釜石鵜住居復興スタジアム裏にあるラグビー神社に参拝する「絆キャンプ」の参加者
ラグビー「リーグワン」所属チームが関係するジュニア・ユース団体による交流合宿「絆キャンプ」が、23~25日まで釜石市で開催された。2019年のラグビーワールドカップ(W杯)日本大会の試合誘致により、東日本大震災からの復興を大きく前進させた同市で、今後のラグビー人生の糧となる学びを得ようと関係者が企画。埼玉、広島両県の3チームで活動する中学生らが訪れ、震災・防災学習、地元チームとの交流試合などを行った。
釜石を訪れたのは埼玉県のワイルドナイツジュニアユース、Acorns Sports & Rugby Academy(エーコンズスポーツアンドラグビーアカデミー)、広島県の広島ラガー・ジュニアラグビースクールの団員ら。地元から釜石シーウェイブス(SW)アカデミー、宮古ラグビースクールが加わり、約80人での合宿となった。
23日に釜石入りした県外3チームは、鵜住居町で2011年の震災について学んだ。犠牲者の芳名板が設置される「釜石祈りのパーク」で黙とうをささげ、同所を襲った津波の高さをモニュメントで実感。防災市民憲章に込められた4つの教訓「備える、逃げる、戻らない、語り継ぐ」を心に刻んだ。震災伝承施設「いのちをつなぐ未来館」では津波の映像や展示物を見ながら、同市の被害状況、小中学生がとった避難行動などについて話を聞いた。
釜石祈りのパークで東日本大震災について学ぶワイルドナイツジュニアユースの団員ら=23日
いのちをつなぐ未来館でさらに詳しく学習。震災の教訓を心に刻む
24日は参加チームのコーチ陣による技術指導や交流試合が行われた。試合会場の釜石鵜住居復興スタジアムでは、施設の意義や特徴も学習した。復興に向かう同市がラグビーW杯誘致に動き、被災した小中学校跡地にスタジアムを新設。防災機能を兼ね備えた施設で、建設にはさまざまな人たちの復興への強い思いが込められていることが伝えられた。
「釜石鵜住居復興スタジアム」建設の経緯を聞く
参加者から質問も。元釜石SW選手で市職員の佐伯悠さんが答える
交流試合は「チーム埼玉・広島対チーム三陸」など各種対戦カードが組まれた。選手たちは釜石復興を願ってきた人々の気持ち、憧れのW杯選手と同じピッチに立てる喜びをかみしめながら試合に臨み、ひたむきなプレーを見せた。
ワイルドナイツの小沼虎汰郎さん(中2)は「みんな、よくくじけずに復興までこぎ着けたなあと思う。スタジアムは同じ被害に遭わないための工夫もあって驚いた。いろいろなことを知れて本当にためになった。災害が起こったらパニックになってしまうかもしれないが、ここで学んだことを生かせれば」と収穫を口にした。
釜石SWにも在籍した中村彰さんが立ち上げたエーコンズの清水蒼唯さん(中2)は昨年も合宿で釜石を訪問。「自然が多く、地元埼玉では感じられない別の雰囲気がある。普段、対戦機会のないチームとの試合は身が引き締まるし刺激になる。行きたい高校があるので、そのためにも他のうまい人を見習って自分も成長できれば」と意欲を示した。
チーム埼玉とチーム三陸の交流試合。厳しい暑さに負けずプレー
ワイルドナイツの選手を2人がかりで止めるSWアカデミーの選手ら(赤ジャージ)
試合中もゴールエリアで練習。各チームのコーチが指導した
釜石SWのキャプテン山﨑陽介さん(中3)は埼玉チームとの試合に「(相手は)やっぱり強かった。実戦でないと試せないこともあるので、こういう機会はありがたい」と感謝。技術指導では「基礎を復習できた」といい、「今回見つかった課題もあるので、改善できるようにこれからの練習で生かしていきたい」と話した。
本キャンプは初開催。NPO法人ワイルドナイツスポーツプロモーション代表理事で、ジュニア・ユースの育成にあたる三宅敬さん(40)が、NPO法人スクラム釜石の早川弘治理事ら関係者と企画を練り実現した。ラグビーが釜石復興に果たした役割を知るとともに、広域の中学生との交流による互いの経験や考えの共有、リーダーシップの醸成などを目的とした。
同スタジアム建設中の2017年に釜石を訪れている三宅さん。「W杯への高揚感の一方、大勢の人が被災した悲しみで、明暗のある感情に揺さぶられた」と当時を振り返る。教え子たちを連れた7年ぶりの釜石訪問。「これもラグビーがつないでくれた縁」と感謝する。「ラグビーができることは決して当たり前ではない。周りへの感謝の気持ちを持ち、プレーで恩返しすることが大事。交流の中で他者を感じながら、自分をアピールするという相互関係も築いてほしい」と願った。
7年前、父敬さんと一緒に同所を訪れていたワイルドナイツの三宅葵さん(中2)は「全く違うまちに来たような感覚。完成したスタジアムでの試合の機会をいただけたことはすごく光栄なこと」と喜んだ。震災学習も学びが多かった様子で、「僕たちは最後に(震災を)経験した世代。この下はまだ生まれていなかった人たち。僕たちの代からどんどんつなげ、伝えていかなければ」と実感を込めた。
相手の動きを見極めながらボールを前に進める
宮古の選手を押しのけ、力強い前進を見せる広島の選手