展示会で自身の作品を解説する小野寺豊喜さん
釜石市民ホールTETTO(釜石市大町)の自主事業「art at TETTO(アート・アット・テット)」は、釜石地域で創作活動に取り組む作家らの多彩な才能に出合える場として定着する。第15弾として取り上げられた“日曜画家”の小野寺豊喜さん(76)=同市鵜住居町=は19日までの10日間、油彩による具象画を中心に80点余りの作品を展示。会期中の12日にはトークイベントを行い、自身の作品を解説した。
余暇に趣味として絵を描く日曜画家を自称する小野寺さんは、30歳の時に参加した市主催の絵画教室をきっかけに創作活動を始めた。参加仲間らと自主活動グループ「釜石市民絵画教室」(現・釜石絵画クラブ)を立ち上げ、後に同教室の5代目会長も務めた。活動歴約45年で、グループ展や市民芸術文化祭への出展は多数。昨年11月には同ホールで初の個展を実現させた。
個展の「続き」「再挑戦」という今回の作品展では、多くが再展示となった。メイン作品として掲げた「明日への希望を託す」は東日本大震災を題材に、がれきが積み重なるなど実際に目にした光景に2人の孫の姿を入れて画面構成。手を取り、前を向いて歩み出す様に「未来的なもの」を込めてタイトル付けしたという。
震災をテーマにした作品「明日への希望を託す」(右)
画材は、季節の花や果物などの静物、海や山といった自然風景などさまざま。定番モチーフの一つが新巻きザケで、小野寺さんは「三陸のサケは顔がいいですよ」とニヤリと笑った。「旧釜石鉱山」「昔の製鉄所風景」と題した作品は、建屋の解体前に撮った写真や記憶を重ねて「記念に残そう」と筆を握った。
「目に留まったものを描く」スタイルに合う街並みの一つが、函館。「面白い建物があって。教会とか、異国情緒な風景を描いてみたい」と絵心をそそられる。話を聞いていた人から「その場でスケッチするの?写真を撮るの?」と質問されると、小野寺さんは「頭の中に記憶する。時間があればスケッチすることも。色とかは忘れるので、写真は撮るが、写真を見ながら描くことはしない。いらないものまで描いたりしてしまうから。いろんな手法を取り入れている」と、創作の一端をひも解いた。
荒々しい岩々を描いた作品。創作意欲をかき立てるモチーフの一つ
四季折々の風景、植物、魚、街並み、建物…画材はさまざま
「はっきりこうだ-と言いたくない。見た人が自由に感じ取ってほしい」。小野寺さんがそう紹介した一枚は、他の展示作品とは少し毛色が異なる。タイトルは「登る」。自身にとっては「挑戦」という抽象的な作風だ。未完の作品で、色合いを変えたり加筆し、岩手芸術祭に出品する予定。「私が描く自由、いろんな描き方に挑戦しようと向き合う作品。まだ若いので、もう少し踏ん張って別の方向性を見つけたい」と思いを明かした。
小野寺さんの解説を楽しむ来場者。手前は新作「登る」
「油彩は自由さがあるから」と笑顔で話す小野寺さん
新たな方向性を探しつつも、「自由さがある油彩」で創作活動を続ける構え。描いていると、ななめ、横、上下などさまざまな角度からモノを見る視点が必要となり、色を重ね合わせたり削ったりする作業は「人生と重なる。やればやるほど発見、気づきがある」と実感を込めて話す。「うまい、へたではなく、思いっきりやるのがいい」。意欲に衰えはない。