強風を受け、尾崎半島の各所から火煙が高く立ち上り、西側の集落にも迫る=8日午後2時49分
西寄りの強風が吹き荒れた8日午前11時56分ごろ、釜石市平田の尾崎半島東部から出火。風にあおられて延焼し、9日午前11時までに約400ヘクタールを焼失した。市は8日午後2時50分、火災現場に近い尾崎白浜、佐須地区の136世帯、348人に避難指示を出した。9日は火の勢いが弱まったものの、火災の範囲は拡大。要請を受けた自衛隊のヘリコプターや各県の防災ヘリによる空中消火が続いた。
市によると、出火は釜石湾を航行する漁船が通報した。出火地点は尾崎神社の奥宮がある青出浜付近とみられる。
8日朝から吹き始めた風は昼前から午後2時過ぎまで強く吹き荒れ、最大瞬間風速は25・9メートルを記録。火は風に巻かれて稜線を越え、東西に広がった。一帯は三陸復興国立公園に含まれ、国有林と民有林が入り組み、雑木、スギ、マツが混在する。燃えやすいマツに着火すると炎の勢いが増し、黒煙を噴き上げた。
煙は内陸部の中妻町や上中島町方向からも確認できた。
火勢の強さ、急しゅんな地形、水利の問題から地上からの消火活動は見合わせた。釜石まつりで曳き船が出る青出浜の奥宮周辺では、漁船で運んだ小型ポンプを使い社殿を守った。
空中消火は自衛隊と岩手県防災ヘリの3機で行い、日没に終了。9日は午前5時ごろから自衛隊の大型ヘリ7機、中型2機と岩手、青森、秋田の防災ヘリ合わせて12機が消火活動に当たった。
9日午前9時前、野田武則市長は市消防団の山崎長栄団長らと自衛隊ヘリに乗り込み、上空から現場を視察した。野田市長は「昨日より延焼範囲が拡大したようだ。集落に近づく恐れがあり、さらに(空中消火の)追加を期待する。地上の活動も重要になる」と危機感をにじませた。
尾崎白浜・佐須、136世帯に避難指示
市の避難指示を受け、市内4カ所に最大で75人が避難し、心配の面持ちで火災情報に耳を傾けた。
尾崎白浜、佐須地区住民は8日午後4時前から、指定された旧釜石商高体育館、平田小、福祉避難所の特別養護老人ホームあいぜんの里と、定内町の国立釜石病院に隣接する釜石いこいの家に移動。市職員と市社会福祉協議会のスタッフが床に防寒シートを敷き、簡易トイレを設置。住民に飲料水や非常食のクッキーを配った。
尾崎白浜の佐藤恭一さん(75)は家族3人に近所の1人と避難した。自宅は集落で一番高い場所にあるが、火煙に包まれる鷹巣山(標高343メートル)の尾根に接し、延焼を心配した。「東日本大震災の地震でも避難し、これで2回目。火が見えたので早くから避難の準備をした。家を焼かれなければいいが…」と祈った。
避難した住民は心配そうに推移を見守った=8日午後4時4分
佐須の漁業佐々木憲男さん(70)は震災で自宅が被災。仮設住宅で過ごし、元の敷地をかさ上げして昨年5月に家を再建した。子ども3人は独立し、市内に住む。「大丈夫だとは思うが心配だ。朝には家に戻る」と厳しい表情を崩さなかった。
避難したものの、市内に住む肉親の家に移る高齢の女性もあった。
市によると、尾崎白浜地区では20人が8日夜も自宅に残った。
住宅への延焼を食い止めようと、消火活動は9日午前5時前から再開した。空中消火と地上の消防団が連携。いくつかのルートにホースを延ばし、集落縁辺の山林へ防御放水を続けた。
(復興釜石新聞 2017年5月10日発行 第586号より)
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