火災から地域を守る!釜石市消防団の教育訓練 団員ら、初歩大事に技術高める

釜石市消防団の基本教育訓練で消防車両から放水
釜石市消防団(菊池録郎団長)の基本教育訓練は10月5日、同市鈴子町の釜石消防署で行われ、団員らが複数台の消防車両を用いてホースを中継する手順などを確認した。この日は、幹部団員の研修会も実施。奏功事例をもとに“消防団の強み”を改めて考え、地域の防災を担う意識を高めた。
市消防団は市内を8つの区域に分け、8分団35部で構成される。団員数は計514人(8月1日現在)。東日本大震災以後、被災地域では消火技術を競う操法大会(2年に1回開催)や消防演習などが縮小され、続く新型コロナウイルス禍による団体活動の制限などで訓練の機会も減っていた。団員数の減少がある一方、新入団やキャリアの浅い団員もいることから、代替として昨年から基本教育訓練を実施。今年も継続し、5回に分けて行っている。

消防活動の基本となる礼式訓練
3回目の訓練となった5日は、5分団(甲子地区)と7分団(栗橋地区)から約30人が参加。敬礼などの礼式の訓練や服装点検などの後、消防隊や各分団が連携した中継訓練に取り組んだ。
消火栓やため池などの水利施設から離れた火災現場での活動を想定。各分団に配備されているポンプ車を操作し、離れた場所まで適切な圧力で水を送り出す方法を確認した。団員らはホースを延ばし、車両2台を連結。消火栓近くに待機した車両が送水を開始すると、各分団員は情報をトランシーバーで伝え合い、水圧を一定に保てるよう動作を調節した。水は数分で端まで到達し、放水が行われた。

各分団の消防ポンプ車を使った中継訓練の様子

訓練で消火活動や情報伝達の流れを確かめた

火元に見立てた的に放水。緊張感を持って実践
団員の多くは仕事などで地区外に出ていることから、いざ火災が発生した場合は地区内にいる団員らがいち早く駆け付け初期の準備を進める。分団、部が連携する中継活動は「あり得る」と団員ら。訓練では、全自動型の小型動力ポンプ積載車には他の車両から延びたホースをつなぐ連結口がないことが分かるなど収穫があった。

訓練に臨む仲間の様子をじっと見つめる参加者
7分団1部の前川英之部長代理(54)は「住家、山火事など火災の種類や状況、人員の数によって車両の配置、資機材のセッティングは違ってくる。経験や訓練の積み重ね、一つ一つが大事になる」と話す。礼式は先輩から後輩に伝えられるものの、整列した形で基本姿勢を確認する機会は多くない。入退団による入れ替わりもあり、教育訓練の実施を歓迎。「若手もベテランも一緒に確認し、得たものを共有して地域を守っていく」と気持ちを引き締めた。

訓練で得た情報を共有する7分団1部の団員たち
幹部研修会には団本部と各分団から50人余りが参加。同署の小笠原研也副署長を講師に、市内で発生した建物火災での消防団の対応を振り返った。住宅の被害は全焼・部分焼を含め計7棟。背後に山林があり延焼の恐れもあったが、包囲隊形の構築や命令系統の確立、地理・水利への精通などが功を奏し、被害の拡大を防いだ。消防団の強みとされる▽地域密着性▽要因動員力▽即時対応力―が発揮された事例となった。

消防団の強みが生かされた事例を振り返った幹部研修会
消防団は地域住民にとって身近な防災機関であり期待も大きいが、それぞれになりわいを持つ人で構成される組織の運営は難しさがある。それらを念頭に置きつつ、部下への指導や後継者づくりへの配慮といった心得を示した小笠原副署長。釜石市を会場に11月8日実施予定の岩手県総合防災訓練での役割分担についても説明した。
菊池団長は「初歩に戻って、しっかりマスターすることで団員が積極的に取り組んでいける」と話し、訓練や研修の意義を強調した。震災後は高度な訓練ができない状況だったが、来年には釜石、遠野、大槌の3市町の消防団が一堂に会す操法競技会が釜石で開かれる予定で、「やっとやれる」とうなずく。今回の訓練の内容や各分団の活動で参考になる事例を仲間と共有し、レベルアップを図ってほしいと求めた。
「できることで地域の役に立ちたい」 女性団員、活躍中

消防署員から教わりながら訓練に臨む小林真由美さん(右)
この日の訓練に、女性団員が1人参加した。5分団1部で活動中の小林真由美さん(31)。先輩団員の動きを見ながら後方でホースを延ばす補助役を担った。「まだ知らないことばかり。消火活動の流れを理解してパッパと動けるようにしたい」。基本の姿勢を吸収しようと集中した。
小林さんは「ヤクルトレディ」(販売員)として市内の家庭や企業などにヤクルトを届けている。偶然か必然か、担当区域には消防署も。職場にあった消防団員募集のチラシを目にし、「何か役に立てるなら」と入団、3年目になる。
団員としての活動は月1回、防火の呼びかけで夜間に地域を巡回する。仕事中に防災無線で出動要請を受け駆け付けたのは数回。現在は、先に到着している車両や先輩団員たちの活動を「見守っている状態」だという。
消防車両での移動も後部座席に乗っていて、「申し訳ない気持ち」だった。自分にできることを考え、思いついたのは運転。部に配備されているポンプ車は「準中型」免許(車両総重量3.5トン以上7.5トン未満)が必要で、市の補助金制度を活用し取得した。運転免許はオートマチック(AT)車限定だったことから、その限定も解除。マニュアルトランスミッション(MT)のポンプ車の運転はまだ「コワイ」が、一員として「何かできる」と実感を得る。

消防車両の運転席から顔をのぞかせる小林さん
小林さんは積極的に訓練に参加することで技術を身につけ、「実際の現場で力を出せるようになりたい」と意気込む。小学生から中学生まで3人の子育て中で、「家族の応援や理解があるからできる」と感謝する。消防出初式に参加した際に子どもたちからかけられた「かっこいいじゃん」との声を心に留めつつ、「地域も家庭も守る意識を持ち続け、頑張ります」と笑顔を見せた。

小林さんは所属する5分団1部の先輩団員と訓練に臨んだ
そんな小林さんを部の仲間があたたかく見守る。「本人にやる気があり、女性ならではの視点で指摘してくれるから助かる」と菊池寛部長(53)。同部には女性団員がもう1人おり、2人のこれからの成長に期待を寄せた。
同署によると、市内では現在16人の女性団員が活躍している。基本教育訓練は10月26日、11月16日にも予定される。

釜石新聞NewS
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