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本格着手!釜石市庁舎建て替え 工事の安全を祈願 機能集約、2026年春の利用開始へ

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神事でくわ入れし新庁舎建設工事の安全を祈願する小野共市長

 
 釜石市の新庁舎建設工事の安全祈願祭が25日、天神町の建設予定地で行われた。分散する機能を集約した一体型庁舎で、震災の教訓を生かした防災拠点、市民に開かれた利便性などの機能を持たせた庁舎に建て替える。2025年12月に完成する予定で、26年春の利用開始を目指す。
 
 只越町にある現庁舎は1950年代から建設・増築を繰り返しており、最も古い本庁舎は築70年。耐震性に欠け老朽化が進んでいたほか、教育や保健福祉などの部署が市内に分散(現在は8カ所)し不便が生じていた。
 
 そうした問題を解決するため、86年に新庁舎建設の検討を開始。財政面の問題や東日本大震災により停滞したが、復興まちづくり計画に新庁舎建設事業を盛り込み、建設場所を天神町の旧釜石小跡地として準備を進めてきた。基本設計完了後に国と県による巨大地震(日本海溝・千島海溝)による津波想定の公表が相次ぎ、建設計画の見直しが必要になった上、資材費の高騰により建築主体工事の優先交渉権を得たJV(共同企業体)が辞退したことで再入札となり、スケジュールの先送りが続いていた。
 
新しい庁舎の建設予定地とイメージ図(右下)

新しい庁舎の建設予定地とイメージ図(右下)

 
 新たな庁舎は現庁舎から北に約150メートル離れた市有地(面積約1万1800平方メートル)に建てる。鉄骨鉄筋コンクリート造り4階建て、延べ床面積は約8000平方メートル。津波に対応するため地盤を1~2メートルかさ上げするほか、1階は窓口業務を中心とするが、書類や機材の配置は最小限とする。津波や大雨などの災害時は一時避難場所として活用。周辺住民や来庁者ら3000人を1週間受け入れることを想定し、非常用電源や飲料水、生活用水を準備する。「みんなのホール」を設け、市民の交流拡大につながる場所としての機能も見込む。総事業費は約82億円。
 
新庁舎の外観イメージ図。2025年12月の完成予定

新庁舎の外観イメージ図。2025年12月の完成予定

 
安全祈願祭で工事の無事を願う市職員ら

安全祈願祭で工事の無事を願う市職員ら

 
 安全祈願祭には関係者ら約100人が出席。神事でくわ入れなどを行い、工事の安全を祈った。検討開始から約40年の時間を要し、ようやく本格的な建設工事に着手。小野共市長は「目に見える形で進むことは釜石にとって明るい希望につながる。滞りなく完成するよう願う」と述べた。

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「過去の津波に学び、今一度備えを」 釜石市郷土資料館が防災啓発の企画展

市郷土資料館企画展「津波・震災 過去に学ぶ、次への備え」

市郷土資料館企画展「津波・震災 過去に学ぶ、次への備え」

 
 明治、昭和の三陸地震津波、十勝沖地震津波、チリ地震津波、東日本大震災―など、幾度となく津波災害を経験してきた釜石市。被害の実態や教訓はさまざまな形で伝えられるものの、発災から時がたつことによる防災意識の低下は避けられないものがある。過去の津波災害の資料を所蔵する鈴子町の市郷土資料館(佐々木豊館長)では今、同市の津波の歴史を学び、日ごろの備えを見直してもらおうという企画展が開かれている。
 
 1933(昭和8)年3月3日に発生した昭和三陸地震津波、2011(平成23)年3月11日発生の東日本大震災。多くの死者、行方不明者が出た両災害の発生月に合わせ、同館では毎年この時期に津波に関する企画展を開催している。今年のテーマは「津波・震災 過去に学ぶ、次への備え」。新たに作成した説明パネルを含む131点の資料が公開される。
 
 三陸地方を襲った主な地震津波の年表は869(貞観11)年の津波にまでさかのぼって記載。マグニチュード6~9レベルの地震で津波が発生し、各地で人身、浸水被害があったことが記されている。1896(明治29)年の地震津波は三陸沖を震源とするものだが、最大震度は2~3。揺れは小さかったものの、死者・行方不明者は2万1000人以上に上った。2011年の東日本大震災は最大震度7。日本周辺における観測史上最大の地震で、死者・行方不明者は1万8000人を超えた。
 
 被害の大きかった5つの津波は、釜石市の被災状況を数字データや写真を交えたパネルで紹介。惨状は風俗画報(明治)や写真で残されており、それらも額入りで展示された。
 
館内の展示室では131点の津波関連資料が公開される

館内の展示室では131点の津波関連資料が公開される

 
明治、昭和の三陸地震津波、チリ地震津波、十勝沖地震津波は風俗画報や写真で惨状を紹介

明治、昭和の三陸地震津波、チリ地震津波、十勝沖地震津波は風俗画報や写真で惨状を紹介

 
 津波への備えを啓発するパネルは緊急避難場所を示す緑と白のマークを添え、「いち早く、より高い安全な場所へ避難する必要がある。日ごろから街を歩いてルートや所要時間などを確認しておこう」と呼び掛け。非常持ち出し品(避難する時に最初に持ち出すもの)や備蓄品(発災後、数日間を自活するために最低限必要なもの)の例も紹介している。備蓄用の食品や飲料水は消費、賞味期限切れを防ぐため、「ローリングストック」方式を勧める。
 
津波への備えを教える展示コーナー。非常持ち出し品や備蓄品のチェックにも役立ててもらう

津波への備えを教える展示コーナー。非常持ち出し品や備蓄品のチェックにも役立ててもらう

 
 この他、東日本大震災で被災した市の施設などから流出した遺物や関連書籍、新聞なども展示公開される。
 
世界各地で大規模自然災害が多発する時代―。いつ、どこで直面するかわからない天災から身を守るには日ごろの備えが最も重要となる。佐々木館長は「災害は“忘れたころ”ではなく“忘れぬうちに”やってくるようになった。三陸は津波の常襲地でもあり、特にも津波に対する心構えはしっかり持ってほしい。この企画展が見直しのきっかけになれば」と願う。企画展は5月6日まで開催する。
 
東日本大震災の写真やがれきの中から見つかった遺物なども展示。写真集や記録誌も閲覧できる

東日本大震災の写真やがれきの中から見つかった遺物なども展示。写真集や記録誌も閲覧できる

 
 また、館内では2022~23年にかけて発掘調査が行われた橋野町「太田林遺跡」の出土品などを公開する速報展も開かれている。調査は新消防屯所建設に伴う記録保存のために実施。縄文時代の竪穴住居跡や耳飾り、土器、石器などが見つかっている。展示は3月31日まで。
 
橋野町「太田林遺跡」発掘調査の成果を公開する速報展

橋野町「太田林遺跡」発掘調査の成果を公開する速報展

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楽器つくって遊んで、能登応援へ 水の音に元気込め 釜石から送る「水カンリンバ」

水の大切さを伝える創作楽器「水カンリンバ」を作る参加者

水の大切さを伝える創作楽器「水カンリンバ」を作る参加者

 
 水を育む森や自然を大切にしたいとの思いが込もった創作楽器「水カンリンバ」を作って音と遊ぶ催しが16日、釜石市鵜住居町・根浜海岸のレストハウスであった。親子連れら約20人が参加。“旅する音楽家”丸山祐一郎さん(通称マリオ)とこやまはるこさん(通称はるちゃん)=長野県飯山市=に作り方を教わった。完成した楽器のいくつかは、旅する2人が能登半島地震の被災地へ届ける計画。東日本大震災の被災地から元気、笑顔、思いをつなげる取り組みになる。
 
 水カンリンバは、マリオさんが30年前に考案した。空き缶4本を縦につないで真ん中の2本に水を入れた楽器。傾けると「コポコポ…」と、水が流れる音がする。外側の缶に切り込みを入れ鍵盤のようにし、指ではじいて演奏する。ブラジルの弦打楽器ビリンバウ奏者としても活動中で、そうした世界中の民族楽器とギターを抱えて旅しながらヒントをもらい、「一つの音に耳を澄ます」ことで生まれたという。
 
「水カンリンバ」の演奏を聴かせるマリオさん

「水カンリンバ」の演奏を聴かせるマリオさん

 
 楽器づくりは、水の採取から始めた。施設そばの山際にある水辺は震災発災時にも途切れることなく流れ、地域住民の命をつないだ場所。参加者はそこで空き缶に3分の1程度、水をくみ入れた。その釜石の水に、マリオさんたちが世界各地で集めてきた水をプラス。地元のわき水と持ち運んできた水を合わせ“共有”すると、「地球が浄化される」というハワイの言い伝えを習ったスタイルを取り入れる。
 
根浜海岸の山際にある水辺で空き缶に水をくみ入れる

根浜海岸の山際にある水辺で空き缶に水をくみ入れる

 
「合わせ水」はハワイ、フランス、南極…ワールドワイド

「合わせ水」はハワイ、フランス、南極…ワールドワイド

 
 缶をつないで好きな色の和紙で装飾すると完成となるが、鍵盤づくりなど参加した子どもたちには難しい作業もあり、2時間のものづくりタイムでは飾り付けはできなかった。それでも、演奏には挑戦。マリオさんとはるちゃんが奏でるギターやウクレレのリズムに合わせ、参加者は水平に持った水カリンバを揺らす。その時、「ポン、ポン」と鍵盤をはじきながら左右に揺すると、中の水が流れ、音が「ポワーン」と変化。不思議な音の世界に引き込まれていた。
 
はるちゃん(右)の説明をじっくり聞く参加者

はるちゃん(右)の説明をじっくり聞く参加者

 
子どもたちのものづくりをそばで見守るマリオさん

子どもたちのものづくりをそばで見守るマリオさん

 
 子どもたちは「チャプチャプしてた」「山登りした時に聞こえてきた水の音みたい」との感想。ものづくりに夢中になったのは大人たちで、北上市の鈴木雄二さん(69)は「楽しかった」とにこやかだった。震災ボランティアが縁で釜石に通い続けているといい、「被災地のみんなが頑張っているのを見て、逆に元気をもらっていた。今日もみんなと触れ合って、気分がほっこりした」。水カリンバは「心地よい音がした」と自信作に。能登に届けられると聞き、この日の気持ちが伝わることを期待した。
 
どんな音が聞こえる?水カンリンバを振って演奏してみた

どんな音が聞こえる?水カンリンバを振って演奏してみた

 
「釜石の元気、能登に届けー!」。エールを送る参加者たち

「釜石の元気、能登に届けー!」。エールを送る参加者たち

 
 マリオさんらは今月下旬に能登地域に入り、現地で活動する支援団体のメンバーとして音楽で癒やしの時間を届ける。手製の水カンリンバは全国から80本程度集まっていて、能登の子どもらに贈る考え。「水は人が生きるために必要で、それは傷ついた大地にとっても同じ。震災の時に命をつないだ釜石の水を能登に届け、人も大地も元気になってという思いをつなぎたい」と気持ちを込める。

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「3・11」は感情、記憶めぐる日…そして未来つなぐ、決意の日 震災13年・釜石

午後2時46分。釜石祈りのパークで大切な人を思い、黙とうする市民ら

午後2時46分。釜石祈りのパークで大切な人を思い、黙とうする市民ら

 
 釜石市内で912人の命を奪い、152人の行方不明者を出した東日本大震災は11日、発生から13年を迎えた。歳月が流れても大切な人への思いは変わらない―。多くの人がさまざまな場所で祈りをささげた。震災を知らない世代が増えていく一方、元日の能登半島地震など自然災害は頻発。釜石の記憶や教訓を世代、地域を超えて伝える重要性を胸に刻む日にもなった。
 
 市内全域の犠牲者1064人のうち、1003人の芳名が掲げられる鵜住居町の追悼施設「釜石祈りのパーク」では朝から、祈りが続いた。両親を亡くした町内の柏﨑公雄さん(67)は妻幸子さん(66)と訪れ、「いつまでも忘れないよ」と手を合わせた。「未来」と名付けた愛娘は新たな命を生み育てていて、「素晴らしい未来をつなげてほしい」と願う。進学のため町を離れる山﨑成美さん(18)は、世話になった人たちに報告。「震災を風化させたくない。これから先の災害で犠牲になってほしくない。そのための対策を学んで地域の防災・減災に関わっていく」と決めた。
 
祈りのパークで、犠牲になった人たちに花を手向ける親子

祈りのパークで、犠牲になった人たちに花を手向ける親子

 
 市の追悼式は、今回初めて祈りのパークを会場に行われ、約150人が訪れた。午後2時46分の地震発生時刻に黙とう。式辞で、小野共市長は「この場に立ち、正面の津波高を示すモニュメントを目の当たりにすると断腸の思い」とした上で、「大きな犠牲による教訓を、決して風化させないという決意を新たにする日でもある。二度とあの悲劇を繰り返さないため事実と教訓を語り継ぎ、安心して暮らせるまちづくりに取り組む」と誓った。
 
釜石市の追悼式は祈りのパークで行われ、多くの人が犠牲者をしのんだ

釜石市の追悼式は祈りのパークで行われ、多くの人が犠牲者をしのんだ

 
 災害を語り継ぐ、伝承に震災の経験は関係なく、未来を願う思いが防災、減災につながる―。遺族代表で追悼の言葉を述べた佐々木智之さん(41)は、津波で亡くした母妙子さん(当時60歳)、今も見つかっていない姉仁美さん(当時33歳)を思いながら、未来へメッセージを送った。この13年の間に各地で災害が発生し、伝承の重要性を感じる中、長女智桜さん(10)が備えの大切さを伝える語り部活動を始めた。同じように震災の経験がない若い伝承者が徐々に増える今、SNSなどで批判されるのを懸念。だからこそ、当事者として訴える。「みんなの思いは災害で犠牲者を出さないことだ。大震災の教訓を生かし、悲しい思いを背負う人がなくなり、明るい未来があるよう、防災意識が高まるよう、語り継ぐ人たちの活躍を願う」
 
追悼の言葉を送った佐々木智之さんにとって、3月11日は「いろんな感情が巡る日」。この日は智桜さんが生まれた日でもあるから。大役を終え、父親の顔に戻って笑顔。「ケーキが家に届いていて、このあとは全力で祝います」

追悼の言葉を送った佐々木智之さんにとって、3月11日は「いろんな感情が巡る日」。この日は智桜さんが生まれた日でもあるから。大役を終え、父親の顔に戻って笑顔。「ケーキが家に届いていて、このあとは全力で祝います」

 
続く祈り。刻まれた名にじっと手をあて、思いを伝える姿もあった

続く祈り。刻まれた名にじっと手をあて、思いを伝える姿もあった

 
 式の後も遺族や縁故者らが次々に訪れ、献花して手を合わせた。両親、義姉を亡くした片岸町の小笠原亜弥子さん(44)は、下校中の長女明香里さん(11)、長男輝琉君(9)と立ち寄り、「健やかに育っているから安心して」と伝えた。「母さんが会いに来たよ…元気で、また来年な」。家族思いだった息子の名に触れ、高齢の母親はぎゅっと目をつぶった。
 

祈りの一日 各所でささげる犠牲者への思い 鎮魂、誓い… 心寄せる人々

 
日蓮宗の青年僧らが題目を唱えながら釜石市内を歩き、震災犠牲者を慰霊した=11日午前

日蓮宗の青年僧らが題目を唱えながら釜石市内を歩き、震災犠牲者を慰霊した=11日午前

 
 県内外の日蓮宗寺院の青年僧は釜石市内を行脚。うちわ太鼓を鳴らしながら、題目「南無妙法蓮華経」を唱えて歩き、震災犠牲者の魂を慰めた。同宗派が2015年から沿岸被災地で行っている慰霊法要の一環。関西や北東北の20~40代の僧侶18人が、魚河岸テラスから礼ヶ口町の日高寺まで約5キロを歩いた。岩手県日蓮宗青年会代表の三浦恵導さん(37)=龍王寺(山田町)住職=は「物質的な復興は進んだが、心のケアは十分ではない。私たち僧侶ができることは犠牲者の慰霊と被災地に暮らす方々の安心(あんじん)を達成すること。寄り添っていかねば」と意を強くした。
 
殉職した消防団員の名が刻まれた顕彰碑には白菊が手向けられた

殉職した消防団員の名が刻まれた顕彰碑には白菊が手向けられた

 
 鈴子広場(鈴子町)にある「殉職消防団員顕彰碑」には、震災で職務遂行中に命を落とした仲間8人の名前が刻まれている。献花式で、坂本晃団長(69)は「もう二度と誰の名も刻むことがないように。それが願いだ。団員の安全を確保した上で、住民の命や生活を守るため、日々の訓練を重ねていく」と力を込めた。
 
忘れない…竹灯籠でかたどった文字が浮かび上がる青葉通り

忘れない…竹灯籠でかたどった文字が浮かび上がる青葉通り

 
 大町の青葉通りの一角に浮かび上がる「忘れない」の文字。かたどった約1200個の竹灯籠に明かりがともり、追悼の光が揺らめいた。釜石仏教会(大萱生修明会長、17カ寺)による竹灯籠供養。市東部地区の住民らの思いをくみ、これまで行ってきた祈りのパークから会場を移した。同会の芝﨑恵応・仙寿院住職は「亡くなった人をしのび、教訓を伝えなければ、意味がないんです」と言葉を残した。
 
「天に届け―」思いを込めた風船を大空に放つ根浜地区の住民ら=11日午後2時46分

「天に届け―」思いを込めた風船を大空に放つ根浜地区の住民ら=11日午後2時46分

 
 13年前、震災の津波が低地の集落を襲い、住民15人が犠牲になった鵜住居町根浜地区。地震発生時刻の午後2時46分―。海抜20メートルの高さに宅地造成された復興団地の津波記念碑前では、集まった住民が海に向かって黙とう。故人や未来へのメッセージを記した風船を空に放った。
 
 「会いたい―」。津波で大槌町役場職員だった次女(当時32)を亡くした前川良子さん(71)。「日々、『生きていたら…』と思う時はある」と娘の笑顔を思い浮かべる。夫と営む民宿を2013年に自力再建。海の仕事もしながら、この地で生きることを選んだ。地区住民とは家族ぐるみの付き合い。「みんなの顔を見るとほっとする」と地域の支えに感謝する。能登半島地震の被災者にも心を寄せ、その痛み、悲しみを自分事として受け止める。「(希望の)明日はある。自分を見失わず生活していってほしい」と願った。
 
11日の根浜海岸は穏やかな風景が広がった。津波で亡くなった人たちを思い、多くの人が足を運び、祈りをささげた

11日の根浜海岸は穏やかな風景が広がった。津波で亡くなった人たちを思い、多くの人が足を運び、祈りをささげた

 
 今も多くの行方不明者が眠る三陸の海―。人々の祈りをたたえた海はこの日、穏やかな波が寄せては返していた。
 
 暗くなった根浜海岸の海上には、今年も「3・11」の舟形あんどんが浮かべられた。鎮魂と未来への希望を明かりに込める「とうほくのこよみのよぶね」。アーティストの日比野克彦さんが12年から出身地岐阜市の仲間と訪れ、釜石市民と製作している。午後7時には鎮魂の花火「白菊」が打ち上げられた。地元実行委が20年から継続。支援の減少で本年休止も検討されたが、能登半島地震発生を受け、クラウドファンディングでの打ち上げを目指した。趣旨に賛同し130人が支援を寄せた。
 
鎮魂の花火「白菊」と「とうほくのこよみのよぶね」(写真左)。白菊を手がける「嘉瀬煙火工業」の好意で他の花火も打ち上げられた(同右)

鎮魂の花火「白菊」と「とうほくのこよみのよぶね」(写真左)。白菊を手がける「嘉瀬煙火工業」の好意で他の花火も打ち上げられた(同右)

 
 ボランティア活動で6年前から同市を訪れている紫波町の女性(56)は震災時、テレビの生中継で津波の襲来を目にした。「何もできない無力感でいっぱいだった」。震災を機に命について考え続ける。大事な人を失った悲しみは計り知れないが、「生かされた命を大事に、少しでも楽しく生きられる人生であってほしい」と夜空を見上げた。

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3.11にささぐ― 釜石SW今季初勝利 九州に28-11 被災跡地ホームうのスタで3947人大声援

大観衆の中、行われた釜石SW(赤)対九州KV(青)の試合=10日、釜石鵜住居復興スタジアム

大観衆の中、行われた釜石SW(赤)対九州KV(青)の試合=10日、釜石鵜住居復興スタジアム

 
 NTTジャパンラグビーリーグワン2部の日本製鉄釜石シーウェイブス(SW)は10日、釜石市の釜石鵜住居復興スタジアムで九州電力キューデンヴォルテクスと対戦。28-11(前半13-8)で今季初の勝利をもぎとった。翌日は東日本大震災から13年となる日―。被災した小・中学校跡地に建てられたスタジアムで、チームは常に「自分たちがここで戦う意義」を意識し続けてきた。選手たちの思いが体現された特別な勝利に大勢の釜石ファンが沸いた。次の試合は17日。3日に雪の影響で中止された、第7節対NECグリーンロケッツ東葛戦が同スタジアムで行われる。
 
 日本製鉄がマッチスポンサーとなったこの日の試合は全席無料招待。同スタジアムでの釜石戦最多の3947人が来場し、両チームに声援を送った。前半は九州が先制。釜石は22分、SO落和史がPGを決め波に乗ると、ゲームキャプテンのナンバー8サム・ヘンウッドが26、32分と立て続けにトライ。素早いパス、クイックスローなどの的確な判断で、しっかりと得点に結びつけた。13-8、釜石5点リードで前半を折り返した。
 
3947人が来場。大漁旗や来場者にプレゼントされた赤いミニフラッグが揺れる。試合前には震災犠牲者に黙とうがささげられた(写真右下)

3947人が来場。大漁旗や来場者にプレゼントされた赤いミニフラッグが揺れる。試合前には震災犠牲者に黙とうがささげられた(写真右下)

 
前半26分、ナンバー8サム・ヘンウッドが右サイドを抜け初トライ。仲間の祝福を受ける

前半26分、ナンバー8サム・ヘンウッドが右サイドを抜け初トライ。仲間の祝福を受ける

 
前半32分、ヘンウッドがこの日2本目のトライ。客席に大歓声が響く。クイックスローでパスを出したWTBヘンリージェイミーも喜びの笑顔(写真下段右)

前半32分、ヘンウッドがこの日2本目のトライ。客席に大歓声が響く。クイックスローでパスを出したWTBヘンリージェイミーも喜びの笑顔(写真下段右)

 
 後半も相手にプレッシャーを与えながら果敢に攻め込む釜石は開始3分、ゴール前でショートサイドへのパスを受けたFB中村良真が体を翻してトライ。18-8とリードを広げた。38分には敵陣10メートルライン付近から抜け出した中村が大外のWTBヘンリージェイミーにつなぎ、そのまま独走トライ。後半は相手にトライを許さず、28-11で勝ち切った。釜石のホームでの勝利は、前々季2022年5月の2部残留を決めた日野レッドドルフィンズ戦以来。
 
FW陣は押し負けないスクラムで相手にプレッシャーを与えた

FW陣は押し負けないスクラムで相手にプレッシャーを与えた

 
うのスタ特有の風に悩まされながらも3本のゴールを決めたSO落和史(写真左)。体を張って前へ前へ進む釜石の選手ら(同右)

うのスタ特有の風に悩まされながらも3本のゴールを決めたSO落和史(写真左)。体を張って前へ前へ進む釜石の選手ら(同右)

 
後半38分、FB中村良真(写真左下枠内)のロングパスを受けたヘンリージェイミー(右)が試合を決めるトライに持ち込んだ

後半38分、FB中村良真(写真左下枠内)のロングパスを受けたヘンリージェイミー(右)が試合を決めるトライに持ち込んだ

 
 試合後、釜石の須田康夫ヘッドコーチ(HC)は「やってきたことをパーフェクトに近い内容で遂行できた。自分たちの強みを一番出せる形、得意な分野を自信を持ってやるという仕組みが機能した」と勝因を説明。トレーニングでこだわってきたのはブレイクダウンでの圧力。「強いプレーを常に選択し、前に出続けて勝負サイドを攻略する」。仕切り直しとなる次のGR東葛戦も「自分たちの力が試されるゲームになる」と気を引き締めた。
 
 ゲームキャプテンのサム・ヘンウッド選手は「今まで見た中で最高のパフォーマンスだった。チームをすごく誇りに思う」と胸を張った。釜石でプレーして4年目。毎年、同震災について学ぶ中で「聞けば聞くほど釜石という地域に親近感を持ち、(3月11日が)どれだけ大事な日かが分かる。受け取った思いがパフォーマンスにもつながっている」と話した。
 
今季初勝利に顔をほころばせる釜石の選手ら

今季初勝利に顔をほころばせる釜石の選手ら

 
勝利した選手をたたえるバックスタンド席の観客

勝利した選手をたたえるバックスタンド席の観客

 
試合後、客席に手を振り、応援への感謝の気持ちを表す選手ら

試合後、客席に手を振り、応援への感謝の気持ちを表す選手ら

 
 釜石SWは10日の試合を終え、1勝6敗勝ち点6で最下位。レギュラーシーズンは残り3試合。10日の震災復興祈念試合で見せた勝利への執念を次につなぎ、「最後まであきらめない釜石ラグビー」を見せてくれることを多くのファンが待ち望む。
 

10日のうのスタ 各種企画で大にぎわい 新日鉄釜石V7戦士らのトークイベントも

 
新日鉄釜石ラグビー部V7戦士トークイベント=10日

新日鉄釜石ラグビー部V7戦士トークイベント=10日

 
 釜石SW対九州KV戦の会場となった釜石鵜住居復興スタジアムは、九州を含め全国各地から集まったラグビーファンでごった返した。キッチンカーなどで出店した市内外の業者によるフードコーナー、大型エア遊具やボール遊びを楽しめるキッズ広場がグラウンド周辺に開設された。1月1日に発生した能登半島地震の被災地応援コーナーも。越中の特産品などを釜石SWの選手らが販売した。
 
能登半島地震の被災地復興を応援するための物販ブース。釜石市の友好都市・富山県朝日町の協力で行われた

能登半島地震の被災地復興を応援するための物販ブース。釜石市の友好都市・富山県朝日町の協力で行われた

 
 来場者が楽しみにしていたのは、約40年前に日本選手権で7連覇を果たした新日鉄釜石ラグビー部OBによるトークイベント。森重隆さん(72)=1974~82年・CTB、和田透さん(74)=68~82年・HO、石山次郎さん(66)=76~89年・PR、金野年明さん(66)=75~87年・CTB、千田美智仁さん(65)=77~92年・LO,FL,No8が招かれた(=在籍期間・ポジション)。
 
新日鉄釜石ラグビー部OBの(左から)森重隆さん、金野年明さん、千田美智仁さん、和田透さん、石山次郎さん 

新日鉄釜石ラグビー部OBの(左から)森重隆さん、金野年明さん、千田美智仁さん、和田透さん、石山次郎さん

 
 
 当時のスクラムの強さについて石山さんは洞口孝治さん(PR)、瀬川清さん(LO)らの名前も挙げ、「力関係や方向性がかみ合って形に表れた」と説明。和田さんはFW陣が強い当たりを身に付けるため、相撲部に練習に行っていたことを明かし、「スクラムで勝てないとラグビーは勝てないという精神でやっていた。練習はかなりハードだった」と振り返った。体幹の強さに定評があった千田さんはその要因を問われると、「家業の農業で足腰が鍛えられたのかも」と推測。部ではベンチプレスなどのトレーニング器具を自分たちで作っていたという。
 
和田さん(中央)ら当時のFW陣は釜石のスクラムの強さについて話した

和田さん(中央)ら当時のFW陣は釜石のスクラムの強さについて話した

 
 正確無比のプレースキッカーとして注目された金野さんは「私の場合は間合いだけ。余計なことは一切考えず、無心で蹴るのが一番」と自身の経験を語った。森さんは当時の釜石の強さの秘密を「日本一になろうという気持ちが常にあった。『去年よりも練習しないと勝てない』と努力する姿勢。コミュニケーションがすごくとれていたのも大きい」と分析した。
 
ユーモアを交え、試合のキック秘話を語る金野さん(左から2人目) 

ユーモアを交え、試合のキック秘話を語る金野さん(左から2人目) 

 
 2019年から日本ラグビー協会会長を務め、現在は名誉会長の森さんは「野球の大谷翔平選手のような、みんなが憧れる選手が出てくれるといい」と期待。19年のラグビーワールドカップ(W杯)釜石開催誘致に尽力した石山さんは「このスタジアムがもっとラグビーでにぎわってほしい。ラグビーを通じて人の輪(和)がつながっていけば」と思いを寄せた。
 
 宮古市の山根正敬さん(66)は5人の紹介パネルに掲載された選手時代の顔写真に「当時の活躍が思い浮かぶ。今日は練習風景の裏話も聞けた。皆さんのメッセージも良かった」と大感激。釜石SWにも「1部進出を果たしてほしい」とエールを込めた。
 
往年の名選手に熱い視線を向けるトークイベントの観客

往年の名選手に熱い視線を向けるトークイベントの観客

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釜石SW第7節 雪の影響で中止の試合を17日に/3日はSMCブース、釜石高震災語り部が地元発信に力

釜石SW対GR東葛の試合開催に向け行われた雪かき作業=3日、釜石鵜住居復興スタジアム

釜石SW対GR東葛の試合開催に向け行われた雪かき作業=3日、釜石鵜住居復興スタジアム

 
 NTTジャパンラグビーリーグワン2部の日本製鉄釜石シーウェイブス(SW)は3日、釜石鵜住居復興スタジアムで第7節NECグリーンロケッツ東葛との対戦が予定されていたが、降雪の影響によるグラウンドコンディション不良のため中止となった。この日の試合は、SWのチームスポンサーで釜石市に工場があるSMC(髙田芳樹代表取締役社長、本社:東京都千代田区)のプレゼンツマッチ。試合はできなかったが、会場内に設けられた同社の出展ブースは大勢の来場者でにぎわった。SWホーム戦で継続される釜石高生の震災語り部活動もあった。チームは地元ゲームを支える全ての人々への感謝を胸に10日、同スタジアムで東日本大震災復興祈念試合(対九州電力キューデンヴォルテクス)に挑む。3日に中止された試合は17日に行われることが決まった(7日発表)。
 
 釜石SWのホームの同スタジアムは1日朝までに降り積もった雪が解けず、試合前日の2日は選手、スタッフらが夕方まで雪かき。当日は、前日夕方のSNSでの協力呼びかけに応えた一般ボランティアや相手チーム関係者らが加わり、早朝から雪かき作業に追われた。キックオフの時間を1時間遅らせ開催への準備を進めたが、午前11時時点の判断で安全が確保できないとして、試合中止が発表された。
 
両チームの選手、スタッフ、ボランティアらが雪かきに協力

両チームの選手、スタッフ、ボランティアらが雪かきに協力

 
試合開催を願い、懸命に除雪作業にあたる釜石SWの選手ら

試合開催を願い、懸命に除雪作業にあたる釜石SWの選手ら

 
100人以上の協力で芝生が見える状態にまでなったが…

100人以上の協力で芝生が見える状態にまでなったが…

 
 今季ホーム2戦目。連敗中のSWは地元での勝利を目指し練習を積んできただけに残念な結果となったが、選手らはグラウンド周辺のフードコーナーに出向き来場者と交流。新たに作成された選手個人のプロフィールなどが書かれたカード(数量限定)を自ら配り、記念撮影などでファンとの絆を深めた。
 
試合中止発表後、来場者と交流を深める釜石SWの選手ら。SWのマスコット「フライキー」も活躍(写真右下)

試合中止発表後、来場者と交流を深める釜石SWの選手ら。SWのマスコット「フライキー」も活躍(写真右下)

 
会場では選手との記念撮影も行われた

会場では選手との記念撮影も行われた

 
 SO中村良真選手は100人以上のボランティアが雪かきに協力してくれたことに「ありがたい。本当にいろいろな人に支えられているのを再認識した」と感謝の言葉。「最善の準備をしてきたので、それを発揮できなかったもどかしさはあるが、支えてくれる皆さんの気持ち、今日できなかった分の思いをしっかり背負って次戦に臨みたい」と1週間後を見据えた。チームを率いるWTB小野航大主将も「結果的に試合はできなかったが、地元の皆さんをはじめ多くの人たちのラグビーに対する熱い思いを感じる機会になった。今季はまだ勝てていないが、悪いことばかりではない。ポジティブな部分をつなぎ、次は応援してくれる皆さんに恩返しできるようにしっかり勝利する姿を見せたい」と誓った。
 
両チームの選手が並ぶと多くのファンがカメラを向けた

両チームの選手が並ぶと多くのファンがカメラを向けた

 
マッチスポンサー「SMC」の社員らも加わり記念撮影

マッチスポンサー「SMC」の社員らも加わり記念撮影

 
 ひな祭りでもあるこの日は、試合後の「ラグビーのまち釜石教室」で女性向けの体験コーナーも企画され、県内唯一の高校女子チームである花巻東高女子ラグビー部が、試合や体験教室のサポートをする予定だった。後藤渚菜主将は「やっぱり試合は見たかったですが…(仕方ない)。(地元岩手の)SWの活躍は自分たちの励みにもなっているので頑張ってほしい」とエールを送った。
 

空気圧制御機器 世界首位「SMC」が初のマッチスポンサーに うのスタ出展のブース大にぎわい

 
会社の業務や製品が紹介された「SMC」のブース

会社の業務や製品が紹介された「SMC」のブース

 
 3日の試合は、釜石SWのチームスポンサーでもあるSMCがマッチスポンサーとなった。会場内には大型の仮設ハウスが設置され、同社と遠野市のサプライヤー4社が出展。普段、一般の人は見られない業務内容を写真パネルや動画、製品などで紹介した。
 
 SMCは空気圧制御機器製造では世界首位の実績を誇り、国内6カ所の生産拠点のほか海外にも工場を持つ。本県には釜石、遠野両市に工場があり、外国人を含む約2500人が就労。釜石市では5工場が稼働する。
 
 空気圧制御機器は工場の生産ラインなどの自動化に欠かせないもので、あらゆる産業で使われるが、一般の人が目にする機会はほとんどない。今回の出展では同社の使用機材や製品を応用した体験型ブースも展開。子どもから大人まで幅広い年代が、楽しみながらその技術に触れた。
 
空気の力でペットボトルカーを走らせピンを倒すボーリングゲーム

空気の力でペットボトルカーを走らせピンを倒すボーリングゲーム

 
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真空パットを操作しボールやチョコレートをゲット!

 
SMCとサプライヤー4社のブースは終始、大勢の来場者でにぎわった

SMCとサプライヤー4社のブースは終始、大勢の来場者でにぎわった

 
 新年度、同社に入社予定の大槌高3年の生徒2人は「仕事内容を見て4月から頑張ろうという気持ちが高まった。具体的な説明が聞けたので来て良かった」と目を輝かせた。陸前高田市の平野真綾さん(28)は「日本を支えていただいてありがたい。母も働いているので、どんな仕事なのか分かって感慨深い」と喜んだ。
 
 浦島勝樹釜石工場長は「皆さん、興味を持って見てくださった。これを機に弊社の製品、会社自体の認知度も高まれば」と期待。メインの試合はできなかったが、「少しでも地域貢献につながったならうれしい」と話した。
 

釜石高「夢団」は祈念碑前で震災伝承活動 新たに4人が語り部デビュー

 
釜石高「夢団」のメンバーによる東日本大震災の伝承活動

釜石高「夢団」のメンバーによる東日本大震災の伝承活動

 
 釜石高の生徒有志による防災・震災伝承グループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」(60人)は3日、釜石SWのホーム戦に合わせ、同スタジアムで東日本大震災の経験や教訓を伝える語り部活動を行った。1~3年生9人が活動。生徒たちの呼び掛けに応え、来場者73人が話を聞いた。
 
 スタジアム内に建立されている震災犠牲者の鎮魂、教訓伝承のための祈念碑前で1、2年生の語り部5人が話をした。うち4人はこの日が語り部デビュー。生徒らは2月に経験者から話を聞く研修などを行い、それぞれに語り伝えたい内容をまとめて当日を迎えた。時折、雪が吹き付ける中、生徒らは自分の言葉で「命を守る大切さ」などを伝えた。
 
避難時に利用する「オリジナル安否札」も配布しながら「語り部活動」をPR

避難時に利用する「オリジナル安否札」も配布しながら「語り部活動」をPR

 
スタジアム内に建てられた祈念碑の前で震災の経験や教訓を伝えた

スタジアム内に建てられた祈念碑の前で震災の経験や教訓を伝えた

 
 震災時3歳だった政屋璃緒さん(1年)は宮古市のショッピングモールにいた時に地震に見舞われた。大きな揺れの感覚や周囲のざわつきを覚えているという。伝承活動では「いつどこで被害に遭うか分からない。常に(防災)意識を持っていてほしい」と訴える。宮古からの通学で最初に感じたのは「津波の時、どこに逃げればいいか分からなかった」こと。「普段から初めての場所に行く時は近くの高い所を探しておくといい。いざという時、心の余裕につながると思う」と話した。
 
 双子の妹とともに語り部デビューとなった佐々有寿さん(2年)は祖父の家が津波で流された。がれきの中、祖父宅に置いていたぬいぐるみを探した記憶があるという。自身の唯一の記憶と祈念碑に刻まれた「あなたも逃げて」という言葉を使い、自分の思いを伝えた佐々さん。「命を守る最善の方法は逃げること」と言葉に力を込める。この日は「お客さんの反応が見え、ちゃんと思いが伝わっているのを感じた」。
 
立ち寄った来場者(右側)は生徒らの話に熱心に耳を傾けた

立ち寄った来場者(右側)は生徒らの話に熱心に耳を傾けた

 
 同震災から11日で13年-。夢団の語り部活動はSWの次戦10日にも同スタジアムで行われる予定。生徒たちの思いを現地でじかに聞いてみては?

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ピアノで全国へ 釜石・吉田真唯さん(甲子中) 初切符に「悔い残さず楽しむ」

ピアノ・オーディション全国大会に挑む吉田真唯さん

ピアノ・オーディション全国大会に挑む吉田真唯さん

 
 今月下旬に東京で開かれる「第40回JPTAピアノ・オーディション」(日本ピアノ教育連盟主催)の全国大会に、釜石市から吉田真唯(まい)さん(甲子中3年)が出場する。「ピアノは中学校まで」と考えていたところ、思いがけず手にした全国への切符。「周りのレベルに負けないよう、楽しみながら演奏したい」と練習を重ねている。
 
 同オーディションは、子どもの豊かな音楽性を培うことなどを目的に開かれている。吉田さんは昨年11月に仙台市であった東北地区大会の中学生部門(約30人出場)に挑み、ハイドンの「ソナタ 変ホ長調 Hob.XVI-28 第1楽章」で優秀賞を受けた。同賞の9人が全国大会へ進み、岩手県からは吉田さんを含め2人が参加するという。
 
 吉田さんがピアノを習い始めたのは3歳の頃。市内でピアノ教室を主宰する髙橋伊緒さんに師事する。「手が小さいのがハンデ」と思っていたこともあり、中学生で区切りをつけるため「悔いが残らないように」と練習に励み、自信を持って地区大会に臨んだ。
 
 「実はハプニングが…」と吉田さん。審査結果はエントリー番号を発表する形だったが、呼ばれず落ち込んで帰路についた。すると、髙橋さんから「おめでとう」と祝いの言葉が届き、びっくり。主催者のホームページ上には吉田さんの番号があり、問い合わせてみると、会場では手違いがあって「本当は全国行きを手にしていた」と確認できた。
 
全国大会への出場を決め、練習を重ねる吉田さん

全国大会への出場を決め、練習を重ねる吉田さん

 
 全国大会への出場は今回が初めてで、素直にうれしさをにじませる。より高いレベルへの挑戦となり、緊張感も上昇。そんな中でも、「楽しみながら自分らしい演奏を」と鍵盤に向かう。学校の応援もあり、放課後に2時間ほど音楽室のグランドピアノを触り、さらに自宅のアップライトピアノで音出し。週末など休みにはグランドピアノが設置された市内や隣町の公共施設を借り、音が響く環境で指を動かす。
 
 合間を縫って、1日は釜石市役所を訪れ、小野共市長に意気込みを伝えた。同行した父の智さん(55)は「釜石からピアノで全国へいくのは久々と聞く。同じように頑張る子どもたちの励みになれば」と期待を込め、練習や事前準備、体調管理に気を配りつつサポートしていると説明。小野市長は「まず自分をほめてほしい。本番を楽しんで、いい思い出、経験を積んできて」と激励した。
 
小野共市長(手前)に抱負を伝えた吉田さん

小野共市長(手前)に抱負を伝えた吉田さん

 
 2日は市民ホールTETTOのピアノ練習室で鍵盤をはじいた。本番で奏でるのはリストの「3つの演奏会用練習曲第3番ため息」。吉田さんによると、「水が流れるようなきれいな曲だけど、タッチが早い。高い音から低い音を駆け上がって下りてくるような感じで難しい。手が小さいから、指を目いっぱい広げても大変」という。それでも、挑戦できる喜びが上回り、「会場にいる人が居心地よく聴けるよう演奏したい」と心を弾ませる。
 
TETTOピアノ練習室で笑顔を見せる吉田さん

TETTOピアノ練習室で笑顔を見せる吉田さん

 
愛娘の頑張りを智さんが優しく見守っている

愛娘の頑張りを智さんが優しく見守っている

 
 本番は26日。そばで見守る智さんは「今までで一番練習している。全国では肩の力を抜いて自信を持ってやってほしい」と、晴れの舞台に挑む娘にエールを送る。

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新たな魅力発信!釜石商工高 資格取得で快挙 「ジュニアマイスター」特別表彰3人

ジュニアマイスターに認定された釜石商工高電気電子科の3年生

ジュニアマイスターに認定された釜石商工高電気電子科の3年生

 
 釜石商工高(今野晋校長、生徒175人)の電気電子科3年生8人が、資格取得などを点数化して顕彰する「ジュニアマイスター」に認定され、そのうち3人が高度な資格取得で高得点を獲得し「特別表彰者」に輝いた。特別表彰者の誕生は同科では初めてで、生徒や教員らは喜びをかみ締めている。互いに励まし合って技術を磨いてきた3人は4月から、行政機関や電力会社などで社会インフラを支える技術者として働き始める。
 
 顕彰制度は全国工業高校長協会(東京)が実施。全国の工業系高校の生徒を対象に、在学中の活躍や身に付けた知識、技術、技能を評価する。取得資格や検定、競技会などの成績、難易度に応じた得点が加算され、上からゴールド(45点以上)、シルバー(44~30点)、ブロンズ(29~20点)の3種類があるほか、高難易度の資格を持ち、合計点数が60点以上の場合に特別表彰が贈られる。
 
 特別表彰を受けたのは、小野寺雄磨さん(72点、11資格)、久保琉唯さん(72点、10資格)、佐藤輝河さん(64点、8資格)。同科では資格取得に力を入れており、3人は難易度が高い電気工事士(1種)、電気工事施工監理技術検定(2級技師補)、電子機器組立て技能士(3級)などを取得した。
 
特別表彰を受けた(左から)佐藤輝河さん、小野寺雄磨さん、久保琉唯さん

特別表彰を受けた(左から)佐藤輝河さん、小野寺雄磨さん、久保琉唯さん

 
 小野寺さんは「持っておいて損はない」と1年時から積極的に資格取得に挑戦。「勉強は大変だった」が、指導する教員らが高度な技術、知識を教え、「背中を押し続けてくれたから」と感謝する。「応援の恩返しを」と選んだ道は岩手県職員。技術職(電気)での採用で、「電気の安全安心を守れるよう、日々の仕事を頑張る」と背筋を伸ばす。
 
 久保さんは、原子力発電の危険性や仕組みが気になり独自に調べているうちに電気に興味を持ち、同科に入学。資格をとるための勉強は苦にならなかった。ただ、実技が得意ではなく、図面通りの回路づくりなどは「かなり頑張って練習した」という。ものづくりにも関心があり、日本製鉄北日本製鉄所釜石地区への就職を決めた。
 
 佐藤さんも「不器用」だといい、細かな作業が多い実技では失敗することも。そんな時、励まし合える仲間の存在が力になり、「達成感がすごい」学校生活につながった。就職先は学びや資格を生かせると東北電力ネットワークを選択。「安定した送電で住民生活を支える」のを目標に、さらに資格取得にも励みたいと先を見据えた。
  
 学校統合により2009年に発足した同校は少子化で定員割れが続き、同科もその影響を受ける。普段の学びの成果を把握したり、就職活動に役立ててもらおうと、資格取得に力を入れ始めたのは2017年度から。2年後にジュニアマイスターの称号を得る生徒が生まれ、その後も在籍数は伸び悩んでいるが、資格取得率は上がっている。今年度、3年生は13人。初の快挙となった特別表彰獲得(3人も)のほか、ゴールドとシルバーが各2人、ブロンズに1人が認定された。1年ごとに認定の機会があり、13人全員が一度は何らかの称号を獲得している。
 
3年間学業に励んだ生徒と見守った小野寺一也教諭(後列右)

3年間学業に励んだ生徒と見守った小野寺一也教諭(後列右)

 
 生徒たちの努力が実ったことを喜ぶのは、同科長の小野寺一也教諭(55)。分野の異なる試験が同時期に重なり、並行して勉強する生徒もいた中で、「信じられないくらい頑張った。期待以上」と目を細める。「国家資格は一生もの。持つことで、できる仕事の幅も広がる」とした上で、卒業する13人に「これからも資格を取り続けるだろう。高い目標を持ち、勉強する癖を身に付けてほしい」とエール。残る下級生には「快挙」ではなく「継続」を望んでハッパをかける。指導教員や学校関係者は「釜石商工の新たな魅力になる。一人でも多くの中学生に興味を持ってもらえたら」と期待する。

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バリアフリーな環境で心豊かな体験を 子どもたちが旬の魚マダラをさばいて食す 生態にも興味津々

インクルーシブおさかな体験教室=根浜海岸レストハウス

インクルーシブおさかな体験教室=根浜海岸レストハウス

 
 障害の有無や性別、人種などに関係なく、互いを認め合い共生していく「インクルーシブ」社会。その理念を基にした各種取り組みが釜石市でも行われている。2月25日、鵜住居町の根浜海岸レストハウスでは「インクルーシブおさかな体験教室」が開かれた。バリアフリーでつくる釜石自然遊びの会(佐々木江利代表)が主催。市内外から13家族37人が参加し、旬のマダラをさばいて調理。食事も楽しんだ。
 
 講師は同市地域おこし協力隊員で、魚食普及活動を行っている清原拓磨さん(26)。この日は地元の定置網で漁獲された体長60~80センチのマダラ3匹が用意された。はじめに生態を説明。水深約200メートルの深海に住み、口元のひげでにおいなどを感知して餌を探すこと、雄は白子に価値があり、雌の倍の値段で取引されることなどを教えた。子どもたちは体を触ったりしながら観察。疑問に思ったことを次々に質問した。
 
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体のまだら模様が特徴の魚「マダラ」。触ってみると?

 
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マダラの生態について教える清原拓磨さん(左)

 
 観察後はさばき方。子どもたちが最初に体験したのはうろこ取り。専用の道具や金たわしを使って、きれいにうろこを取り除いた後、清原さんが腹を切り開き、身と内臓を分けた。子どもたちは初めて見る腹の中に興味津々。驚きの声を上げながら見入った。切り分けた身から細かい骨を取り除く作業も体験した。切り身はタラフライに。衣をつける調理にも挑戦した。
 
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うろこ取りを体験。清原さんいわく、残っていると食感が悪くなったり、においが出てしまうそう

 
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目を凝らして細かい骨抜きにも挑戦した

 
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清原さんが丁寧にさばき、体の中の各部位も観察した=写真提供:主催者

 
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切り身はタラフライに。衣をつける作業も子どもたちで

 
 盛岡市の菅原蓮君(10)は「タラの体は思ったよりやわらかい。胃袋は大きくてイワシが入っていたのにはびっくり」と目を丸くした。友人の冨澤えみりさん(7)は「ちょっと魚がかわいそうだけど、人は魚を食べて生きているので感謝しないと。自分で調理したのを食べるのは楽しみ」と声を弾ませた。2人の母親は、切り身になる前の魚の姿を見る貴重な機会を歓迎。「魚への興味、調理への関心も高まれば」と期待した。
 
 同教室を企画した「バリアフリーでつくる釜石自然遊びの会」は昨年発足。医療的ケア児の母である佐々木代表(44)が根浜でのバリアフリービーチ実現への第一歩として、インクルーシブを理念とした交流の場を持ちたいと立ち上げた。これまでに海辺でのお茶会、たき火やカレー調理、ピザ作りなどのキャンプ体験を観光施設・根浜シーサイドの協力で実施。当事者家族だけでなく同年代の子を持つ家族を含めた活動の機会を通じて、互いに助け合える関係づくりの構築を進めてきた。
 
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タラフライは手作りパンにはさんでバーガー風に(写真上段)。楽しい体験を終え笑顔を輝かせる参加者(同下段)=写真提供:主催者

 
 今回の教室には障害などで支援が必要な親子4組が参加した。親の一人は「これまで海に行くのはすごくハードルが高かった。今回、室内ではあるが、魚と触れ合えたことで、海にも一歩近づけた気がする」と話した。
 
 医療的ケアや支援が必要な子どもたちの親は、助けが必要な場面でも「自分たち家族の問題」と我慢してしまいがちだという。しかし、家族だけが頼りでは限界がきてしまう。佐々木代表は「本人にとっても家族以外の人に甘えられる環境は必要。まずは顔見知りになり、お互いを理解するところから」と小さな一歩の積み重ねを願う。未来に生きる同様の家族のためにも「『これが大変だから手伝ってほしい』と声をあげられる環境をみんなで作っていきたい」と思いを込めた。

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広報かまいし2024年3月1日号(No.1827)

広報かまいし2024年3月1日号(No.1827)
 

広報かまいし2024年3月1日号(No.1827)

広報かまいし2024年3月1日号(No.1827)

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【P1】
日本製鉄釜石シーウェイブスホストゲーム 他

【P2-3】
市内の主な東日本大震災追悼行事
イベント案内

【P4-5】
まちのお知らせ

【P6】
スマートフォンから転出届の提出ができます
戸籍の証明書の請求が便利になります
国民健康保険高額療養費の案内が変わります

この記事に関するお問い合わせ
釜石市 総務企画部 広聴広報課 広聴広報係
〒026-8686 岩手県釜石市只越町3丁目9番13号
電話:0193-27-8419 / Fax 0193-22-2686 / メール
元記事:https://www.city.kamaishi.iwate.jp/docs/2024030100019/
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打って、泳いで、走って栄誉つかむ スポーツで活躍!釜石市民 努力、健闘たたえる

釜石市民体育賞の受賞者、市体育協会関係者ら

釜石市民体育賞の受賞者、市体育協会関係者ら

 
 スポーツ界で活躍した人をたたえる釜石市体育協会(小泉嘉明会長)の2023年度市民体育賞表彰状授与式は23日、大町のホテルクラウンヒルズ釜石で開かれた。岩手県や東北大会の優勝者ら17人、3団体に「奨励賞」を贈呈。長年にわたり競技の普及、発展に貢献してきた2人には「功労賞」が贈られた。そして、釜石高ボクシング部で3年間部活動に励んだ3年生部員に贈られる「小泉賞」。市ボクシング協会(小泉会長)主催の贈呈式が26日に中妻町の昭和園クラブハウスであり、選手7人、マネジャー1人の計8人が努力の証しとなるトロフィーを手にした。
 

若手もベテランも輝く 市民体育賞

 
 今年度の体育賞受賞者は小学1年生~75歳までと幅広い顔ぶれ。あいさつに立った小泉会長は「小さい頃から本気になり、互いに鍛え合いながら目標に進む人たちのいい顔を見られてうれしい。元気に頑張れば、次の扉が開くはず。スポーツで前向きなまち釜石をつくっていこう」と期待した。
 
市民体育賞の表彰式。受賞者はさらなる飛躍を誓う

市民体育賞の表彰式。受賞者はさらなる飛躍を誓う

 
 奨励賞は空手道の活躍が目立つ。個人では藤原凪さん(鵜住居小3年)、川崎煌聖君(同5年)、木村元軌君(平田小1年)、照井陽己君(同)、三浦陽翔君(同)、阿部琉芯君(白山小4年)、佐野葵泰君(釜石中2年)、佐野泰盛君(甲子中3年)、小川結暖さん(同)、坂本嘉之さん(釜石高3年)。団体で釜石高の男子空手道部(松田郷佑主将)、女子空手道部(佐々木來愛主将)が受賞していて、層の厚さを感じさせた。
 
 水泳からは白岩優一朗君(甲子中3年)、ボクシングでは佐々木夏さんと菊池麗さん(いずれも釜石高3年)、陸上競技は小澤詩乃さん(釜石中2年)、未瑚さん(同1年)姉妹がそれぞれ選ばれた。若手が健闘を見せる中、ベテランで実力を発揮したのはバウンドテニスの田村彬紘さん(38)と阿部なみ子さん(75)。小泉会長は受賞者一人一人に声をかけながら賞状とトロフィーなどを贈った。
 
受賞者を代表して謝辞を述べる藤井豊さん

受賞者を代表して謝辞を述べる藤井豊さん

 
 陸上競技協会役員、駅伝部で選手兼監督として20年以上競技に打ち込む藤井豊さん(75)は功労賞を受賞。代表して謝辞に立ち、「自らの競技力の向上、選手の育成など仲間と取り組んできたことが評価された。今後も健康で丈夫な体と精神を鍛え、スポーツに親しみたい」と情熱は衰えない。同じく表彰された澤修一さん(66)は水泳協会理事として各種大会運営、若手育成などに40年近く携わり、競技の普及に尽力する。
 
 注目は、奨励賞を受けた釜石中特設ラグビーフットボール部。普段、別々のスポーツに取り組んでいる生徒有志23人が集まり、約4カ月という短期集中で練習に励み、県中総体で優勝した。主将の八幡玲翔君(3年)は陸上部で短距離を頑張ってきたが、実は地元ラグビーチーム日本製鉄釜石シーウェイブス(SW)が小中学生を育成するアカデミーにも所属。団体競技の楽しさ、仲間を信じる大切さを教えてくれるラグビーに魅力を感じ、仙台市の高校へ進学後も続ける。夢は「SWで活躍すること」。スポーツで地域に恩返しする気持ちを強めていた。
 
奨励賞を受けた釜石中特設ラグビーフットボール部

奨励賞を受けた釜石中特設ラグビーフットボール部

 
 5年間、指導にあたった同校の梅津孝昭教諭は初優勝に感慨深げ。自身も高校、大学とラグビーに親しんだが、SWや地域の人の支えがあって成し遂げられたと感謝も忘れない。体協関係者も「ラグビーのまち釜石から素晴らしい成績が出た」と沸いた。
 
 今年度は各競技団体や学校から推薦された26件を審査。理事会の承認を得て受賞者を決定した。全国レベルの大会で優勝(または優勝に準ずる成績)した個人、団体に贈られる「栄光賞」は該当がなかった。式では、県体育協会功労賞を受けた市剣道協会の細川親雄会長に表彰の伝達もあった。
 

勉強も部活もやり切った高校生へ 小泉賞

 
 今年度、小泉賞を受けたのは8人。選手として活躍した平野優羽さん、今野拓翔さん、茂木大希さん、立花素生さん、東舘耀大さん、市民体育賞も受けた佐々木さん、菊池さんの7人と、マネジャーの藤井まどかさん。近年では仲間が多い学年で、「釜石に大きな波を起こそう」と鍛錬し合った。結果はそれぞれだったが楽しみながら、そして真剣に向き合って「悔いはない」と、多くの生徒が晴れやかな表情を見せた。
 
3年間努力し続けた釜石高ボクシング部の3年生、小泉会長(前列中)

3年間努力し続けた釜石高ボクシング部の3年生、小泉会長(前列中)

 
 県内外への進学が決まっている生徒たちに、小泉会長は「コロナというハードパンチをよけながら3年間頑張った。競技を通じて学んだことを思い出し、価値を高めながら生き、社会に出て活躍してほしい」とエールを送った。
 
学校生活の振り返りと進学先での抱負を伝える佐々木夏さん

学校生活の振り返りと進学先での抱負を伝える佐々木夏さん

 
 県、東北、全国大会で健闘した佐々木さんは、父でコーチの彰さん(50)と同じ専修大に進み、ボクシングを続ける。「学生日本一になる」。同様の目標を掲げる菊池さんは日本体育大に進学。彰さんとともにコーチを務めていた亡父・拓さん(享年49)が成し遂げられなかった夢をつかむために。父と同じ高校生チャンピオンになるという目標は達成できなかったが、「もっと強くなり、(父を)超えたい」と高みを目指す。
 
菊池麗さん(中列右から2人目)は仲間や後輩と記念にパチリ

菊池麗さん(中列右から2人目)は仲間や後輩と記念にパチリ

 
すがすがしい笑顔を見せる高校生、ボクシング協会関係者

すがすがしい笑顔を見せる高校生、ボクシング協会関係者

 
 同校ボクシング部は3年生が卒業した今春、部員9人(選手6、マネジャー3)でスタート。部員獲得に力を入れつつ、「先輩たちのかっこいい姿を追いかける」「練習につき合ってくれた成果を高総体で発揮したい」と伝統を受け継ぐ構えだ。

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漢字のでき方に「へぇ~、ほぉ~」 釜石初「漢字成り立ち講座」鵜住居公民館で開催

鵜住居公民館で開かれた「漢字成り立ち講座」。講師は漢字教育士の川﨑悠嗣さん(右)

鵜住居公民館で開かれた「漢字成り立ち講座」。講師は漢字教育士の川﨑悠嗣さん(右)

 
 釜石市の鵜住居公民館(松下隆一館長)で22日、漢字の成り立ちを学ぶ講座が開かれた。同館のコミュニティー支援事業・ひまわり会(月2回実施)が、市の生涯学習まちづくり出前講座の新メニューを活用して初開催。参加者は漢字の基となった象形文字などについて学び、造字の面白さを味わった。問題にも答え、脳を活性化させながら楽しい学びの時間を過ごした。
 
 地域住民ら13人が参加した。講師を務めたのは市職員で、漢字教育士(立命館大白川静記念東洋文字文化研究所認定)、漢字教育サポーター(公益財団法人日本漢字能力検定協会)の資格を持つ川﨑悠嗣さん(37)。本年度、同出前講座に登録されてから、自身にとっても初めての講座となった。
 
 川﨑さんは、漢字の起源が約3300年前の中国・殷王朝後期(紀元前1300~同1000年ごろ)の遺跡から出土した甲骨文字(亀甲や獣骨に刻まれた文字)であることを紹介。最古の本格的漢字字典は西暦100年(後漢)に作られた「説文解字」で、字の成り立ちや意味が解説されているという。日本では江戸時代に出土した「漢委奴国王」と刻まれた金印が最古の漢字資料。後に日本語を漢字で表したとみられるものも見つかり、5世紀ごろには漢字で日本語を書き表す習慣ができていたと考えられているという。
 
市の出前講座としても初開催。参加者は熱心に話を聞いた

市の出前講座としても初開催。参加者は熱心に話を聞いた

 
 川﨑さんは漢字の造られ方として、象形文字(物の形をかたどって造られた文字)、形声文字(形=意味や領域、声=発音を表す要素を組み合わせた文字)、仮借(かしゃ=ある物事を表す適当な漢字がない場合、関係のない同音の他字を借りてあてたもの)など6つの方法を説明。金文や篆書(てんしょ)、隷書(れいしょ)など書体の変化についても触れた。
 
 講座では事前に申し込んだ参加者の名前の漢字について、古代の文字と由来を記した資料で解説した。例えば「石」という字は、厂(山の崖の形)と口(神への祈りの文書を入れる箱=サイの形)を組み合わせたもの。大きな石は神が宿るとされ、サイを供えて祈りをささげるという意味があり、会意文字(2つ以上の漢字を組み合わせ、意味を複合して別の意味、発音を持たせた文字)にあたる。口(サイ)は他の漢字でも同様の意味で使われ、「吉」の字は士(神聖なまさかりの刃を下に向けた形)をサイの上に置くことで祈りの効果を守ることを示しているという。
 
象形文字などについて解説。漢字の成り立ちに参加者も興味津々

象形文字などについて解説。漢字の成り立ちに参加者も興味津々 

 
 「母」の象形文字は、ひざをついて座っている女性の姿を表していて、2つの「丶(点)」を取ると「女」という字になる。点は乳房を表すという。「二」「三」は数を数える時に使う算木を2本、3本と重ねた形。「四」も元々は「亖(し)」だったが、仮借(かしゃ)で今の「四」になった。
 
 参加者は、象形文字が表す漢字を選ぶ問題や9つの漢字から三字熟語を作る問題にも挑戦。楽しみながら漢字にまつわる知識を得た。柏崎美佐子さん(85)は「はんこに使われている篆刻(てんこく)や書道の隷書などを見ていて、興味があって参加した。自分の名前の漢字の成り立ちも分かり、ありがたい。面白いので講座をシリーズ化してほしい」と期待した。
 
象形文字が表す漢字を選ぶ問題に挑戦。じっくりと見比べて… 

象形文字が表す漢字を選ぶ問題に挑戦。じっくりと見比べて…

 
「あめかんむり」の漢字を書いてみよう!

「あめかんむり」の漢字を書いてみよう!

 
 講師の川﨑さんは鵜住居町出身。東日本大震災で被災し、移住した遠野市で図書館に通っていた時、たまたま手にとったのが漢字の本。興味をそそられて勉強を始め、検定にも挑戦した。今は準1級の腕前で、最高位の1級取得を目指して奮闘中。初の出前講座に「緊張したが、喜んでもらえたようでうれしかった」と一安心。講座で使ったイラストなどの教材は自身の手作りで、「もっと分かりやすく教えられるように内容を考えたい」と次の機会を見据える。「漢字は奥深い。成り立ちが分かると覚えやすかったり、楽しく学べる。子どもたち向けに学校での出前講座もできれば」と望んだ。
 
手製のイラスト教材で漢字の成り立ちを説明する川﨑さん

手製のイラスト教材で漢字の成り立ちを説明する川﨑さん

 
鵜住居公民館の「ひまわり会」では座学や健康づくりなど多彩な活動で住民交流、孤立防止などに努める

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