20年の画業を1冊に、障害に寄り添い 独自の世界 支援者への返礼として出版〜「微笑みの国」発刊、釜石市出身小林覚さん


2020/08/18
復興釜石新聞アーカイブ #文化・教育

画集を手にする小林覚さん(中)、寄り添う家族

画集を手にする小林覚さん(中)、寄り添う家族

 

 釜石市出身で花巻市在住のアーティスト小林覚(さとる)さん(31)による画集「微笑(ほほえ)みの国」が発刊された。自閉症と知的障害を持ち、「るんびにい美術館」(花巻市)で制作活動を展開する小林さん。本格的に絵を描き始めた養護学校中等部時代から現在までの画業を1冊で振り返っている。

 

 小林さんは箱崎町生まれ。釜石養護学校(現釜石祥雲支援学校)の小・中・高等部を経て、2007年から花巻市の障害者支援施設で生活しながら同美術館のアトリエで制作活動を行っている。

 

 作品は、自由奔放な線の造形性と明るく豊かな色調が特徴。文字をアレンジし、アートの一部として独自の世界を表現している。

 

 画集の表紙になったのは、小林さんのお気に入りの1曲、ザ・ビートルズの「Let It Be」。画面の中のすべてのものが微笑んでいる。

 

 でも、描き始めた頃の人物像は―。そして、使うのは黒鉛筆ばかりだった?

 

 小林さんをめぐる謎に触れることができるのが、この画集。A4判、118ページで、図版、資料二編に分かれている。図版には中等部、高等部、ルンビニー苑編があり、計85作品を紹介。変化する過程を見せる。

 

 いろんな文字がつながり、時には分離したり。線が自在に伸び、交わる。縦横無尽に駆け巡っているように見えるが、ある規則が隠れている。資料編では小林さんの恩師で、画集を編集した佐藤卓郎さん(奥州市)が文字の解読、色彩の変化など解説を加える。

 

 小林さんの自宅は鵜住居町にある。東日本大震災で被災し、数多くの作品も流失するなど被害を受けた。画集には、自宅で見つかった作品の一部も掲載。汚れが残った状態で紹介されている。

 

 平日に美術館で活動する小林さん。週末、両親が鵜住居町に再建した自宅に帰る生活を送っている。

 

 発行者は父俊輔さん(65)。当初、出版には抵抗があったが、支援者へのお礼として画集を作ることを決断した。500部製作。佐藤さんの熱意に押され、350部を販売することも決めた。

 

 予想以上の出来に満足そうな俊輔さん。特に資料編の充実ぶりに、「覚の歩み、絵の楽しみ方を知ってもらえる。作品を見たことがある人には新たな発見を楽しんでほしい。どんな反応があるか、楽しみ」と胸を高鳴らせる。

 

 「自閉症だけど人が好き。画集を作ったことを覚は楽しいと思っている。人とつながっているのが大好きだから」

 

 小林さんの障害が周囲に理解されないつらさを明かす母眞喜子さん(63)だったが、画集の完成を誰よりも喜んでいる。気持ちを言葉で表現するのが難しい子に寄り添い、持つ力を見いだし、伸び伸びと活動させ続けている人たちの存在と、子の成長を強く意識させるものが形として残るから。穏やかな笑みを浮かべ、「安心した」と小林さんを見つめた。

 

 釜石市内では大町の桑畑書店で販売中。3500円(税別)。同美術館でも購入できる。企画会社ヘラルボニー(花巻市)を通じネット販売も予定する。

 

(復興釜石新聞 2020年8月8日発行 第898号より)

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