釜石市魚市場に今季初めて水揚げされた養殖サクラマス
釜石湾で養殖されている「釜石はまゆりサクラマス」が6月27日、今季初めて釜石市魚市場に水揚げされた。昨秋に事業化してからの“初もの”は、体長60~80センチ、重さ1.7キロほどに育った計8.4トン。試食も用意され、「身ぶりが良い」「特長のさっぱりした脂がしつこくなく、おいしい」と関係者らは好感触を得る。事業化に伴ってプロモーション活動にも着手。岩手県内で主流のギンザケやトラウトサーモンとの差別化を図り、希少性を生かした取り組みに力を入れていく構えだ。
サクラマスの養殖は2020年に市や岩手大、地元水産会社などが研究コンソーシアムを結成して試験的に始めた。成育が順調で、比較的高値で取引されるなど市場での評価もよく、生存率の向上など技術習得も進んだことから、計画を1年前倒しして22年秋に事業化した。これまでは直径20メートルのいけす1基で育てていたが、今季は直径40メートルのいけす2基を増設。稚魚も前年の2万1000匹から15万8000匹と大幅に増やした。
釜石湾で順調に生育したサクラマスに漁業者たちの顔もほころぶ
この日は午前5時ごろに水揚げが始まり、漁師らがサイズによって選別。市によると、1キロ当たり100~1000円で取り引きされ、地元の鮮魚店などが買い取ったという。作業を見守った野田武則市長は「魚のまち復活へ明るい見通しが立ってきた。特産として、さらに発信していきたい」と手応え。岩手大三陸水産研究センターの平井俊朗センター長は「主流のサーモン養殖と、どう差別化を図るかが事業拡大の鍵になる」と指摘した。
試食も用意され、養殖事業を担う泉澤水産(両石町)の担当者は「昨年より大きく育った。脂乗りもいい。さっぱりとしつこくなく、おいしい」とアピール。AI(人工知能)搭載の給餌機を導入して効率化を図り、昨季の約7倍、200トンの水揚げを見込んでいる。
サクラマスの刺し身を試食する野田武則市長(右)ら
どう売り出す?釜石サクラマス 地元飲食店、宿泊業、水産加工業者が先進地の成功事例学ぶ
釜石はまゆりサクラマスプロモーションキックオフセミナー=6月23日
釜石はまゆりサクラマスの生産拡大に伴い、昨年10月には一体的なプロモーション活動を行うための産学官によるコンソーシアム(共同事業体)も設立されている。県内沿岸では、サケやサンマの記録的な不漁を背景にサーモン類の養殖が各地で展開されるが、サクラマス生産に取り組むのは釜石市だけ。その希少性を強みとして「ご当地グルメ」に育てていこうと、関係者による取り組みが始まる。
今季の初水揚げに先立ち、6月23日には平田の岩手大釜石キャンパスで、プロモ活動への第一弾となるセミナーを開催。地元飲食店、宿泊業者、水産加工業者などを対象に開かれ、オンラインを含め約40人が参加した。
市水産農林課がこれまでの養殖の経過と今季の水揚げ見込みなどを説明。市外への流通が多かったサクラマスを今後、地元の味として定着させるためにメニュー開発を行っていきたい考えが示された。
先進地の成功事例として、兵庫県南あわじ市が中心となって売り出す「淡路島サクラマス」のメニュー開発の経緯などが紹介された。事業に携わった、じゃらんリサーチセンター・ご当地グルメ開発プロデューサーの田中優子さんがオンラインで説明した。
「淡路島サクラマス」のご当地グルメ開発の事例を学ぶ
同市では養殖サクラマスを春(3~5月)の味覚として前面に打ち出し、2017年から3年がかりでメニュー開発。丼と鍋料理から始め、後にピザやパスタなどのカフェグルメ、弁当、土産物などにも拡大していった。3年目には淡路島全体(3市)に取り組みを広げ、40店舗で76メニューを提供するまでになった。3年間の売り上げは2億3186万円。
田中さんはご当地グルメ開発のポイントとして、目標・目的の共有、効果検証(販売数、売り上げなど)、振り返りによる課題抽出・解決策の実行-などを挙げたほか、メディアへの効果的なプレスリリースやSNSによる情報発信で話題性を作ることも重要視した。
休憩時間にはサクラマスの刺身の試食も行われた。県中華料理生活衛生同業組合釜石支部長の小澤浩美さん(スナック経営)は「養殖なので、生でも安心して食べられるのが大きなメリット。欲しい時に手に入るよう、安定した供給をしてもらえるとありがたい」と期待。今後のプロモ活動については「みんなでスクラムを組んでやらないと。単独では難しい」と連携の必要性を示した。
サクラマスの刺し身を試食。「あっさりして甘みがある」「腹も背もおいしい」などの声が…
市水産農林課によると、本年度は商品化に向けたメニュー開発・意見交換、市内飲食店でのサクラマスフェアなどを予定する。同課の小笠原太課長は「今後の取り組みの中で、ターゲットやどのような売り方をするのか模索していきたい。地域が潤い、地域が誇れるようなものを作っていきたい」と話す。