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甲子大畑「不動の滝」で描く幻想ストーリー 第38回釜石市民劇場450人が楽しむ 

第38回釜石市民劇場 大畑・不動の滝「女神と木伐(きこ)る男」伝奇=2月23日、TETTO

第38回釜石市民劇場 大畑・不動の滝「女神と木伐(きこ)る男」伝奇=2月23日、TETTO

 
 第38回釜石市民劇場(実行委主催)は2月23日、同市大町の市民ホールTETTOで上演された。豊かな自然に囲まれた甲子・大畑の名勝「不動の滝」で繰り広げる創作劇。そこに生きる村人たちに起こる不思議な出来事を通して、人の心のありよう、家族の絆などを描いた。午前と午後の2回公演に約450人が来場し、市民手作りの舞台劇を楽しんだ。
 
 物語の舞台は明治初期の甲子村。釜石村鈴子に製鉄所が稼働し、山あいの村では燃料の木炭を供給するため、村人が炭焼きに精を出していた。ある日、炭焼き人の良吉は地元民の憩いの場「不動の滝」周辺の清掃に出かける。枝払いをしていた時、誤って鉈(なた)を滝つぼに落としてしまう。困惑していると、滝から黄金色の斧を持った水神様が現れる。女神の問いかけに、自分の物ではないと正直に答える良吉。その様子を物陰から見ていた村人の武三は欲に駆られて…。
 
主人公の良吉(右)は妻と娘、村人たちと平穏に暮らしていた

主人公の良吉(右)は妻と娘、村人たちと平穏に暮らしていた

 
滝つぼにわざと斧(おの)を投げ入れ、女神から黄金の斧をもらおうと嘘を重ねる武三(左)

滝つぼにわざと斧(おの)を投げ入れ、女神から黄金の斧をもらおうと嘘を重ねる武三(左)

 
炭焼きの先輩作治(左上写真右)から助言をもらい、10日ほどの山ごもりに意気揚々の良吉

炭焼きの先輩作治(左上写真右)から助言をもらい、10日ほどの山ごもりに意気揚々の良吉

 
 イソップ寓話的な導入部から始まる物語は同実行委の久保秀俊会長(76)が創作。想像される当時の村人の暮らし、自然への敬意を非現実の出来事と絡め、人生訓や助け合いの精神、家族の絆などを描いた。子どもから老人まで各登場人物のキャラクターをキャスト15人が演じ分け、物語が進んだ。
 
 滝での出来事を機に災難に見舞われる武三。炭焼き作業に出かけたまま、行方不明になってしまう良吉。心配して探し回る村人に武三は滝で起こったことを正直に話す。心労で床に伏していた良吉の妻みゑは武三の話を聞き、いちるの望みをかけ、滝の祠にお百度参りを繰り返す。行方不明から1年後…。滝に来ていたみゑの目の前に夫良吉が突然現れる。滝の女神の褒美で1日だけ竜宮御殿に招かれていたという良吉。摩訶不思議な出来事に村人たちも騒然となるも、親子3人の再会を喜び合い、クライマックスを迎える。
 
滝の女神の怒りをかい、災いが降り懸かり倒れ込む武三。驚いた村人が駆け寄る

滝の女神の怒りをかい、災いが降り懸かり倒れ込む武三。驚いた村人が駆け寄る

 
山に入った良吉がいなくなったと告げる作治(左)に詰め寄る娘モモ(中央)と妻みゑ(右)

山に入った良吉がいなくなったと告げる作治(左)に詰め寄る娘モモ(中央)と妻みゑ(右)

 
写真左:滝での出来事を作治に告白する武三(左) 同右:夫の無事を願い、滝の祠にお百度参りを続けるみゑ

写真左:滝での出来事を作治に告白する武三(左) 同右:夫の無事を願い、滝の祠にお百度参りを続けるみゑ

 
写真上:行方不明から1年後、妻の前に姿を現す良吉。驚きと混乱のみゑ 同下:良吉を見て村の子どもたちも騒然

写真上:行方不明から1年後、妻の前に姿を現す良吉。驚きと混乱のみゑ 同下:良吉を見て村の子どもたちも騒然

 
 会場には幅広い年代の観客が足を運び、市民の手作り舞台を楽しんだ。同市中妻町の女性(73)は「子どもたちの演技がよくできていた」と称賛。同劇場には、ほぼ毎年足を運んでいて、「職業も年代もばらばらの人たちが劇を通して、横のつながりを広げていけるのはとてもいいこと」と話した。大槌町の久保晴陽さん(9)は「神様が出てくるところが面白かった。自分も劇をやってみたい」と興味をそそられた様子。妹と弟3人が出演した青山萌華さん(17)は「昨年よりも声が出ていて、演技もうまくなっていた」と頑張りをたたえた。自身も昨年までスタッフとして参加。今回は観客側の目線も体験し、新たな発見もあったよう。
 
3姉弟で参加した(左から)女神役の青山凜々華さん、荷馬車業一家の子ども役の涼華さん、一樹さん

3姉弟で参加した(左から)女神役の青山凜々華さん、荷馬車業一家の子ども役の涼華さん、一樹さん

 
 今回出演した15人中4人は釜石高の生徒。初挑戦の前見琉綺亜さん(16)は同校音楽部に所属し、「部活が終わってからの劇の稽古で両立が大変だった」と明かしつつ、荷馬車業一家の面倒見の良い姉役を役作りし演じ切った。観客の反応も舞台上で感じ、「笑ったり、悲しい場面に共感している様子を見て、ちゃんと伝わっているんだとうれしくなった」と演劇の醍醐味を感じていた。
 
釜石市民劇場初出演の前見琉綺亜さん(左)と及川蒼太さん(右)

釜石市民劇場初出演の前見琉綺亜さん(左)と及川蒼太さん(右)

 
 大人では唯一の初出演となった及川蒼太さん(25)は、13~14歳設定の子ども役に挑戦。1月後半からの立ち稽古で「セリフと動きを合わせるのに苦労した」というが、本番では「大勢の人の前で演技するのは新鮮で面白かった」と舞台特有の空間を楽しんだ様子。最初の緊張もすぐにほぐれたようで、「いい思い出になった」と貴重な経験に笑顔を見せた。
 
 出演者最年長の両川吉男さん(79)は約20年ぶりに舞台復帰。久保会長から懇願され決断したが、「年を取るとセリフが出てこなくてね。プレッシャーで眠れない日も…。若い人たちに支えてもらって何とかやり遂げられた」と感謝。苦労は多かったが、「孫のようなめんこい子どもたちが『じいちゃん、じいちゃん』って慕ってくれて。今日は地元の茶飲み仲間も見に来てくれてうれしかった」と目尻を下げた。宮古市から駆け付けた長男英寿さん(43)は「父はみんなについていくのが大変だったと思うが、最後まで演じ切れて良かった」と拍手を送った。
 
久しぶりのキャスト両川吉男さん(左から2人目)も熱演。市民劇場にはスタッフとしても関わっていた

久しぶりのキャスト両川吉男さん(左から2人目)も熱演。市民劇場にはスタッフとしても関わっていた

 
 釜石市民劇場は1986(昭和61)年度に、当時の釜石市民文化会館自主事業としてスタート。2003(平成15)年度から実行委員会が実施主体となり、年1回の公演を続ける。東日本大震災で会場の同会館が被災した後は、釜石駅前にあったテント施設、シープラザ遊で公演。現市民ホール完成後の2018(平成30)年度から同ホール公演が実現した。
 
終演後、舞台あいさつをするキャスト、スタッフら。主人公良吉役の菊池圭悟さん(写真左上)が観客と関係者にお礼の言葉を述べた

終演後、舞台あいさつをするキャスト、スタッフら。主人公良吉役の菊池圭悟さん(写真左上)が観客と関係者にお礼の言葉を述べた

 
笑顔で観客をお見送り。改めて来場への感謝の気持ちを伝えた

笑顔で観客をお見送り。改めて来場への感謝の気持ちを伝えた

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大船渡市山林火災 釜石市も後方支援続く 緊急消防援助隊の拠点に 市職員は避難所運営を応援

新潟、茨城、栃木3県の緊急消防援助隊が活動拠点とする釜石市民体育館(鵜住居町)

新潟、茨城、栃木3県の緊急消防援助隊が活動拠点とする釜石市民体育館(鵜住居町)

 
 大船渡市で続く山林火災は、きょう4日で発生から1週間となった。県によると焼失面積は約2600ヘクタールに拡大。1896世帯4596人に避難指示が出され、12の避難所に1213人が避難している(4日午前6時現在)。同市に隣接する釜石市では鵜住居町の市民体育館が緊急消防援助隊の宿営地になっていて、24時間体制で火災現場に向かっている。1、2の両日は避難所運営の応援として市職員を派遣。後方支援で現場活動を支えている。
 
 釜石市は県災害対策本部の要請を受け、2月27日に後方支援活動を開始した。緊急消防援助隊の活動拠点として市民体育館と周辺を提供。同日夜に新潟の部隊が到着し、茨城、栃木と続き、3県の計117隊約460人が集結した。各種機能を備えた消防車両が同館駐車場のほか、周辺の臨時駐車スペースに待機。館内に設置した簡易ベッドで睡眠を取りながら、県大隊ごとに交代で出動している。3日は午前6時20分ごろに第一陣が出発後、数回にわたって現場に向かった。
 
大船渡市の山林火災現場への出動を前に準備を整える隊員ら=3日、午前6時半ごろ

大船渡市の山林火災現場への出動を前に準備を整える隊員ら=3日、午前6時半ごろ

 
市民体育館を出発する新潟県隊の消防車両

市民体育館を出発する新潟県隊の消防車両

 
 茨城県笠間市消防本部消防司令の鈴木俊史さん(50)は、2月27日から4日間活動した第一派遣隊からバトンを受け、2日午後に釜石入り。夕方、大船渡市綾里に入り、午後7時すぎに現場活動を開始。簡易型水のうを背負い、ジェットシューターで消火活動にあたった。「これほどの規模の山火事は地元でも経験がない。第一隊から送られてきた写真で過酷な現場になるとは思っていたが…。急斜面も多く、機材を背負っての活動は慣れていない人には厳しい現場ではないか」と話す。
 
ご飯はお湯を注ぐだけで食べられる非常食

ご飯はお湯を注ぐだけで食べられる非常食

 
体育館前にテーブルを並べ、食事を取る茨城県隊の隊員ら=3日朝

体育館前にテーブルを並べ、食事を取る茨城県隊の隊員ら=3日朝

 
 市民体育館には日中は市指定管理者の協立管理工業スタッフ、夜間は市スポーツ推進課職員が常駐。市は近くの釜石鵜住居復興スタジアムのシャワー室も開放し、隊員の疲労軽減を図る。同課の佐々木利光課長は「東日本大震災の時にお世話になった方々が再び被災地で消防活動に従事してくれているのはありがたいこと。当時の感謝を今回の対応で返せればとの思いもあるので、隊員の皆さんが活動に従事しやすい環境をできる限り整えたい」と気を引き締める。
 
 同館の近隣住民も昼夜を問わない活動に「頭が下がる思い。これだけの消防車両が集まっているのを見ると、火災規模の大きさを実感する。現場は大変だろうが、1日も早く火が消えるよう願うばかり」と隣町に思いを寄せた。
 
次々に出発する消防車両。釜石北インターチェンジから三陸沿岸道路に入り大船渡市へ向かう

次々に出発する消防車両。釜石北インターチェンジから三陸沿岸道路に入り大船渡市へ向かう

 
 釜石大槌地区行政事務組合消防本部(駒林博之消防長)は県内相互応援隊として、連日、隊員を現場に派遣する。大船渡市では今回の火災の前にも2件の山林火災があり、同本部は1件目から消火活動の応援を続けている。今は常時10人ほどが現場にいる体制を組み、本県隊は防災ヘリの水のうに水を補給する作業を中心に行っている。緊急援助隊が来るまでは、夜間に山に入り、家屋への延焼を防ぐための放水作業も担った。駒林消防長は「今回の火災は火の勢いが強く、延焼が止まらない状況だと聞いている。山が急峻で人が入れない場所もあり、半島の道路も広くないので、大型ポンプ車が入っての消火もしにくい状況」と活動の困難さを示す。同本部隊員の活動はまもなく2週間となる。「徐々に疲れもたまってきていると思う。体調管理をして事故を起こさないように」と駒林消防長。
 
 釜石市では2017年に類似地形の尾崎半島で山林火災が発生。413ヘクタールを焼失し、鎮火までに2週間を要した。当時は住家の被害は免れたが、今回は多数の民家に被害が及んでいる。「延焼の一番の要因は乾燥と風。沿岸南部は乾燥注意報が継続中。この状況下で当管轄内の山火事が起きると大変なことになる。より一層の注意を」と呼び掛ける。
 
三陸公民館から見える山林火災の現場。広範囲で白煙が上がる=2日、大船渡市三陸町越喜来(写真提供:佐々木良衡さん)

三陸公民館から見える山林火災の現場。広範囲で白煙が上がる=2日、大船渡市三陸町越喜来(写真提供:佐々木良衡さん)

 
 避難所運営を支える応援職員は1、2の両日、各3人が派遣された。避難所となっている大船渡市三陸町越喜来の三陸公民館で、物資の受け入れや運搬、仕分け、供給などの業務にあたった。都市計画課の佐々木良衡(よしひら)さん(44)は2日に活動した。同公民館には綾里地区の住民らを中心に約260人が避難。震災時と異なり、避難所の環境は良く、食事は3食弁当が配られ、入浴施設への定期便が運行されるなど、健康面や衛生面に配慮されていたという。直接話す機会は多くなかったが、住民らの印象は「暗い表情ではなかった。現実を受け入れている感じ」。作業の合間には「釜石から来てくれてありがとう」と声を掛けられることもあった。
 
応援職員として派遣され、避難所運営にあたった佐々木良衡さん

応援職員として派遣され、避難所運営にあたった佐々木良衡さん

 
三陸公民館の避難所。パーテーションでプライバシーを確保(佐々木さん撮影)

三陸公民館の避難所。パーテーションでプライバシーを確保(佐々木さん撮影)

 
 「隣町での出来事で他人事ではない」と感じていた佐々木さん。現場の最前線で活躍する消防隊員、自衛隊員らのようには動けないが、「自分にできることで大船渡を応援したい」と力を込める。電気工事の設計・管理業務、建物の修繕など特技を生かしたサポートも考えている。今回は所属する釜石ライフセービングクラブから託された飲料水など物資を持参したほか、通信手段に活用してもらおうとトランシーバー10数個も貸与。今週末にはクラブの仲間数人で避難所運営の応援に再訪する予定だ。
 
 釜石市も飲料水や菓子などの物資を支援。市内の災害公営住宅の空き室を確保し、被災者を受け入れる準備も進めている。避難所運営の職員派遣は継続する見込みで、防災危機管理課の川崎浩二課長は「後方支援的な役割を担いつつ、被害の状況や県の動きを見ながら、できる支援を独自に考え対応していきたい」と話した。
 
 物資や義援金を届けたいとの声は市民からも上がっていて、炊き出しに出向く企業もある。大町の釜石情報交流センター、市民ホールTETTOでは早期鎮火を願い、雨を待ちわびる「ふれふれ坊主」作りを通じた募金活動を展開中。参加費として募金してもらい、用意された花紙で工作、完成したものを館内に飾り付けるという手順だ。集まった善意は、避難所で炊き出しなどを行っている一般社団法人大船渡地域戦略に贈る予定。両施設を運営管理する釜石まちづくり会社の下村達志事業部長は「被災した人たちが必要としている活動の後押しになる」と参加を呼びかける。
 
「てるてる坊主」ならぬ「ふれふれ坊主」に「雨、降って」とお願い=2日、釜石情報交流センター

「てるてる坊主」ならぬ「ふれふれ坊主」に「雨、降って」とお願い=2日、釜石情報交流センター

 
 赤、青、黄色などカラ“フル”な、ふれふれ坊主を見つめていた女の子。願いを込めて、そっと手を合わせた。「雨が降って、火が消えますように…」

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釜石の郷土芸能・小川しし踊り 保存会、いわてユネスコ教育賞 小学校での伝承活動を評価

小野共市長(中)に受賞を報告した小川しし踊り保存会メンバー

小野共市長(中)に受賞を報告した小川しし踊り保存会メンバー

 
 釜石市の小川しし踊り保存会(佐々木義一会長)はこのほど、岩手県ユネスコ連絡協議会(三田地宣子会長)が主催する第29回いわてユネスコ賞の教育賞を受賞した。同保存会が長年続けている子どもたちへの伝承指導が評価されたもの。2月26日、佐々木会長と顧問の佐々木佳津子さんが小野共市長に喜びを報告し、活動継続への深まる気持ちを伝えた。
 
 いわてユネスコ賞は文化や教育分野などで模範的な活動を行っている児童生徒、教育関係者らをたたえるもの。県内各地の学校やユネスコ協会などから推薦があったものを同協議会で選考。本年度は科学、文化、活動奨励、教育の4分野で合わせて10団体の受賞を決めた。昨年10月に発表し、それぞれ賞状などが伝達された。
 
 同保存会が伝承する「小川しし踊り」(釜石市指定無形民俗文化財)は、遠野郷上郷村火尻(森の下)集落に伝えられている鹿踊が起源とされる。明治15~16年ごろ、小川地区から派遣された3人の若者が習得、持ち帰ったものを地域ぐるみで守ってきた。優雅な群舞であり、時に野に遊ぶシカたちの姿を表し軽快に舞うのが特徴。小川地区にある千晩神社の例大祭で奉納したり、釜石まつりでは釜石製鉄所山神社のみこしに付き従い、舞を披露している。
 
小川しし踊りや保存会の活動に関する資料

小川しし踊りや保存会の活動に関する資料

 
 会の発足は1955(昭和30)年。郷土芸能の後継者育成を目的に、70年代後半から旧小川小で伝承指導活動を始めた。2005年に小佐野小と統合。その時に小佐野小では、小川小の伝統を引き継ごうと伝承活動委員会、特設クラブを設け、学習発表会や地域の交流イベントで演舞を披露してきた。現在、委員会などはなくなったが、授業に取り入れ高学年が継承。17年から運動会のプログラムとしても組み込まれている。こうした50年近く続く取り組みが認められ、児童生徒が行う活動の指導者らが対象の教育賞に選ばれた。
 
 この日、市役所を訪れた佐々木会長は「(受賞は)驚いたが、うれしい。次の世代に引き継ぐのが役目で、今の形を続けていきたい。郷土芸能に触れることは社会勉強にもなり、いい機会だと思う。子どもたちは指導する大人を見ていて、懸命に教えれば応えてくれる。しっかりしようと気も引き締まる。しし(踊り)は本当にいい」と笑顔を見せた。
 
受賞の喜びを報告する佐々木義一会長(左)と佐々木佳津子さん

受賞の喜びを報告する佐々木義一会長(左)と佐々木佳津子さん

 
市長らにユネスコ教育賞の賞状や盾を披露した

市長らにユネスコ教育賞の賞状や盾を披露した

 
 小野市長は「伝承活動を通じて子どもたちが地域を知る貴重な機会になっていると感じる。郷土愛、地域への愛着を生む取り組みを続けてほしい」と期待した。
 
 報告を終えた佐々木会長は小佐野小へ。卒業する6年生に代わり、新たに受け継ぐ4、5年生に改めてしし踊りの歴史や保存会の活動を紹介、演舞の指導も行った。

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空に描く希望のメッセージ ガザへ届け「忘れていないよ」 釜石で続くたこ揚げ

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ガザの平和を願って釜石で行われたたこ揚げ

 
 戦闘や封鎖で長期にわたり厳しい生活を強いられるパレスチナ自治区ガザの平和を願うたこ揚げイベントが16日、釜石市鵜住居町の「うのすまい・トモス」であった。東日本大震災を機に、互いを励まそうと続いている活動で、参加者は空に舞うたこを見上げ、穏やかな日常へ祈りを込めた。
 
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空高く揚がるたこがガザと釜石の思いをつなぐ

 
 市内外の有志でつくる「ガザ・ジャパン希望の凧(たこ)揚げ交流会実行委員会」が主催。子どもから大人まで約20人が参加した。「平和」「正義」「忘れない」。思い思いにメッセージをつづり、好きなキャラクターなど絵を描いたり、桜の花びらをイメージした折り紙を貼ったりして、たこを作った。
 
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たこ作りに取り組む参加者。それぞれ思いをつづった

 
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さまざまな願いを込め、たこを掲げる参加者

 
 「不屈の意志で復興を」と願う中澤大河さん(釜石高2年)は、「ネバーギブアップ」を意味するアラビア語を調べて、たこに書き込んだ。町内に住んでいて、震災の津波で自宅は流失。当時は3歳だったが、家族とともに逃げた記憶が少しだけ残っているという。今回、「応援してもらった恩返し」と参加。戦禍、自然災害と原因は異なるが、「暮らしの復興」という点では同じだと感じていて、「ゼロからのスタート。立ち上がってもらえたら」と思いを寄せた。
 
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ガザへの思いを込め、たこを揚げる参加者たち

 
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参加者は空高く揚がるたこに思いを託した

 
 両地域の交流は2012年3月、震災復興を願ってガザの子どもたちがたこを飛ばしたのが始まり。これに応える形で、釜石でも15年からガザに向けたたこ揚げを続けている。
 
 実行委メンバーで、同市出身の野呂文香さん、高橋奈那さん(ともに23)は、高校時代からこの活動に関わってきた。「震災からの復興を願ってくれたガザに、たこ揚げを通じて何かを伝えられたら」。2人とも思いは変わらず、参加してくれた人たちの姿をうれしそうに見つめた。
 
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参加した親子を見つめる野呂文香さん(右)。活動継続へ思いを「繋」

 
「ガザのことを知るきっかけに」と企画されたイベントの参加者

「ガザのことを知るきっかけに」と企画されたイベントの参加者

 
 社会人として市内で働く野呂さんは今回、運営の中心を担った。これまで引っ張ってきたメンバー佐藤直美さん(51)=仙台市=から引き継ぎ、継続への気持ちを新たにする。現地の情勢は今なお緊迫しており、届けたい共通の思いを佐藤さんと確認。「忘れていないよ」。その気持ちをたこに込め、ガザにつながる空に高く揚げ続ける。

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第38回釜石市民劇場23日公演 甲子大畑「不動の滝」を舞台に創作ファンタジー

23日の公演に向け稽古に励む釜石市民劇場のキャストら=15日、TETTO

23日の公演に向け稽古に励む釜石市民劇場のキャストら=15日、TETTO

 
 第38回釜石市民劇場(同実行委主催)は23日、釜石市大町の市民ホールTETTOで上演される。大畑・不動の滝「女神と木伐(きこ)る男」伝奇―と題した物語は、同市甲子町大畑にある市民なじみの滝で繰り広げる創作ファンタジー(3幕10場)。キャスト、スタッフら総勢約50人で舞台を創り上げる。
 
 物語の時代設定は明治初期。鈴子(釜石駅周辺)で製鉄所が稼働し、燃料の木炭生産が盛んになった時期を背景とする。主人公は甲子村(当時)大畑で炭焼きに従事する正直者の男性・良吉。良吉親子とそれを取り巻く村民が地域のシンボル「不動の滝」で不思議な体験をする空想世界を描く。滝の近くに実在する祠(ほこら)にヒントを得て、物語を創作した。
 
 キャストは小学4年生から79歳までの男女15人。初出演は3人。昨年11月末から稽古を重ねてきた。公演まで約1週間となった15日夜は、実際の舞台上で各場面を稽古。舞台装置、道具類、衣装を手掛けるスタッフらも集まり、キャストと一緒に各種確認作業を行った。
 
本番まで残り1週間となり、演技も総仕上げの段階に…

本番まで残り1週間となり、演技も総仕上げの段階に…

 
裏方スタッフとキャストがステージ上の立ち位置などを確認

裏方スタッフとキャストがステージ上の立ち位置などを確認

 
劇中で使う小道具を手に気合い十分のキャスト、スタッフ

劇中で使う小道具を手に気合い十分のキャスト、スタッフ

 
 主人公良吉を演じるのは釜石高2年の菊池圭悟さん(17)。昨夏、宮古市で行われた高校生による演劇づくりに参加したのを機に「地元釜石でも」と応募。演出希望だったが、同実行委の久保秀俊会長(76)からキャストのオファーを受け、挑戦を決めた。演技の基礎を学び、せりふ覚え、立ち稽古と段階を踏んできた。「せりふは頭に入った。後は感情表現と動きの部分」と菊池さん。さまざまな年代の人が集う場で「アドバイスをもらい、自分の中の疑問も解決できている」と周囲の支えに感謝する。残り少ない稽古で「もっと人物像をつかみ、完全に役になりきって全力で演じられたら」と意気込む。
 
初出演で主人公・良吉を演じる菊池圭悟さん。山仕事や夫婦のやり取りなど各場面の演技を練習"

初出演で主人公・良吉を演じる菊池圭悟さん。山仕事や夫婦のやり取りなど各場面の演技を練習

 
 市内の会社員池端愛音さん(19)は2回目の出演。前回は2年前、釜石商工高なぎなた部の一員として、戦時下の高等女学生役を演じている。今回の役は山仕事をこなす男勝りな女性・マサ。「自分の性格とは正反対。役作りも難しかった」と明かす。それでも仲間の演技を見ながら学びを深め、新たな挑戦を楽しむ。「不安や緊張もあるが、最後までやり遂げて、いい舞台をお見せしたい。今までの成果を本番にぶつける」と菊池さん。
 
 大畑不動の滝は遊歩道も整備され、自然散策や写真撮影など手軽に訪れることができる場所。子どもたちの遠足地としても活用され、地元住民だけでなく多くの市民に親しまれてきた。劇の脚本を書いた久保会長は「滝に関する詳しい資料や言い伝えは見つからなかったが、祠があることからも、滝を中心とした人々の暮らしがあったのではないかと考える。現実離れした物語ではあるが、人間社会における正直者と嘘をついた人間の差、家族の絆や未来への希望が表現できれば」と語る。
 
キャストは常連組、久しぶりの出演、初めての参加と多彩な顔ぶれ

キャストは常連組、久しぶりの出演、初めての参加と多彩な顔ぶれ

 
演技を引き立てる舞台装置や照明、衣装、効果音担当のスタッフらも入念に準備

演技を引き立てる舞台装置や照明、衣装、効果音担当のスタッフらも入念に準備

 
 第38回釜石市民劇場は23日午前10時半、午後2時半からの2回公演(各回開場は30分前)。入場料は前売り券1000円(当日1300円)、中学生以下は無料。プレイガイドはTETTO、イオンスーパーセンター釜石店、市内各地区生活応援センター、桑畑書店、シーサイドタウンマスト(大槌町)。

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冬に味わう釜石はまゆりサクラマス!フェア開催中 あったかメニューが勢ぞろい

釜石はまゆりサクラマスを使った「漁火」のちゃんちゃん焼き

釜石はまゆりサクラマスを使った「漁火」のちゃんちゃん焼き

 
 釜石湾で養殖される「釜石はまゆりサクラマス」を味わえるフェアが14日から、釜石市内で展開されている。2023年度に続く第2弾企画で、冬季開催の今回は「あったか」がキーワード。飲食店や旅館など19店舗が、鍋や揚げ物など工夫を凝らした多彩なメニューを提供していて、27日まで楽しめる。
 
 釜石でのサクラマスの養殖は2020年に試験的に始まり、22年に事業化。23年は160トン、24年は145トンを水揚げし、安定的な生産を維持している。そして、養殖生産量としては日本一。水揚げは例年6~7月だが、冷凍による長期保存でシーズンを問わず食べられる。
 
釜石湾で養殖された釜石はまゆりサクラマス

釜石湾で養殖された釜石はまゆりサクラマス

 
 そんな強みを地域内外に発信し、消費拡大につなげようと、フェアを企画。初開催時は、養殖魚ならではの“生食”に注目したメニューがいくつも提供されたが、釜石産は「脂がのっているのにさっぱりとしていて、焼き料理にもいい」との声もある。
 
 同市大町の三陸居酒屋「漁火(いさりび)」では、野菜もたっぷり食べられる「サクラマスのちゃんちゃん焼き」を提供する。サクラマスの切り身、キャベツ、ネギをアルミホイルに包み、卓上に用意されたカセットコンロで焼いて味わう一品。みそとバターの“黄金コンビ”で濃いめの味付けにしており、具材としっかり絡めて食せば、ご飯はもちろん、お酒も進む。
 
具材を包んだアルミホイルをコンロにのせて焼くこと数分。ホイルを開いて…

具材を包んだアルミホイルをコンロにのせて焼くこと数分。ホイルを開いて…

 
特製のたれをしっかり絡めれば、濃厚なちゃんちゃん焼きが完成

特製のたれをしっかり絡めれば、濃厚なちゃんちゃん焼きが完成

 
 マスを使うのは初めてだったという店主の東裕也さん(39)は「サケや他のサーモン系に比べると、火の通りが早く、身もやわらかい。味もあっさりしていたから、バターを加えた。コク、濃さ、おいしさが増す」と、工夫の様子をうかがわせた。卓上に置かれたコンロで客が自ら食材を焼いて「熱々を食べる」のが、同店の売り。三陸、釜石産の食材に付加価値を持たせたいと、アイデアを込めた料理を提供していく構えで、「とにかく楽しんでもらえたら」と目を細めた。
 
 他店ではパスタやみそ鍋、ムニエル、フライなど多彩な料理がテーブルに並ぶ。価格も400円台から6000円台までと幅広い。
 
「冬のあったか釜石サクラマスフェア」をPRする釜石市水産農林課の職員

「冬のあったか釜石サクラマスフェア」をPRする釜石市水産農林課の職員

 
 フェアは市水産農林課が主催。水産振興係の萬大輔係長は「養殖魚ということもあって生食系で押してはいるが、加熱してもおいしいことを知ってほしい」とアピール。旬はあるが、通年で味わえるよう特産品化に取り組んでおり、「冬メニューで違った魅力を打ち出し、ファンになってもらえたら」と期待する。

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釜石から夢かなえて! タレント養成所「C-Zeroアカデミー」4月開校へ 芸能界への道、自己実現を応援

11日に開かれた「C-Zeroアカデミー」の無料体験レッスン=TETTO

11日に開かれた「C-Zeroアカデミー」の無料体験レッスン=TETTO

 
 釜石市初のタレント養成所「C-Zero(シーゼロ)アカデミー」(菊池由美子校長)が4月20日に開校する。演技、ボイストレーニング、ダンス・日本舞踊、礼儀作法など多彩なレッスンで、エンターテインメント人材を育成。修了生の活動も支援する。基礎科第1期生を3月3日まで募集。11日は学校説明会と無料体験レッスンが市民ホールTETTOで行われ、4~76歳まで20人余りが参加した。
 
 養成所は、東京で俳優やモデル、舞台や映像制作の仕事をしてきた釜石出身の菊池校長(57)が、「地方から芸能の世界を目指す人たちの力になりたい」と立ち上げた。芸能活動に必要な知識や技能を基礎から学べるカリキュラム(1年)を用意。5歳以上(4月1日時点)を対象とし、年代別に5つのクラスを設ける。レッスンは必須科目(演技、ボイトレ、和文化体験)が月5~6回、選択科目(ダンスor日本舞踊・着付け)が月2回。釜石、大槌で活動する各分野の専門家らが講師を務める。ゲスト講師による特別レッスンも予定。1年の成果を確認する発表(舞台or映像)の場もある。
 
「C-Zeroアカデミー」校長の菊池由美子さん。演技や日本舞踊の講師も務める

「C-Zeroアカデミー」校長の菊池由美子さん。演技や日本舞踊の講師も務める

 
 基礎科修了生は、次のステップとして研究科でのレッスン継続が可能。プロとしての活動を目指す「C-Zero登録生」はプロモーション活動を開始し、仕事の依頼を受けるほか、菊池校長が代表を務める芸能事務所「FUKUプロモーション」所属タレントのオーディションを受けることができる。趣味でレッスンを継続したい人は「研修生」として在籍し、イベントや映像のエキストラ出演も可能。生徒の意向に応じ、進みたい道を後押しする。
 
中学生以上を対象に開かれた午後の学校説明会

中学生以上を対象に開かれた午後の学校説明会

 
 開校を前にした学校説明会と体験レッスンには、市内外から幅広い年代の人たちが集まった。菊池校長がカリキュラムや年間スケジュール、費用などを説明した後、参加者が演技レッスンを体験した。ジェスチャーを交えた自己紹介リレーに続き、「ロボットになって」「酔っ払いになって」などのお題のもと歩きながらあいさつを交わしたり、「桃太郎」をベースにしたセリフのやり取りをさまざまな設定で演じたりした。
 
ジェスチャーを交えて自己紹介。自分より前の人たちの動きを再現しながら…

ジェスチャーを交えて自己紹介。自分より前の人たちの動きを再現しながら…

 
「泣きながら」「ロボットになって」など出されたお題で歩く

「泣きながら」「ロボットになって」など出されたお題で歩く

 
2人1組で短いセリフのやり取りを体験。自分たちで設定を考え交替で発表し合った

2人1組で短いセリフのやり取りを体験。自分たちで設定を考え交替で発表し合った

 
 同市出身、在住の佐々木瑠奈さん(22)は声優を目指し、盛岡の養成所に通っていたが、地元にできると聞き、この日の説明&体験会に参加。「最初は緊張していたが、他の参加者と話したり、演技していくうちにどんどん楽しくなって」と目を輝かせた。「意欲があっても(環境的に)あきらめていた人もいると思う。近くに(養成所が)あれば、学生とかも通いやすい。地元でレッスンできるのが一番大きい」と開校を楽しみにする。「舞台での芝居にも興味がある。声優と俳優、両方を目指してやってみたい」と入校へ前向きな姿勢を見せた。
 
 2023年にUターンした菊池校長。自身がこれまで培ってきたものを古里に還元し、エンターテインメントによるまちづくりにも貢献したいと、同養成所開設へ奔走してきた。地元企業や芸能関係者などの協力で実行委を組織。4月開校に向けての準備が整った。「まずは基礎をしっかり学んでもらい、それぞれの個性を伸ばすような指導ができれば。人生100年時代。社会人やシニアの方は自分磨きをしながら生き生きとした人生を送る、子どもたちには好きなことや得意なことを見つけるきっかけにもなれば。芸能界への夢を抱く人たちには、かなえられるようなサポートをしていく」と菊池校長。
 
参加者が考えた設定の芝居を演技講師(中央手前:小笠原景子さん、同奥:菊池校長)が見守る

参加者が考えた設定の芝居を演技講師(中央手前:小笠原景子さん、同奥:菊池校長)が見守る

 
参加者にアドバイスする演技講師の横濱千尋さん(中央)。レッスン体験は終始楽しい雰囲気で進んだ

参加者にアドバイスする演技講師の横濱千尋さん(中央)。レッスン体験は終始楽しい雰囲気で進んだ

 
 生徒の募集は年1回。学校案内、募集に関する問い合わせ方法などは「C-Zeroアカデミー」公式サイトで見ることができる。FUKUプロモーションは、キャスティングを手掛ける東北芸能企画事務所(秋田県)との契約が実現。すでに仕事のオファーも来ているという。

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【釜石発】子どもたちが主役!「かまっこまつり」大盛況 手作りのお店で交流楽しむ

会話を楽しみながら手作り品をPRする子どもたち

会話を楽しみながら手作り品をPRする子どもたち

 
 釜石市の子どもたちが主役となってつくる「かまっこまつり」が9日、同市大町の市民ホールTETTOで開かれた。約30人がチームを組み、多彩なお店や遊びコーナーを開設。「やってみたい」という思いをかなえながら、来場者との交流も楽しんだ。
 
 小学生らが中心となって企画し、中高生がサポート。まつり限定通貨「かまっコイン」で客とやりとりする。ヘアゴムや写真立てなど雑貨販売、射的やくじ引きといった遊びのコーナーなど手作りの9店が並び、約370人が来場。スライムづくりが人気で順番待ちの列ができたり、用意した手作り品が1時間足らずで完売してしまう店もあり、にぎわった。
 
まつり限定の仮想通貨「かまっコイン」でやりとり

まつり限定の仮想通貨「かまっコイン」でやりとり

 
人気のスライムづくり。店番の子どもがサポート

人気のスライムづくり。店番の子どもがサポート

 
輪ゴムが飛んだ先に視線が集中。盛り上がった射的コーナー

輪ゴムが飛んだ先に視線が集中。盛り上がった射的コーナー

 
 手づくりのキャンドルや香水を販売した小学6年の鈴木楓さん(12)は「楽しい。『きれい』『いいにおい』とか、お客さんの反応がうれしい」と笑顔を見せた。3回目の参加で、今回は同じ学校の友達ら6人で準備。売り物として並べるまでに何度も失敗したり、意見を言い合ったり、いろんなことがあったようだが、「充実感がすごい。思いが同じ友達と出会えたし、人との付き合いもうまくなった」と満足げに話した。
 
「やりたいこと」をかなえ、笑顔でピースサイン

「やりたいこと」をかなえ、笑顔でピースサイン

 
多くの人でにぎわった「かまっこまつり」

多くの人でにぎわった「かまっこまつり」

 
 まつりは釜石まちづくり株式会社が主催。東日本大震災後、放課後子ども教室を運営する市民団体が子どもたちの主体性を育むきっかけづくり、地域コミュニティーづくりとして2013年に始めた。その後、同社が引き続ぎ今回で11回目となった。
 
 「いらっしゃいませー」「限定ですよ」などと元気な呼び込みが飛び交うのも、まつりならでは。同まつり担当で1回目の開催から見守る山口未来さん(39)は、やりたいことを実現させようと挑戦する子どもたちの成長を喜ぶ。継続には、大人の力も必要だと感じていて、「大人の皆さん、一緒に子どもたちを応援しましょう」と、サポーターを求める。

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夢をカタチに!高校生の挑戦 レンタルスペース×古着屋オープン 釜石大観音仲見世に新風

釜石大観音仲見世通りに開店した古着店とレンタルスペース

釜石大観音仲見世通りに開店した古着店とレンタルスペース

 
 高校生とその母親がそれぞれ店長を務める2つの店が、釜石市大平町の釜石大観音仲見世通りに開店した。レンタルスペース「crush on(クラッシュオン)」と、古着屋「たすいち」。親子がタッグを組んで営業する。「若者の居場所をつくりたい」「みんなのやりたいを応援したい」「釜石を盛り上げたい」という思いを形にした。
 
 クラッシュオン店長は市内在住の小笠原皐さん(16)=一関学院高通信制課程1年。たすいちは母・梓さん(39)が店長だが、主導権を握るのは皐さんだ。
 
古着店に立つ小笠原皐さん(右)と母親の梓さん

古着店に立つ小笠原皐さん(右)と母親の梓さん

 
「crush on」(手前)と「たすいち」が入る建物の外観

「crush on」(手前)と「たすいち」が入る建物の外観

 
 幼い頃にダンスを始め、その衣装に使う古着が好きだった皐さん。中学生の頃には店を持つ夢を持っていた。「本当にやりたいことは?」。進路選択の際、自分自身に問いかけた。「もとからあるものは変えたくなる。ゼロから生み出したい。やっちゃえ」。起業を見据え通信制の高校への進学を決めた。学業の傍ら、市主催の起業塾も受講し、経営のノウハウを学んで準備した。
 
 旧土産物店を改装し、広さは“はんぶんこ”。1月1日にプレオープン、31日に本格的に営業を始めた。古着店にはレディース、メンズ、キッズ用の衣類が並び、バッグやアクセサリーといった雑貨もある。置かれているものは、皐さんが「ビビッときたもの」ばかり。同年代の人たちに手に取ってもらえるよう、価格は1000~4000円を中心に設定する。
 
仕入れのポイントは「かわいさ」とPRする小笠原皐さん

仕入れのポイントは「かわいさ」とPRする小笠原皐さん

 
昭和感あり⁉土産物店時代に使われた棚や置物が活躍中

昭和感あり⁉土産物店時代に使われた棚や置物が活躍中

 
 レンタルスペースには4枚の大きな鏡を設置しており、ダンスや演劇などの練習での利用を見込む。冬場の現在は、こたつを持ち込んでいて、「ただ、のんびりしてもらう」要素を演出。誕生会などイベント利用も歓迎する。利用人数に関わらず、大人は1時間660円、高校生以下は550円。グループ利用で大人がいる場合は660円とする。
 
 クラッシュオンは英語で「夢中になる」という意味で、その言葉を使ったオリジナルブランドを、クリエーターとしても活動する梓さんと考案。関連グッズ(Tシャツ、スエットなど)を古着店に並べている。
 
「使い方は自由に」。小笠原皐さんが経営するレンタルスペース

「使い方は自由に」。小笠原皐さんが経営するレンタルスペース

 
オリジナルブランド「crush on」のロゴ入りスエット

オリジナルブランド「crush on」のロゴ入りスエット

 
 開店から数日たった2月のある日。2人は、来店した人の希望を聞きながら品出ししたり、おしゃべりを楽しんでいた。が、実はこの通り、人影はまばら。かつては約20軒の店が営業していたが、今は2軒だけ。初詣やイベントなど行事があれば人出も伴うが、理由がなければ市民が訪れる機会は多くない。なぜ、ここなのか…。
 
シャッターが下りたままの建物が並ぶ釜石大観音仲見世通り。左側の手前が新店舗

シャッターが下りたままの建物が並ぶ釜石大観音仲見世通り。左側の手前が新店舗

 
 「面白くて、なじみがある場所だから」と皐さん。この通りでは、大人たちがにぎわいを取り戻そうとマルシェやアートイベントなどを催していて、子どもの頃から一家で参加していた。楽しさ、何かに夢中になる人たちの姿を記憶にインプット。そこに集う人たちのように「自分も何かしたい。できることでまちを元気にしたい」と淡い思いを抱いてきた。そして、本当は自分がやりたかった「古着屋がマッチする場所」でもあったから。
 
 釜石が好き―。そんな思いが、皐さんから伝わってくる。そこには、東日本大震災時に支えてもらったことへの感謝がある。津波で自宅が全壊。「当時は守ってもらった立場。まちは復興したけど、元気がない。今度は私がまちを盛り上げる番」と凛とした表情を見せる。
 
 そんな皐さんを、少し離れたところから見守る梓さん。「やってみたらいい。楽しいことをどんどん。やれるタイミングがベストだと思うから。こうした新しい動きがまちの起爆剤になればいい」と、あたたかい視線を送る。
 
ほほ笑ましい親子のやりとりを見られるのも売り!

ほほ笑ましい親子のやりとりを見られるのも売り!

 
 学業があるため、店を開くのは週4回。金曜~月曜の午前11時~午後6時までが基本。「ゆる~く、気負わずにやっていきたい。高校生ならではの目線で、気軽に集まれる場所をつくっていけたら」と皐さん。「世間話をしに立ち寄って」とアピールする。
 
「一般的じゃないかも。でも、いろんな選択肢があるんです」と話す小笠原皐さん

「一般的じゃないかも。でも、いろんな選択肢があるんです」と話す小笠原皐さん

 
 自分たちが楽しいと思うことで、お客さんもハッピーになってくれたら―。一つの願いをかなえると、やりたいことが増えてきた皐さん。編み物、釣り、ネイル、ダンス教室、パン作り…。この空間を生かした活動も思案中だ。「時間が足りない」。笑顔が印象的な16歳の挑戦はまだ続く。「釜石には知らないだけでたくさん面白いことがある。それを伝え、つなげていきたい」

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「津波だ、逃げろ!」高台避難の教訓 震災知らない世代にも 新春韋駄天競走111人が坂道駆ける

韋駄天競走は親子の部からスタート。「走れ、逃げろ」と子どもに声掛けする親も

韋駄天競走は親子の部からスタート。「走れ、逃げろ」と子どもに声掛けする親も

 
 「津波から命を守る行動を―」。津波発生時の迅速な高台避難を促すことを目的とした「新春韋駄天競走」が2日、釜石市で行われた。東日本大震災の教訓を後世につなぐ節分行事で、同市大只越町の日蓮宗仙寿院(芝﨑恵応住職)、釜石仏教会が主催。12回目の今年は、コロナ禍以降では最多の111人が参加した。同震災を経験していない子どもたちの姿も多く、いざという時の避難の大切さを体で覚える貴重な機会となった。
 
 参加者は津波浸水域の只越町、消防屯所付近から最も近い津波避難場所、仙寿院境内までを駆け上がる。距離にして286メートル、高低差は約26メートルで、途中に急カーブやきつい勾配がある難コースだ。1~80歳の参加者は6部門に分かれてスタート。小学生以下の子どもと保護者が対象の親子の部は、幼児が父母と手をつないだり、おんぶや抱っこをしてもらいながら、高台の境内を目指した。小中高生や一般の男女は、それぞれのペースで坂を駆け上がり、津波避難意識を高めた。
 
小学生も懸命に急坂を駆け上がる。沿道の声援を力に変えて…

小学生も懸命に急坂を駆け上がる。沿道の声援を力に変えて…

 
日ごろのスポーツ活動で脚力を鍛える中高生らはさすがのスピード

日ごろのスポーツ活動で脚力を鍛える中高生らはさすがのスピード

 
毎年参加の中学生硬式野球チーム「釜石ボーイズ」。この表情は「きつーい」「余裕」さあどっち?

毎年参加の中学生硬式野球チーム「釜石ボーイズ」。この表情は「きつーい」「余裕」さあどっち?

 
男性35歳以上の2位争いはデッドヒート!ラストスパートにかける

男性35歳以上の2位争いはデッドヒート!ラストスパートにかける

 
 釜石市国際外語大学校で昨秋から日本語を学ぶネパール人留学生5人は初めての参加。学校で同行事の目的を教えてもらい、17~20歳の男女が手を挙げた。一度練習して本番に挑んだカトワル・スザンさん(17)は「釜石に津波がきたこと、津波の時は逃げることを勉強しました。ちょっと疲れましたが、楽しかったです。来年、またチャレンジして1番欲しいです」と日本語で感想。日本の文化に触れるため、応援に駆け付けた留学生仲間と一緒に、午後から行われた節分の祈祷(きとう)、豆まきにも参加した。
 
国際外語大学校のネパール人留学生も力走。初めての津波避難模擬体験

国際外語大学校のネパール人留学生も力走。初めての津波避難模擬体験

 
楽しみながら、いざという時の避難行動を学んだ釜石在住のネパール人学生ら

楽しみながら、いざという時の避難行動を学んだ釜石在住のネパール人学生ら

 
 同市の小学校教諭川村悠平さん(33)は釜石赴任を機に家族で初参加。「(高台避難は)こんなにきついんだなと。それでも実際に(津波に)あったら自分の命を守らないといけない。子どもたちにも津波がきたら逃げること、日ごろの備えの大切さを教えていきたい」と身に染みた様子。次女(1)をおんぶ、長女(2)の手を引いて坂を上がった妻紀子さん(32)は「この子(長女)が上まで行けるか不安だったが、最後まで上り切れた。自分が逃げられるのは当たり前だが、一番守りたい命(子ども)を守れるよう常に考えていきたい」と経験を心に刻んだ。
 
親子4人で参加した川村さん家族。「子どもたちが成長したら震災のことも教えたい」と父悠平さん

親子4人で参加した川村さん家族。「子どもたちが成長したら震災のことも教えたい」と父悠平さん

 
 各部門の1位には「福男」「福女」などの認定書が芝﨑住職から贈られた。小学生の時に父と「福親子」3連覇を成し遂げた花巻市の後藤尚希さん(17)は高校2年になった今年、中高生の部で2回目の1位に。兄妹で「福男」「福女」となった八幡平市の山本雄太郎さん(30)は男性34歳以下の部で4回目、妹恵里さん(28、盛岡市)は女性の部で3回目の1位。2年ぶり3回目の“ダブル福”を手にした。
 
写真上:各部門で1位になり、感想を述べる参加者ら 同下:最後は海の方角に向かい震災犠牲者へ黙とうをささげた

写真上:各部門で1位になり、感想を述べる参加者ら 同下:最後は海の方角に向かい震災犠牲者へ黙とうをささげた

 
 男性35歳以上の部1位は山田町の漁業、渡邊強輝さん(37)。これまでに2位を3回経験し、初の「福男」となった。13年前の震災では自宅が全壊。別宅に暮らしていた祖母が津波の犠牲になった。「時間がたっていくと自分自身、避難意識が低くなっているような気がして」と同行事への参加を継続。「あの時、逃げていれば…(助かった)という人がたくさんいた」と悔やまれる思いを口にする。高校2年の長男は当時の記憶はなく、中学1年の長女は震災の3カ月後に生まれた。「知らない世代に自分の行動を示し、とにかく伝え続けることが大事」と教訓伝承に思いを込めた。
 
写真左:初の「福男」となった渡邊強輝さん 同右上:釜石陸上のレジェンド長岡直人さん(80)も元気にゴール

写真左:初の「福男」となった渡邊強輝さん 同右上:釜石陸上のレジェンド長岡直人さん(80)も元気にゴール

 
ゴールまであと少し。力を振り絞り前に進む女性参加者

ゴールまであと少し。力を振り絞り前に進む女性参加者

 
手を取り合い、最後まで頑張る女性参加者に沿道から温かい拍手が送られた

手を取り合い、最後まで頑張る女性参加者に沿道から温かい拍手が送られた

 
 同行事は兵庫県西宮市、西宮神社の新年開門神事「福男選び」をヒントに2014年から始まった。同神社開門神事講社講長の平尾亮さん(48)が足を運び、運営に協力。コロナ禍などでしばらく来られなかったが、今年5年ぶりに訪問が実現した。平尾さんは事故による後遺症で右足が不自由ながら、毎回、参加者と一緒に釜石のコースに挑む。今回も松葉づえをついて、急坂を懸命に駆け上がった。
 
参加者に交じり、5年ぶりに韋駄天のコースを駆け上がった平尾亮さん(写真右)。西宮神社開門神事講の赤いはんてんとジャージー、「ガッツくん」トレーナーは釜石でもおなじみとなったスタイル

参加者に交じり、5年ぶりに韋駄天のコースを駆け上がった平尾亮さん(写真右)。西宮神社開門神事講の赤いはんてんとジャージー、「ガッツくん」トレーナーは釜石でもおなじみとなったスタイル

 
 「走る前に『競走ではあるが、津波避難の教訓を後世に残すことが大きな目的』と、繰り返し伝えているのが印象的。福男選びも本来、1年の初めにえびすさんに福をもらいにいくという初詣に似た意味合いがあるが、あまりにも競う部分がクローズアップされすぎて…。釜石は理想の形」と平尾さん。
 
 今年は阪神・淡路大震災(1995年)から30年―。「震災の記憶、教訓をどう継承していくかは被災地共通の課題。大切な命を守るために私たちができることをしっかりやっていきたい」。遠く離れた両市に思いを寄せ、末永い交流を願った。西宮神社からは今回、同震災復興支援のシンボルキャラクター「ガッツくん」がデザインされたタオルが釜石の参加者に贈られた。

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文化財をひもとく 見えた!5つのストーリー 釜石の歴史文化を伝える展示、講演

釜石の歴史文化にまつわる文化財を紹介する展示

釜石の歴史文化にまつわる文化財を紹介する展示

 
 地域の先人たちが残し、暮らしの息づかいを想像させてくれる文化財。釜石市では保存はもちろん、活用することで、まちの魅力を再認識し、未来につなげる取り組みが進められている。昨夏、「釜石市文化財保存活用地域計画」が文化庁長官認定を受けたことによるもの。同計画には、釜石の歴史文化の特徴から見いだした「5つのストーリー」が存在し、それを伝える関連文化財の展示や専門家による記念講演が1、2日にあった。
 
 市、市教育委員会、市文化財保護審議会が主催。計画の周知や地域遺産を市全体で保存・活用し、地域づくりや観光に生かしていく機運を高ようと、20回目の有形文化財公開事業として行われた。また、2025年は、釜石市が甲子、唐丹、鵜住居、栗橋の4つの村と合併して70周年の節目の年。さらに、太平洋戦争終戦から80年、橋野鉄鉱山を含む「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録10周年も重なる。地域の歴史文化を振り返ることで、新しい未来の創造へつなげてもらう狙いもある。
 
 昨年7月に認定された同計画で、釜石は「豊かな自然に恵まれ、古くから人々の交流や文化が根づき、鉄を起点として近代化を遂げたまち」とする。郷土芸能やまつり、岩手県内陸部など域外との交流でにぎわう一方、戦争や津波による災禍といった苦難を乗り越えてきた歴史も存在。多種多様なものが関わり合い、融合し、脈々と歴史がつながっていることを示す数多くの文化財から5つの群を抽出し、それぞれストーリー性を持たせた。
 
TETTOで開かれた「かまいしの歴史文化 5つのストーリー展」

TETTOで開かれた「かまいしの歴史文化 5つのストーリー展」

 
 それらの物語を紹介する展示は大町の市民ホールTETTOで2日間実施。▽三陸沿岸の豊かな自然とめぐみ▽海をわたり、浜をたどり、峠をこえる▽まつりと信仰で育まれる▽近代都市の形成▽逆境に耐え前進する―との5つの章立てに沿って、市指定文化財や地域に伝わる資料(個人所蔵)などをずらりと並べた。
 
 「南部藩平田村仙台領唐丹村境絵図」(南部、仙台両藩が境を改めて絵図面を取り替え、唐丹村側を書いたもの)、「大橋磁石岩絵図」(今では見ることができない大橋地区にあった磁石岩の形状などを記したもの)、「細布(せばぬの)」(南部藩領・鹿角地方の名産。この麻布には『錦木由来』と題した悲恋物語がつづられている)など、さまざまな視点から歴史、文化に触れることができるつくり。嘉永6(1853)年の三閉一揆の指導者の一人、三浦命助関連資料(獄中記など)、釜石艦砲射撃で実際に使用された砲弾などもあった。
 
他地域との盛んな交流を感じさせる展示コーナー

他地域との盛んな交流を感じさせる展示コーナー

 
昔の街道や海路の様子を記した絵図に見入る来場者

昔の街道や海路の様子を記した絵図に見入る来場者

 
「まつりや信仰」「逆境に耐え前進」などテーマごとに見せた

「まつりや信仰」「逆境に耐え前進」などテーマごとに見せた

 
 来場者の目を引いたのは、「南部領惣絵図(複製)」(縦732センチ、横381センチ)と「仙臺藩領内圖(複製)」(縦516センチ、横841センチ)。正保年間(1644~48年)、元禄14(1701)年にそれぞれ作製されたものという。1市4村合併で現在の釜石市域が形づくられたのは昭和30(1955)年4月のこと。70年となるのを記念し、それぞれの絵図を所蔵する、もりおか歴史文化館、宮城県図書館の協力で複製をつくった。
 
 歴史をひもとくためには、2つの絵図が必要―。市域の大部分は南部藩領だが、南に位置する唐丹は仙台藩だったから。それぞれのぞいてみると、南部の図は宿駅や港間の距離、川幅、港口の状況などが記され、仙台のものには街道や海岸の様子に加え、地形の特色、樹木などの絵も描かれている。「異なる要素が関わり合い、融合」。計画に示された通りで、「物語がないわけない」と主催者たちは楽しそうに話していた。
 
南部藩、仙台藩の情報が記された2枚の絵図(複製)は迫力あり

南部藩、仙台藩の情報が記された2枚の絵図(複製)は迫力あり

 
仙台藩の絵図(左の写真)には「小白濱」、南部藩の絵図には「平田村」とある

仙台藩の絵図(左の写真)には「小白濱」、南部藩の絵図には「平田村」とある

 
 記念講演は2日に開催。同計画の策定に加わった盛岡大の熊谷常正名誉教授が明治時代以降の文化財保護の歩み、新しい動きを解説した。近年は美術品、建造物といった“点”ではなく、群や景観など地域環境や社会性を踏まえ“面”として捉えられているとし、「住民主体の地域づくり、観光資源として活用することが重要だ」と強調。一方、保存の視点では「守らなければなくなるものと考えるのであれば、まず守るべきは私たちの暮らし。生活を守ることで、文化財も守られる」と指摘した。
 
文化財の保存や活用について講演した盛岡大の熊谷常正名誉教授

文化財の保存や活用について講演した盛岡大の熊谷常正名誉教授

 
 計画のキャッチコピー「歴史文化をいかし未来をつくるまち釜石」の実現に向け、助言。「製鉄を中心にしたストーリーは釜石ならでは。同じ歴史はなく、個性、独特な面を持ってつくられている。その代表が文化財。地域のプラスになるよう、新たな価値の発見や魅力の発信にいかしてほしい」と期待した。会場の釜石PITで、市民ら約70人が耳を傾けた。
 
文化財を生かした地域づくりに関心を持つ市民らが聴講した

文化財を生かした地域づくりに関心を持つ市民らが聴講した

 
 計画の認定は、国の補助事業で優先して採択されるなどの利点がある。釜石では、5つのストーリーに沿って「文化財保存活用区域」を設け、住民らと協力しながら歴史文化遺産を生かした取り組みを考えていく。「計画をつくって終わりではなく、まだ続きがある」と市文化振興課の手塚新太課長補佐。同審議会の藤原信孝会長も「地域の文化財を知って関心を持ってもらうことが保護につながる」とし、市民の目に触れる機会を増やしていく考えだ。

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親子で餅つき 小正月の風習「豆っこ木」も 栗林小PTA父親部 地域の伝統を次世代につなぐ

毎年この時期恒例、栗林小PTA主催の餅つき大会=1日、栗林町

毎年この時期恒例、栗林小PTA主催の餅つき大会=1日、栗林町

 
 釜石市の栗林小PTA(栗澤敬太会長)が主催する親子餅つき大会が1日、栗林町の栗橋地区基幹集落センターで開かれた。同校PTAが長年受け継ぐ小正月にちなんだ行事。児童とその家族ら約40人が参加し、昔ながらの臼と杵(きね)での餅つきを楽しんだ。五穀豊穣や無病息災を祈る「豆っこ木」の風習も体験。親子で地域の伝統文化に親しんだ。
 
 同行事はPTA父親部の企画で毎年この時期に行われる。今年は地元農家からもち米6升を提供してもらった。大きな臼と杵も地域住民から借りたもの。もち米を水に浸すなど、前日から父親部が準備し当日を迎えた。米が蒸し上がるまでの間、児童らは「もち米から餅を作るにはどんな準備が必要か」を教わった。
 
蒸し上がったもち米を試食する栗林小の児童。「お味は?」

蒸し上がったもち米を試食する栗林小の児童。「お味は?」

 
 蒸し上がったもち米が調理室から運ばれてくると、児童らはちょっとだけ味見。「かんでいたら甘くなってきた」と普段味わうことのない味覚に笑顔を広げた。いよいよ餅つきの開始。低学年から順番に杵を振るった。父親たちから持ち方や振り下ろし方を教わり、力を込めてついた。周りからは「よいしょー、よいしょー」と大きな掛け声が…。つき手と合いの手を親子で務め、見事なコンビネーションを見せる場面もあった。
 
子どもたちがつきやすいよう、最初はお父さんたちが下準備

子どもたちがつきやすいよう、最初はお父さんたちが下準備

 
「お父さん、かっこいいー!」笑顔で見守る児童ら

「お父さん、かっこいいー!」笑顔で見守る児童ら

 
いよいよ子どもたちの出番。低学年はお父さんたちに手を添えてもらい杵を振るう

いよいよ子どもたちの出番。低学年はお父さんたちに手を添えてもらい杵を振るう

 
だんだんと餅に仕上がっていく様子に顔がほころぶ

だんだんと餅に仕上がっていく様子に顔がほころぶ

 
つき手と合いの手、息の合った動作を見せる親子

つき手と合いの手、息の合った動作を見せる親子

 
 ついた餅の一部は、小さくちぎってコゴメウツギの枝に飾り付けた。これは地元で「豆っこ木」と呼ばれるもので、稲穂に見立て米の豊作を願う小正月の風習。古くから各家庭で行われてきたが、時代の変化とともに行う家庭も少なくなってきている。餅の花が咲いた木はしばらく学校に飾るという。
 
コゴメウツギの枝を餅で飾る「豆っこ木」。豊作を願う地元の風習

コゴメウツギの枝を餅で飾る「豆っこ木」。豊作を願う地元の風習

 
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 同行事は新型コロナウイルス感染症の影響で3年間休止後、昨年から再開。コロナ禍前までは小麦や米粉の団子を作ったり、みんなでつきたての餅を味わう会食なども行っていたが、再開後はインフルエンザなどの感染防止のため規模を縮小。ついた餅は家庭に持ち帰って食べる形に変更した。児童らはこの日、ついた餅を包丁で切り分ける作業も体験した。
 
のし餅を包丁で切り分ける作業も人気。同じぐらいの幅になるよう考えながら…

のし餅を包丁で切り分ける作業も人気。同じぐらいの幅になるよう考えながら…

 
 1年の伊藤晴喜さんは「最初にイメージトレーニングをしていたけど、餅の真ん中目がけて(杵を)下ろすのが難しかった。3~4回ぐらいうまくいった」とにっこり。同じく1年の葛西陽菜さんは「餅を切るのが楽しかった。餅はしょうゆ味と(焼き)のりを巻いたのが好き。早く食べたい」と心待ちにした。同行事は2回目という5年の栗澤煌生さんは「栗林に伝わる豆っこ木の風習は、じいちゃんから聞いていた。家ではこういう餅つきはしないので、お父さんたちが準備してくれてできるのはありがたい」と感謝した。
 
 父親部の伊藤健部長(43)は「餅つき自体、そんなに経験することがないので、子どもたちはすごく楽しそう。核家族化が進み、地域の伝統をつないでいこうとする家庭も減っている。私たち親世代もこういう機会がないとなかなかね…」と同行事の価値を実感する。
 
餅の仕上げはお父さんたちが担当。子どもたちにおいしく食べてもらおうと力を発揮

餅の仕上げはお父さんたちが担当。子どもたちにおいしく食べてもらおうと力を発揮

 
楽しい時間を過ごし、満面の笑みを広げる児童ら

楽しい時間を過ごし、満面の笑みを広げる児童ら

 
 栗林小PTAは歴代の活動を継承。父親部は夏の川遊びと冬の餅つき、母親部は廃油で作ったせっけんの地域販売を行ってきたほか、地域の協力で歴史学習や郷土芸能の伝承に取り組むなど、学校、家庭、地域一体の活動で児童の健全育成に努めてきた。2017年度にはそうした実績が認められ、「優良PTA文部科学大臣表彰」を受賞している。