編み物、絵画、写真、舞踊…個性豊かに釜石市民芸文祭 楽しみ発信「あなたは、何する?」


2024/11/11
釜石新聞NewS #文化・教育

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生け花など多彩な作品が並んだ釜石市民芸術文化祭

 
 釜石市民芸術文化祭(釜石市、市芸術文化協会主催)は3日までの2日間、同市大町の市民ホールTETTOで開かれ、日頃の芸術活動の成果を披露した。秋を彩るこの催しは54回目。展示部門には生け花や書道、絵画、水墨画、切り絵などの作品が並び、ステージ発表部門では舞踊やバレエ、バンド演奏などが繰り広げられた。
 
 芸文協には26団体(約450人)が加盟。市外を拠点に活動している人、団体もあるが、みな釜石にゆかりがある。それぞれが多様な表現方法を楽しんでいて、年に一度、その姿を発信、共有している。
 
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多種多様な文化芸術活動に取り組む団体が一堂に会した芸文祭

 
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好きなことに取り組む人たちの楽しみが鑑賞者にも伝わる

 
 今年、2団体が新たに加わった。その一つが「ニット&レース編人・あみっとの会」。同市甲子町で教室を主宰する石井美智子さんと、釜石を中心とした岩手県沿岸部の生徒8人が繊細なレース編みの敷物や洋服、毛糸で編んだインテリア小物などを多数出展した。「タティング」「クンスト」「フィレ」などレース編みの多彩な技法のほか、ひもを結んだり編んだりして装飾模様や立体を作る手芸「マクラメ」、英国伝統刺しゅう「ニードルポイント」なども紹介。作り手たちの細やかな手仕事を楽しめる作品が目を引いた。
 
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芸文祭初参加の「あみっとの会」の展示コーナー

 
 教室に通って2年ほどという佐々木純子さん(55)は「いろんな技法に触れられるのが魅力」と話す。かぎ針編みの作品づくりに取り組むが、「年上の先輩たちのやる気がすごい。難しいものに挑戦しようとする姿勢は刺激になる。棒編み、タティングレースをやってみたい」と目標を見いだす。初参加の芸文祭は、他分野の活動を知る機会になった様子。「いざない」というタイトルが付いた写真に感動したといい、「風景を自然のまま写し出しているよう。自分が撮ってもそうならない」と笑っていた。
 
 写真作品「いざない」(全倍・900ミリ×600ミリ)は、幾重にも重なった橋脚の先にたたずむシカを捉えた一枚。撮影者は釜石写光クラブの生田輝夫さん(69)で、「偶然の一枚。趣のある古い橋を撮ろうと行ってみたら、シカがいた。何となく誘っている感じがあって…」とシャッターを切ったという。昨年度の第76回県芸術祭美術展写真部門入選作で、「見てほしい」と望むこの作品を今回、釜石市民に公開。気に入ってくれた人がいたことをうれしく思った様子で、「偶然の出会い、タイミングを楽しみに自然の風景を撮り続けたい」と意欲を高めた。
 
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仲間と集合写真に納まる生田輝夫さん(左から2人目)。右下の写真が「いざない」

 
 「優れたデザインが多い」と生田さんが感心を寄せたのは、美術集団サムディ45の展示。釜石の街並みをデザインしたマップ風の作品、災害時の冷静な行動の大切さを伝えるポスター看板などがあった。同集団に所属するイラストレーター須藤郁美さん(36)は、タブレット端末を使ったデジタルイラストの実演、体験を提供。色塗りに夢中になる岩洞木春さん(6)ら体験者の活動を見守り、「知らない人が多い分野。感動した表情がうれしい。見てもらったり触れる機会を作って普及させたい」と話した。
 
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個性あふれるデザイン画などが並んだ「サムディ45」の展示

 
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デジタルイラストの色塗り体験を提供した須藤郁美さん(左の写真)

 
 須藤さんはもともと絵を描くのが趣味で、大学時代からデジタルアートに取り組む。2年前にアーティスト活動に一本化。似顔絵、擬人化の表現を得意とし、「ポップで気軽に親しみやすい作品づくり」を心がける。芸文祭では多くの目があり、「見る側が求めているものを知ることができた」とヒントを得たようで、「もっと大きなサイズの作品を」と奮起した。
 
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書、絵画、切り絵なども並び、蘭煎会による呈茶もあった

 
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小柳玲子バレエ教室は「くるみ割り人形」で舞台発表。釜石のほか宮古、松園教室の生徒が出演

 
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KIKIダンススクールの3チームは今夏初出場を果たした全国大会の演技を披露した
 

古里釜石で舞踊初披露 菊池由美子(藤間宣福)さん 来春のタレント養成所開設に意欲

 
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「長唄 越後獅子」を踊る菊池由美子(藤間宣福)さん=2日、TETTO

 
 ステージ発表で日本舞踊を初披露したのは、釜石市出身で昨年、37年ぶりにUターンした菊池由美子さん(56)=FUKUプロモーション代表=。日本舞踊「藤間流」の名取で、舞踊家名は藤間宣福さん。東京で約30年、俳優やモデル、ナレーターとして活躍し、舞台の所作指導なども行ってきた菊池さんは、このたび市芸術文化協会にも加盟し、古里で第2の芸能人生をスタートさせた。
 
 菊池さんは釜石で踊ること自体が初めて。この日は、日本舞踊のゆったりとしたイメージを覆す「長唄 越後獅子」を披露。頭に獅子頭を乗せ、胸に太鼓をつけた越後の旅芸人が江戸に出稼ぎに来た様子を描いたもので、小道具を使って大道芸を踊りで表現した。16分の舞台を、早変わりを含め全て一人で演じ切った。
 
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元気で軽快な踊りを披露し、観客を楽しませた菊池さん
 
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釜石での初舞台を終え、ほっとした表情。会場には小中高の同級生らも駆け付けた

 
 菊池さんは高校までを釜石で過ごし、短大進学のため上京。後にモデルの仕事を始め、23歳で役者の道へ進んだ。劇団在籍時、舞台で必要だった日本舞踊を習うため、藤間流の門をたたいた。舞踊歴は約30年に及ぶ。劇団退団後、舞台の仕事を続けながら、興味のあった美容やリラクゼーションの業界にも足を踏み入れ、エステサロン経営や美容雑誌の監修なども手掛けた。
 
 2013年からはエンターテインメント会社に入り、舞台の所作指導のほかナレーターや俳優としても活躍。舞台や映画、ドラマなど制作側の仕事も学んだ。2022年には、古くからの日本女性の理想“大和なでしこ”を和の文化で発信する「なでしこ日本コンテスト全国大会クラシックの部」でグランプリを獲得した。
 
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芸能事務所「FUKUプロモーション」を立ち上げ、釜石で第2の人生を歩み始めた菊池由美子さん(写真:本人提供)

 
 Uターンを決めたのは高齢の両親のため。現在は「地方から芸能の世界を目指す人たちの力になりたい」と、タレント養成所の開設を目指して準備中。日本の伝統文化や芸能、礼儀作法などを学びながら、演技や声楽、ナレーションといった必要な技能を身に付けられる場を作りたいという。釜石の歴史や観光も学んでもらい、同市のPR役を担っていける人材の育成も目的とする。
 
 「日本には素晴らしい文化や伝統があるが、日本人は海外の人に比べ、自国の誇りを発信する力が弱い。勉強する機会が極端に少ないからだと思う。近年は担い手の高齢化や継承も問題になっている。まずは若い人たちに体験してもらい、次につながる一歩にできれば」と菊池さん。これまで自身が培ってきたものを古里釜石のために生かそうと奮闘する。
 
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2002年、厚木市文化会館で常磐津「廓八景」を踊る菊池さん(写真:本人提供)

 
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今年9月、早稲田edu日本語学校で開かれた日舞ワークショップでは講師を務めた(写真:同)

 
 養成所の開設は来春を予定。対象は幼児からシニアを想定する。将来的には、立ち上げた芸能事務所のタレントとして自らマネジメントもしていく考え。「芸能の世界を目指している子たちが自分の夢に近づけるよう全力で応援したい―」。菊池さんの新たな挑戦に目が離せない。

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