hamachidori_kanpyokai01

釜石・浜千鳥が評価員特別賞 東北清酒鑑評会、純米酒の部 吟醸酒の部も優等賞

東北清酒鑑評会で評価員特別賞を獲得した浜千鳥の社員ら

東北清酒鑑評会で評価員特別賞を獲得した浜千鳥の社員ら

 
 仙台国税局による東北清酒鑑評会の結果が発表され、純米酒の部で釜石市小川町の酒造会社、浜千鳥(新里進社長)が最優秀賞に次ぐ「評価員特別賞」に選ばれた。吟醸酒の部でも優等賞を獲得。地域性を大事にした酒造りを続けており、新里社長は「岩手県の味わいが認められた」と喜ぶ。日本の「伝統的酒造り」が近く、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録される見通しで、「文化的な面で味わいも深めて楽しんでもらえたら」と期待を膨らませる。
 
 同鑑評会は東北6県で造られた日本酒の品質を評価する。今年は清酒製造場147場(県内は15場)が計274点(同29点)を出品。部門別では吟醸酒が122場136点(同10場10点)、純米酒は122場138点(同14場19点)だった。研究機関の職員や製造場の技術者、外国人の専門家らが10月上旬、香りや味などを総合的に審査した。
 
 その結果、優等賞に吟醸で47場52点、純米で43場46点を選び、その中から、最も評価が高かったものを最優秀賞、次点の2点を評価員特別賞とした。県内からは両部門で9場が選ばれ、浜千鳥を含む4場がダブル受賞。純米の評価員特別賞には浜千鳥とともに、わしの尾(八幡平市)も上位入賞を果たした。
 
 表彰式は11月7日にあり、浜千鳥の本社を訪れた仙台国税局課税第二部の田村英好部長が表彰状を伝達。新里社長、奥村康太郎杜氏(とうじ)・製造部長らが受け取り、社員らと喜びを分かち合った。インバウンド消費や輸出促進に役立ててもらうため、英語の賞状も授与された。
 
h評価員特別賞の表彰状を受け取る新里進社長(中央)ら

評価員特別賞の表彰状を受け取る新里進社長(中央)ら

 
吟醸酒の部の賞状は奥村康太郎杜氏(中央)らが受け取った

吟醸酒の部の賞状は奥村康太郎杜氏(中央)らが受け取った

 
 評価員特別賞を受けた「浜千鳥 純米大吟醸 結の香」は、本県最上級のオリジナル酒米「結の香」を原料に、岩手オリジナル酵母「ジョバンニの調べ」で醸造。軽やかに広がるフルーティーな香り、甘みと酸味の調和感、余韻の心地よさなどが評価された。吟醸の部優等賞の「浜千鳥 大吟醸」は酒米の王「山田錦」が原料。酵母は同じくジョバンニを使う。
 
 同社のダブル受賞は今年で5年連続7回目。全国トップクラスの技術を持つ杜氏や蔵人がひしめく東北鑑評会での入賞は「難しい」との声もある中、2部門での連続受賞に奥村杜氏は素直にうれしさを見せる。「全国に誇れる素材を生かし、浜千鳥らしい味をこれからも。品質も高めていく」。次の酒造りがすでに始まっているといい、「米、酵母、釜石の水…素材本来の味、特徴を見いだしたい」と眼光を鋭くする。
 
田村英好部長に代表銘柄「浜千鳥」を紹介する新里社長(右)

田村英好部長に代表銘柄「浜千鳥」を紹介する新里社長(右)

 
 新里社長は「ありがとう。これまで頑張ってきた成果」と社員への感謝を口にする。冬場に丹精込めて醸造し、夏場も細心の注意を払って管理、熟成させる伝統的な酒造りは変わらない。同じ材料で風合いを守りつつ品質を高めていく姿勢もしかり。「継続性を大切に」と望む中、無形遺産登録への流れを「日本酒の良さを知ってもらう好機」と捉える。「浜千鳥、そして岩手の清酒をどうぞ」。笑顔を添えてアピールした。

piano01

釜石思う心今も… 小樽「旅するピアノ」8度目の訪問コンサート 元仮設住民らと交流継続

小樽市出身者らでつくる「旅するピアノ・プロジェクト」のメンバーと、交流を続ける釜石市民ら

小樽市出身者らでつくる「旅するピアノ・プロジェクト」のメンバーと、交流を続ける釜石市民ら

 
 北海道小樽市出身者でつくる被災地応援プロジェクト「旅するピアノ」(佐藤慶一代表)のメンバーが今年も釜石市でコンサートを開いた。2016年、東日本大震災の被災者が入居していた平田第6仮設団地を初めて訪問。以来、音楽を楽しむ時間を届け続けるメンバー。その寄り添いの気持ちは今も変わらない。8度目の訪問となった今回は大只越町のカトリック釜石教会を会場にし、集まった約30人を新たな趣向で楽しませた。
 
 3日、プロジェクトメンバー7人が来釜。「ピアノでつづる賢治童話の世界」と題したコンサートを繰り広げた。小樽で新聞記者をしていたこともある盛岡市出身の歌人石川啄木(1886-1912)の短歌に曲を付けた「初恋」を、畠山典之さんが歌って幕開け。三浦明子さんと関口ゆかりさんがピアノの独奏を披露した。今回初めての企画も。花巻市出身の童話作家宮沢賢治(1896-1933)の「どんぐりと山猫」を畠山さんが朗読し、三浦さんと関口さんがピアノ伴奏や間奏で物語の世界観を表現した。
 
昨年に続き、カトリック釜石教会で開かれたコンサート

昨年に続き、カトリック釜石教会で開かれたコンサート

 
宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」を朗読とピアノで…。畠山さん(写真右上)は「星めぐりの歌」も歌った

宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」を朗読とピアノで…。畠山さん(写真右上)は「星めぐりの歌」も歌った

 
岩手出身作家の作品を題材にしたコンサートに拍手を送る来場者

岩手出身作家の作品を題材にしたコンサートに拍手を送る来場者

 
 同プロジェクトは小樽潮陵高出身(1990年卒)の岩森勇児さん、野瀬栄進さん、山中泰さんが中心となって進めた東日本大震災復興支援活動が始まり。北海道などでチャリティーコンサートを行った後、2016年2月、初めて釜石市を訪問。平田第6仮設団地内の集会施設「平田パークホール」でピアノコンサートを開いた。ニューヨーク在住のジャズピアニスト野瀬さん、小樽市在住のクラシックピアニスト三浦さんが演奏し、仮設生活が長引いていた被災者らに元気と癒やしを届けた。釜石とのつながりを作った建築家の岩森さんは住民の声を聞き、ホールで使う木製の簡易ステージを製作。団地自治会役員らと一緒に作業し、心を通わせた。
 
2016年2月に平田第6仮設団地で開かれた初めてのコンサート。野瀬栄進さん(写真上)と三浦明子さんが演奏した

2016年2月に平田第6仮設団地で開かれた初めてのコンサート。野瀬栄進さん(写真上)と三浦明子さんが演奏した

 
仮設団地の住民と平田パークホール用の簡易ステージを作る岩森勇児さん(手前右)

仮設団地の住民と平田パークホール用の簡易ステージを作る岩森勇児さん(手前右)

 
 これを機に毎年、釜石を訪問し、幼児施設や公民館、教会などでコンサートを続けてきたメンバーら。訪問後は、小樽市民に被災地の現状を伝える活動も行ってきた。新型コロナウイルス禍で3年間は活動できなかったが、昨年から復活させている。
 
 今回、会場には1回目のコンサートが開かれた平田第6仮設の元住民らが多数訪れた。市内の復興住宅で暮らす人、自宅を再建した人、市外に移住した人…。それぞれ異なる環境で生活する人たちは久しぶりの再会となった人も多く、同窓会的な雰囲気も。コンサート後はメンバーとも会話を弾ませ、思い出話に花を咲かせた。平田の復興住宅に暮らす女性(80)は「懐かしい顔が見られてうれしい。年を重ねると出かけるのもおっくうになりがち。こういうきっかけがないとなかなかね…」と話し、(震災から)13年という年月の経過をあらためて実感した。
 
第1回目のコンサートから出演しているピアノの三浦明子さん(右から2人目)は顔なじみの住民らとの再会を喜んだ

第1回目のコンサートから出演しているピアノの三浦明子さん(右から2人目)は顔なじみの住民らとの再会を喜んだ

 
 ピアノの三浦さん(55)は初めて被災地に足を踏み入れたのが8年前の釜石訪問。被災から5年たっても仮設住宅で暮らす現状に衝撃を受けた。自分たちを温かく迎えてくれる住民と接し、「今回だけなんてありえない。喜んでくれるのなら継続しなければ」と思うようになった。他のメンバーも同じだった。「毎年お会いする中で元気な様子は見えるが、心には今も計り知れないものを抱えていると思う。これからも寄り添い続けたい」と三浦さん。
 
宮沢賢治の世界観を表現したステージセットも岩森さんらの手作り

宮沢賢治の世界観を表現したステージセットも岩森さんらの手作り

 
写真上:コンサート後、あいさつする岩森さん(右)と三浦さん 同左下:小樽の菓子をプレゼントするメンバー

写真上:コンサート後、あいさつする岩森さん(右)と三浦さん 同左下:小樽の菓子をプレゼントするメンバー

 
 岩森さん(53)は仕事の拠点がある静岡県から駆け付ける。「訪問の半年前にミーティングをして企画を練る。ステージは年々バージョンアップし、私たちは釜石の皆さんに育ててもらっている感がある」と話す。建築の技術を生かし、被災地(釜石、大槌、陸前高田など)訪問のたびに木製ベンチやテーブルなどを作る活動も続けてきた。木工品は仮設住宅や復興住宅、公共施設などで住民のコミュニティ―形成に役立てられてきた。今回は製作済みのベンチ5脚を持参し、希望者に引き渡した。これまでに製作したベンチは累計で50脚に上る。岩森さんは「(被災した)皆さんの生活も少しずつ落ち着いてきた印象。それでもメンバーからは『何年を区切りに』という話は出たことがない。被災者と支援者ではなく市民同士、長く縁をつないでいければ」と願う。

suisha01

米、雑穀、野菜… 手作りメニューで収穫の喜び味わう 釜石・橋野で18回目の水車まつり

青空の下で開かれた第18回水車まつり=3日、橋野どんぐり広場

青空の下で開かれた第18回水車まつり=3日、橋野どんぐり広場

 
 釜石市橋野町の初冬の恒例行事「水車まつり」が3日、産地直売所の橋野どんぐり広場周辺で開かれた。米や雑穀、野菜などの農産物を昔ながらの食べ方で味わってもらい、同地域の魅力発信、誘客につなげるイベント。橋野町振興協議会(菊池郁夫会長)、栗橋地区まちづくり会議(洞口政伸議長)が共催する。18回目の今年も市内外から家族連れなど大勢の人が足を運び、地元住民らによる手作りメニューを味わった。
 
 同振興協の菊池会長が歓迎のあいさつをし、餅まきからスタートした。主催、協賛団体の代表が軽トラックの荷台から約800個の紅白餅をまいた。収穫祝いの餅が宙を舞うと、子どもも大人も手を伸ばし、にぎやかな歓声が響いた。
 
水車まつり恒例の餅まき。老若男女が楽しんだ

水車まつり恒例の餅まき。老若男女が楽しんだ

 
 毎回好評の豚汁は約300食分が用意された。地元産の野菜を使い、同振興協女性部が調理。無料のお振る舞いに長い列ができた。手打ちそば、雑穀おにぎり、きびの焼き団子は約150~260食分用意され、安価で販売された。手打ちそばの提供には鵜住居公民館で活動する「そばの三たて会」(奥山英喜会長)が2018年から協力している。来場者は好みのメニューを買い求め、青空の下で農作物の恵みを堪能。周辺の山々の紅葉は始まったばかりだったが、山間部ならではのすがすがしい空気に包まれながら、心地よい時間を過ごした。
 
豚汁のお振る舞いには長い列ができた。この味を求めて足を運ぶ人も多い

豚汁のお振る舞いには長い列ができた。この味を求めて足を運ぶ人も多い

 
豚汁、手打ちそば、雑穀おにぎり…。実りの秋を存分に

豚汁、手打ちそば、雑穀おにぎり…。実りの秋を存分に

 
炭火で焼くきびだんご。手作りのみそだれが香ばしさを倍増

炭火で焼くきびだんご。手作りのみそだれが香ばしさを倍増

 
会員がそば打ちをし、ゆでたてを提供する「そばの三たて会」

会員がそば打ちをし、ゆでたてを提供する「そばの三たて会」

 
 同市箱崎白浜地区から足を運んだいとこ同士という佐々木寧々さん、佐々木蒼さん(ともに小4)は「豚汁はジャガイモが大きくて、味も家で食べるのとは違う。お餅も10個ぐらい拾った。橋野は自然がいっぱいで好き。山にも登ってみたい」と笑顔満開。蒼さんの父隆寛さん(34)は「まつりには初めてきたが、子どもたちが楽しめて良かった。外で食べるのもうれしそう。何でも好き嫌いなく食べて元気に育ってほしい」と望んだ。
 
青空の下で食事を楽しむ来場者

青空の下で食事を楽しむ来場者

 
子どもたちもさまざまなメニューをおいしくいただきました!

子どもたちもさまざまなメニューをおいしくいただきました!

 
 どんぐり広場隣の親水公園には、かやぶき屋根の水車小屋があり、来場者が内と外から見学。橋野町には昔、集落ごとに共同利用の水車小屋があり、水力で動かすきねで米や雑穀をつき、もみ殻をはずす作業を一昼夜かけて行っていたという。この日は、農機具が機械化される前に精米などに使われていた「唐箕(とうみ)」の実演も行われた。7.5キロのもみ米を水車でついた後、木製の唐箕に投入。つまみを回して風を送り、米粒と粉状になったもみなどを分ける作業を公開した。精米した米は2合ずつ見学者にプレゼントされた。
 
今では目にする機会のない「唐箕」の実演に来場者は興味深げに見入った

今では目にする機会のない「唐箕」の実演に来場者は興味深げに見入った

 
 滝沢市から山田町の実家に帰省した吉田陽子さんは「昔はこうやって米を食べられるようにしていたんですね。子どもたちも『これ何するの?』と興味津々でした。昔の農業を知るいい機会」と喜び、ぬか漬け用に米ぬかももらってほくほく顔。「きびだんごとそばがおいしかった」と話す娘の梨緒さん(小2)と「来年も来たいね」と目を合わせた。
 
 橋野どんぐり広場の藤原英彦組合長は今年の農作物の出来について、「大きい台風で稲が倒れることもなく、米の収量はまずまず。野菜も昨年のような酷暑の影響はなく、良いほう。後は野生キノコの出荷制限が早く解除されれば」と来季に期待した。
 
水車が回る親水公園は散策の楽しみも。裏手には「ママシタの滝」がある

水車が回る親水公園は散策の楽しみも。裏手には「ママシタの滝」がある

kamaishiart01

編み物、絵画、写真、舞踊…個性豊かに釜石市民芸文祭 楽しみ発信「あなたは、何する?」

kamaishiart01

生け花など多彩な作品が並んだ釜石市民芸術文化祭

 
 釜石市民芸術文化祭(釜石市、市芸術文化協会主催)は3日までの2日間、同市大町の市民ホールTETTOで開かれ、日頃の芸術活動の成果を披露した。秋を彩るこの催しは54回目。展示部門には生け花や書道、絵画、水墨画、切り絵などの作品が並び、ステージ発表部門では舞踊やバレエ、バンド演奏などが繰り広げられた。
 
 芸文協には26団体(約450人)が加盟。市外を拠点に活動している人、団体もあるが、みな釜石にゆかりがある。それぞれが多様な表現方法を楽しんでいて、年に一度、その姿を発信、共有している。
 
kamaishiart01

多種多様な文化芸術活動に取り組む団体が一堂に会した芸文祭

 
kamaishiart01

好きなことに取り組む人たちの楽しみが鑑賞者にも伝わる

 
 今年、2団体が新たに加わった。その一つが「ニット&レース編人・あみっとの会」。同市甲子町で教室を主宰する石井美智子さんと、釜石を中心とした岩手県沿岸部の生徒8人が繊細なレース編みの敷物や洋服、毛糸で編んだインテリア小物などを多数出展した。「タティング」「クンスト」「フィレ」などレース編みの多彩な技法のほか、ひもを結んだり編んだりして装飾模様や立体を作る手芸「マクラメ」、英国伝統刺しゅう「ニードルポイント」なども紹介。作り手たちの細やかな手仕事を楽しめる作品が目を引いた。
 
kamaishiart01

芸文祭初参加の「あみっとの会」の展示コーナー

 
 教室に通って2年ほどという佐々木純子さん(55)は「いろんな技法に触れられるのが魅力」と話す。かぎ針編みの作品づくりに取り組むが、「年上の先輩たちのやる気がすごい。難しいものに挑戦しようとする姿勢は刺激になる。棒編み、タティングレースをやってみたい」と目標を見いだす。初参加の芸文祭は、他分野の活動を知る機会になった様子。「いざない」というタイトルが付いた写真に感動したといい、「風景を自然のまま写し出しているよう。自分が撮ってもそうならない」と笑っていた。
 
 写真作品「いざない」(全倍・900ミリ×600ミリ)は、幾重にも重なった橋脚の先にたたずむシカを捉えた一枚。撮影者は釜石写光クラブの生田輝夫さん(69)で、「偶然の一枚。趣のある古い橋を撮ろうと行ってみたら、シカがいた。何となく誘っている感じがあって…」とシャッターを切ったという。昨年度の第76回県芸術祭美術展写真部門入選作で、「見てほしい」と望むこの作品を今回、釜石市民に公開。気に入ってくれた人がいたことをうれしく思った様子で、「偶然の出会い、タイミングを楽しみに自然の風景を撮り続けたい」と意欲を高めた。
 
kamaishiart01

仲間と集合写真に納まる生田輝夫さん(左から2人目)。右下の写真が「いざない」

 
 「優れたデザインが多い」と生田さんが感心を寄せたのは、美術集団サムディ45の展示。釜石の街並みをデザインしたマップ風の作品、災害時の冷静な行動の大切さを伝えるポスター看板などがあった。同集団に所属するイラストレーター須藤郁美さん(36)は、タブレット端末を使ったデジタルイラストの実演、体験を提供。色塗りに夢中になる岩洞木春さん(6)ら体験者の活動を見守り、「知らない人が多い分野。感動した表情がうれしい。見てもらったり触れる機会を作って普及させたい」と話した。
 
kamaishiart01

個性あふれるデザイン画などが並んだ「サムディ45」の展示

 
kamaishiart01

デジタルイラストの色塗り体験を提供した須藤郁美さん(左の写真)

 
 須藤さんはもともと絵を描くのが趣味で、大学時代からデジタルアートに取り組む。2年前にアーティスト活動に一本化。似顔絵、擬人化の表現を得意とし、「ポップで気軽に親しみやすい作品づくり」を心がける。芸文祭では多くの目があり、「見る側が求めているものを知ることができた」とヒントを得たようで、「もっと大きなサイズの作品を」と奮起した。
 
kamaishiart01

書、絵画、切り絵なども並び、蘭煎会による呈茶もあった

 
kamaishiart01

小柳玲子バレエ教室は「くるみ割り人形」で舞台発表。釜石のほか宮古、松園教室の生徒が出演

 
kamaishiart01

KIKIダンススクールの3チームは今夏初出場を果たした全国大会の演技を披露した
 

古里釜石で舞踊初披露 菊池由美子(藤間宣福)さん 来春のタレント養成所開設に意欲

 
kamaishiart01

「長唄 越後獅子」を踊る菊池由美子(藤間宣福)さん=2日、TETTO

 
 ステージ発表で日本舞踊を初披露したのは、釜石市出身で昨年、37年ぶりにUターンした菊池由美子さん(56)=FUKUプロモーション代表=。日本舞踊「藤間流」の名取で、舞踊家名は藤間宣福さん。東京で約30年、俳優やモデル、ナレーターとして活躍し、舞台の所作指導なども行ってきた菊池さんは、このたび市芸術文化協会にも加盟し、古里で第2の芸能人生をスタートさせた。
 
 菊池さんは釜石で踊ること自体が初めて。この日は、日本舞踊のゆったりとしたイメージを覆す「長唄 越後獅子」を披露。頭に獅子頭を乗せ、胸に太鼓をつけた越後の旅芸人が江戸に出稼ぎに来た様子を描いたもので、小道具を使って大道芸を踊りで表現した。16分の舞台を、早変わりを含め全て一人で演じ切った。
 
kamaishiart01

元気で軽快な踊りを披露し、観客を楽しませた菊池さん
 
kamaishiart01

釜石での初舞台を終え、ほっとした表情。会場には小中高の同級生らも駆け付けた

 
 菊池さんは高校までを釜石で過ごし、短大進学のため上京。後にモデルの仕事を始め、23歳で役者の道へ進んだ。劇団在籍時、舞台で必要だった日本舞踊を習うため、藤間流の門をたたいた。舞踊歴は約30年に及ぶ。劇団退団後、舞台の仕事を続けながら、興味のあった美容やリラクゼーションの業界にも足を踏み入れ、エステサロン経営や美容雑誌の監修なども手掛けた。
 
 2013年からはエンターテインメント会社に入り、舞台の所作指導のほかナレーターや俳優としても活躍。舞台や映画、ドラマなど制作側の仕事も学んだ。2022年には、古くからの日本女性の理想“大和なでしこ”を和の文化で発信する「なでしこ日本コンテスト全国大会クラシックの部」でグランプリを獲得した。
 
kamaishiart01

芸能事務所「FUKUプロモーション」を立ち上げ、釜石で第2の人生を歩み始めた菊池由美子さん(写真:本人提供)

 
 Uターンを決めたのは高齢の両親のため。現在は「地方から芸能の世界を目指す人たちの力になりたい」と、タレント養成所の開設を目指して準備中。日本の伝統文化や芸能、礼儀作法などを学びながら、演技や声楽、ナレーションといった必要な技能を身に付けられる場を作りたいという。釜石の歴史や観光も学んでもらい、同市のPR役を担っていける人材の育成も目的とする。
 
 「日本には素晴らしい文化や伝統があるが、日本人は海外の人に比べ、自国の誇りを発信する力が弱い。勉強する機会が極端に少ないからだと思う。近年は担い手の高齢化や継承も問題になっている。まずは若い人たちに体験してもらい、次につながる一歩にできれば」と菊池さん。これまで自身が培ってきたものを古里釜石のために生かそうと奮闘する。
 
kamaishiart01

2002年、厚木市文化会館で常磐津「廓八景」を踊る菊池さん(写真:本人提供)

 
kamaishiart01

今年9月、早稲田edu日本語学校で開かれた日舞ワークショップでは講師を務めた(写真:同)

 
 養成所の開設は来春を予定。対象は幼児からシニアを想定する。将来的には、立ち上げた芸能事務所のタレントとして自らマネジメントもしていく考え。「芸能の世界を目指している子たちが自分の夢に近づけるよう全力で応援したい―」。菊池さんの新たな挑戦に目が離せない。

bird02

好きすぎて…「鳥」 作家・ライター細川博昭さん(釜石出身) 語る「人間に似ている」

書店に並ぶ本をのぞき込む人たち=釜石市大町・桑畑書店

書店に並ぶ本をのぞき込む人たち=釜石市大町・桑畑書店

 
 文化の日の3日、釜石市大町の桑畑書店(桑畑眞一社長)に、あるテーマの書籍を紹介するコーナーがお目見えした。客たちがのぞき込む先にあったのは「身近な鳥のすごい辞典」「鳥と人、交わりの文化誌」「インコのひみつ」などとタイトルが記された本。お気づきの通り、テーマは「鳥」で、釜石出身の作家・サイエンスライター細川博昭さん=神奈川県相模原市在住=が手がけた。その細川さんが来釜中だったことから、同日、トークイベントを開催。市民ら15人ほどが耳を傾け、「初めて聞く話で面白かった」と新たな視点や知識との出合いを楽しんだ。
 
「鳥」にまつわる書籍がずらり。著者は作家の細川博昭さん

「鳥」にまつわる書籍がずらり。著者は作家の細川博昭さん

 
 細川さんは釜石南高(現釜石高)卒。14歳の時に決めた「理系の物書き」になるため物理を学ぼうと上智大理工学部に進んだ。卒業後は一時一般企業で働いたが、執筆活動も行い、フリーに転身。物書き一本に絞ってからは鳥を中心に、歴史と科学の両面から人間と動物の関係をルポルタージュするほか、先端の科学や技術を紹介する記事も精力的に執筆、書籍の編集なども手がける。
 
 イベントでは、物書きという人生設計に至った中学時代の生活や思考、飼育する・しないに関わらず身近に鳥がいる地域性、あたためている鳥にまつわるネタなど、聴講者とやりとりしながら紹介した。
 
細川さん(手前)を迎えて開かれたトークイベント

細川さん(手前)を迎えて開かれたトークイベント

 
 鳥との暮らし、見ることが「自然だった」細川さん。社会人時代は鳥との関わりが薄い時期もあったが、27年前に出合った(拾った)セキセイインコの感情の豊かさに「賢い」と感じ、鳥の調査、研究に注力。鳥の体の機能や性格が人間と近かったり、優れていたり、新たな発見に「人生観が変わる」と改めて実感した。「鳥は一生懸命やっている。人間の方がいい加減で、鳥をもっと理解してほしい」と執筆を続けている。
 
 近著は「人も鳥も好きと嫌いでできている インコ学概論」(春秋社)。細川さんが言うには、鳥には「明確に好き嫌いがある。人間を対等の生き物として見ていて、好きの順番もあったり。面白い」と知的好奇心を刺激されている様子だ。
 
 熱を込めた話題は「恐竜から鳥への進化」について。定説となったその説を著書「鳥を識(し)る」(同)で解説する。その副題にもなった「なぜ鳥と人間は似ているのか」に関し、姉妹本的な新書が間もなく刊行予定。鳥と人間の「行動」の類似点について科学と心理学的要素から掘り下げた内容とのことだ。
 
ページをめくりながら鳥にまつわる話題を聞かせた

ページをめくりながら鳥にまつわる話題を聞かせた

 
参加者は熱心に耳を傾け、質問もさまざま出た

参加者は熱心に耳を傾け、質問もさまざま出た

 
 スズメ、カラス、メジロ、ヒバリ…「鳥ごとにいろんな話がある」と話は尽きない細川さん。ある自著を手に取って、「実は3倍くらいの原稿がある」と明かし、「紙の値段が上がっていて大変だが、売れると次が発行される」としっかり宣伝した。
 
 売り込みの工夫として、読者の力も借りているという。飼育書的な内容の本では写真を多用しているが、SNS(交流サイト)を活用して鳥の写真を募集。2000枚ほど寄せられ、整理という作業の労力は侮れないが、「購買者にもなってもらっている」と利点を挙げる。こうした読者との接点を持つ取り組みとして、トーク後にはサイン会も。「本が売れれば、書店のサポートにもなる。共存、共栄で執筆活動をしていければ」とペンを走らせた。
 
細川さんと読者や市民が触れ合ったサイン会

細川さんと読者や市民が触れ合ったサイン会

 
好奇心を刺激され、気になる本を手に取る市民

好奇心を刺激され、気になる本を手に取る市民

 
 桑畑書店の客のように平積みされた一角をのぞいてみると、「老鳥との暮らしかた」「くらべてわかる 文鳥の心、インコの気持ち」(誠文堂新光社)など、「確かに人間も…」と考えさせられるようなタイトルの本があったり、「オカメインコとともに」(グラフィック社)など写真が目を引くものが並んでいた。「宇宙をあるく」(WAVE出版)と毛色の違った本もあった。
 
 他にも「鳥を読む」(春秋社)、「大江戸飼い鳥草紙」(吉川弘文館)、「江戸の鳥類図譜」(秀和システム)、「知っているようで知らない鳥の話」(SBクリエイティブ)など多数出版されていて、支倉槇人名義での著作(文芸、パソコン関連など)もあるとか。手に取って、新しい文化の扉を開いてみるのもいいのでは―。

recyclecenter01

平田に廃プラ対応のリサイクルセンター開設 11月から産廃処理開始、家庭プラは来年4月から

岩手資源循環 釜石総合リサイクルセンター完成見学会(自治体、報道機関向け)=10月31日

岩手資源循環 釜石総合リサイクルセンター完成見学会(自治体、報道機関向け)=10月31日

 
 岩手資源循環(谷博之代表取締役)が釜石市平田に建設を進めていた「釜石総合リサイクルセンター」が完成した。同施設は自治体収集の家庭プラスチックごみの再資源化を主に、産業廃棄物処理にも対応。来年度からの家庭プラごみ分別収集を計画する同市を含め、沿岸地域の資源再生への取り組み加速が期待される。11月からの施設稼働を前に10月31日から11月3日まで、自治体や法人関係者、地域住民向けの見学会が開かれた。
 
 31日は同市関係者約30人が見学。谷代表取締役(49)が工場棟を案内した。同施設は敷地面積約8120平方メートル。釜石など3市2町のごみ処理を行う岩手沿岸南部クリーンセンター隣の日本製鉄所有地を借りて整備された。工場棟(約1500平方メートル)はテント型の鉄骨組み幕構造。中に、家庭プラスチックごみと産業廃棄物を処理する装置がある。
 
釜石市平田第3地割に整備された「釜石総合リサイクルセンター」 写真上:左が工場棟、右が事務所棟

釜石市平田第3地割に整備された「釜石総合リサイクルセンター」 写真上:左が工場棟、右が事務所棟

 
 自治体が分別収集した家庭排出のプラスチックごみは検品後、機械に投入。2台の破集袋機で回収時の袋をはずし、手選別ラインでプラスチック再生できないものを除去。磁選機を経て、最終的に圧縮梱包機で「プラスチックベール」という固まりにし、再生業者に引き渡す。1日(8時間稼働)に12トンまで処理可能。釜石市のプラごみ分別収集が始まる来年4月から、市の委託事業として操業を開始する。
 
自治体回収の家庭プラごみを選別、圧縮梱包する機械装置

自治体回収の家庭プラごみを選別、圧縮梱包する機械装置

 
再生可能なプラごみを圧縮梱包機でプラスチックベール(写真左下)にする。プラベールは1個300キロ

再生可能なプラごみを圧縮梱包機でプラスチックベール(写真左下)にする。プラベールは1個300キロ

 
 産業廃棄物は機械投入前に、危険物のチェックを含め人の手でしっかり分別。廃プラスチック、木くず、繊維くず、ガラス・陶磁器くずなどに分け、品目ごとに機械に入れる。1次破砕機で約5センチ角に破砕。磁選機を経てベルトコンベヤーで運ばれ、品目ごとに下部の保管ボックスに落ちる仕組み。廃プラは2次破砕機でさらに細かく粉砕(約2センチ角)。再生プラスチックを成型するための原料、または化石(石炭)代替燃料として出荷する。廃プラは1日(同)100トンの処理が可能。産廃処理は11月中に開始する。 
 
産業廃棄物を破砕処理する機械。一番奥に2次破砕機がある

産業廃棄物を破砕処理する機械。一番奥に2次破砕機がある

 
 同社は、東日本を中心に廃棄物処理や再資源化事業を行う有明興業(東京都江東区)グループの3社が共同出資し、2022年5月に設立。23年2月、同市と工場立地協定を締結し、同年12月から建設工事が進められてきた。工場棟のほか、事務所棟(木造平屋建て、約250平方メートル)を有する。事業費は約10億円。従業員は地元雇用の24人。今後、選別作業に高齢者や障害者を含むパート採用も行っていきたい考え。
 
 谷代表取締役は「廃プラスチックの再生を一番の目的とした工場。家庭プラごみの選別、梱包は釜石市から始めて、他の沿岸自治体の受け皿にもなっていければ。沿岸特有の漁業系廃棄物はプラスチックが多く使われている。一つでも多くリサイクルし、新たな原料として生かせるようにしたい」と話す。既に多くの漁業関係者や一般法人が関心を寄せているという。全体で年間約9000トンの処理を当初目標とする。
 
左上写真:施設について説明する谷博之代表取締役 右上写真:説明を聞く小野共釜石市長ら

左上写真:施設について説明する谷博之代表取締役 右上写真:説明を聞く小野共釜石市長ら

forum_iryo01

釜石地域の医療どう確保する? フォーラムで現状と課題把握し今後の方向性模索

forum_iryo01

釜石市が開いた第1回地域医療フォーラム=10月29日、TETTO

 
 人口減少、医師不足、収益減…。地方の医療を取り巻く環境が大きく変化する中、持続可能な地域医療をどう維持していくべきかを考えるフォーラムが10月29日、釜石市で開かれた。老朽化が進む県立釜石病院の建て替え、「地域医療連携推進法人」設立の動きについての説明のほか、市民の意見を聞くパネルディスカッションが行われた。同市が主催し、医療関係者と一般市民ら約180人が参加した。
 
 地域医療フォーラムは同市大町の市民ホールTETTOで開かれた。県医療局経営管理課企画予算担当課長の佐藤宏昭さんは、県立病院の2025~30年度の経営計画(素案)について説明。人口減少などによる病床利用率の低下、新型コロナウイルス感染症対応による損益の悪化で厳しい経営状況となっていることから、次期計画では県立病院間の「機能分化」と「連携強化」で、持続可能な医療提供体制を構築する方針が示された。
 
 釜石病院は引き続き、二次救急医療機関として対応するが、周産期、脳卒中、心血管疾患における高度専門医療は大船渡病院と連携して対応。リニアック(放射線治療に使用)などの高度医療器械は大船渡病院に集約するとしている。施設の老朽化に伴う建て替えは人口減少を踏まえ規模を見直し、現在地(周辺)を候補として計画期間中に着手する。機能や病床規模は周辺の医療資源や今後の医療需要の見込みなどを考慮して検討する。参加者からは病床数の想定、産後ケアの人員確保、手術室数についての質問があった。
 
forum_iryo01

県立病院の2025~30年度までの経営計画(素案)について説明された。釜石病院の建て替えは計画期間中に着手する予定

 
 独立行政法人国立病院機構釜石病院の特別参与・名誉院長の土肥守さんは、釜石地域での設立が検討されている「地域医療連携推進法人」について話した。同法人は複数の医療機関が参画し、医師の相互派遣、医薬品の共同購入、医療機器の相互利用などで、質の高い効率的な医療提供体制を“地域で”確保するもの。釜石市では民間医療機関などによる設立準備委員会が設置され、実現への取り組みが始まっている。
 
 人口減少や高齢化の進行で、地域医療の存続には、これまでの「病院完結型」から「地域完結型」医療への転換が必要。釜石での同法人設立は、需要が高まる高齢者や慢性期医療の充実を図るため、治療やケアの医療連携を構築するのが主な目的。本年4月の制度の見直しで、個人医療機関や介護事業所の参加も可能となり、地域包括ケアの一層の推進が期待される。東北では青森、秋田、山形、福島の4県で設立事例があるが、本県ではまだなく、釜石で実現すれば県内初となる。
 
forum_iryo01

釜石での設立を目指す「地域医療連携推進法人」について話す国立病院機構釜石病院の特別参与・名誉院長の土肥守さん

 
forum_iryo01

フォーラムに耳を傾け、地域医療の今後の在り方を考える来場者

 
 パネルディスカッションは釜石医師会の小泉嘉明会長がコーディネーターを務め、市民4人から病院受診の困りごと、地域医療の課題などを聞いた。保育や育児に携わる2人からは、市内で出産や妊婦検診ができない現状、小児科の不足への不安の声が上がった。高齢者世代は通院のための交通手段や診療待ち時間の問題などを指摘。医療機能の集約で県立大船渡病院への通院機会が増えていることもあり、交通手段確保のための方策の必要性が話題となった。小泉会長は「医療現場の環境変化やまちの現状を正しく理解した上で、地域医療存続のために何をすべきか、みんなで考えていく必要がある」と協力を呼び掛けた。
 
forum_iryo01

病院受診の困りごとや医療提供体制に望むことなどを話したパネルディスカッション

 
 この日は、モバイルクリニック車両の展示も行われた。同車両は通院が困難な患者の元に看護師とともに出向き、車内に搭載された遠隔診療システムで病院の医師とつなぎ、対面に近い形で診療を行えるもの。慢性疾患の症状が安定している患者を対象とし、患者や付き添い家族の通院負担、医師の移動(訪問診療など)負担を軽減する。本県では北上市や奥州市で導入されているという。
 
forum_iryo01

遠隔診療を行うモバイルクリニック車両を展示し、来場者に見学してもらった

 
forum_iryo01

車内にはオンライン診療用の機器を搭載。患者は画面越しに医師と会話できる。後部には車いすのまま乗降可能なリフト装置も

sennin_marathon02

険しさも和らぐ秋景色かな 釜石・仙人峠マラソン 急坂挑むランナーら「楽しい」

標高差約400メートルの険しいコースに挑んだ「かまいし仙人峠マラソン大会」

標高差約400メートルの険しいコースに挑んだ「かまいし仙人峠マラソン大会」

 
 急勾配を駆け抜ける「かまいし仙人峠マラソン大会」(同実行委主催)は10月27日、釜石市甲子町大橋の旧釜石鉱山事務所を発着点に行われた。15回目となった大会には、国内外から122人が参加。秋色深まる峠道は見るに楽しいが、アップダウンの激しさも併せ持ち、そんな難コースにランナーたちは果敢に挑んだ。
 
自然や季節を体感!峠道の特徴を生かしたコースが持ち味

自然や季節を体感!峠道の特徴を生かしたコースが持ち味

 
 2010年に始まった同大会は、仙人峠の紅葉のように美しく明るいまち、険しい道のりを乗り越える力を育むことを目標に掲げる。新型コロナウイルス禍で中止していたが、昨年4年ぶりに復活。従来の2コース(17.2キロ、10キロ)を一本化させた形の、約10キロの峠コースに絞って実施した。
 
 今回は昨年の峠コースを16.9キロに延伸。国道283号を下った大松と、標高差約400メートル、平均斜度約5%の坂を上った遠野市との境となる仙人トンネルの釜石側入り口付近の2地点で折り返すコースにした。
 
峠コースの挑戦者たちがにこやかな表情で一斉にスタート

峠コースの挑戦者たちがにこやかな表情で一斉にスタート

 
 高校生から80歳までのランナーは一斉にスタートし、大松までの下りを快走。4.8キロ地点で折り返すと、一転して緩やかな上りとなり、大橋トンネルを抜けた10キロ地点に姿を見せた挑戦者の表情はさまざまだった。軽快さを残す人もいれば、顔を赤らめたり、息があがっていたり。すでに歩きを取り入れている様子も見受けられたが、さらに険しさを増す急坂へ向かった。
 
大橋トンネルを抜けた辺りでランナーは笑顔を見せるも…

大橋トンネルを抜けた辺りでランナーは笑顔を見せるも…

 
峠のきつい坂を懸命に駆け上がる参加者ら=仙人大橋手前

峠のきつい坂を懸命に駆け上がる参加者ら=仙人大橋手前

 
女子は18~68歳の11人がエントリー。上位者はまだ余裕の表情

女子は18~68歳の11人がエントリー。上位者はまだ余裕の表情

 
それぞれのペースで完走を目指す。下りは大幅にスピードアップ(写真下)

それぞれのペースで完走を目指す。下りは大幅にスピードアップ(写真下)

 
 仙人トンネル手前の地点までひたすら続く坂道を体力と精神力で駆け上がり、下るランナーを沿道からの声援が後押し。「ファイト!」「がんばれー」「あと少し」を力にゴールした挑戦者たちには「達成感」という笑顔が共通していた。
 
釜石スポーツ界のレジェンドも見事な走り(左:新日鉄釜石ラグビーV7戦士の氏家靖男さん  右:はまゆりトライアスロンで活躍した東洋さん)

釜石スポーツ界のレジェンドも見事な走り(左:新日鉄釜石ラグビーV7戦士の氏家靖男さん 右:はまゆりトライアスロンで活躍した東洋さん)

 
ゴールテープはすぐ目の前!ランナーを中学生らが迎えた

ゴールテープはすぐ目の前!ランナーを中学生らが迎えた

 
 最も遠くからの参加者に贈られる「遠来賞」を受けた川本啓さん(44)は知人の誘いがあって、12年以来2回目の参加。コースの“きつさ”を知っていたことから余力を残す形で、木々で色づく景色やあたたかい応援を楽しみに走った。開会式で担当した選手宣誓を有言実行。「参加者同士で励まし合いながら、幸せや釜石の未来を思って走り抜いた」とすがすがしい表情を見せた。
 
 誘った知人というのが、釜石出身のリンドステット佳奈さん(42)。スウェーデンから里帰り中で、夫のトーマスさん(45)が初参加していて「本当は私たちが遠来賞だね」と笑っていた。ゴール近くで待ち構えた子どもたち、コンラッドさん(8)、クヌートさん(6)の歓迎を受けたトーマスさんは「ハードで、ちょっとタフなコースだったが、とっても楽しかった。距離は短いかな」とニヤリ。沿道から聞こえてきた野球少年の声や自然の美しさが印象に残ったと満足そうだった。
 
「遠来賞」の川本啓さん(左)とリンドステット トーマスさん一家

「遠来賞」の川本啓さん(左)とリンドステット トーマスさん一家

 
 「満身創痍(そうい)」「いや、余裕っスよ」。完走後にそんなやりとりをしていたのは釜石海上保安部の5人で、巡視艇「きじかぜ」に乗って海の安全・保全業務に励む仲間だ。2回目の参加となる船長の昆諒平さん(35)が「釜石勤務時の思い出づくりに」と声をかけ、いずれも初エントリーの岩波健太郎さん(37)、小野潤一さん(28)、小谷涼太さん(21)、岡安健太さん(28)とともに力走した。海上から陸上へ足場を移した活動に、「山は海の恋人といいますから」と笑い合い、団結力を強化。体力アップも図り、「愛します!守ります!海のもしもは118番」とアピールも忘れなかった。
 
完走し達成感をにじませる釜石海上保安部の5人

完走し達成感をにじませる釜石海上保安部の5人

 
 大漁旗Tシャツとラグビーボールのかぶりもので“釜石愛”を見せたのは、東京都の会社員飛澤潔一さん(39)。第1回大会から欠かさず参加し、「ちょうどハロウィーンの時期なので」と、ちょんまげやネコ耳など毎回、頭のプチ仮装で楽しませる。「昨年は10キロだったので、今年は途中からすごくきつくて…。沿道の応援やきれいな紅葉が励みになった」。釜石に親戚がいて、「遊びにくる口実に」と大会参加を続ける。「39歳以下の部への参加は今回で最後。振り返ると感慨深い。今年は参加者が少ないようだが、来年また盛り返してくれるといい」と望んだ。
 
釜石を全力応援!東京都の飛澤潔一さんは同大会“皆勤賞”。今年のかぶりものは「ラグビーボール」

釜石を全力応援!東京都の飛澤潔一さんは同大会“皆勤賞”。今年のかぶりものは「ラグビーボール」

 
 難コースでつらさを予想するも、意外と多いのが笑い顔。東京都北区の笹岡由喜枝さん(65)も満面の笑みを蓄えながらゴールした。東日本大震災の復興支援が縁で同大会への参加を重ねてきたが、昨年はケガで断念。再戦を果たした今回、喜びを体現しながら走り切った。沿道から届く「走りに寄り添うような応援がありがたくて笑顔を返すの」と話し、信条とする「スマイルラン」で再来を思い浮かべていた。
 
笑顔が印象的な笹岡由喜枝さん。3位入賞(男女年齢別)で8個目のトロフィーを手にした

笑顔が印象的な笹岡由喜枝さん。3位入賞(男女年齢別)で8個目のトロフィーを手にした

 
 挑戦者たちの走りを地域住民、小中学生ボランティアが支えた。甲子中生はゴール付近で計測タグを回収したり水を手渡したり補助員として活躍。6カ所に分かれ給水係を担ったのは甲子地域会議内の各町内会員ら約50人で、釜石野球団Jr.(ジュニア)など野球少年も加わった。
 
 釜石ファイターズから20人余りが参加。小原璃青さん(小学5年)は「みんな、最後まで走り切ろうと頑張っていてすごい。自分たちの応援でゴールまで行ってほしい」と気持ちを込めて声を出した。「ゴーゴー仙人?」「さーいきましょう。やってきました仙人マラソン」など、野球の応援をアレンジした節や替え歌で盛り上げたり、選手とハイタッチする姿も。松本航汰さん(同2年)は「懸命に走っていてかっこよかった。地域の活動をお手伝いして、役に立つことができた」とうなずき、八重樫光彦コーチ(41)は「子どもたちがスポーツの力を感じ、刺激になれば」と期待した。
 
野球の応援をアレンジし参加者に声援を送る釜石ファイターズの団員。ハイタッチで交流も=仙人大橋付近

野球の応援をアレンジし参加者に声援を送る釜石ファイターズの団員。ハイタッチで交流も=仙人大橋付近

 
給水係には甲子地域会議の各町内会員約50人が協力。拍手で参加者を迎えた=仙人大橋たもと

給水係には甲子地域会議の各町内会員約50人が協力。拍手で参加者を迎えた=仙人大橋たもと

 
大橋トンネル付近の給水所やコース沿いでも市民が声援を送った

大橋トンネル付近の給水所やコース沿いでも市民が声援を送った

 
 「マニアックなコースを楽しんでもらった」と小泉嘉明実行委会長(市体育協会長)。昨年に続き、運営体制などを考慮し規模を縮小した形となったが、「このコースはまれ。どうにか生かしたい。親子で楽しめることを考えてみたり…」と、継続への思いは上向きのようだ。
 
美しい紅葉に元気をもらい一歩一歩前へ…。仙人峠の秋風景も参加者を引きつける大きな魅力

美しい紅葉に元気をもらい一歩一歩前へ…。仙人峠の秋風景も参加者を引きつける大きな魅力

shiseikoro01

保健福祉、文化財保護、消防防災、林業振興の4分野で活躍 釜石・市勢功労者6人

釜石の市勢発展に貢献し功労者表彰を受けた受賞者ら

釜石の市勢発展に貢献し功労者表彰を受けた受賞者ら

 
 釜石市は10月31日、2024年度の市勢功労者表彰式を港町の陸中海岸グランドホテルで開いた。保健福祉の向上や文化財の保護管理、消防防災の各分野で市勢の発展に貢献した自治功労者として5人を表彰。林業の振興に尽くした1人を特別功労者としてたたえた。
 
 自治功労では、学校歯科医として及川陽次さん(61)=大町、学校医としては小笠原善郎さん(65)と濱登文寿さん(60)=ともに上中島町=が表彰を受けた。それぞれ保健福祉の向上、子どもへの献身的な活動を継続中。市文化財保護審議会長を4年余り務めた川原清文さん(81)=唐丹町、消防団員として47年間活動し、市消防団本部分団長などの要職も務めた千葉茂さん(71)=同=も受賞した。
 
各分野で力を尽くし自治功労表彰を受けた5人

各分野で力を尽くし自治功労表彰を受けた5人

 
 特別功労には、釜石地方森林組合代表理事組合長を通算5年間務めた久保知久さん(76)=平田町=を選出。長年、地域林業の振興発展に力を注いでおり、16年に自治功労表彰を受けている。
 
釜石市が開いた2024年度の市勢功労者表彰式

釜石市が開いた2024年度の市勢功労者表彰式

 
 式辞に立った小野共市長は「新たな時代、新しい釜石を築き、持続可能なまちづくりを進めるには市民の力添えが欠かせない。これまで培ってきた豊かな識見と経験のもと、一層の支援と協力をお願いする」と述べた。
 
市勢の発展に尽くす6人をたたえた小野共市長

市勢の発展に尽くす6人をたたえた小野共市長

 
代表して謝辞を述べる川原清文さん

代表して謝辞を述べる川原清文さん

 
 受賞者を代表し、川原さんが「それぞれの分野で活動してきたことが、人とのつながりや地域、市勢の発展に少しでも貢献できたことはこの上ない喜び。受賞は、周囲の支援や協力のおかげ」と謝辞を述べた。人の営みや歴史をうかがい知れる文化財の魅力を語り、「深みにはまった」とニヤリ。後進の活躍に期待を寄せつつ、「これからも市民が安心して暮らせるような、より魅力的なまちとなるよう努力していきたい」と話した。
 
リラックスした様子で写真撮影に臨む受賞者ら

リラックスした様子で写真撮影に臨む受賞者ら

54kamaishiartfestivalthum

第54回釜石市民芸術文化祭

第54回釜石市民芸術文化祭
 
テーマ【子供たちの笑顔、未来に紡ぐ芸術の心!!】
市民の皆さまに親しまれている「釜石市民芸術文化祭」を今年も開催します。
作品の展示や芸能発表など日々の芸術活動の成果をぜひご覧ください。

日時

令和6年11月2日(土)開場時間:9時~18時  
令和6年11月3日(日)開場時間:9時~16時

会場

釜石市民ホールTETTO(釜石市大町1丁目1番9号)
※入場無料※

ポスター・パンフレット

第54回釜石市民芸術文化祭ポスター[PDF:392KB]
第54回釜石市民芸術文化祭パンフレット[PDF:3.14MB]
(2024年10月31日更新)

ステージスケジュール

※変更になる場合があります
2日(土)

13:00〜13:30 オープニングセレモニー
13:50 小柳玲子バレエ教室
14:00 「KIKIダンススクール」コンテストユニット
14:30 FUKUプロモーション (日本舞踊)
15:00 小四キッズピアノ独奏オペラ
メゾソプラノ独唱と”書”の響きあい(支部欄蹊)
15:40 ”港の芸術作品紹介散歩”inTETTO

3日(日)

11:30 MIA&リアスバンド
13:00 釜石芸能連合会 ~唄と踊りのバラエティーショー~
15:15 閉会式

この記事に関するお問い合わせ
釜石市 文化スポーツ部 文化振興課 芸術文化係
〒026-0003 岩手県釜石市嬉石町1丁目7番8号
TEL 0193-27-7567 / Fax 0193-31-7568 / メール
元記事:https://www.city.kamaishi.iwate.jp/docs/2024102800045/
釜石市

釜石市

釜石市公式サイトと連携し、縁とらんすがピックアップした記事を掲載しています。記事の内容に関するお問い合わせは、各記事の担当窓口までお問い合わせください。
koho1843thum

広報かまいし2024年11月1日号(No.1843)

広報かまいし2024年11月1日号(No.1843)
 

広報かまいし2024年11月1日号(No.1843)

広報かまいし2024年11月1日号(No.1843)

ファイル形式: PDFファイル
データ容量: 1.95MB
ダウンロード


 

【P1】
令和7年4月保育所等への入所申込を受け付けます

【P2-3】
まちのお知らせ

【P4】
マイレールDAY 2024~鉄道の大切さ、今日は1日考えよう~ 他

この記事に関するお問い合わせ
釜石市 総務企画部 広聴広報課 広聴広報係
〒026-8686 岩手県釜石市只越町3丁目9番13号
電話:0193-27-8419 / Fax 0193-22-2686 / メール
元記事:https://www.city.kamaishi.iwate.jp/docs/2024103000017/
釜石市

釜石市

釜石市公式サイトと連携し、縁とらんすがピックアップした記事を掲載しています。記事の内容に関するお問い合わせは、各記事の担当窓口までお問い合わせください。
onodera01

油彩一筋45年 釜石市民絵画教室前会長・小野寺豊喜さん 初の個展で自身の創作活動回顧

油彩画の個展を初めて開いた小野寺豊喜さん(中央)=TETTO、30日

油彩画の個展を初めて開いた小野寺豊喜さん(中央)=TETTO、30日

 
 釜石市鵜住居町のアマチュア画家、小野寺豊喜さん(76)が自身初となる個展を開いた。釜石市民絵画教室(現・釜石絵画クラブ)で腕を磨き、長年、同教室の会長も務めてきた小野寺さん。油彩画に魅せられ、続けてきた創作活動は45年にも及ぶ。今回、同級生の働きかけも背中を押し、「これまで手がけた作品をもう一度見直す機会に」と個展開催を決めた。
 
 小野寺さんの個展は10月28日から30日まで、大町の市民ホールTETTOで開かれた。1980年代初頭の作品から近作まで計88点を展示。最小のF0(エフゼロ)から400号の大作まで見応えのある作品の数々が並んだ。小野寺さんが描くのは季節の野菜や果物、魚などの静物、海や山、花の自然風景…など。県内陸部出身ということもあり、興味をそそられるのは海や魚。中でも三陸海岸の荒々しい岩々に創作意欲をかき立てられるという。
 
野菜や果物、花などを描いた静物画。これまでに描いた作品は数知れず

野菜や果物、花などを描いた静物画。これまでに描いた作品は数知れず

 
昔、各家庭の軒先で見られた「新巻きザケ」は定番のモチーフ(左)。食卓に上る前の魚やカニも

昔、各家庭の軒先で見られた「新巻きザケ」は定番のモチーフ(左)。食卓に上る前の魚やカニも

 
悠久の時が生み出した三陸海岸の岩のある風景                                                 

悠久の時が生み出した三陸海岸の岩のある風景

 
 展示会場でひときわ目を引いたのが「震災前の御箱崎 仮宿海岸」という作品(1997年作)。画布を張ったベニヤ板4枚を一つのキャンバスにして、テトラポットの上から見えたダイナミックな“岩”風景を描いた400号の大作だ。今回の展示のために一部、加筆し、27年ぶりに日の目を見た。
 
F400の大作「震災前の御箱崎 仮宿海岸」には来場者が驚きの声を上げた

F400の大作「震災前の御箱崎 仮宿海岸」には来場者が驚きの声を上げた

 
 「震災後の風景」として4作品(F100)も公開した。がれきが積み重なるなど実際に目にした光景に、2人の孫の姿を入れて画面構成。荒れ果てた古里に立つ子どもたちの視線の先には何が見えるのか…。見る人の視点で、さまざまな感情が湧き起こる。このうち2作品は、岩手芸術祭美術展洋画部門で部門賞を受賞している。
 
県の芸術祭洋画部門で部門賞を受賞した作品「震災後の風景1」

県の芸術祭洋画部門で部門賞を受賞した作品「震災後の風景1」

 
震災後の風景2(左)と同3(右)。2人の孫とともに描かれる

震災後の風景2(左)と同3(右)。2人の孫とともに描かれる

 
 小野寺さんは1979(昭和54)年30歳の時、市教委が前年から始めた社会教育講座の絵画教室を受講。同教室終了後の81(同56)年、受講生らが自主活動グループとして立ち上げた「釜石市民絵画教室」の会員となり、創作活動を続けてきた。後に同教室の5代目会長に就任。昨年、グループ名を改称するまで務め上げた。これまでは、教室が年度末に開く「わたくしたちの絵画展」や11月の市民芸術文化祭で作品を発表してきたが、今回初めて“個展”と言う形での発表が実現した。
 
 油彩の魅力について小野寺さんは「こすったり削ったり重ねたり…。創作が自由にできるところ」と話し、その過程を人生に照らし合わせる。「人も失敗や成功、気持ちの高ぶりや落ち込み、いろいろな場面に遭遇するが、失敗したら直せばいいし、絵にも人生にも答えというものはない。ものの見方、感じ方も人それぞれ。どちらも自由さが必要」。自身は20代後半に単身でオーストラリアに渡り、砂漠地帯の一人旅を経験した。そこで得た「良いことも悪いことも受け止めて生きる」姿勢は絵を描く上でも生かされているという。
 
来場者に作品の説明をする小野寺豊喜さん(左)

来場者に作品の説明をする小野寺豊喜さん(左)

 
全88点の作品が小野寺さんの絵画人生を物語る

全88点の作品が小野寺さんの絵画人生を物語る

 
 縁あって釜石で仕事をすることになり、人生を豊かにする絵画の世界にも足を踏み入れた。それから45年―。2011年の東日本大震災では、高台の自宅は津波被害を免れたが、地元鵜住居の景色は一変した。発災時は市民絵画教室の展示会初日。会場の市民文化会館(大町)にいた会員4人は辛うじて避難し無事だった。小野寺さんは3日後、同館に向かい、暗く泥にまみれた室内から自作9点を含む43点の作品を“救出”。泥を落とし会員に返した。
 
左:函館連絡船でのスケッチ 右:ツバキを描いた小作品(F0)

左:函館連絡船でのスケッチ 右:ツバキを描いた小作品(F0)

 
小野寺さんの作風に触れながら鑑賞する来場者

小野寺さんの作風に触れながら鑑賞する来場者

 
 初の個展を経験した小野寺さんは、作品を振り返る中で「新たなテーマが見つかった」と話す。今までは忠実に描こうという気持ちが強かったが、「単純化された表現」に興味が向いた。「もっと物の見方、感じ方も変わっていいのではないか。そうすればさらに面白い作品ができる。まだまだ、あと10年は描きたい―」。当初、“最初で最後”と考えていた個展だが、また数年後にも実現するかもしれない。