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釜石駅付近にクマ、市内初「緊急銃猟」で1頭駆除 岩手県内で2例目

釜石市中心部に出没したクマ。緊急銃猟で駆除された

釜石市中心部に出没したクマ。緊急銃猟で駆除された

 
 クマの出没を受け、釜石市は11月26日、自治体判断での発砲を可能とする「緊急銃猟」を実施し、1頭を駆除した。岩手県内初の緊急銃猟となった同月20日の洋野町に続いて2例目で、同市では初めて。
 
 市によると、駆除されたクマは体長約120センチの雌(体重80キロ)で、成獣とみられる。26日午前7時25分ごろ、鈴子町で「クマが木に登っている」と住民から市に連絡があった。駆け付けた市職員や釜石大槌猟友会、県警などが木の上にいるクマ1頭を確認。木の下に箱わなを設置し、警戒に当たった。
 
木の上に居座るクマの様子をうかがう関係者

木の上に居座るクマの様子をうかがう関係者

 
 現場はJR釜石駅の沿線で、駅から東側に約200メートルの鈴子排水区雨水ポンプ場近く。国道283号沿いで交通量が多く、日中は人通りもある。周囲には土産物店が入る「シープラザ釜石」や魚屋などが入る市場「サン・フィッシュ釜石」、ホテル、レンタカー店などが点在する。
 
 市は追い払いを試みたものの、クマは木の上からほとんど動かず、付近にとどまり続けた。わなにもかからず、約5時間半こう着状態に。「山に追い払おうにも市街地を通っていかなければいけない状況だった。危険だということで緊急銃猟しかないな…」と関係者間で協議、判断した。
 
木の下に箱わなを設置するもクマは木の上から動かず

木の下に箱わなを設置するもクマは木の上から動かず

 
近くの線路を列車が通ってもクマは木の上から動かず

近くの線路を列車が通ってもクマは木の上から動かず

 
市街地に出没したクマを警戒する警察官とにらみ合い

市街地に出没したクマを警戒する警察官とにらみ合い

 
 クマを貫通するなどした銃弾を遮る「バックストップ」が確保され、列車が通らない時間帯だったことなどの条件もそろい、市長に状況を報告。午後0時半ごろに市長が許可し、緊急銃猟のため釜石署が同0時50分ごろから現場付近で交通規制した。
 
 周囲の安全を確認した上で、市鳥獣被害対策実施隊の隊員が午後1時ごろに1発撃った。銃弾を受けたクマは近くにある別の木の上に移動。同1時半ごろ、さらに2発を発砲し、駆除した。同1時45分ごろに交通規制を解除。けが人や物的被害は確認されていない。
 
国道283号を通行止めにして緊急銃猟を実施。弾を受けたクマは別の木に移ったが、駆除された

国道283号を通行止めにして緊急銃猟を実施。弾を受けたクマは別の木に移ったが、駆除された

 
 市の担当者は「こうした状況(緊急銃猟の実施)にはなりたくないというのが正直な話」としつつ、「関係機関と良好な関係が築けていたのでスムーズにできた」と振り返った。緊急銃猟について、市はマニュアルを作成し、9月には関係機関と対応訓練を行っていたことが、今回の円滑な連携と対応につながったという。
 
 一方で、緊急銃猟の難しさを感じる場面も。1発目の弾丸は命中したもののクマが移動したため、再度、市長への報告や許可を得る必要が生じた。市の担当者は「(緊急銃猟を行う)一連の場所が動けばシチュエーションが変わり、その都度、市長の判断が必要になる。ややもすれば忘れてしまうかもしれないと心配にはなった」と話した。
 
 市によると、昨年11月のクマの目撃情報は4件だったが、今年は26日現在で27件と大幅に増加。クマを人間の生活圏に近寄らせないための対策として、生ごみを出さないことや放置果樹の撤去などを呼びかける。
 
市街地に出没し緊急銃猟で駆除されたクマ

市街地に出没し緊急銃猟で駆除されたクマ

 
 緊急銃猟は鳥獣保護法が改正され、今年9月に始まった制度。人の生活圏にツキノワグマなどが出没した場合、人に弾丸が当たらないよう安全確保した上で市町村の判断で銃猟を可能とする。市町村長は①住宅地などに侵入またはその恐れがある②危害防止のため緊急に対応が必要③銃猟以外で的確かつ迅速な捕獲が困難④住民らに弾丸が当たる恐れがない―と判断した場合、市町村職員や委託したハンターに緊急銃猟をさせることができる。

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読書の秋だから!? 釜石市と東京大の連携イベント「海と希望の学園祭」 テーマは“本”

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本を通し交流が広がった「海と希望の学園祭」

 
 釜石市と東京大学がタッグを組み展開する交流イベント「海と希望の学園祭 in Kamaishi」は22日と23日、同市大町の市民ホールTETTOを主会場に開かれた。4回目となった今回のテーマは「本」。同大教授らが“推し本”との思い出を振り返るトークを繰り広げた。市が進める「本のまちプロジェクト」にちなんだもので、PRポスターコンクールの表彰式やコンサートを開催。鉄文化や郷土芸能にまつわる物語に触れる鉄の学習発表会も催され、新たな“知”との出合いや読書の秋を体感する機会とした。
 
 「いつでも、どこでも、だれでも」をキーワードに読書に親しめるまちづくりを目指し、今年から本格的な取り組が進む同プロジェクト。市内8地区の生活応援センターにある図書コーナーを充実させたり、市広報紙などで市民のおススメ本を紹介している。TETTOにも可動式の本棚「お楽しみ図書館」がお目見え。誰かが読み終えた本が棚に並び、読みたい誰かが手に取る方式で、気になる一冊との出合いを楽しむ姿がみられた。
 
umitokibou01TETTOに置かれた「本のまちプロジェクト・お楽しみ図書館」

 
 市民らを対象に10月末まで募集したPRポスターコンクールの表彰式は22日に実施。市長賞に輝いた今入美智瑠さん(30)の作品「開けば飛び出す物語」は、読書の楽しさやページをめくるワクワク感が表現されている。ほか、未就学児から中学生まで7人が入賞。「日本一、本を読むまちにしたい。読書をきっかけに新しい交流が生まれることを期待」と話した小野共市長らが入賞者に賞状を手渡した。
 
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本のまちをPRするポスターが並ぶ会場で表彰式が行われた

 
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本や物語にちなんだ曲が披露されたコンサート

 
 イベントは同大や社会科学研究所(社研)、大気海洋研究所(大海研)、先端科学技術研究センター(先端研)と結んだ覚書・協定に基づいたもの。生産技術研究所(生研)を加え、各種研究をパネルなどで紹介した。同大の玄田有史副学長や4研究所長、釜石市の高橋勝教育長によるトークイベントは「大切な本」をテーマに和やかに展開。「発見がある」本との出合い、「複数冊を同時に読み進める」など独自の読書スタイルを明かした。
 
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「大切な本」にまつわるエピソードを語る東京大教授ら

 
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東京大学社会科学研究所の所員らの“推し本”がずらり

 
 社研の所員らの“推しの本”42冊を集めた展示コーナーも登場。宇野所長が監修した「選挙、誰に入れる?」など社会科学関連度が高めのものから、「不良のための読書術」など関連度は低めながらも気になるタイトルの本がずらりと並んだ。市内の及川幸世さん(68)は「普段読まないようなものもあったけど、紹介文を見て興味を持った。偏らず、いろんなものを広く浅く読んでみたい」と刺激にした。
 
 海を身近に感じられる展示やワークショップもあり、親子連れらが楽しんだ。岩手大釜石キャンパスは海生生物に触れられるタッチプール、文京学院大(東京)の学生クループはペットボトルのキャップなどを使った巨大絵本の制作体験などを用意。大海研の作品展示の一つ、ヤドカリを模した巨大バルーンアートは写真スポットとして人気だった。
 
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ヤドカリを模した巨大なバルーンアートは子どもに人気

 
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来場者は海に関する展示やワークショップを楽しんだ

 
 今回の学園祭は、複数のイベントが同時開催され、盛りだくさんの内容に。環境省の「脱炭素先行地域」に選定されている釜石市で進行中の取り組みを紹介する「ゼロカーボンフェスタ」はイオンタウン釜石も会場となり、東北電力グループが岩手大生のサイエンスショーや脱炭素化に向けた行動を学ぶアプリの体験などを用意した。
 
 手回し発電や磁力を活用した釣り遊びを楽しんだ小学生藤元爽和さん(3年)は「学校での科学の実験が楽しみなった」とはにかみ、妹の叶和さん(1年)はTETTOで巨大バルーンアートの中に入る体験が「ふわふわで不思議だった」と目を輝かせた。母の聡美さん(40)は「いろいろなことに興味を持ったようだ」と見守った。
 
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同時開催の「ゼロカーボンフェスタ」を楽しむ子どもら

 
 脱炭素化に向け、東北電力は太陽光発電など再生可能エネルギーを活用した各種メニューを提案。同社岩手支店の佐藤利幸部長(岩手三陸営業所長も兼務)は「脱炭素と聞くとハードルが高いと感じられがちだが、実際は身近なところからできる取り組みがいくつもある。体験を通して、感じてもらえたら」と期待した。
 
 鉄の学習発表会は釜石PITであり、釜石小5年生(11人)の代表5人が「鉄の町釜石」と呼ばれる理由を紹介した。釜石の鉄文化や戦争の歴史、暮らし、郷土芸能などを散りばめた物語を朗読で伝える「かまいしのこえ」も上演。京都を拠点に活動するアーティスト集団「安住の地」の作家・演出家、私道かぴさんが地元の人たちに話を聞いて創作し、釜石のタレント養成所「C-Zero(シーゼロ)アカデミー」の生徒らが言葉に感情をのせ届けた。
 
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鉄の学習発表会で発表する釜石小5年生。佐々木結音さんは「鉄の連続出銑ができるまで諦めず努力したのがすごい」と感心した

 
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私道かぴさん(右の写真)が創作した短編作を朗読で披露した

 
 朗読に耳を傾けた佐々木伸一さん(81)は、釜石製鉄所OBで私道さんに話題を提供した一人。「鉄の話、まちの様子、住む人の思いをよくまとめてくれた。私たちの代わりに伝えてくれて、うれしい」とにこやかに話した。
 
 23日は、海に関する本や南極の魅力を紹介するトークイベントなどが行われた。

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釜石の園児へ「絵本、楽しく読んでね」 岩銀取引先・中妻岩友会、10保育施設に贈る

絵本を手に笑顔を見せる園児、小泉嘉明会長(右)

絵本を手に笑顔を見せる園児、小泉嘉明会長(右)

 
 釜石市中妻町の岩手銀行中妻支店(安田重行支店長)の取引先でつくる親睦団体「中妻岩友会」(小泉嘉明会長、会員53事業者)はこのほど、市内の幼稚園や保育園、こども園10カ所に幼児向けの絵本計210冊を贈った。19日、代表として同市野田町の甲東こども園(野田摩理子園長、園児89人)の園児を同支店に招き、贈呈式を開催。小泉会長は園児に絵本を手渡し、「楽しく読んでね」と声をかけた。
 
 「おっ!」「ぱかっ」「ひみつのたからもの」「にじいろのさかな」「のこったのこった」―。テーブルの上に真新しい絵本がずらりと並ぶ。パラパラパラ…。甲東こども園の鮎田恭介くん(5)、板澤梨瑚ちゃん(5)は次々と絵本に手を伸ばし、ページをめくる音を響かせる。贈呈式で見られた一場面だ。
 
絵本のページをめくり笑顔になる甲東こども園の園児

絵本のページをめくり笑顔になる甲東こども園の園児

 
「見てー」。絵本を“見せ合いっこ”して楽しさ共有

「見てー」。絵本を“見せ合いっこ”して楽しさ共有

 
 同園では「甲東文庫」と称した読書活動があり、園児は週1回、約5000冊の中から好きな本との出合いを楽しむ。2人は「多読賞」をもらうほどの“絵本好き”。「見たことない本、あった。うれしい」「いっぱい読みたい」と笑顔を重ねた。
 
 付き添った園関係者によると、絵本が好きな子は多く、「同じ本を何度も借りたり、すぐに汚れたりしてしまう。本は消耗品」とのこと。子どもに人気の本は「すでに園にあったとしても何冊あってもいい。助かる」と喜んだ。
 
笑顔を添えながら絵本を園児に手渡す小泉会長

笑顔を添えながら絵本を園児に手渡す小泉会長

 
 同会の地域貢献活動の一環。子どもたちが本に親しむきっかけを増やすとともに、保育施設での読み聞かせ活動を支援しようと願いを込める。2023年に続く取り組みで、小泉会長は「絵本に触れ、子どもたちに伸び伸び成長してもらいたい。情操教育をバックアップできればいい」と期待。他の園には同会の事務局を置く岩銀釜石支店(安田支店長)の行員らが絵本を届けた。
 
 新型コロナウイルス禍以降の取り組みは絵本寄贈のほか、▽JR釜石線全線開業70周年を記念したラッピング列車の運行企画の提案・協賛▽定内公園へのベンチ設置▽釜石高校への理科実習用機器の寄贈▽中妻地区見守り隊へのベンチコート寄贈▽能登半島地震への義援金寄付―など。まちの活気づけ、地域活動の応援を続けている。

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根浜ビオトープに「地域活動貢献賞」 津波流出の水辺環境再生、地域の未来へ協働の取り組み評価

根浜ビオトープの「地域活動貢献賞」(日本ビオトープ協会第17回顕彰)受賞を喜ぶ関係者=根浜シーサイド

根浜ビオトープの「地域活動貢献賞」(日本ビオトープ協会第17回顕彰)受賞を喜ぶ関係者=根浜シーサイド

 
 釜石市鵜住居町の根浜海岸観光施設「根浜シーサイド」内に昨春整備された「根浜ビオトープ」が、特定非営利活動法人日本ビオトープ協会(東京都)の第17回ビオトープ顕彰で、「地域活動貢献賞」を受賞した。東日本大震災の津波で失われた水辺環境を地元企業、団体が連携して再生。多様な生き物の生息空間を確保し、観察を通して環境保全教育につなげる取り組みが評価された。関係者は受賞を励みに、自然と人との共生、体験型環境教育の充実を図り、同所を地域の宝として守り育てていくことを思い描く。
 
 同顕彰は、優れたビオトープの事例を全国に発信し、多様な生き物の生息環境が人間の生活にとっても重要であることを伝えていこうと2008年度から実施。17回目となる本年度は全国5カ所のビオトープが表彰された。その一つが「地域活動貢献賞」を受賞した根浜ビオトープ。本県で同顕彰を受けるのは6カ所目。沿岸では22年度に「環境活動推進賞」を受賞した「大槌町郷土財活用湧水エリアビオトープ」(ミズアオイ遊水池)に次ぎ2例目となる。
 
 根浜ビオトープは震災前、水田が広がり多様な生き物が生息していた場所に造られた。長年、同所の生き物観察を続けてきた市民団体「かまいし環境ネットワーク」の加藤直子代表(79)が、被災後も山からの沢水が豊富な点に着目。津波被災跡地に整備された市の観光施設の指定管理者「かまいしDMC」(河東英宜代表取締役)にビオトープ構想を持ちかけ、両者の協働で実現の可能性を探ってきた。
 
10月24日には受賞を小野共市長に報告(左下)。かまいし環境ネットワークの加藤直子代表が日本ビオトープ協会相談役の野澤日出夫さんらと訪問した

10月24日には受賞を小野共市長に報告(左下)。かまいし環境ネットワークの加藤直子代表が日本ビオトープ協会相談役の野澤日出夫さんらと訪問した

 
 構想から3年―。国際的奉仕団体「釜石東ロータリークラブ」(現在:平松篤会長、会員29人)が創立60周年記念事業として、同所の環境整備にと寄付を申し出たことで事業が進展。佐野建設(甲子町)が施工にあたり、市から借りた約80平方メートルの土地に沢水が流れ込む大型の池を造成した。
 
根浜ビオトープの造成を行う佐野建設の作業員ら=2024年4月、根浜シーサイド

根浜ビオトープの造成を行う佐野建設の作業員ら=2024年4月、根浜シーサイド

 
芝グラウンドの西側、山林が隣接する土地に整備された大型の池。解説看板(写真左上)も設置されている

芝グラウンドの西側、山林が隣接する土地に整備された大型の池。解説看板(写真左上)も設置されている

 
ビオトープ完成後のお披露目イベントでは、参加者が池のほとりに生き物のすみかを作った=2024年5月

ビオトープ完成後のお披露目イベントでは、参加者が池のほとりに生き物のすみかを作った=2024年5月

 
 昨年4月の完成以降、池にはトウホクサンショウウオや各種カエル、イモリ類がすみ付き、夏にはトンボも見られるようになってきた。同DMC企画のイベントのほか、市内の学校や子どもエコクラブの体験活動で生き物観察、周辺環境の整備が行われていて、環境教育の場として活用される。多様な生き物が見られる環境は、津波で被災し高台に集団移転した根浜地区住民にとっても心安らぐ場になっている。
 
 同ネットワークの加藤代表は、昔ながらの生き物が戻ってきている状況を喜ぶとともに、完成後も環境維持に協力を続ける地域住民や関係者に深く感謝。今回の受賞について、「ビオトープとしての価値はまだまだこれからだが、実現に至るまでの背景、経緯、地域の協働の取り組みなど、そのストーリー性が評価されたものと思う」と同所の意義を改めて実感する。
 
開設1周年記念イベントでは、かまいし環境ネットワークの会員らがエゾエノキの幼木を植樹=2025年5月

開設1周年記念イベントでは、かまいし環境ネットワークの会員らがエゾエノキの幼木を植樹=2025年5月

 
かまいし環境ネットワークの加藤直子代表(左上)、かまいしDMCの佐藤奏子さん(右上)が、釜石東ロータリークラブの中田義仁副会長(写真下右)、同ネットワーク会員の臼澤良一さん(同中)とこれまでの活動を振り返る

かまいし環境ネットワークの加藤直子代表(左上)、かまいしDMCの佐藤奏子さん(右上)が、釜石東ロータリークラブの中田義仁副会長(写真下右)、同ネットワーク会員の臼澤良一さん(同中)とこれまでの活動を振り返る

 
 資金提供した同ロータリークラブの中田義仁副会長(57)はビオトープで子どもたちが生き生きと活動する様子を見聞きし、「クラブとしても子どもたちの成長に少しでも役に立ちたいとの思いがある。地域貢献ができ、こういう受賞にもつながったのは大変うれしい」と喜びを表す。
 
 同ネットワーク会員で、居住地の大槌町でミズアオイ池の保全活動にも取り組む臼澤良一さん(77)は「地域の環境に興味を持ってくれる人がたくさんいることは、私たちの活動のエネルギーの源。ビオトープが自然を大事にする心を醸成する場になれば」と期待を込める。
 
池の周りで生き物を探す子どもたち=2025年5月、開設1周年記念イベント

池の周りで生き物を探す子どもたち=2025年5月、開設1周年記念イベント

 
加藤代表(左)からトウホクサンショウウオの卵を見せてもらう子ども

加藤代表(左)からトウホクサンショウウオの卵を見せてもらう子ども

 
オタマジャクシやカエルの卵に触れてみる。観察後は「元気に育ってね」とリリース

オタマジャクシやカエルの卵に触れてみる。観察後は「元気に育ってね」とリリース

 
 同観光施設内にはキャンプ場や芝グラウンドがあり、年間を通じて多くの利用がある。ビオトープはそうした利用客にも、気軽に生き物と触れ合い、同所の環境に理解を深められる機会を提供する。同DMC地域創生事業部の佐藤奏子さん(47)は「ここは震災の時も水が絶えなかった場所。人々が命をつなぎ、生き物たちもひそかに生き残っていた場所ということからも非常に意味がある」と価値を強調する。
 
 同ネットワークの加藤代表は「自然の生き物を実際に見て、手で感触を確かめる体験は、ゆくゆくは自分の命、他者の命を大切にすることにつながっていくと信じている。これからも多くの子どもたちが足を運び、本物(の命)に触れてほしい」と願う。

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岩手大釜石キャンパス学生が地元水産資源をPR 今年は街なか開催 2年目のおさかなフェス盛況

「釜石の魚、おいしいよ~」地元の海の幸をPRする岩手大の学生ら=9日、おさかなフェス

「釜石の魚、おいしいよ~」地元の海の幸をPRする岩手大の学生ら=9日、おさかなフェス

 
 釜石市平田の岩手大釜石キャンパスで水産を学ぶ学生らが9日、市中心市街地の大町広場で地元海産物の魅力をアピールする「おさかなフェス」を開いた。昨年の同キャンパス敷地内での開催に次ぐ2年目の取り組み。釜石の海で漁獲された鮮魚の販売、海の生き物に触れられるタッチプール、地元業者の出店などで会場はにぎわいを見せ、学生と市民らの交流、釜石の魅力再発見の場となった。
 
 同大農学部食料生産環境学科水産システム学コースの3、4年生24人が企画から運営までを担うイベント。昨年も好評だった鮮魚販売には約20種類の魚が並んだ。浜町の廻船問屋マルワの協力で仕入れた魚介類は、釜石湾や唐丹湾の定置網漁、かご漁で取れたもの。サバやマダイ、タナゴ、ドンコなどおなじみの地魚のほか、ヤガラ、カスベ、マトウダイなど普段、店頭ではあまり目にする機会のない種が目を引いた。学生らは各魚の特徴やおいしい食べ方なども客に教えた。
 
定置網やかご漁でとれた魚介類を販売。学生らが来場者に説明も

定置網やかご漁でとれた魚介類を販売。学生らが来場者に説明も

 
珍しい魚や価格の安さも来場者の目を引いた

珍しい魚や価格の安さも来場者の目を引いた

 
展示用の(下段左から)マンボウ、チカメキントキ、ハリセンボンに興味津々

展示用の(下段左から)マンボウ、チカメキントキ、ハリセンボンに興味津々

 
 鮮魚のほか、サクラマスやサバのみりん干しも販売。サクラマスは早々に完売する人気ぶりだった。魚類の販売価格は100円から1200円。通常価格の半額近いものもあり、来場者は好みのものを複数買い求めた。ウオーキングの帰りに立ち寄ったという、会場近くの復興住宅に暮らす女性(76)はサバとイナダ(ブリの若魚)を購入。「普段より安いよね。子ども2人も岩手大を卒業しているので親しみを感じる。若い人たちがまちを盛り上げてくれるのはうれしいこと」と喜んだ。
 
 今や釜石キャンパス学生の代名詞となった「タッチプール」には、学生が釜石の海で釣った魚、交流のあるかご漁漁師が提供してくれた珍しい魚介類が放たれた。生きた状態を見られる機会はなかなかないだけに、子どもも大人もその動きに注目しながら観察。もちろん、触れるのもOKで、来場者は地元の海の豊かさも感じながら“タッチ”を楽しんだ。
 
研修で釜石を訪れた外国人学生も釜石の海の生き物にびっくり!

研修で釜石を訪れた外国人学生も釜石の海の生き物にびっくり!

 
カイメンを住みかにしたヤドカリ(右上)やキタムラサキウニ(右下)も登場。さまざまな海の生き物に触れられるタッチプール

カイメンを住みかにしたヤドカリ(右上)やキタムラサキウニ(右下)も登場。さまざまな海の生き物に触れられるタッチプール

 
学生(右)は子どもたちに生態なども教えながら釜石の海の素晴らしさを伝えた

学生(右)は子どもたちに生態なども教えながら釜石の海の素晴らしさを伝えた

 
 「岩手大との付き合いは15年ぐらい」という釜石湾漁協白浜浦女性部は昨年に続いて出店協力。えびせんべい、タコの唐揚げ、ウニご飯などを販売した。いち推しは「アカモク」の加工品。塩分の排出効果があるカリウムを多く含む海藻で、この日は、ふりかけや各種料理にアレンジ可能な湯通しした商品を並べた。アカモクを入れたみそ汁のお振る舞いも。同女性部は商品化の取り組みを始めて9年目になるといい、今では同市ふるさと納税の返礼品にも採用される。
 
アカモクの加工品などをPRする釜石湾漁協白浜浦女性部のメンバー

アカモクの加工品などをPRする釜石湾漁協白浜浦女性部のメンバー

 
浜の食文化を伝える機会にもなったおさかなフェス。白浜浦女性部自慢の味覚が並ぶ

浜の食文化を伝える機会にもなったおさかなフェス。白浜浦女性部自慢の味覚が並ぶ

 
 同女性部長の佐々木淳子さん(70)は「釜石市は脳卒中の罹患率が高い。アカモクの普及で市民の健康を守る手助けができれば」とアピール。地元水産物の魅力発信に積極的な岩大生を「頼もしい。同じ仲間として心強いし応援したい」と話し、継続的な連携を望んだ。
 
 水産システム学コースの学生は3年の秋から卒業までの1年半、釜石キャンパスで学ぶ。学生らは学業のかたわら、地元水産業者とタイアップしたイベント開催や小中学生の水産授業のサポートなど、地域住民とつながる各種活動を展開。おさかなフェスもその一つで、学生らは多くの学びを得て成長につなげている。
 
 3年の大友梨央さん(21)は釜石で学び始めて1カ月余り。初めての同フェスでは鮮魚販売を担当した。「思った以上に皆さん買ってくれてびっくり。魚の紹介をしたり、コミュニケーションを取りながら販売できるのがいい」と市民との交流を楽しんだ。人口、若年層の減少が続く沿岸地域において、「学生の出店が集客やにぎわいを生むのなら、地域にある大学として貢献できているのではないか」とも感じた。
 
会場では来場者にアンケートも実施。後輩たちの活動に役立てられる

会場では来場者にアンケートも実施。後輩たちの活動に役立てられる

 
地元販売店や漁師も出店し、にぎわいを見せた大町広場

地元販売店や漁師も出店し、にぎわいを見せた大町広場

 
 「水産のみならず釜石の魅力を幅広く発信できるように」と企画した今年の同フェス。会場には精肉店や菓子店なども出店し、学生企画のイベントを盛り上げた。イベントリーダーを務めた4年の浅野蒼矢さん(22)は「各種申請など事務手続きも全部、自分たちでやった。社会に出てから経験するようなことを先取りできたのは大きい。地域の方とのコミュニケーションの仕方も学べた」と貴重な体験を心に刻む。自分たちの経験は後輩にも伝えたい考えだ。

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ふるさとの味に舌鼓 釜石・橋野で水車まつり 農作物の恵みに感謝し「いただきます!」

晴天に恵まれた第19回水車まつり=2日、橋野どんぐり広場

晴天に恵まれた第19回水車まつり=2日、橋野どんぐり広場

 
 農作物の収穫を祝う釜石市橋野町の「第19回水車まつり」は2日、産地直売所橋野どんぐり広場駐車場で開かれた。季節ごとに地域の魅力を発信する「はしの四季まつり」の1年の締めくくりイベント。今年も地元の秋の恵みをふんだんに使った各種メニューが用意され、約300人が青空の下で古里の味を堪能した。
 
 橋野町振興協議会(菊池郁夫会長)、栗橋地区まちづくり会議(洞口政伸議長)が共催。菊池会長が歓迎のあいさつをし、恒例の餅まきからスタートした。軽トラックの荷台からまかれた紅白餅は約800個。老若男女が手を伸ばし、昔ながらの祝いムードが広がった。
 
釜石の祝い事には欠かせない“餅まき”。子どもも大人も楽しむ

釜石の祝い事には欠かせない“餅まき”。子どもも大人も楽しむ

 
宙を舞う紅白餅。ダイレクトキャッチも? 手前の女の子は洋服の前見頃を袋代わりに…

宙を舞う紅白餅。ダイレクトキャッチも? 手前の女の子は洋服の前見頃を袋代わりに…

 
 お振る舞いは地元産の野菜を使った同振興協女性部手作りの豚汁。この味を求めて足を運ぶ客も多く、約300食の提供に今年も長蛇の列ができた。2種のおにぎり、手打ちそば、きびの焼き団子は安価で販売。来場者は好みのものを買い求め、豚汁とともに味わった。
 
食欲をそそる橋野自慢の味「どうぞ、召し上がれ~」

食欲をそそる橋野自慢の味「どうぞ、召し上がれ~」

 
無料の豚汁には長い列が…。炭火で焼くきび団子は香ばしさ満点

無料の豚汁には長い列が…。炭火で焼くきび団子は香ばしさ満点

 
 さらに今年は、同町和山地内に同市2カ所目となる養鶏農場を建設中の一関市のオヤマが初出店。自慢の「いわいどり」ももの唐揚げを販売した。用意した約100パックは早々に完売。同社商品開発課の加藤寛美係長(54)は「まだお客さまが並ばれていたところをお断わりする形になってしまって…」と予想以上の売れ行きにうれしい悲鳴。地域密着のまつりの雰囲気にも感激し、「とてもいいおまつり。皆さんに温かく迎えていただきありがたい。新しい農場もできるのでさらに交流を深められたら」と願った。
 
水車まつり初出店のオヤマ(一関市)。からあげグランプリ最高金賞の一品を多くの客が買い求めた

水車まつり初出店のオヤマ(一関市)。からあげグランプリ最高金賞の一品を多くの客が買い求めた

 
 会場周辺の山々は紅葉シーズン本番。駐車場の植え込みも赤く色づき、秋本番の景色を愛でながら、食事を楽しむ来場者。子ども2人と二戸市から橋野町の実家に帰省した佐藤優美さん(35)は、地元のいとこらと計8人でまつりを楽しんだ。「子どもたちは豚汁が大好き。こうして外で食べるのもいいですね」と声を弾ませ、「橋野は人口が減っているが、イベントなどで多くの人が足を運んでくれるのはうれしいこと」と古里のにぎわいを喜んだ。
 
紅葉や青空に囲まれて食べる豚汁は最高のごちそう。子どもたちの箸も進む

紅葉や青空に囲まれて食べる豚汁は最高のごちそう。子どもたちの箸も進む

 
 大只越町の和田美穂さんは妹親子に誘われて来場。3人で豚汁のほか3メニューをいただき、「そばは手打ちの麺がおいしい。おかわりしました」と舌鼓。会場までの道中は美しい紅葉も楽しみ、「周りの景色に癒やされて、お腹も満たされて…。最高ですね」と秋の休日を満喫した。
 
豚汁、唐揚げ、雑穀おにぎり…。「みんなで食べるとおいしいね!」

豚汁、唐揚げ、雑穀おにぎり…。「みんなで食べるとおいしいね!」

 
 橋野どんぐり広場の藤原英彦組合長によると、今年の地域の農作物は「米は例年並みの収量ながら、野菜は夏の高温、日照りの影響であまり良くなかった」という。今はダイコンやサツマイモが出始め、これからハクサイも並ぶ。この日は店頭に干し柿用のカキも並んだ。
 
 同地域は市内でも有数の農業地帯だが、生産者の高齢化で近年は休耕地が増加。産直への出荷も減っており、担い手確保が最重要課題となっている。昨年6月から漬物の製造販売に保健所の営業許可が必要になったことも影響する。国が定める衛生基準を満たすには設備投資が必要で、個人生産者はほぼ販売をやめてしまった。藤原組合長は「現在、地域の漬物販売の復活に向け動いているところ。近い将来、また橋野ならでは味をお届けしたい」と希望を見いだす。「学校がなくなり、商店も減った今、産直は最後のとりで。地域を維持していくためには絶対必要」と継続への模索が続く。

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明治日本の産業革命遺産8エリアのガイド 釜石で初研修 世界遺産登録10周年機に価値発信へ意欲

世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」のガイドによる研修会=10月23日、橋野鉄鉱山

世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」のガイドによる研修会=10月23日、橋野鉄鉱山

 
 世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」のガイド研修会が10月22、23の両日、釜石市で開かれた。8県11市にある23の資産で構成される同遺産は今年、世界遺産登録から10周年を迎えた。各地で遺産の価値、保全の重要性を伝える活動を担うガイドらが一堂に会する研修は、登録(2015年)の翌年にスタート。構成資産「橋野鉄鉱山」がある釜石市が会場となるのは今回が初めてで、座学や遺産の現地視察を行った。
 
 関係自治体で組織する世界遺産協議会が、ガイドの情報交換や資質向上、価値の共有を目的に開催。8エリアからガイドと自治体職員計66人が参加した。初日は大町の釜石PITで事例発表などが行われた。始めに協議会事務局の鹿児島県世界文化遺産室の加世田尊主査が、遺産価値やガイドに求めることを説明。同遺産は23構成資産全体で一つの価値を有する遺産であり、「全エリアで共通の説明を行うことが大事」と話した。伝えるべきポイントとして▽全体の遺産価値▽構成資産としての位置付け▽地域としての価値-を挙げた。
 
全国8エリアのガイドが集まり学びを深めた=10月22日、釜石PIT

全国8エリアのガイドが集まり学びを深めた=10月22日、釜石PIT

 
釜石の鉄の歴史について話す釜石市教委文化財課世界遺産室の森一欽室長

釜石の鉄の歴史について話す釜石市教委文化財課世界遺産室の森一欽室長

 
 事例発表では地元釜石市から2人が登壇した。同市教委世界遺産室の森一欽室長は磁鉄鉱を生んだ三陸の大地の成り立ち・地質、たたらから近代化に至る釜石の製鉄の歴史、他エリアとの関わりについて説明。参加者の質問にも答えた。
 
 橋野鉄鉱山をはじめ、同市のさまざまな分野のガイド活動を行う「釜石観光ガイド会」の菅原真子さんは、2002年の会発足からの活動経過を紹介した。東日本大震災(11年)以降、三陸海岸の日本ジオパーク認定(13年)、明治日本の産業革命遺産の世界遺産登録(15年)、ラグビーワールドカップ釜石開催(19年)と、ガイド活動に新たな要素が次々に加わった。釜石のジオサイトには橋野鉄鉱山や釜石鉱山も含まれる。「ジオの側面から鉄鉱石を解明していくのも魅力的」と菅原さん。活動の課題として人口減少や高齢化による人材不足を挙げた。鉄への共感の難しさはあるが、「橋野鉄鉱山の本当の歴史的価値を伝え続けることが私たちの大きな役割。『来て良かった。また来たい』と言ってもらえるようなガイドをしていきたい」と意欲を示した。
 
事例発表でこれまでの活動について話す釜石観光ガイド会の菅原真子さん

事例発表でこれまでの活動について話す釜石観光ガイド会の菅原真子さん

 
「明治日本の産業革命遺産」の他エリアのガイド活動などに理解を深める参加者

「明治日本の産業革命遺産」の他エリアのガイド活動などに理解を深める参加者

 
 この日夜には、走行する三陸鉄道車内を貸し切って交流会も開かれた。2日目はいよいよ、橋野鉄鉱山(橋野町青ノ木)の現地視察。釜石観光ガイド会の会員10人がアテンドした。市中心部から運行した送迎用大型バス2台にも会員が乗り込み、約30キロの道中ガイドも行った。現地では4グループに分かれ、会員の案内で一般公開されている高炉場跡の見学を行った。
 
構成資産の一つとなっている釜石市の「橋野鉄鉱山」。高炉場跡には3基の高炉の石組み、水路跡などが残る

構成資産の一つとなっている釜石市の「橋野鉄鉱山」。高炉場跡には3基の高炉の石組み、水路跡などが残る

 
種焼場跡にある石に磁石を近づけてみる参加者。鉄鉱石が今も残る

種焼場跡にある石に磁石を近づけてみる参加者。鉄鉱石が今も残る

 
 官営八幡製鉄所拡張に伴い、工業用水確保のために設置された「遠賀川水源地ポンプ室」が構成資産となっている長崎県中間市でガイド活動を行う下山要さん(84)は八幡製鉄所のOB。1901(明治34)年に記念すべき火入れが行われた東田第一高炉の第10次改修高炉(1962年から10年間稼働)で働いた経験を持つ。橋野鉄鉱山を初めて訪れ、「(八幡につながる)近代製鉄の基礎を作った大島高任さんの実績に触れることができ、感激です」と大喜び。各地のガイドとの意見交換も有意義だったようで、「皆さんの活動に刺激を受けた。ガイドを始めて12年になるが、若い人に語り継ぐ大切さを日々、感じている。できるだけ続けていければ」と思いを新たにした。
 
釜石観光ガイド会の会員らが橋野鉄鉱山について解説。ここで行われていた作業などを聞き、参加者も興味をそそられた

釜石観光ガイド会の会員らが橋野鉄鉱山について解説。ここで行われていた作業などを聞き、参加者も興味をそそられた

 
 長崎市の構成資産「端島炭鉱」(軍艦島)のデジタルミュージアム専属ガイド、政次斗志郎さん(71)は、端島の石炭が深く関わる製鉄の歴史に興味津々。田中製鉄所時代の釜石での“48回の失敗、49回目の成功”に触れ、「まさに失敗は成功のもと。最初はうまくいかなかった八幡製鉄所を釜石から招いた技術者が成功に導いたことも印象的」と話す。橋野鉄鉱山の高炉場跡を実際に歩いたことで、「鉄をつくるための天然の条件がすべてそろっていたのだと感じられた」。登録10周年にあたり、「多くの先人の失敗や犠牲に導かれ、今、私たちは文化的生活を送れている。歴史を知るとその大事さが分かる。これからもその伝道師として頑張っていきたい」と政次さん。
 
エリア内には山神社跡も。山の斜面には石碑が残る(右上)。案内したガイドは春に“石割桜”が花を咲かせる写真も見せた(右下)

エリア内には山神社跡も。山の斜面には石碑が残る(右上)。案内したガイドは春に“石割桜”が花を咲かせる写真も見せた(右下)

 
「また会いましょう!」世界遺産でつながるガイド仲間を見送る釜石観光ガイド会員ら

「また会いましょう!」世界遺産でつながるガイド仲間を見送る釜石観光ガイド会員ら

 
 釜石観光ガイド会の藤原信孝副会長は「登録10周年の年に全国のガイドの皆さんを釜石にお迎えできてうれしい。8エリアの一体感を感じた」と感慨深げ。一つの世界遺産ということを実感できると、「発信力も高まっていく。この世界遺産登録のおかげで、多くの人とのつながりもできた」と喜ぶ。この10年の間には、橋野鉄鉱山の台風被害、コロナ禍などガイド活動に影響を及ぼす事案も多々あった。「これからは蓄えてきたガイド力を存分に発揮する時期。若いガイドも育ってきているので、より活動を発展させていければ」と次の10年を見据える。

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鮮やか秋の味!釜石特産・甲子柿 生産組合が目揃会「豊作だけど、お早めに」

出荷シーズンを迎え、きれいに箱詰めされた甲子柿

出荷シーズンを迎え、きれいに箱詰めされた甲子柿

 
 釜石市特産の「甲子(かっし)柿」が出荷シーズンを迎えた。真っ赤に色づいた秋の味覚が道の駅や産直などを彩り、市民らが味わいを楽しんでいる。甲子柿の里生産組合(佐々木裕一組合長、24人・5団体)は28日、同市甲子町の林業センターで品質を確認する「目揃(めぞろえ)会」を開催。今年は豊作の見込みで、生産者は甘くとろける自慢の味を全国に届けようと意気込む。
 
 目揃会には生産者や市の担当者ら約20人が集まり、持ち寄った品の大きさや色つやなどを確かめた。佐々木組合長(74)によると、今季は高温、少雨と作物にとっても過酷な気候状況だったが、ふたを開けてみると実の出来は上々。何と言っても「味がいい」と太鼓判を押す。病害虫の被害も少なく、収量は「例年以上になる」と確信。糖度の高い仕上がりに自信ものぞかせた。
 
目揃会で出来を確かめ笑顔を見せる生産者ら

目揃会で出来を確かめ笑顔を見せる生産者ら

 
 今年仲間入りした甲子町(中小川)の自営業(製材)、外川直樹さん(52)が持ち込んだ品は試食用として振る舞われた。実は小ぶりながら色つやはよく、味についても先輩たちから「おいしい」との評価を得、ほっとひと息。パック詰めの仕方などまだ手探り状態なことも多く、組合員らの助言をしっかり聞いた。現在は庭木として育てる2本から約1000個を収穫し、知り合いの組合員のもとで渋抜きをしてもらっている。数年前に苗木10本を植えて増産へ準備中。「地域の一員として甲子柿を守りたい」と意欲を見せた。
 
鮮やかな紅色とぷるんとした食感が特徴の甲子柿

鮮やかな紅色とぷるんとした食感が特徴の甲子柿

 
一口大に切った柿を試食し甘さや食感を確かめた

一口大に切った柿を試食し甘さや食感を確かめた

 
 甲子柿は、渋柿の一種の小枝柿を「柿室(かきむろ)」と呼ばれる暗室で1週間ほどいぶして作る。渋抜きされた実はトマトのように赤く熟し、ゼリーのような柔らかい食感になる。地域の農林水産物や食品のブランドを守る地理的表示(GI)保護制度への登録や、機能性表示食品の認定も受け、全国からの引き合いが一層高まっている。
 
 そうした背景もあり、組合員の内舘靖さん(56)は新しい包装や発送の方法、高級感を持たせた仕様について、さまざまなアイデアを出す。個包装にして配達時に実が割れるのを防いだり、地元の銘酒浜千鳥と組み合わせた贈答パックを企画したり。市のふるさと納税返礼品としての取り扱いを視野に木箱に詰めたものも検討中だ。探究の原動力は「いいものを届けたい」との思い。「地域の魅力」「伝統の味力」として甲子柿を守り盛り上げるため、組合の仲間と試行を続ける構えだ。
 
木箱入りや特産品を組み合わせた贈答用パックの見本

木箱入りや特産品を組み合わせた贈答用パックの見本

 
 出荷作業は11月20日ごろまで続く見込み。市内では産直や一部スーパーで販売中だ。道の駅釜石仙人峠(甲子町)でも店頭を彩り、買い物客らが手に取っている。「話のタネに」と購入したのは、埼玉県さいたま市の平塚信也さん(63)。岩手県内陸部での用を済ませ、沿岸部を車で周遊する途中で立ち寄った。「駅にポスターがあって、気になっていた」と話し、「ゼリーみたいな感じなのかな…食べるのが楽しみ」と想像を膨らませた。
 
真っ赤な特産が所狭しと並んだ道の駅釜石仙人峠の店内

真っ赤な特産が所狭しと並んだ道の駅釜石仙人峠の店内

 
 目揃会に顔を出した道の駅の佐々木雅浩駅長は、豊作との見立てに期待をのぞかせ「自慢の味を少しでも多く販売したい」と張り切る。11月2日には甲子柿祭りを開催。食のほか、甲子郷小川しし踊り(市指定無形民俗文化財)の演舞(午前11時~)も楽しめる。
 
 同組合では市外への認知度アップも進める。10月31日、11月1日に藤崎百貨店前(宮城県仙台市)で開かれる「GI産品とうまいものフェア」に参加。販売会は11月5日・カワトク(岩手県盛岡市)、14日・さくら野百貨店八戸店(青森県八戸市)で予定する。

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“栗橋愛なら、だれにも負けない” 栗林小児童 郷土の偉人の劇や合唱で学習成果発表

栗林小学習発表会「栗っ子祭り」=25日、同校体育館

栗林小学習発表会「栗っ子祭り」=25日、同校体育館

 
 釜石市の栗林小(高橋昭英校長、児童25人)は25日、本年度の学習発表会「栗っ子祭り」を同校の体育館で開いた。児童自らが考え、掲げたスローガンは「みせよう25人の成長~栗橋愛なら、だれにも負けない~」。全校児童が力を合わせ、創り上げた劇や合唱を集まった保護者や地域住民に披露し、“栗っ子魂”を存分に発揮した。
 
 1、2年生が開会のあいさつ。全校児童が11月の小中学校連合音楽会に向け取り組んでいる合唱「大切なもの」「さんぽ」の2曲を歌った。1~4年生15人による劇は、宮沢賢治の童話をモチーフにした「どんぐりと山ねこ」。セリフに地元の名所“橋野鉄鉱山”や“義人桜”などを取り入れ、地域色豊かに物語を展開した。おなじみの「誰が一番偉いか」で争うどんぐりたちの裁判では、児童一人一人が、これまでにできるようになったことをアピール。「漢字を書けるようになった」「リコーダーをうまく吹けるようになった」「かけ算ができるようになった」など成長ぶりを示した。
 
「最後まで心を込めて発表します。ごゆっくりご覧ください!」開会のあいさつをする1、2年生(上)。児童たちが考えたスローガンも掲示(下)

「最後まで心を込めて発表します。ごゆっくりご覧ください!」開会のあいさつをする1、2年生(上)。児童たちが考えたスローガンも掲示(下)

 
全校合唱では心を一つに歌声を重ねた(上)。発表会には保護者のほか多くの地域住民が来場(下)

全校合唱では心を一つに歌声を重ねた(上)。発表会には保護者のほか多くの地域住民が来場(下)

 
1~4年生が演じた劇「どんぐりと山ねこ」。宮沢賢治の名作を“栗小バージョン”で

1~4年生が演じた劇「どんぐりと山ねこ」。宮沢賢治の名作を“栗小バージョン”で

 
どんぐり裁判の場面では児童たちが頑張ったことをアピール。保護者はわが子の成長をうれしそうに見つめた

どんぐり裁判の場面では児童たちが頑張ったことをアピール。保護者はわが子の成長をうれしそうに見つめた

 
 2年児童の母葛西祐香さん(31)は「1年生の時に比べ、すごく成長しているのを感じられた」と喜びの笑顔。「3年生になっても楽しみながら学びを深め、さらに成長していってくれたら」と期待を込めた。
 
 5、6年生10人は、江戸時代末期、嘉永の三閉伊一揆(1853年)の指導者の一人として村人を救った地元の「三浦命助」を題材に劇を発表した。「ふるさと学習」で、郷土の偉人である命助について学んできた児童ら。「石碑があるのは知っていたけど…」「偉人なのに、なぜ牢に入れられた?」など、さまざまな疑問を出発点に調べ学習を進めてきた。その集大成がこの劇。講談師役の2人が命助の生涯を紹介しながら物語を展開。命助家族が盛岡藩の厳しい課税に頭を悩ます場面、命助ら沿岸各地の農民が仙台藩への越訴を目指す場面、要求はかなったものの脱藩の罪で牢に入れられた命助が、面会に来た地元民に思いを託す場面を全員で演じ切った。
 
5、6年生は江戸時代に地域住民を救った三浦命助の劇を発表。これまでの学びの成果を物語に織り込んだ

5、6年生は江戸時代に地域住民を救った三浦命助の劇を発表。これまでの学びの成果を物語に織り込んだ

 
「小○」の旗を掲げ、仙台藩への越訴を決意。長い道のりでけが人も出るが、要求を認めてもらうため、必死に歩き続ける

「小○」の旗を掲げ、仙台藩への越訴を決意。長い道のりでけが人も出るが、要求を認めてもらうため、必死に歩き続ける

 
 劇中では、今年4月に県指定文化財となった命助関係資料(35点)の一つ「獄中記」を、命助が家族に届けてほしいと託す場面も。有名な一節「人間は三千年に一度咲く優曇華(うどんげ)なり」という言葉とともに、命の尊さ、人としてのまっとうな生き方を伝えようとした姿をしっかり表現した。児童らは、命をかけて戦った命助の「最後まであきらめない心、相手を思いやる心は今、私たちにも受け継がれ宿っています」と栗橋住民の誇りを表した。
 
盛岡の牢に入れられた命助は、自らの思いを記した「獄中記」を見舞いにきた松之助に託す

盛岡の牢に入れられた命助は、自らの思いを記した「獄中記」を見舞いにきた松之助に託す

 
劇の最後には命助から学んだことを発表。「誰かを思う温かい心をこれからも大切にしていく」と決意を述べた

劇の最後には命助から学んだことを発表。「誰かを思う温かい心をこれからも大切にしていく」と決意を述べた

 
 命助役の遠野姫瑠さん(6年)は「気持ちを込め、命助さんになりきって一生懸命演じました」。みんなで心を一つにした舞台は「100点満点!」と自信をのぞかせた。劇のタイトル“やり遂げる覚悟”を自らの人生に重ね、「私も自分の決めた目標や将来の夢を達成できるように頑張りたい」と意識を高めた。「まちの人のために良いことをやった命助さんがなんで捕まったのだろう」と興味を持った八木澤敬斗さん(5年)は、「調べ学習はワクワクして楽しかった」と振り返る。劇では一揆に参加した農民の一人を演じた。一揆に向かうところは「自分たちが何かをやる時にみんなで力を合わせるのと似ていた」と話す。命助は「憧れの人。自分もそういう人になりたい」と理想の人間像を描いた。
 
 高橋校長は「一人一人が自ら進んで、いきいきと活動していた。学年の垣根を超えて、助け合いながら準備や練習に取り組む姿を心からうれしく思った」と感激し、教職員、家族、地域住民の支えに深く感謝した。同校は9月末に策定された同市学校規模適正化・適正配置推進計画で、2027年度を目標とする鵜住居小との統合が計画される。今後、統合準備委員会が設置され、具体的検討が始まる見込み。「子どもたちの不安を少しでも解消し、一緒になった時により良い学校生活が送れるよう全力を尽くしたい」と高橋校長。
 

心温まる発表会 栗林小に思いを寄せる人たち多数来場 伝統のPTA合唱でサプライズも

 
栗林小の伝統、PTAによる「コールマロン」の合唱

栗林小の伝統、PTAによる「コールマロン」の合唱

 
 地域とともに歴史を重ねてきた栗林小。栗っ子祭りには30年以上前から続く伝統のプログラムがある。PTAでつくる「コールマロン」の合唱。今年は「もみじ」「365日の紙飛行機」の2曲を歌った。
 
 同活動を始めた当時のPTAは今、現児童の祖父母世代に…。子ども3人が同校に通い、現在は孫が在籍する藤原マチ子さん(73)も“初代”コールマロンの一人。この日は同世代の洞口政伸・栗林共栄会長の“鶴の一声”で同合唱に飛び入り参加。「伝えるべきものが今に受け継がれているのはうれしい限り」と声を合わせた。児童数が減少する中でも「先生方は時代に合った教育を一生懸命やってくれている。地域とのつながりを大事にしてくださっていることにも感謝」と話した。
 
発表会には栗林小前校長の八木澤江利子さん(手前)も招かれた1

発表会には栗林小前校長の八木澤江利子さん(手前)も招かれた

 
 この日は、昨年度まで3年間、同校校長を務めた八木澤江利子さん(現宮古市立田老第一小校長)も駆け付けた。同合唱では、高橋校長のサプライズ指名で「もみじ」を指揮。児童らの発表で一段と成長した姿を目にし、うれしそうな表情を浮かべた。「栗林小の子どもたちはすごく真っすぐで、何事にも全力。地域の偉人の劇では、脈々とこの地に受け継がれている信念や人々の思いをしっかり受け止め、表現している。子どもたちの頑張りにはいつも元気をもらう」と八木澤さん。同祭りは「この地域にとってかけがえのないもの」と実感する。
 
八木澤さんの指揮で「もみじ」を合唱。会場はふるさとを思う温かい空気に包まれた

八木澤さんの指揮で「もみじ」を合唱。会場はふるさとを思う温かい空気に包まれた

 
 八木澤さんと栗橋地域にはもう一つ、深い縁がある。八木澤さんの誕生時、教師だった両親が橋野小和山分校に赴任していたこと。自身は生まれたばかりで記憶はないが、事あるごとに両親から和山での生活について聞いていたという。「生まれた時、そしてまた半世紀の時を経て、この地域の皆さまには大変お世話になり支えられた」と感謝の思いを口にした。

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伝統、世代、思いつなぐ「釜石まつり」 神輿・曳き船 勇壮、華やかに練る

2基の神輿が市街地を練り歩く釜石まつり=19日

2基の神輿が市街地を練り歩く釜石まつり=19日

 
 釜石市の尾崎神社(浜町)と日本製鉄北日本製鉄所釜石地区山神社(桜木町)合同の「釜石まつり」(同実行委主催)は17日から3日間にわたって行われ、秋の気配を感じるまちに華やかな色彩を加えた。18日は呼び物の「曳(ひ)き船まつり」が釜石湾内で繰り広げられ、最終19日は神輿(みこし)が市中心部を練り歩いた。沿道は多くの見物人でにぎわい、主催者によると、18、19の2日間で約1万3000人の人出があった。
 
多くの見物人でにぎわう曳き船まつり=18日

多くの見物人でにぎわう曳き船まつり=18日

 
 曳き船まつりは、尾崎神社の神輿が海上を渡御する伝統神事。尾崎半島青出浜の同神社奥宮で神輿にご神体を迎えた16隻の船団が港に戻ると、神楽や虎舞などの郷土芸能団体が威勢のいいかけ声、太鼓や笛の音を響かせ歓迎した。色鮮やかな大漁旗を掲げた船団は湾内を3周。海上安全や豊漁などを祈願した。
 
神輿をのせたお召し船を中心に十数隻が大漁旗をなびかせた

神輿をのせたお召し船を中心に十数隻が大漁旗をなびかせた

 
 釜石市出身でまつり見物のため里帰りした静岡県在住の德原まりのさん(31)は「おはやしを聞けば胸が高鳴る」と楽しむ。子どもの頃、南部藩壽松院年行司支配太神楽のメンバーとしてまつりに参加していたといい、「海から見ていた景色を初めて浜から見た。新鮮だった」とにっこり。夫正伸さん(34)や2人の子どもたちは初見で、「船が(海上を)練り歩くのに感動した」と、目を大きくした。
 
 昨年は悪天候で中止になったため2年ぶりの開催だった。今年は乗船する人数が限られ、芸能団体の演舞はおはやしが中心となり、「寂しいな」との声も。それでも、まつりは人が集まるきっかけにもなり、市内の野澤晴美さん(58)は「子や孫と3世代で楽しめた。また来年も」と願った。
 
秋めく街中を練り歩く尾崎神社の六角大神輿=19日

秋めく街中を練り歩く尾崎神社の六角大神輿=19日

 
 合同神輿渡御には郷土芸能15団体を含む約1500人が参加。鈴子町のシープラザ釜石西側駐車場で合同祭の神事を行った後、魚河岸までの目抜き通りを2基の神輿が練り歩いた。先導した各団体が、途中の「御旅所」や大町のお祭り広場で神楽や虎舞、鹿踊りなどを披露。沿道の見物客から盛んな拍手を受けた。
 
尾崎神社と日本製鉄山神社の神輿が並んで街を練る

尾崎神社と日本製鉄山神社の神輿が並んで街を練る

 
お祭り広場で鹿踊りなどの芸能が披露された

お祭り広場で鹿踊りなどの芸能が披露された

 
 大町から只越町の目抜き通りで、2基の神輿は並んでゆっくりと進んだ。出迎えた市民らはさい銭をあげて神輿に手を合わせ、地域の守り神に感謝。80代の女性はこれまで子どもの成長や地域の安寧などを願ってきたというが、今年は自身の思いを祈りに込めた。「来年も(守り神に)会えるよう、元気でいるから」。神輿を見送り、「歳をとると一年は貴重なの」と柔らかな笑顔を見せた。
 
さい銭で気持ちのやりとりをする親子と行列参加者

さい銭で気持ちのやりとりをする親子と行列参加者

 
通りを練り歩く神輿に手を合わせる釜石市民ら

通りを練り歩く神輿に手を合わせる釜石市民ら

 
 尾崎神社の神輿担ぎ手団体「輿衆(よしゅう)会」は、近隣の大槌町などからの助っ人と声を合わせ六角大神輿を担ぎ上げた。メンバーで岩手県職員の伊藤満さん(49)=大船渡市在住=は「重みが肩にずっしり。大変だけど、みんなで力を合わせられるのがいい」と笑みをこぼす。東日本大震災前に当時の会長から誘われ参加し、「何となく担いでいた」。その人は震災の津波で帰らぬ人に。まつり継続への思いを引き継ぎ、「地域振興につながるよう、できることを続ける」と熱を込めた。
 
目抜き通りを練り歩く日本製鉄山神社の神輿

目抜き通りを練り歩く日本製鉄山神社の神輿

 
小さな神輿は製鉄所に勤める社員らの子どもが担ぎ手に

小さな神輿は製鉄所に勤める社員らの子どもが担ぎ手に

 
 釜石製鉄所に勤務する村上陽平さん(27)は「歴史あるまつりを継承する一役を担う」と気持ちを込め、山神社の神輿を肩にのせた。釜石シーウェイブス(SW)RFCに所属するラグビー選手でもあり、チームメート7人とともに参加。3カ月前に合流したオーストラリア出身のルル・パエアさん(22)ら海外出身選手が「新鮮で、めっちゃおもしろい」と楽しむ様子を見つめ、「日本の伝統文化に触れ、地域になじんでもらえたら」と期待する。声を出しチームを盛り上げるスクラムハーフ(SH)の村上さん。「勝利へエナジー、パッションを与えていく」と顔を上げた。
 
 さい銭を首から下げ、まつり行列に参加した二村沙羅さん(22)は、神奈川県在住の大学生。「ありがとうございます」と言葉を交わし、見物人と交流した。釜石市のお試し移住制度を活用し滞在中で、地元とは違った文化に触れる機会を満喫。「若い人たちが声を出して盛り上げているのがいい。朝から活動ができ、健康的な生活ができる」と、街の印象を話した。
 
神楽や虎舞など各団体が伝統の舞いで魅せる

神楽や虎舞など各団体が伝統の舞いで魅せる

 
 行列が魚市場御旅所に到着すると、神楽、虎舞の6団体が最後の踊りを奉納。尾崎神社の神輿はご神体を奥宮にかえすため船にのせられ、各団体がはやし立てる中、岸壁を離れた。見送りは船が見えなくなるまで続いた。

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岩手3世界遺産(平泉・橋野鉄鉱山・御所野遺跡)を同時発信 登録10周年の釜石でまつり

3世界遺産応援団キャラクターと記念撮影!(左から)かまリン、ケロ平、ごしょどん

3世界遺産応援団キャラクターと記念撮影!(左から)かまリン、ケロ平、ごしょどん

 
 国内最多、鹿児島、奈良両県と並んで3つの世界遺産を有する岩手県。その価値を一堂に発信し、理解や誘客につなげようと、県主催の「いわて世界遺産まつり」が今年も開かれた。会場となったのは、登録から10周年を迎えた「橋野鉄鉱山」がある釜石市。11、12の両日、同市大町の市民ホールTETTOで開催され、来場者が講話やディスカッション、展示で遺産への理解を深めるとともに、民俗芸能や音楽ライブを楽しんだ。
 
 本県の世界遺産は2011年登録の「平泉(の文化遺産)」、15年登録の「橋野鉄鉱山」、21年登録の「御所野遺跡(一戸町)」の3つ。橋野鉄鉱山は「明治日本の産業革命遺産(8県11市23資産)」、御所野遺跡は「北海道・北東北の縄文遺跡群(4道県13市町17資産)」の構成資産として登録された。同まつりは22年から始まり4回目の開催。釜石が会場となるのは23年以来2回目となる。
 
本県の3世界遺産を紹介するパネル展示。子どもたちはブロックに目がくぎ付け

本県の3世界遺産を紹介するパネル展示。子どもたちはブロックに目がくぎ付け

 
 12日のイベントではオープンスクールとして、平泉と橋野鉄鉱山の概要などを学べる講話があった。平泉町世界遺産推進室長補佐の島原弘征さんは、奥州藤原氏が目指した仏国土(仏の教えによる平和な理想社会)について「(世界遺産になった)中尊寺金色堂や毛越寺の浄土庭園は平和の理念を当時の人々に分かりやすく伝えるためのもの。最先端の技術を使い、文化レベルの高さを示すことで、朝廷(京都)と対等な関係を築こうとした」と解説。池の形や道路の位置など当時の地形、風景が状態よく残っていたことも評価のポイントに挙げた。
 
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平泉の文化遺産について説明する島原弘征さん(右下)

 
 釜石市教委文化財課世界遺産室長の森一欽さんは、明治日本の産業革命遺産について「イギリス、フランスでは約200年かかった産業革命を、日本では60年ぐらいで成し遂げている」と、その価値を示した。同遺産は「製鉄・製鋼」「造船」「石炭」の3分野を基盤に急速な発展を遂げていく過程を3段階で示す。①試行錯誤の挑戦…萩や韮山の反射炉建設、大島高任が蘭学書を頼りに釜石で高炉を建設し、鉄鉱石からの鉄づくりに成功した時期。②西洋の科学技術の導入…外国人技術者の招へいによって西洋の科学技術導入が進み、長崎の造船、石炭産業が発展していく時期。③産業基盤の確立…釜石のコークス炉の技術を導入した官営八幡製鉄所が成功。長崎(端島)、三池の石炭産業が近代化され、日本が国際水準に達していく時期。森さんは釜石と他の遺産エリアとのつながりも紹介。製鉄では「近代製鉄発祥は釜石。達成は八幡」と覚えやすいフレーズを残した。
 
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釜石市の森一欽さんは明治日本の産業革命遺産について分かりやすく解説した

 
 会場では岩手の世界遺産に関係したものづくりのワークショップを開催。御所野は組紐、橋野は鋳造、平泉は絵付け体験などを実施。県内高校生による民俗芸能公演もあった。音楽ライブには奥州市出身の鶴田流薩摩琵琶演奏家千山ユキさん、大槌町出身の大久保正人さんを中心に結成する音楽集団「和美東(わびとう)」が出演した。千山さんは源氏物語をテーマにした「春の宴」、奥州藤原氏初代清衡の平和への願いを込めたオリジナル曲「修羅と浄土」を披露。和美東は、自然や神への思いを込めた「光る海」「涙の糸」など4曲を演奏。両者のコラボで「祇園精舎」、宮沢賢治作品「ポラーノ広場」の中の歌曲も披露した。
 
高校生の民俗芸能披露の場を提供するのも目的の一つ。写真は花巻農業高の鹿踊(ししおどり)

高校生の民俗芸能披露の場を提供するのも目的の一つ。写真は花巻農業高の鹿踊(ししおどり)

 
鶴田流薩摩琵琶演奏家の千山ユキさん。なかなか触れる機会のない弾き語りに来場者はじっくりと聞き入った

鶴田流薩摩琵琶演奏家の千山ユキさん。なかなか触れる機会のない弾き語りに来場者はじっくりと聞き入った

 
「和美東」は和と洋を融合させた独自の音楽で観客を魅了。千山さんの琵琶ともコラボした

「和美東」は和と洋を融合させた独自の音楽で観客を魅了。千山さんの琵琶ともコラボした

 
被災家屋のタイルや屋根瓦も楽器に…深みのある音色を作り出す

被災家屋のタイルや屋根瓦も楽器に…深みのある音色を作り出す

 
 母親と訪れた市内の小学生菊池芽生さん(10)は来場とともに体験コーナーへ。スズを溶かして鋳造するキーホルダーづくりを楽しんだ。干支の“羊”をかたどり、「(出来栄えは)まあ、いいほうかな」とにっこり。県内の世界遺産は「橋野と平泉は知っていた。3つもあるのはすごいと思う」。歴史が好きで大河ドラマも視聴。行ってみたい世界遺産を聞いてみると「清水寺(古都京都の文化財、1994年登録)」との答えが返ってきた。
 
釜石・鉄の歴史館でおなじみの鋳造体験。高温で溶かしたスズを流し入れてキーホルダーを作る

釜石・鉄の歴史館でおなじみの鋳造体験。高温で溶かしたスズを流し入れてキーホルダーを作る

 
 県文化スポーツ部文化振興課の和田英子総括課長は「世界遺産は価値の普及が大事。保存の必要性を知り、世界の宝としてみんなで守り、引き継いでいく姿勢が必要」と話す。3遺産は地理的距離があり、「県外の方は1回で回るのは難しいと思うので、先々でのさまざまな観光も楽しみに何回も足を運んでもらえれば」と期待する。

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虎舞を国際交流のツールに 郷土芸能伝承を考える釜石高生ら 魅力再認識し担い手増加策に意欲

釜石高生が披露する虎舞を楽しむハワイからの観光客=10日、箱崎集会所

釜石高生が披露する虎舞を楽しむハワイからの観光客=10日、箱崎集会所

 
 郷土芸能「虎舞」を通じた地元高校生と外国人観光客の交流会が10日、釜石市箱崎町の箱崎集会所で開かれた。虎舞を披露したのは、郷土芸能の担い手不足解消をテーマに研究する釜石高2年のゼミグループメンバーを中心とした有志11人。同市の観光地域づくり法人かまいしDMCの企画に協力した。「みちのく潮風トレイル」を目的にハワイから来日した3人に演舞を披露。お囃子(はやし)や虎の頭(かしら)を操る体験もしてもらい、郷土色豊かな国際交流が繰り広げられた。
 
 この日集まった1、2年生11人は居住する釜石、大槌、山田3市町で、虎舞や神楽、鹿踊(ししおどり)の団体に所属。夏に米国や中国からの訪日学生に虎舞を披露した経験もあり、同社から声がかかった。生徒らは自己紹介や踊りの演目説明を英語で行い、虎舞の代表的演目「矢車」「跳ね虎」「笹ばみ」を披露した。
 
自己紹介や虎舞の解説は日本語の後に英語で。女子生徒2人が担当

自己紹介や虎舞の解説は日本語の後に英語で。女子生徒2人が担当

 
春のうららかな日差しを浴びて虎が遊び戯れる様子を表現した「矢車」

春のうららかな日差しを浴びて虎が遊び戯れる様子を表現した「矢車」

 
威勢のいいお囃子とかけ声で演舞を盛り上げるメンバー(左)。外国人客は初めて見る虎舞にこの笑顔(右)

威勢のいいお囃子とかけ声で演舞を盛り上げるメンバー(左)。外国人客は初めて見る虎舞にこの笑顔(右)

 
 演舞の後は体験コーナー。外国人客は囃子の一節を太鼓で叩いたり、虎頭を動かしてみたりと初めての体験を楽しんだ。生徒らは覚えている英単語と身ぶり手ぶりで、道具の使い方を教え、地域の芸能の魅力を発信した。
 
 同社によると、みちのく潮風トレイルを訪れる訪日客は増加傾向にあり、市内では箱崎白浜の「御箱崎の宿」や根浜の「宝来館」、キャンプ場に宿を取るハイカーが目立つという。こうした訪日客は地元住民との交流も大切にしており、今回は同社が管理する御箱崎の宿の宿泊者向けに同交流会を企画した。リー・ベリンダさん(45)は「とても感動的。踊ってみると簡単じゃないことが分かって、パフォーマンスの素晴らしさを実感した」、チョー・ダンさん(48)は「若い高校生世代が地域に伝承しようと活動する姿に感銘を受けた。踊りや音楽の歴史的、文化的背景について知っているのも素晴らしい」と、貴重な体験を喜んだ。
 
外国人客は虎頭や幕の動かし方を教わって踊り体験

外国人客は虎頭や幕の動かし方を教わって踊り体験

 
お囃子の太鼓にも挑戦!見よう見まねでリズムを刻む

お囃子の太鼓にも挑戦!見よう見まねでリズムを刻む

 
 ゼミメンバーの一人で、幼い頃から只越虎舞で活動する菅田悠真さん(2年)は「郷土芸能の魅力を発信する上で、海外の人の印象を知ることも必要。英語をもっと頑張って発信力を高めたい」と意気込む。国際交流を機に有志で結成する“釜石高虎舞”は「今までの団体間の垣根を超えて、もっと広い視点で虎舞を広めていこう」と、生徒らが各団体の良さを融合させて演舞。男女や居住地関係なく門戸を開き、担い手育成につなげたいとの思いも込め、新たな活動を模索する。
 
最後は集まったみんなでお囃子体験。外国人客も声を出して一体感を味わう

最後は集まったみんなでお囃子体験。外国人客も声を出して一体感を味わう

 
 同企画を立案した、かまいしDMCで活動中の市地域おこし協力隊の木野遥香さん(24)は「箱崎半島を訪れる訪日客は漁村文化の体験にも関心が高い」との感触を得て、海岸部に古くから伝わる虎舞に着目。釜石高“郷土芸能ゼミ”の活動を知り、今回のオファーにつなげた。「高校生が国際交流できる機会を提供すると同時に、訪日客が釜石を訪れる際の付加価値のようなものを見い出せれば。交流会の継続開催を視野に、より良い形を考えていきたい」と木野さん。先輩社員らと今後の展開に夢を膨らませる。
 

現在進行中! 釜石高“郷土芸能ゼミ”とは? 三陸国際芸術祭で活動紹介

 
郷土芸能の担い手不足解消をテーマに探究活動を行う釜石高2年生のゼミメンバー

郷土芸能の担い手不足解消をテーマに探究活動を行う釜石高2年生のゼミメンバー

 
 釜石高の2年生が取り組むゼミ活動は、生徒たちの興味や疑問を出発点に自らテーマを決め、調査・研究などの探究活動を行うもの。数人がグループとなり1年を通して活動するが、今年度、地域課題に目を向けたグループの一つが「郷土芸能ゼミ」。担い手不足をどう解消するか―をテーマに活動している。5日は市民ホールTETTOで開かれた「三陸国際芸術祭」に参加。自分たちの活動についても紹介した。
 
 同ゼミメンバーは普段、各地の郷土芸能団体で活動する5人。釜石市の玉木里空さん(東前太神楽)、菅田悠真さん(只越虎舞)、三浦海斗さん(小川しし踊り)、大槌町の三浦神虎さん(陸中弁天虎舞)、山田町の山﨑柚希さん(八幡太神楽)だ。「年々、郷土芸能に参加する若者が少なくなっている」と感じていたことから、地域の祭りを途切れさせないためにも担い手を増やしたいと考えた。
 
5日に行われた三陸国際芸術祭で自分たちの活動を紹介=TETTO

5日に行われた三陸国際芸術祭で自分たちの活動を紹介=TETTO

 
 「郷土芸能について詳しく知らないため、参加しづらいのでは?」と仮説を立てた5人。検証のため、地域の小中高生にアンケートを行った。郷土芸能に対しての印象、芸能団体への所属状況、祭り参加者を増やすための方策など6項目について聞いた。浮かび上がったのは、参加への敷居の高さや送迎問題、少子化による影響。さまざまなデータを得て、担い手を増やすには▽地域を限定しない受け入れ態勢▽各団体が互いに尊重し合い、協力し合える関係の構築▽効果的な魅力発信―などの必要性を感じた。
 
観客にも問いかけながら活動発表。「郷土芸能は絶対に絶やしてはならない」との声があった

観客にも問いかけながら活動発表。「郷土芸能は絶対に絶やしてはならない」との声があった

 
ゼミメンバーらは会場で演舞を披露した鵜住居虎舞の演目「跳ね虎」も体験

ゼミメンバーらは会場で演舞を披露した鵜住居虎舞の演目「跳ね虎」も体験

 
 4、5の両日、開催された同芸術祭には約3千人が来場。同ゼミメンバーは若手芸能者が継承について語り合う公開ディスカッションにも参加し、多くの学びを得た。玉木さんは郷土芸能への興味、関心の高さを感じ、「担い手の一員としてうれしい。自分たちの芸能に誇りを持ってやっていける」と励みになった様子。ゼミでは今後、釜石、大槌の団体を招いて地元小中高生に伝統芸能の良さを体験してもらう会も開きたい考えで、「次世代を担う自分たちが積極的に動くことで担い手を増やし、地元郷土芸能を盛り上げていきたい」と意を強くする。