釜石市世界遺産室の森一欽室長の話を聞く釜石小5年生
釜石小(五安城正敏校長、児童67人)の5年生11人は今年度、総合的な学習の時間を活用し、地域の魅力を学び発信する活動に取り組んでいる。「釜石PR大作戦」と命名したその取り組みで、注目するのは釜石市のキャッチコピー「鉄と魚とラグビーのまち」。手始めは“鉄”の学習で、16日に市文化財課世界遺産室の森一欽室長から地域の歴史について話を聞いた。
鉄の学習は大渡町の同校で行われた。5年生の教室で、森室長はテレビモニターに写真や絵図などを映しながら、「鉄のまち」とうたう理由を地質、歴史の面から解説。児童は、気になったキーワードをメモしながら熱心に耳を傾けた。
児童はメモを取ったりしながら鉄の話に聞き入った
ほとんどの児童が記した「変成」という言葉は、三陸地域の大地や鉄原料の成り立ちについての説明で出てきた。釜石に眠る鉱床は、約1億2千万年前(中生代白亜紀)の火山活動で生まれ、マグマの熱で石灰岩などが溶かされ“変成”。冷え固まる過程でさまざまな鉱物が生成された。変成岩の中でも柘榴(ざくろ)石の近くで鉄鉱石(磁鉄鉱)が見つかっていて、製鉄の歴史につながる。花崗(かこう)岩も多く、森室長は「身近なところではそこ、学校の門柱」と窓の外を指さした。
地質の面から地域の特性を解説。釜石小の門柱(左上の写真)など身近にある情報を教えた
興味津々!鉄の歴史にじっくりと耳を傾ける児童
「12月1日は鉄の記念日」とのメモ書きも多かった。1857(安政4)年に大島高任が釜石・大橋に建設した洋式高炉で国内初の鉄の連続出銑に成功したことにちなむと話した森さんは「高任がすごいのは外国の技術を学んだことだけでなく、日本のことも学んでいること。ただ知っているだけではダメで、技術を持ち込んだ地元のこともよく知ったうえで実践している」と紹介。地元・釜石出身の高橋亦助らが49回目にして連続出銑に成功したことにも触れながら、“釜石だから”の歴史ストーリーに熱を込めた。
江戸から明治へと時代が変わる中で釜石製鉄所が現在の場所(鈴子町)に建設されたことにより、「日本で3番目の鉄道が走った」ことに反応した児童は、その新知識を文字にした。そんな一人、山﨑良菜(らな)さんは「新しいことをたくさん知れた。マグマにとかされて石が変成する話が印象に残った。気になったことを調べてみたい」と好奇心を刺激された。
鉄の学習で気になったことを質問して理解を深める児童
「知りたいことをどんどん調べて。分かったら教えて」と森室長(左)
5年生が「釜石PR大作戦」を今年度の活動に設定したのは、なぜか?…「まちのキャッチコピーを多くの児童が不思議に思っていたから。まちの印象としてピンとこない感じだった」と担任の佐藤航平教諭(26)は明かす。3つのキーワードが有名か、今の釜石について尋ねてみると、「それを生かした観光ができていない」「周りの大人や市民もよく知らない」などと意見が出たという。
釜石小の校門前から見える製鉄所の建物とまちのキャッチコピー
釜石小周辺から見える街並み。山際に製鉄所の建物が連なる
2015年に橋野鉄鉱山(橋野町)が世界遺産に登録され、今年は10周年の節目。遺産の存在を児童は認識しており、地域の魅力の一つでもある「鉄」に関する学びを深め、郷土愛を育むのを狙いにする。2学期に橋野鉄鉱山、鉄の歴史館などを見学する予定。「魚」「ラグビー」についても学習する計画で、「釜石の未来を切り拓(ひら)く活動」につなげる。
PRの方法はポスターか、動画にするか…思案中。5年生11人は日常として身近に感じている風景、知っているようで知らない「釜石の良いところを発信したい」と気合を入れている。