釜石地域の医療どう確保する? フォーラムで現状と課題把握し今後の方向性模索
釜石市が開いた第1回地域医療フォーラム=10月29日、TETTO
人口減少、医師不足、収益減…。地方の医療を取り巻く環境が大きく変化する中、持続可能な地域医療をどう維持していくべきかを考えるフォーラムが10月29日、釜石市で開かれた。老朽化が進む県立釜石病院の建て替え、「地域医療連携推進法人」設立の動きについての説明のほか、市民の意見を聞くパネルディスカッションが行われた。同市が主催し、医療関係者と一般市民ら約180人が参加した。
地域医療フォーラムは同市大町の市民ホールTETTOで開かれた。県医療局経営管理課企画予算担当課長の佐藤宏昭さんは、県立病院の2025~30年度の経営計画(素案)について説明。人口減少などによる病床利用率の低下、新型コロナウイルス感染症対応による損益の悪化で厳しい経営状況となっていることから、次期計画では県立病院間の「機能分化」と「連携強化」で、持続可能な医療提供体制を構築する方針が示された。
釜石病院は引き続き、二次救急医療機関として対応するが、周産期、脳卒中、心血管疾患における高度専門医療は大船渡病院と連携して対応。リニアック(放射線治療に使用)などの高度医療器械は大船渡病院に集約するとしている。施設の老朽化に伴う建て替えは人口減少を踏まえ規模を見直し、現在地(周辺)を候補として計画期間中に着手する。機能や病床規模は周辺の医療資源や今後の医療需要の見込みなどを考慮して検討する。参加者からは病床数の想定、産後ケアの人員確保、手術室数についての質問があった。
県立病院の2025~30年度までの経営計画(素案)について説明された。釜石病院の建て替えは計画期間中に着手する予定
独立行政法人国立病院機構釜石病院の特別参与・名誉院長の土肥守さんは、釜石地域での設立が検討されている「地域医療連携推進法人」について話した。同法人は複数の医療機関が参画し、医師の相互派遣、医薬品の共同購入、医療機器の相互利用などで、質の高い効率的な医療提供体制を“地域で”確保するもの。釜石市では民間医療機関などによる設立準備委員会が設置され、実現への取り組みが始まっている。
人口減少や高齢化の進行で、地域医療の存続には、これまでの「病院完結型」から「地域完結型」医療への転換が必要。釜石での同法人設立は、需要が高まる高齢者や慢性期医療の充実を図るため、治療やケアの医療連携を構築するのが主な目的。本年4月の制度の見直しで、個人医療機関や介護事業所の参加も可能となり、地域包括ケアの一層の推進が期待される。東北では青森、秋田、山形、福島の4県で設立事例があるが、本県ではまだなく、釜石で実現すれば県内初となる。
釜石での設立を目指す「地域医療連携推進法人」について話す国立病院機構釜石病院の特別参与・名誉院長の土肥守さん
フォーラムに耳を傾け、地域医療の今後の在り方を考える来場者
パネルディスカッションは釜石医師会の小泉嘉明会長がコーディネーターを務め、市民4人から病院受診の困りごと、地域医療の課題などを聞いた。保育や育児に携わる2人からは、市内で出産や妊婦検診ができない現状、小児科の不足への不安の声が上がった。高齢者世代は通院のための交通手段や診療待ち時間の問題などを指摘。医療機能の集約で県立大船渡病院への通院機会が増えていることもあり、交通手段確保のための方策の必要性が話題となった。小泉会長は「医療現場の環境変化やまちの現状を正しく理解した上で、地域医療存続のために何をすべきか、みんなで考えていく必要がある」と協力を呼び掛けた。
病院受診の困りごとや医療提供体制に望むことなどを話したパネルディスカッション
この日は、モバイルクリニック車両の展示も行われた。同車両は通院が困難な患者の元に看護師とともに出向き、車内に搭載された遠隔診療システムで病院の医師とつなぎ、対面に近い形で診療を行えるもの。慢性疾患の症状が安定している患者を対象とし、患者や付き添い家族の通院負担、医師の移動(訪問診療など)負担を軽減する。本県では北上市や奥州市で導入されているという。
遠隔診療を行うモバイルクリニック車両を展示し、来場者に見学してもらった
車内にはオンライン診療用の機器を搭載。患者は画面越しに医師と会話できる。後部には車いすのまま乗降可能なリフト装置も
釜石新聞NewS
復興釜石新聞を前身とするWeb版釜石新聞です。専属記者2名が地域の出来事や暮らしに関する様々なNEWSをお届けします。取材に関する情報提供など: 担当直通電話 090-5233-1373/FAX 0193-27-8331/問い合わせフォーム