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わずかでも手掛かりを 釜石・両石町水海で不明者捜索 震災12年を前に警察・海保・消防合同で

海岸で行方不明者の手掛かりなどを捜索する警察官ら

海岸で行方不明者の手掛かりなどを捜索する警察官ら

 
 東日本大震災から12年を目前にした10日、釜石市両石町の水海海岸などで震災による行方不明者の捜索活動が行われた。釜石警察署(前川剛署長)、釜石海上保安部(虻川浩介部長)、釜石大槌地区行政事務組合消防本部(大丸広美消防長)から計70人が参加。嘱託警察犬2頭も加え、手掛かりを探した。
  
 開始式で、前川署長は「明日で震災から12年、遺族にとっては十三回忌となる。岩手県内の不明者は1110人。釜石市は152人、大槌町では416人の行方が分かっていない」と説明。虻川部長、大丸消防長は「12年間、不明者の帰りを待っている家族、地域の思いを胸に刻み、わずかでも手掛かりになるものを見つけ出してほしい」などと激励した。全員で黙とうし、海上と陸上班に分かれて出発した。
  
警察犬と指導手も捜索活動に協力した

警察犬と指導手も捜索活動に協力した

  
 水海海岸の捜索では釜石警察署員と消防隊員らが熊手を使って小石を掘り起こしたり、打ち上げられた漂流物を確認したりした。同署地域課の坂本愛里巡査(19)は宮古市出身。小学1年の時に経験した震災の津波でおじ、おばを亡くした。被災者の救助や交通誘導、避難所でケアする警官の姿に憧れ、道を決めた。「年数は関係なく、家族が戻ってくるのを待っている遺族の方に、小さくても手掛かりを返すことができれば」と熱心に取り組んだ。
 
潜水捜索する場所の打ち合わせをする海保職員と潜水士

潜水捜索する場所の打ち合わせをする海保職員と潜水士

 
海中捜索に臨む潜水士。後方は八戸海保の巡視船「しもきた」

海中捜索に臨む潜水士。後方は八戸海保の巡視船「しもきた」

 
 近くの鏡海岸では海中捜索も実施。八戸海保所属の巡視船「しもきた」に配属される潜水士7人が水深7~10メートルの海域で手掛かりを求めた。潜水捜索に初めて携わった佐藤健太さん(23)は宮城県仙台市出身。「津波の経験はないが、地震の怖さは覚えている。被災した方と思いは同じ。これからも役立てる仕事をしていく」と胸を張った。
 
行方不明者の手掛かりを求めて捜索する消防隊員ら

行方不明者の手掛かりを求めて捜索する消防隊員ら

  
 大槌消防署警防係の大久保太陽さん(21)は震災当時、小学3年生。津波で大槌町の自宅を失い、避難生活の場となった遠野市に居を移した。捜索活動への参加は2回目。「子どもの頃にお世話になった方が見つかっていない。家族のもとへ帰る手助けができれば」と目を凝らした。今回は手掛かりを見つけ出すことはできなかったが、誰かの役に立つことのできる職業にやりがいを感じる日々。「救急、救助…一つずつできることを積み上げたい」と前を向いた。
 
 釜石署などは毎年3月11日ごろ釜石大槌地域の沿岸部を捜索している。
 

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東日本大震災12年、大切な人をいつまでも胸に 釜石で命を思い、祈り、誓う

祈りや誓いを込めて東日本大震災12年を迎える釜石市民

祈りや誓いを込めて東日本大震災12年を迎える釜石市民

 
 東日本大震災から12年、命を思う――。まちの復興は進んでも、大切な人を失った悲しみが消えることはない。でも、あの人を思い、震災の教訓を伝えながら諦めず一歩ずつ前に向かうことが、報いになると信じる。11日を前に、犠牲者を悼み地域の安寧を願う法要、追悼施設の清掃活動などが行われた釜石市。「手を合わせれば、思いが届く」「一歩ずつ前へ」「守る側になりたい」。かけがえのない人々をまぶたの裏に浮かべ、そして地域の未来や希望を胸に抱き、今日も祈り続けている。
 

眼下に広がる海に向かい手を合わす 根浜地区

  
根浜地区で行われた震災慰霊祭で、黙とうする住民ら=4日

根浜地区で行われた震災慰霊祭で、黙とうする住民ら=4日

  
 震災の津波で壊滅的な被害を受けた鵜住居町根浜地区では4日に慰霊祭が行われた。高台造成地に整備された復興団地の住民ら約30人は地震発生時刻、午後2時46分に黙とう。津波記念碑が建つ団地内の公園で「お地蔵さん」に白菊を手向けた。
 
 同地区には現在35世帯約90人が暮らす。津波で住民15人が犠牲になった。「海は起こると怖いが、海とともに育ってきたから(海が)なければ生活できない」と80代男性。隣に住んでいた親戚らが亡くなり、「何年たっても悲しみ、寂しさは変わらない」と、眼下に広がる穏やかな海を静かに見つめていた。
 
海を望む高台の公園で「お地蔵さん」に手を合わせる住民=4日

海を望む高台の公園で「お地蔵さん」に手を合わせる住民=4日

 
 追悼行事を続ける根浜親交会の佐々木三男会長(61)は慰霊祭で防災市民憲章を読み上げた。1カ月前に発生したトルコ・シリア地震に触れ、「災害はいつ起こるか分からない。命を守るため、憲章を受け止めてもらえたら。若い世代とも思いを共有し、みんなで地区を活性化させていきたい」と力を込めた。
  

十三回忌「復光」祈願法要 鵜住居観音堂

  
震災の十三回忌に合わせ鵜住居観音堂で営まれた「復光」祈願法要=5日

震災の十三回忌に合わせ鵜住居観音堂で営まれた「復光」祈願法要=5日

   
 津波で流失後、再建された鵜住居観音堂で5日、毛越寺(平泉町)の藤里明久貫主(72)らが震災の十三回忌に合わせ「復光祈願法要」を営んだ。地域住民ら約50人が参列し、読経に合わせて焼香。犠牲者の冥福と地域の安寧を願って静かに手を合わせた。親戚が行方不明のままという川崎シゲさん(82)は「悲しみは続くけれど、思いが届くかなと思った。見守ってもらっているよう」と目を細めた。
   
 昨年3月に再建された観音堂には、破損したものの流失を免れた本尊「十一面観音立像」(県指定文化財)が安置される。修復に尽力した故大矢邦宣さん(震災当時、盛岡大教授)の遺志を継ぎ、被災地に通い続けている藤里貫主は「まちの様子は変わったが、人の心はそう簡単に変わらない。諦めず、一歩一歩前に向かうことが大切。着実に進む姿を観音様が見守ってくださっている」と参列者に呼びかけた。
   
毛越寺の藤里明久貫主らを囲んで写真撮影する鵜住居地区の住民ら=5日

毛越寺の藤里明久貫主らを囲んで写真撮影する鵜住居地区の住民ら=5日

   
 観音堂を管理する別当の小山士(つかさ)さん(79)は、思いを寄せ続ける人たちに感謝を伝え、「高台にある観音堂を復興のシンボル、前向きに生きていく心のよりどころとして守り続ける」と誓った。
   
 

釜石東中生らが芳名板を清掃 釜石祈りのパーク

   
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芳名板を磨く釜石東中の生徒たち=8日

   
 市内全域の震災犠牲者1064人(関連死を含む)のうち、1002人の芳名が掲げられる鵜住居町の追悼施設「釜石祈りのパーク」。慰霊に訪れる多くの人たちに落ち着いた気持ちで手を合わせてもらおうと、8日、施設管理者や地域住民ら約20人が芳名板や石畳の洗浄など清掃作業に取り組んだ。
   
 2020年から行っていて、今回は釜石東中(佃拓生校長)の3年生35人(在籍41人)が協力。芳名板を布で丁寧に磨いた内藤龍也さんは「悲しいことがたくさんあった場所。きれいになるように」と思いを込めた。憲章の「命を守る」との文字に触れた髙清水麻凛さんは「震災当時は3歳で、守られる側だった。震災や防災のことを学んできたから、今度はもっと小さい子を連れて逃げられたらいい」とうなずいた。
   
鵜住居地区防災センター跡地に整備された祈りのパーク。解体したコンクリート片を使った階段付近でも作業=8日

鵜住居地区防災センター跡地に整備された祈りのパーク。解体したコンクリート片を使った階段付近でも作業=8日

   
 作業後、生徒たちは施設前に並んで合唱。被災を経験した当時の東中生の思いを歌にした「いつかこの海をこえて」に、「苦しみを乗り越え、希望の道を進もう」との決意を乗せた。
   
釜石東中3年生が製作したポスター。生徒の手と未来への思いを散りばめる=8日

釜石東中3年生が製作したポスター。生徒の手と未来への思いを散りばめる=8日

   
 「いつか~」は歌詞の歌い出しをつなげると、「鵜住居で生きる 夢いだいて生きる」とのメッセージが浮かび上がる。3年生はこの歌とともに「3.11今伝えたいこと」をつづったポスターを製作した。モチーフとなっているのは生徒それぞれの「手」。地域を支えたり、未来を切り開いていくという思いや言葉が添えられている。各家庭に配布。「家族の避難場所」という欄があり、話し合って記入することで完成となる。
 
 

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【3.11追悼】大切な人を迎える「祈りの灯」 釜石・根浜 命を思う明かりで地域を包む

根浜地区の避難路を彩るハマナスを模したイルミネーション

根浜地区の避難路を彩るハマナスを模したイルミネーション

 
 東日本大震災から12年を迎えるのを前に、釜石市鵜住居町根浜地区に5日、犠牲者を追悼する「海への祈り灯(び)」がともされた。旅館宝来館前や松林には大切な人の名前や「明日も心に太陽を」などメッセージが書き込まれたキャンドルが点在。旅館の裏山にある木製の避難路「絆の道」は、同地区を象徴する花「ハマナス」を模したイルミネーションで彩られ、あの日津波に襲われた地域を優しく包み込んでいる。11日まで。
  
根浜の海を望む松林に置かれたキャンドル

根浜の海を望む松林に置かれたキャンドル

 
 同地区に明かりをともす取り組みは市民団体が始めた。松林に道をつくるようにキャンドルを配置していたが、ここ数年は同館おかみの岩崎昭子さん(66)の発案でメッセージを書き込んだり、「命を感じる場所」に置いてもらう形にする。“あの人”を思う言葉や祈りが込められた光がここに、そこにも、あそこにも。震災ボランティア、応援職員など被災地の復興に関わり、今も思いを寄せ続けている人たちから寄せられた願いが込もった明かりもある。
 
キャンドルにメッセージを書き込む親子。右端は出迎えた岩崎さん

キャンドルにメッセージを書き込む親子。右端は出迎えた岩崎さん

 
 キャンドルは約1万個を用意。同館や観光施設「根浜シーサイド」でメッセージを書き込めるコーナーを設けている。大槌湾を望む箱崎白浜から室浜地区、両石町にも配っていて、各地の津波記念碑などに置いて祈りを届ける。岩崎さんは「明かりを見ると『私はここにいます』と言っているように感じる。犠牲になった人たちは海や空、見えない所から見守ってくれている。思いをつなぐような自分たちの祈りの形をつくっていきたい」と穏やかな表情で話した。
  
避難路にイルミネーションを飾り付けた花巻のメンバーらが集って「スイッチオン!」

避難路にイルミネーションを飾り付けた花巻のメンバーらが集って「スイッチオン!」

  
 避難路のイルミネーションは「花巻絆の道植栽ボランティア有志」が設置。ペットボトルを使った花形の飾り約350個で彩る。発光ダイオード(LED)の電力は、地域から出る廃食油を精製したバイオディーゼル燃料を使用。避難路入り口付近には島倉千代子さんの歌碑があり、「おかえりなさい」と明かりに温かさを添えている。
 
 飾り付けの発案者は岩崎さん。思いを形にした花巻有志グループの事務局、関喬(たかし)さん(75)は「この地を訪れる人たちに花で楽しんでほしいと続けてきた活動の延長。古里に帰ってくる魂にささげる明かりになれば」と願う。
  
避難路を明るく照らすイルミネーション

避難路を明るく照らすイルミネーション

 
命を思う明かりが点在する根浜海岸の松林

命を思う明かりが点在する根浜海岸の松林

  
 根浜地区では11日に「祈りの空間」を催す。追悼の風船、祈りの甚句、「とうほくこよみのよぶね」、花火「白菊」の打ち上げなどが予定されている。
 

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新想定の地震・津波避難訓練 釜石市民、急ぎ足で高台へ…命守る行動重ね「信じて逃げる」

釜石市内一斉に行われた地震・津波避難訓練。鵜住居地区では住民らが高台の避難場所に向かった

釜石市内一斉に行われた地震・津波避難訓練。鵜住居地区では住民らが高台の避難場所に向かった

 
 釜石市は5日、全市民を対象にした地震・津波避難訓練を実施した。岩手県が昨年公表した最大級の津波浸水想定を踏まえた訓練で、浸水域の市民は大津波警報、避難指示発令のサイレンが鳴り響くと、高台など市が指定する緊急避難場所に向かった。市内全域での訓練は新型コロナウイルスの影響で2019年以来4年ぶり。浸水域外の市民も自宅や職場などで身を守る行動を実践する「シェイクアウト訓練」、自主防災組織や町内会を中心とした地域ごとの訓練を行った。市の災害対策本部運営訓練、自衛隊による通信訓練などもあり、災害時の公的機関の連携、それぞれの役割や対応を確認した。市によると、避難者数を把握できた59カ所に計1560人が移動した。
 
高台に避難した鵜住居地区の住民ら。浸水域の市民はそれぞれ近くにある避難場所を確かめた

高台に避難した鵜住居地区の住民ら。浸水域の市民はそれぞれ近くにある避難場所を確かめた

  
 県が示した新想定を受け、市は津波災害の緊急避難場所全83カ所を地元町内会などと点検し、昨年9月にハザードマップを改訂した。浸水区域に入った緊急避難場所のうち5カ所を敷地内の高台などに変更し、1カ所を新設。中長期の避難生活を想定した拠点避難所は2カ所を廃止し、1カ所を新たに指定している。今回の訓練は避難場所の周知、避難経路や移動にかかる時間の把握などを目的に開催した。
  
 訓練は、午前8時半に東北地方太平洋沖を震源とするマグニチュード(M)9.0の地震が発生して釜石で震度6弱の揺れを観測、3分後に気象庁が大津波警報を発令したとの想定。防災行政無線が知らせた津波到達予想時刻は約30分後の同9時頃。市民らは呼びかけに応じて地震から身を守る行動をとった後、急ぎ足で避難場所や近くの高台に向かった。
  
子どもも大人も鵜住居小・釜石東中校庭を目指し階段を駆け上がった

子どもも大人も鵜住居小・釜石東中校庭を目指し階段を駆け上がった

  
 海抜約20メートルの高台にあり、鵜住居地区の緊急避難場所になっている鵜住居小・釜石東中学校校庭には住民ら約60人が避難した。東日本大震災の津波で被災し自宅を再建した住民の60代女性は「津波はいつ来るか分からない。防災リュックを玄関に置いたり備えはしている」と防災意識を持ち続ける。校庭に向かうには長い階段を上らなければならないが、「荷物を持って避難する大変さ、どれくらいの時間が必要か分かった」と体に覚えさせた。
  
鵜小・東中体育館で行われた避難所開設訓練。段ボールベットの組み立てなどを体験した

鵜小・東中体育館で行われた避難所開設訓練。段ボールベットの組み立てなどを体験した

  
 両校の体育館は拠点避難所でもあり、鵜住居町内会(古川愛明会長、約100世帯)主体の避難所開設訓練が行われた。住民らは段ボールベッドや間仕切りの組み立てなどに挑戦。陸上自衛隊滝沢駐屯地から駆け付けた給水車から飲料水をもらう体験もあった。同町内会副会長の沖寿雄さん(78)は「津波は二度と来てほしくないが、自然災害は人の手ではどうすることもできない。だからこそ備えは必要。練習を重ねていけば、万一の時にスムーズに動ける。信じて逃げることができる」と気を引き締めた。
 
完成したベッドに乗って感触を確かめる参加者

完成したベッドに乗って感触を確かめる参加者

 
自衛隊の給水車から飲料水をもらう体験も

自衛隊の給水車から飲料水をもらう体験も

 
 市は県公表を受け、昨年4月、大津波警報発表時の災害対策本部を内陸部の小佐野町、市立図書館に設置することを決めた。この日はその運営訓練も実施。市と消防、自衛隊、警察、海上保安部から約60人が参加した。
 
 同館2階に本部室、事務局を設置。警報時の職員参集、津波緊急避難場所からの状況報告、避難者数の集計などを行った。災害時、一般電話が使えなくなることを想定し、消防団や自衛隊による無線、衛星携帯電話の通信訓練も行われた。
 
市災害対策本部事務局では各避難場所からの避難者数の報告を受けた

市災害対策本部事務局では各避難場所からの避難者数の報告を受けた

 
本部室には市長以下幹部、関係機関の職員らが参集。訓練状況を見て課題の洗い出しに努めた

本部室には市長以下幹部、関係機関の職員らが参集。訓練状況を見て課題の洗い出しに努めた

  
 今回の訓練では要支援者の避難方法を検討するため、荒川町内会が試験的に車両を使った避難訓練を実施。津波浸水域外の中小川町内会は後方支援のための炊き出し訓練を行った。同本部長となる野田武則市長は「要支援者の車避難、職員の図書館への参集方法など訓練で課題を明らかにし、誰一人として犠牲にならないための対応を考えたい」と話した。
 

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震災の語り部活動、準備中!釜石高生「自分の言葉で伝えたい」 3月、うのスタで

自分の言葉で震災を伝えるため研修や練習に取り組む釜石高生

自分の言葉で震災を伝えるため研修や練習に取り組む釜石高生

 
 東日本大震災の経験や教訓、防災の取り組みを未来につなげようと活動する釜石高(釜石市甲子町)の生徒有志グループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」。地元のラグビーチーム釜石シーウェイブス(SW)RFCのホーム戦に合わせ、会場の釜石鵜住居復興スタジアム(鵜住居町)で語り部活動を展開してきた。今年も、3月に伝承活動を行う予定。震災被災者の経験談を聞いたり、「伝えたい」思いをまとめたり準備を進めている。
 
 夢団は2019年に結成。うのスタが会場となったラグビーワールドカップ(W杯)開催時に震災の教訓と復興支援への感謝を伝えようと活動した生徒らが、継続的な取り組みにすべく立ち上げた。生徒の発案で「津波伝承うちわ」「安否札」を作成・配布しながら、W杯やSWホーム戦の来場者に震災の記憶や防災力向上を発信してきた。
 
震災体験者の話を聞き取る研修=1月26日、鵜住居町

震災体験者の話を聞き取る研修=1月26日、鵜住居町

 
 今年は5人の生徒が語り部に挑む。いずれも2年生。震災当時は4、5歳で記憶していることは多くない。そこで、1月26日に研修として震災経験者から話を聞いた。鵜の郷交流館(鵜住居町)で体験を伝えたのは、嬉石町の横山幸雄さん(85)。「津波を目の前にして足がすくんだ。とっさに家の中に飛び込んだが、津波にのまれ意識を失った」などと、死と隣り合わせの経験を語った。意識を取り戻し、目についた電線を伝って電柱にたどり着き、奇跡的に命をつないだ。「私の行動は一歩間違えれば命取りになっていた」とした上で、「一番大事なのは命。災害時にどう行動するか、日頃から考えておくべきだ」と力説した。
 
 生徒たちは、住み慣れたまちが津波で失われるのを目の当たりにした時の心境や行動の選択で困ったこと、避難所の様子などを聞き取った。海が近い唐丹や鵜住居、平田で暮らす生徒らは、自身の体験との違いを感じた様子。体験者の話をじかに聞くのが初めての生徒もいて、新たに触れた視点を盛り込んで「伝える」との思いを強めていた。
 
横山さん(左)の経験談に耳を傾ける釜石高の生徒=1月26日、鵜住居町

横山さん(左)の経験談に耳を傾ける釜石高の生徒=1月26日、鵜住居町

 
 横山さんは「震災から10年以上がたち、風化を感じる。だからこそ、伝えていくことが大切だ」と強調。釜石観光ガイド会の一員として語り部活動を実践する先輩の立場から、「災害に負けてたまるか。命さえあれば、どんなことでも頑張れるはず。そう思い語り続けている」と明かし、伝承者としての姿勢を探る生徒たちにヒントを残した。
 
 いのちをつなぐ未来館では、施設職員で語り部の川崎杏樹(あき)さんの案内で展示を見て回りながら、おさらい。うのスタでの活動に向け台本作りも始めた。
 
いのちをつなぐ未来館で震災への理解を深める生徒ら=1月26日、鵜住居町

いのちをつなぐ未来館で震災への理解を深める生徒ら=1月26日、鵜住居町

 
放課後の学校で台本作りの準備をする高堰さん(奥)=2月14日、甲子町

放課後の学校で台本作りの準備をする高堰さん(奥)=2月14日、甲子町

 
 2月中旬からは、個別に台本を仕上げる作業を続けている。語り部デビューを目指す高堰愛さんは14日の放課後、同校で作業。夢団の活動を支える「さんつな」代表の伊藤聡さん(43)にアドバイスを受けながら、考えをまとめている。
 
 学校周辺の地区に住む高堰さんは津波の被災はないが、地震の怖さから車中泊をした記憶を残す。大槌町に祖父母が暮らしており、人的被害はなかったものの何度も訪れた思い出の場所が流されたことにショックを受けた。それでも、「津波を直接的に体験していない自分が語れるのか」「伝えられることもある」と自問自答。震災は被災の有無にかかわらず、多くの人の気持ちにダメージを与えたと感じていて、「(私は)思い出を失ったが、支えられ気持ちが楽になった。今度は支える立場になりたい」との思いを力にする。
 
高堰さんの「伝えたいこと」がつづられたノート=2月14日、甲子町

高堰さんの「伝えたいこと」がつづられたノート=2月14日、甲子町

 
 横山さんの話で印象に残ったのは、避難所での生活。津波から逃れても寒く、苦しく、大変な生活があったことを知った。そうした背景も織り交ぜながら、命を守ることや備えの大切さを伝える考え。「人前で話すのは苦手。でも台本があると読んでしまう」と自己分析し、台本は文章ではなく、伝えたい言葉を書き連ねるだけにするつもりだ。「自分の言葉で語りかけたい」。思いを紡いでいる。
 
 今月末に全体練習。SWホーム戦は3月5日、12日、19日に予定され、生徒たちは12日に思いを発信する。

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友好都市 横手市から釜石市へ 災害時にも役立つ木製ブロック塀寄贈 根浜キャンプ場で活用

秋田県横手市から釜石市への木製ブロック塀「木兵衛(もくべえ)」寄贈式

秋田県横手市から釜石市への木製ブロック塀「木兵衛(もくべえ)」寄贈式

 
 釜石市鵜住居町の根浜海岸観光施設「根浜シーサイド」キャンプ場に、友好都市・秋田県横手市(髙橋大市長)から木製ブロック塀「木兵衛(もくべえ)」が寄贈された。木目の美しさなどで知られる“秋田スギ”の間伐材で作られた塀は自然景観になじみ、災害時には解体して燃料のまきに利用することができる。8日、同施設で寄贈式が行われた。
 
 横手市から石山清和副市長、塀を製造する第三セクター・Woody(ウッディ)さんない(代表取締役=石山副市長)の高橋嘉男専務取締役、森岡吉己営業課長が出席。石山副市長が釜石市の野田武則市長に目録を手渡した。
 
横手市の石山清和副市長(右)が釜石市の野田武則市長に目録を贈呈

横手市の石山清和副市長(右)が釜石市の野田武則市長に目録を贈呈

 
横手市のWoodyさんないが製造する木兵衛

横手市のWoodyさんないが製造する木兵衛

 
 「木兵衛」は東日本大震災の経験をもとに同社が開発。コンクリート塀に比べて軽量なため、倒壊による重大事故のリスクを軽減できる。ボルトやくぎなど金物を使わないオールウッド工法で、ブロック状の目隠し板は取り外し可能。災害時は、暖を取ったり煮炊きしたりするための即席燃料として使える。SDGsに配慮した取り組みなどが評価され、昨年、ウッドデザイン賞(ライフスタイルデザイン部門)も受賞した。根浜には高さ90センチ、延長12.6メートルの塀2組を設置した。
 
「木兵衛」の開発経緯について話すWoodyさんないの高橋嘉男専務(左)

「木兵衛」の開発経緯について話すWoodyさんないの高橋嘉男専務(左)

 
災害時には上部の笠木を取り外し、ブロック状の目隠し板を燃料として利用可能。同板には燃焼しても人体に無害な自然塗料を施す

災害時には上部の笠木を取り外し、ブロック状の目隠し板を燃料として利用可能。同板には燃焼しても人体に無害な自然塗料を施す

 
根浜海岸キャンプ場入り口に設置された2組の塀

根浜海岸キャンプ場入り口に設置された2組の塀

 
 森林環境譲与税を活用し、秋田県産材の利用拡大、木製品の普及に取り組む横手市。今回の寄贈に際し石山副市長は「沿岸部の防災の一役を担う形で活用いただければ。これを機に、農林水産業を通じて両市の新たな経済交流へと発展させていければ」と願った。
 
 横手市と釜石市は北緯40度Bラインの北東北横軸連携で、1990年代半ばから行政や民間レベルで交流。釜石で長年行われてきた冬のイベントでは、横手名物「かまくら」の出前、「横手やきそば」の出店などで市民を楽しませた。震災後は横手市から釜石市に多くの応援職員が派遣され、復興推進に力を貸した。野田市長は今回の寄贈とともに、これまでの協力に深く感謝。さらなる交流、連携に期待を寄せた。

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明かりに込める12年目の思い 根浜避難階段に竹灯籠点灯 震災追悼、“命を守る道”周知

竹灯籠の点灯が始まった根浜の避難階段=11日

竹灯籠の点灯が始まった根浜の避難階段=11日

 
 東日本大震災の津波で大きな被害を受けた釜石市鵜住居町根浜地区―。震災命日まで1カ月となった11日、地域の高台へと続く避難階段に手作りの竹灯籠が設置された。犠牲者を追悼し、防災意識を高める取り組みは今年で2年目。灯籠の明かりが“命を守る道”を温かく照らす。3月まで、土日祝日の午後4時から同7時まで点灯される(3月26日最終)。
 
 11日は午後5時から点灯式が行われ、灯籠作りに参加した家族や地域住民らが集まった。地元町内会「根浜親交会」の佐々木三男会長(61)が発電機の点灯スイッチを入れると、夕闇に光の階段が浮かび上がった。参加者らは階段を上り、高台避難を疑似体験。いざという時の行動を体で覚えた。
 
 111段の避難階段は、震災後に整備された根浜海岸観光施設「根浜シーサイド」の敷地と海抜20メートルの市道箱崎半島線をつなぐ。施設内のキャンプ場から最短で高台に上がれるルートで、2021年春に完成した。竹灯籠の設置は、同施設を管理するかまいしDMC(河東英宜社長)が発案。灯籠の製作体験会も開き、市民らと思いを共有する。今年は54個の灯籠を作り上げた。明かりのLED豆電球の電力は、地域から出る廃食油を精製したバイオディーゼル燃料で発電し、環境に配慮する。
 
午後5時からの点灯式には家族連れらが参加した

午後5時からの点灯式には家族連れらが参加した

 
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辺りが暗くなるにつれて幻想的な光景が広がる

 
 製作体験にも参加した東京都出身の永井淳子さん(40)は「すごくきれい。避難階段の周知も兼ねていると聞き、とてもいい取り組み」と感動。青年海外協力隊員の事前研修で1月から釜石市に滞在中。12年前の震災についても学び、「津波被害の大きさを知ることができた。今まで自宅周辺の避難場所も意識したことがなかったので、戻ったら確認しなければ」と防災への関心が高まった様子。
 
 根浜地区在住の男性(40)は妻、生後5か月の子どもと足を運んだ。「避難階段には日ごろから散歩で来ている」というが、竹灯籠の点灯を目にするのは初めて。美しい光景を記憶にとどめた。震災の津波で同地区にあった自宅を失い、集団移転で新たに造成された高台の団地に再建。「今は少しは安心かな…。子どもが成長したら、機会あるごとに震災のことも教えていきたい」と話した。
 
自分たちで作った竹灯籠を見つめる親子

自分たちで作った竹灯籠を見つめる親子

 
キャンプ場近くに設置されている避難階段。津波発生時の迅速な高台避難が可能

キャンプ場近くに設置されている避難階段。津波発生時の迅速な高台避難が可能

 
階段の上り口には根浜地区の津波避難場所を示す看板も立てられている

階段の上り口には根浜地区の津波避難場所を示す看板も立てられている

 
 同キャンプ場には昨年7月、区画を定めないフリーサイトもオープン。利用客が増える夏季には40~50組が滞在する可能性がある。根浜シーサイドでは利用客へ複数の避難経路を周知。竹灯籠の点灯は、地域住民や周辺の通行車両などにも避難階段の場所を知ってもらう狙いがある。

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手口を知って防御!特殊詐欺 釜石のコンビニ2店機転で防ぐ 一方で被害も

コンビニなどに配布されている特殊詐欺被害防止チェックシートを提示し注意喚起

コンビニなどに配布されている特殊詐欺被害防止チェックシートを提示し注意喚起

  
 各地で相次いだ強盗事件に絡み、特殊詐欺に関わったとして日本人4人がフィリピンから移送、逮捕された。このニュースに「決して人ごとではない」と思った人も少なくないだろう。釜石市内では昨年、特殊詐欺被害は確認されていないが、今年に入りすでに2件発生。一方、コンビニエンスストアや金融機関などが水際で被害を防ぐ例も増えていて、対応した店員や署員らは「氷山の一角」「手口を知ることが防御になる」と注意を促す。
  
 岩手県内の昨年の特殊詐欺認知件数は37件(前年比6件増)、被害額は約1億円(同812万円増)で、ともに増加。医療費返還などをかたる「還付金詐欺」、有料サイト利用料などを名目とする「架空請求詐欺」の増えているという。
   

詐欺被害、実在する団体をかたる

    
 市内では今年1月に80代男性が、通信事業者をかたる男らに約110万円をだまし取られる特殊詐欺被害(架空料金請求)が発生した。釜石署によると、6日に男性のスマートフォンへ利用料金に関するショートメールが届いたのがきっかけ。電話すると、NTT職員を名乗る男からスマホのウイルス感染と約10万円のアプリ利用料金があることを告げられた。身に覚えがなかったものの「後で返金される」との言葉もあり、金融機関のATM(現金自動預払機)から指定口座に振り込んだ。7日には日本個人データ保護協会、8日には日本ネットワークセキュリティ協会をかたる電話があり、それぞれ約50万円を振り込んだ。
   
 男性が連絡のあった団体のホームページで詐欺の注意喚起を行っていることを見つけて被害が発覚した。同署生活安全課の小田島徹課長は「実在の団体をかたる、ATMでの利用限度額ギリギリの金額を指定するなど手口は巧妙化している」と警鐘を鳴らす。
   

慌てた姿に直感

   
釜石署の前川署長(左)から感謝状を贈られた佐々木オーナー=1月31日、セブンイレブン釜石中妻町3丁目店

釜石署の前川署長(左)から感謝状を贈られた佐々木オーナー=1月31日、セブンイレブン釜石中妻町3丁目店

  
 1月下旬には市内のコンビニ2店が被害を未然防止。セブンイレブン釜石中妻町3丁目店では24日に対応事例が発生した。オーナー佐々木信也さん(51)によると、市内の60代男性が電子ギフト券20万円分を購入しようと来店。金額が高額だったことに加え、男性の慌てた様子を不審に思った佐々木さんが詐欺を疑って声をかけた。
   
 「急いで買わなければ」と繰り返す男性を事務所に案内し事情を聞くと「ウェブサイトの入会金として購入するよう指示された」などと話し、詐欺を確信した佐々木さんが説得、警察にも通報。男性は「詐欺ではない」と言い切っていたというが、署員の説明に納得して購入をやめた。
   
「お客さんの生活を守る」と気を引き締める佐々木オーナー(右)=1月31日、セブンイレブン釜石中妻町3丁目店

「お客さんの生活を守る」と気を引き締める佐々木オーナー(右)=1月31日、セブンイレブン釜石中妻町3丁目店

   
 佐々木さんは「レジ前では十分な対応は難しく、事務所で丁寧に話を聞き取ることができたのが良かった。親身になって話を聞くことが大事」と振り返った。同署から配布されている詐欺防止のチェックシートや「ギフト券の購入は1万円を超えたら声をかけるように」との対応を店内で共有しており、今回で3回目の被害防止に。「詐欺が多いなと感じている。警察の情報も聞きながら常に注意し、お客さんの生活を守りたい」と力を込めた。
    

少額でも…気づいた違和感

   
感謝状を受けたセブンイレブン釜石松原店の大久保店長(中)、店員の井戸さん(右)=2月9日、釜石署

感謝状を受けたセブンイレブン釜石松原店の大久保店長(中)、店員の井戸さん(右)=2月9日、釜石署

   
 セブンイレブン釜石松原店では30日に来店した80代男性が、店員の井戸麻美さん(28)にギフト券の分類を尋ねた。購入額は3000円だったが、理由を聞くと、すでに数枚のギフト券(未使用)を持っていて「違うと言われた」などと話した。用途が分からないまま、かたくなに買おうとする様子に詐欺を疑い、一緒に勤務していた店員が署に通報した。
   
 警察の聞き取りに、男性は「携帯電話に3億円当選とメッセージが届き、受け取るにはギフト券が必要だと言われた」などと答えたという。数日前に別のコンビニでギフト券(3000円分)を購入し、番号を伝えていて「1回やり取りをしてしまい、カモだと思われてしまった。よくあるケース」と同署。ただ、早い段階で止めてもらい、被害拡大は免れた。
   
「チームプレーで防ぐことができた」と振り返る井戸さん(左)と大久保店長=2月9日、釜石署

「チームプレーで防ぐことができた」と振り返る井戸さん(左)と大久保店長=2月9日、釜石署

   
 同店では昨年6月に被害防止の声かけ訓練を実施しており、井戸さんは「生かせた」と手応え。一方で「人によってケースは異なり、対応も違う。通報するタイミングを判断するのは難しい」と感じた。大久保隆規店長(61)は「高額の取り扱いを注意するのはもちろんだが、今回のような明らかに不審なケースにも注意したい。おかしい買い物には少額でも声がけするよう心に留め対応していく」と力を込めた。
   
 1月31日、2月9日に感謝状を贈った同署の前川剛署長は「詐欺被害は社会的に喫緊の課題であり、予断を許さない情勢。今回は適切な声掛けと親身な対応が水際の被害防止につながった。地域の安全安心のため連携は不可欠。一層の協力を」と求めた。また、被害が潜在化している恐れがあり、「金額の大小にかかわらず、心配な時は一人で抱え込まないで警察に相談してほしい」と呼びかける。

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津波の教訓 変わらず後世へ 3年ぶり通常開催「新春韋駄天競走」で高台避難啓発

高台の仙寿院を目指し、急坂を駆け上がる「第10回新春韋駄天競走」

高台の仙寿院を目指し、急坂を駆け上がる「第10回新春韋駄天競走」

 
 「津波発生時はとにかく高台へ―」。東日本大震災の教訓を末永く未来につなぐ避難啓発行事「新春韋駄天(いだてん)競走」が5日、釜石市大只越町の日蓮宗仙寿院(芝﨑恵応住職)周辺で行われた。同寺の節分行事の一環で、通算10回目の開催。市内外から参加した41人が命を守る行動を身をもって体験した。震災発生から間もなく12年。参加者らは行事を通じて津波避難の心構えを再確認し、次世代への教訓継承へ思いを強くした。
 
 4歳から62歳までが参加。年代などで分けた6部門での実施とし、4つのグループで順に発走した。コースは只越町の消防屯所付近を出発し、津波避難場所となっている高台(標高約30メートル)の仙寿院をゴールとするもの。距離は286メートル、高低差約26メートル。途中に急カーブや傾斜のきつい坂道がある。幼児は親に手を引かれて走り、個人参加者はそれぞれのペースで必死に難坂を駆け上がった。
 
震災津波で浸水した只越町からスタート。6組12人が参加した「親子の部」

震災津波で浸水した只越町からスタート。6組12人が参加した「親子の部」

 
 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、2021年は市内在住(通勤、通学)者に限定、22年は競走をしない任意参加の避難訓練としたため、通常方式での開催は3年ぶり。感染症の影響はまだあるため、参加者数はコロナ禍前の100人以上には及ばないものの、コース沿道に応援の家族や地域住民らが並ぶ久しぶりの光景が見られた。
 
最後の力を振り絞ってゴールに向かう参加者を盛んな拍手で応援

最後の力を振り絞ってゴールに向かう参加者を盛んな拍手で応援

 
2020年に続き、1位でゴールした山本雄太郎さん(手前)=男性34歳以下の部

2020年に続き、1位でゴールした山本雄太郎さん(手前)=男性34歳以下の部

 
もうすぐゴール!最後まで懸命に走る男性参加者

もうすぐゴール!最後まで懸命に走る男性参加者

 
 各部門の1位を「福男」「副女」などとして認定。芝﨑住職が認定書を手渡し、たすきをかけた。最後は参加者全員で海の方角を向き、震災犠牲者に黙とうをささげた。
 
 「福親子」となったのは釜石市の津田康太さん(44)と長男琉希君(7)。初参加の琉希君は「1位を取れてうれしい。来年も走る」とにっこり。昨年まで4年連続、康太さんと親子の部に参加していた姉の紗良さん(13)は中学生になり、初の単独参加。見事「福少女」に輝いた。震災時は1歳。保育園の避難で津波の難を逃れた。「津波を知らない人もいるし、経験者の記憶も薄れてきている。この行事で教訓を伝えていければ」と願う。「家の近くにも坂があり、いざという時は駆け上がって逃げれば助かると常々教えている」という父康太さん。災害の恐ろしさを伝える難しさを感じ、「機会あるごとに」と同行事へも家族参加を続ける。
 
各部門の1位「福親子」「福少女」「福少年」「福男」「福女」が勢ぞろい

各部門の1位「福親子」「福少女」「福少年」「福男」「福女」が勢ぞろい

 
 男性35歳以上の「福男」は盛岡市から初参加の太田陽之さん(36)。「最後は若干足がもつれた」と言いつつも、趣味のマラソンで鍛えた脚力で一番乗り。貴重な体験を胸に刻み、「健康で走れることに感謝。大会でもいい成績を残せれば」と幸先のいい新年に期待する。震災時、沿岸部に暮らす両親は海の近くで働いていたが、逃げて無事だった。ゴールした境内からまちを見下ろし、「津波時はとにかく高い所に逃げることが大事だとあらためて感じた」。復興関係の仕事に携わったこともあり、「震災時の経験は土砂災害など他の災害でも役立つはず」と継承の一翼を誓う。
 
 兵庫県西宮市、西宮神社の新年開門神事「福男選び」をヒントにした同行事は、釜石出身者らでつくる「釜石応援団ARAMAGI Heart(あらまぎはーと)」が発案。趣旨に賛同し、主催統括する仙寿院の芝﨑住職は「津波避難の実践練習の場。長く続け、理解が深まればありがたい。震災の風化が進む。参加した皆さまの言葉で、多くの人に避難の大切さを強く伝えてほしい」と呼び掛けた。
 
津波時の迅速な避難を呼び掛ける仙寿院の芝﨑住職(右)。参加者がその言葉を心にとどめた

津波時の迅速な避難を呼び掛ける仙寿院の芝﨑住職(右)。参加者がその言葉を心にとどめた

 
境内から海に向かって震災犠牲者に黙とう。約1カ月後には12年目の命日を迎える

境内から海に向かって震災犠牲者に黙とう。約1カ月後には12年目の命日を迎える

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“震災12年”市民らが竹灯籠製作 追悼、防災の願い共有 根浜避難階段で2/11から点灯

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 東日本大震災の発生から間もなく12年となる沿岸被災地―。津波で大きな被害を受けた釜石市鵜住居町では犠牲者を追悼する準備が進む。キャンプ場などを有する観光施設「根浜シーサイド」は、敷地と高台の市道をつなぐ避難階段に設置する竹灯籠を製作中。1月28、29の両日は、一般向けの製作体験会が開かれた。階段での点灯式は2月11日午後5時から行われる。
 
 同活動は観光施設の市指定管理者かまいしDMC(河東英宜社長)が、震災犠牲者の追悼、避難意識の啓発などを目的に昨年から実施。2年目の今年も震災命日の1カ月前から点灯するため、竹灯籠づくりが行われている。市民らと思いを共有しようと、今回も製作体験会を企画。2日間で約50人が参加した。
 
 材料となる青竹は地域住民の協力で、根浜周辺の竹林から約15本を切り出してもらった。灯籠は直径10センチほどの竹の表面に電動ドリルで穴を開けた模様を施し、中に入れるLED豆電球の明かりが漏れるように細工。体験会参加者はその穴開け作業を行った。持ち帰り用の丈の短い灯籠を作った後、階段設置用の長い灯籠にも挑戦した。
 
市内の家族らが参加した竹灯籠づくり体験会=1月28日午後・根浜レストハウス

市内の家族らが参加した竹灯籠づくり体験会=1月28日午後・根浜レストハウス

 
竹の表面に貼った型紙の模様に沿って電動ドリルで穴を開けた

竹の表面に貼った型紙の模様に沿って電動ドリルで穴を開けた

 
頑張って完成させた持ち帰り用の竹灯籠を手に笑顔を見せる兄弟

頑張って完成させた持ち帰り用の竹灯籠を手に笑顔を見せる兄弟

 
 甲子町の松田翔希君(12)は家族4人で初めて参加。「大小いろいろな穴があって開けるのが大変だったけど楽しかった。出来栄えは95点」と満足げ。震災時は0歳で記憶はないが、学校の防災授業などで当時のことを学んできた。「家や学校は津波の恐れはないが、海の近くにいる時に大きな地震が起こったら、すぐに高い所に逃げられるようにしたい」と気を引き締める。
 
 平田の吉岡敬蔵さん(48)、真美さん(46)夫妻は昨年に続いての参加。桜の花模様とともに「光あれ」という文字を刻み、「未来への希望」を込めた。震災後、キリスト教会の支援メンバーとして大阪から移住。大町に開設する釜石アメイジンググレイス(AG)センターを拠点に被災者支援を続けてきた。10年を区切りに現地での活動から撤退した組織も多いが、「私たちはいられる限り残ってお役に立ちたい。1本1本の竹灯籠が集まって大きな光となるように、自分たちもこのまちの希望の一翼になれれば」と願った。
 
出来上がりを楽しみにしながら作業に集中!

出来上がりを楽しみにしながら作業に集中!

 
 同観光施設は、津波で被災した根浜集落跡地に2019年8月オープン。キャンプ場のほか、天然芝の広場や海水浴客が利用可能な大型駐車場を備える。キャンプ場から最短距離で高台に上がれる避難階段は21年春に完成。有事の際の利用のほか、高台移転した地区住民らの散歩コースとしても活用される。
 
根浜の避難階段の手すりに設置された竹灯籠=昨年の点灯式で撮影

根浜の避難階段の手すりに設置された竹灯籠=昨年の点灯式で撮影

 
 避難階段には約50本の竹灯籠をともし、市内外から訪れる人たちにその場所を知ってもらう機会とする。明かりとなるLED電球の電力は、地域から排出される廃食油を精製したバイオディーゼル燃料で発電。環境に配慮した取り組みで、脱炭素社会実現への機運も高める。
 
 同DMC地域創生事業部の佐藤奏子さん(44)は「美しい光景を記憶に残し、各家庭で震災伝承や防災意識醸成につなげてもらえれば。バイオ燃料や地域材の使用により、未来の暮らし方にも目を向けるきっかけになれば」と期待する。竹灯籠の点灯は2月11日から3月26日までの土・日曜と祝日に行う予定。

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2月10日開催 県消防職員意見発表会に釜石大槌消防本部から菊地龍星さんを選出

s県消防職員意見発表会に釜石大槌地区消防本部代表で出場する菊地龍星さん(写真提供:同本部)

県消防職員意見発表会に釜石大槌地区消防本部代表で出場する菊地龍星さん(写真提供:同本部)

 
 第46回岩手県消防職員意見発表会(県消防長会主催)が2月10日に盛岡市で開かれる。県内12消防本部から選出された職員が業務に対する提言や課題などを発表する。釜石大槌地区行政事務組合消防本部(大丸広美消防長)からは釜石消防署に勤務する菊地龍星さん(28)が出場することになった。
 
 同発表会は若手消防職員が業務の諸課題解決へ意識を高め、一層の研さん、業務改善につなげるのが目的。毎年、各本部で選考会が行われ、代表者1人が出場する。釜石大槌地区消防本部では今年、釜石消防署勤務の職員2人が選考会(1月11日開催)に挑んだ。制限時間は5分。4人の審査員が内容(論旨の明確性・説得力、業務への問題意識・発展性)、発表力(態度、表現力)を採点した。
 
釜石大槌地区行政事務組合消防本部 意見発表選考会=11日(写真提供:同本部)

釜石大槌地区行政事務組合消防本部 意見発表選考会=11日(写真提供:同本部)

 
 菊地龍星さんは「私だから言えること」と題して発表。同じ消防士の妻が出産を控えているという菊地さんは、増加傾向にある女性消防士の職場環境に着目。24時間の隔日勤務、緊急招集のある職業柄、仕事と育児の両立への不安が大きいとし、職場内への託児所の設置を提言した。人材不足とされる保育士確保の難しさも考慮し、解決策として、近隣の消防本部や県立病院との合同設置のアイデアも示した。地域住民とともに自分の家族の安心安全を守っていける消防士でありたいとの願いを込めた。
 
 赤坂章也(ふみや)さん(26)は、消防業務を行う上での大前提となる「安全管理」について考えた。火災や自然災害に加え、山林などでの捜索・救助事案で消防団員と活動を共にする消防職員。団員の安全確保に費やすエネルギーは少なくないという。赤坂さんは双方の連携のとれた活動のために、捜索・救助の合同訓練を提言。訓練時には「安全管理隊」を配置し、活動隊員が行っている安全管理を評価シートで客観的に評価。見落としている危険の発見、管理の問題点把握につなげる必要性を訴えた。訓練により、団員の危険回避力向上も期待されるとした。
 
意見発表を行った菊地龍星さん(右)と赤坂章也さん(写真提供:同本部)

意見発表を行った菊地龍星さん(右)と赤坂章也さん(写真提供:同本部)

 
 審査長を務めた市教委の髙橋勝教育長は、消防職における女性の活躍を見据えた環境整備の必要性、現場活動にあたる消防団員、職員の安全管理能力向上への取り組み―と、それぞれの着眼点を評価。代表に選ばれた菊地さんに「さらに磨きをかけ、県大会でも代表となることを期待したい」、赤坂さんには「発表した内容を実現できるよう努力してほしい」とエールを送った。
 
 菊地さんは「出産後、職場復帰を望む女性が安心して働ける環境の整備は、消防職においても課題の一つ。女性消防職員だからこそ声を上げにくい内容もある。若い世代が直面する問題、女性職員の思いをしっかり代弁できれば」と来月の県発表会を見据える。大丸消防長は「自分が納得できる発表をし、成果が得られることを願う」と期待する。

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釜石の消防団員ら 出初式で1年の活動へ意欲/SMC釜石工場が消防団協力事業所に

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新年を迎え、士気を高める団員ら=釜石市消防出初式、15日

 
 釜石市消防出初式(市、市消防団主催)は15日、大町の市民ホールTETTOで開かれた。市消防団(川﨑喜久治団長、団員546人)から団員約200人、関係者含め約250人が出席。新年のスタートにあたり、消防防災活動への意欲を高めた。例年行う大町目抜き通りでの分列行進、まとい振りなどの街頭パレードは、新型コロナウイルス感染拡大防止のため中止した。
 
 東日本大震災の犠牲者に黙とうをささげた後、統監の野田武則市長が式辞。昨年発生した地震、台風などの自然災害、市内の火災状況などを示し、「消防団は火災のみならず、複雑、多様化する災害現場への対応など、期待される役割が大きくなっている。住民の生命、財産を守るため、引き続き尽力を」と呼び掛けた。
 
 長年にわたる消防防災への功績、職務精励などで団員79人を表彰。釜石市長表彰では、勤続30年の団員8人に「永年勤続功労章」を贈り、代表で第3分団第1部の伊藤福明班長が表彰状を受け取った。県消防協会遠野釜石地区支部表彰では、40年勤続で第6分団第1部の堀川正部長、第7分団第1部の栗澤茂行班長に「勤続章」を授与。同様に25年勤続で9人、15年勤続で29人、10年勤続で18人を表彰し、それぞれの代表が受領した。消防技能に熟達し、規律厳正、業務への精励などで他の模範となる団員13人には「精練章」が授与された。
 
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コロナ禍で昨年に続き、式典のみの開催となった市消防出初式

 
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40年勤続で県消防協会遠野釜石地区支部表彰を受ける堀川正さん(第6分団第1部部長)

 
 団員らは式典できびきびとした行動を見せ、今年1年の活動へ気を引き締めた。川﨑団長(73)は「豪雨による河川の増水、倒木、土石流などの危険が高まっている。昨年9月に県が出した新たな津波想定では市内でも浸水区域が拡大した。訓練を重ね、火災や災害被害ゼロを目標に防災力を高めていきたい」と意気込んだ。
 
 昨年は1月に南太平洋トンガ諸島の海底火山噴火で本県沿岸に津波警報が発表され、5月の宮城県沖地震では同市で震度5弱を観測。地震、津波対応は予断を許さない状況が続く。市内の昨年の火災発生は5件(建物2、その他3)。一昨年は4件で、2年連続1桁台となっている。
 
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 市では地域防災力強化のため、今後も消防団車両の更新、老朽化した消防屯所の建て替えなどを計画的に行い、年々減少している消防団員の確保にも力を入れていく方針。
 

SMC釜石工場が消防団協力事業所に 市内13社目の認定 相互連携で防災力向上へ

 
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SMC釜石工場への消防団協力事業所表示証交付式=19日

 
 釜石市は消防団員確保や災害時の協力体制構築を目的とした「消防団協力事業所」に、上中島町のSMC釜石工場(浦島勝樹工場長)を認定した(15日付)。市内13社目の認定。同工場では従業員約30人が同市消防団に加入。火災や自然災害時の出動のほか、自社消防訓練での消火栓運用などでも力を発揮している。本認定を機に新入団員募集への協力、消防機関と連携した地域防災力向上に貢献したいとしている。
 
 19日、野田武則市長、釜石消防署の駒林博之署長ら6人が同工場に出向き、協力事業所表示証の交付式が行われた。交付書と掲示用の表示証を浦島工場長に手渡した野田市長は「消防団員が安心して働き、災害時に迅速に行動できる体制の構築が必要。協力事業所の存在は非常にありがたい。今後も活動への協力を」と願った。
 
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野田武則市長がSMC浦島勝樹釜石工場長(右)に協力事業所の表示証を交付

 
 浦島工場長は「勤務中の出動要請への対応、団員募集ポスターの掲示、新入社員向け説明会などで消防団活動への協力ができれば。社内の消防訓練時には団員である従業員に先頭に立ってもらえると心強い。自社の防災意識も高めながら、地域貢献につなげていきたい」と今後を見据える。同社では大槌町、遠野市の団も合わせると約50人の従業員が団員として活躍しているという。
 
 釜石市の消防団員数は人口減に伴い、減少傾向が続く。近年は全体の約7割がサラリーマン団員で、地域防災力の維持には市内企業の理解と協力が不可欠。同市では団員の確保や活動環境の整備を目指し、2008年度から「消防団協力事業所表示制度」を導入。就業時間中の消防団活動への積極的な配慮、災害時の資器材提供などで協力する事業所を認定することで、新規入団の促進、地域連携による防災力強化につなげている。協力事業所は社屋への表示証の掲示、自社ホームページでの公表などにより、社会貢献企業としての認知を広めるメリットがある。
 
 同市がこれまでに認定した消防団協力事業所は次の通り。
菊池建設、山元、山長建設、新光建設、小澤組、及川工務店、東陸建設、山崎建設、小鯖船舶工業、八幡建設、坂本電気、釜石レミコン、SMC釜石工場
 
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「消防団協力事業所」表示証(右下)の交付を受け、市側と意見交換するSMC釜石工場幹部

 
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 同市の消防団員は本年1月1日現在で546人(正規469人、機能別77人)。駒林署長は「当市では団員の高齢化が顕著。若い世代の加入を増やしていかなければ、10年、20年後には一気に人数が減る。残る団員がほぼ40代以上となると非常に厳しい。ぜひ、多くの若者の入団をお願いしたい」と窮状を訴える。同市消防団員の20~30代の割合は2020年度時点で26・8%。市では25年度までに30%に持っていきたい考え。
 
 同市では引き続き、協力事業所の認定、団員募集の広報活動を行いながら、地域の消防防災体制の強化を図っていきたいとしている。なお、同市消防団の入団要件は18歳以上で、市内に居住または勤務する健康な人。団員には報酬、各種手当が支給される。