愛用する自転車に乗ってメダルを見せる越野杏音さん(左)、斗葵さん
釜石市在住の小学生の姉弟が、自転車競技のBMX(バイシクルモトクロス)で活躍している。越野杏音(あのん)さん(10)と、斗葵(とあ)さん(8)。さまざまな起伏やカーブがある400メートルほどのコースで速さを競うレーシングの国内シリーズに挑み、2024年の年代別ランキングは、杏音さんが2位、斗葵さんは5位に入った。杏音さんは世界への挑戦切符も手にする位置にいて日々練習中。「(お姉ちゃんには)今も勝ってるから」と斗葵さんも負けん気を見せ、2人でさらに上を目指す。
BMXレーシングは、頑丈な競技用自転車に乗った最大8人がダートコースを走り、ゴール順位を競う。2008年の北京五輪から正式種目にもなっている競技。時には選手同士が接触したり、カーブで転倒したりするため、別名「自転車の格闘技」とも言われる。
越野姉弟はこの1年、一般社団法人全日本BMX連盟が主催する国内大会に参戦してきた。4月に始まった「JBMXF大東建託シリーズ」(全9戦)では7戦に臨み、杏音さんは女子9~10歳の部で毎回3位以内に入賞。6月の第3戦つくば大会では優勝し、表彰台の一番高いところに立った。これは東北勢として初の快挙だったという。
BMXシリーズ戦に臨む杏音さん【撮影者:北川大介さん(三重県在住・カメラマン)】
斗葵さんもBMXシリーズ戦で活躍。でこぼこ道に挑む【撮影者:同】
男子7~8歳の部に出場した斗葵さんは、第1戦大阪大会で3位に入賞。大船渡市三陸町越喜来の「三陸BMXスタジアム」が会場となった第7戦では、姉弟そろって2位となった。他にも10月開催の全日本選手権(日本自転車競技連盟主催)では年代別部門でともに4位となり、11月にあったJOCジュニアオリンピックカップ(同)でも杏音さんは3位、斗葵さんが6位と結果を残した。
越野姉弟が同競技を始めたのは3年ほど前で、体験会への参加がきっかけ。「怖いけど、楽しい」と魅力にハマったという。すぐにクラブチームに入って練習に打ち込むが、岩手県内では競技の認知度は高くなく、練習施設の運用も始まったばかりで指導を受けられる機会は多くなかった。
釜石市内で練習する杏音さん(左の写真)と斗葵さん
2人の「やりたい」との希望が強かったこともあり、家族が練習をサポート。父・一成さん(48)は自身もBMXに挑戦したり、知識を学んだりしながら、自宅でのトレーニングを後押ししてきた。仕事が休みの日は放課後に釜石市内の広場などに2人を連れ出し練習。自宅から30分ほどかけて同スタジアムにも週2回ほど通い、自転車を走らせる時間を作るようにしている。時にはプロライダーの指導や助言も受けられ、成長につなげている。
負けず嫌いの2人、さらなる高みへ
11月のある日、放課後の練習をのぞいた。合間に、杏音さんに質問。今シーズンの結果に、「うれしい」と素直に喜んだ。一成さんによると、強みは加速力と攻めの姿勢。ペダルを踏む動きから重心移動を使った技「プッシュ」へのつながりがよく、「コブ」と呼ばれるデコボコ道も加速しながら進むという。
放課後に釜石市内で練習する越野姉弟
いい評価に照れ笑いする杏音さん。課題を聞いてみると、「スタート。タイミングよくしたい」と真剣な表情になった。同年代に“ぶっちぎりに速い人”がいるといい、首をかしげながら「(ランク2位に)満足している」としたのは、ほんのひととき。上を向き、「瞬発力を高めて1位を狙えるようにしたい」と目の奥をキラリと光らせた。
それに劣らず、負けず嫌いというのが斗葵さん。練習中、「もう勝ってるし…」と幾度となく口にし、自転車を操って速度を上げた。今、力を入れて取り組んでいるのがジャンプと、前輪を浮かせて後輪で走る技「ロール」。こうした技術を高め、コブでもスピードを落とさない走りが目標だ。「毎回上位入賞」。すでに来シーズンに目を向けていた。
「タイムは同じくらい。互いの負けん気が、それぞれの成長につながっている」と一成さん。競技に熱中する2人を見ていると、擦り傷も多かったり、転倒してヒヤッとすることもあるというが、「頑張ろうとしていることを応援したい」と、立ち上がる姿を見つめ続ける。
子どもたちの頑張りを父・一成さんら家族が応援する
三陸BMXスタジアムで練習の合間にパチリ【撮影者:一成さん】
気になるのは岩手県、釜石の競技人口がまだ少ないこと。市内でジュニア世代は数人しかおらず、女子は杏音さんだけ。一成さんは「BMXはレースに出なくても楽しめる。自転車に乗る技術を身に付けるためと、難しく考えずやってみてほしい。親子で楽しむ遊び感覚で」と、仲間が増えることを期待する。
実は杏音さん、ランク上位者ということもあって来年の世界選手権への出場切符を持っている。ただ、参加や渡航などにかかる費用は全て自己負担で、出場は思案中だ。練習場所の確保も悩みの一つ。普段は広めの平坦な空き地を使ったりしているが、凸凹道での感覚を鍛えるには不十分だと感じている。
賞状を手にする杏音さん(左)と笑顔を重ねる斗葵さん
スタート時の構えで準備よし!さらなる高みを目指す
だから頑張る―。自分が活躍することでBMXに興味を持つ人が増えてほしいと、杏音さんは望んでいる。練習環境も大事で、「設備が充実すればいいな」とも。
練習を終えると、近くにあった遊具に駆け寄り、小学生らしい一面をのぞかせた越野姉弟。冬期は屋内パークで技を磨くという2人、さらなる活躍に注目していきたい。