護師らが避難所を巡回し患者(役)の診療を行った

 
写真上:心のケアを行う災害派遣精神医療チーム(DPAT)=右側と連携を確認 同下:感染制御支援チーム(ICAT)は避難所における感染症予防対策を訓練

写真上:心のケアを行う災害派遣精神医療チーム(DPAT)=右側と連携を確認 同下:感染制御支援チーム(ICAT)は避難所における感染症予防対策を訓練

 
 市、釜石医師会、同薬剤師会による保健医療福祉調整本部訓練は初めて実施。外部から派遣される災害対応の医療、感染制御、福祉などの支援チームの受け入れ、ケアが必要な患者の関係機関への誘導などを具体的シナリオでシミュレーション。情報共有のための報告会も行った。釜石薬剤師会の中田義仁会長は「災害時の混乱の中では、各種チームが円滑に支援に入れるような調整本部が必要不可欠。今回の訓練参加者からも同様の声があった。迅速な対応のためには関係機関の平時からの連携も大事」と話した。
 
市、医師会、薬剤師会が連携し初めて行われた「釜石市保健医療福祉調整本部」の設置・運営訓練

市、医師会、薬剤師会が連携し初めて行われた「釜石市保健医療福祉調整本部」の設置・運営訓練

 
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調整本部は外部から派遣される支援チームの調整や関係機関の情報共有を担った

 
 県、市の国際交流協会は外国人の避難所受け入れ訓練を行った。市から応援要請を受けた同協会員が外国人避難者の受け付けや相談に応じた。中国、ベトナム、バングラデシュ出身の県内在住者4人が訓練に参加。音声翻訳アプリを利用してやりとりしたほか、県が設置する災害時多言語支援窓口に電話して母国語で会話をできるようにし、困りごとなどを確実に把握する訓練も行った。
 
外国人の避難所受け入れ訓練。翻訳アプリや災害時多言語支援窓口も活用し、外国人避難者の要望を聞いた

外国人の避難所受け入れ訓練。翻訳アプリや災害時多言語支援窓口も活用し、外国人避難者の要望を聞いた

 
 バングラデシュから岩手大に留学中のアクター シャーミンさん(31)は「災害時、異なる言語の人にどう対応するのかを学べた」、夫のリアズさん(33)は「私たちは日本語を少しできるが、来日して間もない人たちはとても大変だろう。コミュニケーションがやはり一番難しい」と実感。2人はイスラム教徒で、毎日の礼拝や食事の問題もある。県国際交流協会の大山美和主幹は「長期避難になると新たな課題も出てくる。そういった気付きを協会関係者だけでなく周りの人にも知ってもらうことが大事」と理解促進を願った。
 
 鵜住居町の住民らは避難者として各種訓練に参加した。LINE登録やマイナンバーカードの活用で自治体が避難状況をリアルタイムで把握する避難所運営デジタル化実証訓練、避難所運営ゲーム(HUG)の体験実習などに取り組んだ。
 
避難所運営デジタル化実証訓練では、避難者のスマホで県のLINEアカウントに友だち登録。各種情報を入力してもらうことで避難状況の把握につなげる訓練が行われた

避難所運営デジタル化実証訓練では、避難者のスマホで県のLINEアカウントに友だち登録。各種情報を入力してもらうことで避難状況の把握につなげる訓練が行われた

 
県防災士会が訓練参加者に提供した避難所運営ゲーム(HUG)の体験実習

県防災士会が訓練参加者に提供した避難所運営ゲーム(HUG)の体験実習

 
 釜石東中の菅原怜利さん(2年)は今年7月、ロシア・カムチャツカ半島付近を震源とする地震で本県沿岸に津波警報が出された際、学校で避難者の受け入れを実体験。今回のゲームで、「避難所にはいろいろな人が来るので、どこにどう配置すればいいかを学べた。今後に生かせれば」と意識を高めた。岩﨑瑛叶さん(同)は「避難所はみんなで意見を出し合ってやることが大切だと思った」。学校では自主防を組織しており、「防災のことを知らない人たちにも広めていきたい」と思いを強くした。実習をサポートした県防災士会の清水上裕理事長は「東日本大震災の教訓を踏まえたゲーム。実際の避難時にこうした知識があれば、リーダーシップを取って避難所開設が可能になる」とし、より多くの人たちの体験を望んだ。
 
鵜住居町の住民らがHUGを体験。釜石東中生(写真右下)も防災力を高めようと参加

鵜住居町の住民らがHUGを体験。釜石東中生(写真右下)も防災力を高めようと参加

 
 港町のイオンタウン釜石周辺では、津波から逃げ遅れた人をがれきや車の中から救出する訓練を実施。県警や自衛隊のオフロードバイクが要救助者を発見、駆けつけた消防署員らが救出して救護テントに搬送する流れを確認した。能登半島地震で集落孤立が相次いだことなどを踏まえたヘリコプターによる孤立者救助訓練では、県と海上保安庁から2機が出動。救急隊員らが建物屋上に降下し、取り残された避難者を機上に引き上げた。
 
車内に閉じ込められた人を救出する消防隊員ら=港町会場

車内に閉じ込められた人を救出する消防隊員ら=港町会場

 
関係機関が連携し津波から逃げ遅れた人らの救助活動にあたる

関係機関が連携し津波から逃げ遅れた人らの救助活動にあたる

 
ヘリコプターによる救助訓練。孤立者を上空から救出する流れを確認した

ヘリコプターによる救助訓練。孤立者を上空から救出する流れを確認した

 
 大町の市民ホールTETTO前広場周辺では婦人消防協力隊による炊き出しや、指定避難所を想定した電気自動車からの給電訓練などが行われたほか、テントの中に充満させた訓練用の無害な煙で火災の状況を体感するといった防災意識を高めてもらうプログラムも用意された。地震体験車で震度7など大規模地震の揺れを体感した市内の平松寿倖(ひさこ)さん(35)は「(体験では)揺れがくると分かっていたし家具も固定されていたが、実際の災害は突然起こるだろうから不安。家の中につかめるもの、体を支えられるもの、あったかな…。これから先もここで暮らしていくから、身の回りの状況を確かめたい」と備えの大切さを改めて実感していた。
 
TETTO前広場では炊き出し訓練や災害体験などが行われた

TETTO前広場では炊き出し訓練や災害体験などが行われた

 
達増拓也県知事らが各訓練会場を視察。外国人避難者の受け入れではイスラム教徒の礼拝スペースも設けられた(左)

達増拓也県知事らが各訓練会場を視察。外国人避難者の受け入れではイスラム教徒の礼拝スペースも設けられた(左)

 
 訓練後の閉会式で、統監の達増拓也県知事は「災害対応の総合力を強化する重要性を改めて認識。訓練の成果を地域や職場の防災対策に役立ててもらいたい」と総括。副統監の小野共市長は「近年、自然災害が頻発、激甚化し、防災・減災の取り組みはより一層の強化が求められる。訓練で得た課題を検証し、災害対策に生かしていく」と決意を示した。