夫婦で歌声を披露した倍賞千恵子さんと小六禮次郎さん
エンターテインメントを通じた東日本大震災復興支援活動を続ける一般社団法人チームスマイル(東京都渋谷区)の「”わたしの夢”応援プロジェクト」で、女優の倍賞千恵子さんが2月26日、釜石市を訪れた。倍賞さんがナレーションを務めた映画「世界でいちばん美しい村」の上映やトークショー、ミニコンサートが行われ、160人の観客を楽しませた。
イベントは大町の情報交流センター釜石PITで開かれ、倍賞さんと同映画を撮影した石川梵監督、倍賞さんの夫で作曲家の小六禮次郎さんがゲストに招かれた。
「世界でー」は、2015年のネパール大地震で甚大な被害を受けたヒマラヤ山岳地帯の震源地の村「ラプラック」で生きる人々を追ったドキュメンタリー映画。写真家の石川さんが自身初の映画製作に挑んだ。
同村は標高2200メートルの傾斜地にあったが、地震で地盤が緩み生活が困難になったため、村人の大半は徒歩で1時間半登った標高2700メートルの高地でキャンプ生活を送っている。石川監督は壊滅した村で出会った14歳の少年とその家族に思いを寄せ、被災後の一家の暮らしと村の復興への歩みを映像に収めた。厳しい環境の中で明るくたくましく生きる姿、家族の絆、神への祈り―。雄大な自然に育まれながら生きる人々の強さが圧倒的な映像美とともに見る者を引き込む。
トークショーで石川監督は「同じ被災という経験をした東北の人たちにぜひ見てもらいたい映画。気持ちを共有して、ネパールと何らかのつながりが生まれれば」と期待。倍賞さんは「人間が生きていく原点みたいなものを学んだ気がして、自分自身の生き方を見つめ直した。東北もこれからいろいろな問題が起きてくると思うが、心を込めて話し合えば人は必ず通じ合える。頑張っていきましょう」とエールを送った。
ミニコンサートでは、倍賞さんが小六さんとステージに。代表作の映画「男はつらいよ」から「さくらのバラード」、自身最大のヒット曲「下町の太陽」など7曲を聞かせ、年配客らの懐かしさを誘った。
大只越町の森美智子さん(73)は「国や宗教が違っても人間の根本的な営みは変わらないと感じた。倍賞さんの歌声は声量もあって素晴らしい。元気をもらった」と満足そうに会場を後にした。
同プロジェクトの釜石でのイベントは昨年8月の布袋寅泰さん、10月の川淵三郎さんに続き今回で3回目。
倍賞さん 釜石高で交流、音楽部員にアドバイス〜忘れられない思い出に
釜石高の生徒らに大歓迎を受けた倍賞さんら
「”わたしの夢”応援プロジェクト」で釜石市を訪れた倍賞千恵子さんらは2月26日午前、甲子町の釜石高(佐藤一也校長)で同校音楽部(6人、太田圭香部長)の部員らと交流を深めた。
音楽部のほか部活動中の各部員らが校舎玄関前で盛大にお出迎え。交流会は3階の石楠花ホールで開かれた。音楽部は進路が決まった3年生の部員3人とともに、ピアニストの小原孝さんが作詞した「願い~震災をのり越えて」を披露。部員らの思い入れが強く、大切に歌い継いでいるこの曲を、手話を交えて歌い上げた。
真剣な表情で聞き入った倍賞さんは「いろいろな歌を歌っていると、どこかで虚構が入ってしまったりするが、シンプルに気持ちだけを伝えようとする姿に胸がいっぱいになった」と絶賛。この曲の歌詞を朗読して聞かせ、多彩な声のトーンや感情移入、間の取り方などプロの表現力で部員らを魅了した。
このほか部員らは、倍賞さんが登場人物の声を演じ、主題歌を歌って大ヒットしたアニメ映画「ハウルの動く城」より「世界の約束」を披露。映画の映像をバックに美しいハーモニーを届けた。歓迎と感謝の気持ちが込められた歌を受け、最後は倍賞さんが「忘れな草をあなたに」を夫の小六禮次郎さんのピアノ伴奏で歌い、ホールを大きな感動で包んだ。
「ハウル―」の大ファンという音楽部前部長の萬海果さん(3年)は「元気で天真爛漫(らんまん)な姿や見送りの時にハグしてくれたやさしさ。倍賞さんはとても温かい素敵な方でした。一生忘れられない思い出です」と感激の表情。「倍賞さんが朗読してくれている時、感極まって涙がこぼれそうになった」と話すのは現部長の太田さん(2年)。歌詞の意味を理解して歌うことがいかに大事かをあらためて実感し、「たくさんの人を感動させられるよう今後に生かしたい」と気持ちを新たにしていた。
(復興釜石新聞 2017年3月1日発行 第567号より)
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