甲子中生徒会発案! 地域の先輩に学ぶミニ授業 6達人が人生のヒント、地域の魅力を伝授


2026/10/13
釜石新聞NewS #文化・教育

授業をしてくれた地域の先輩方と記念写真に収まる甲子中の生徒ら

授業をしてくれた地域の先輩方と記念写真に収まる甲子中の生徒ら

 
 釜石市の甲子中(樋岡繁典校長、生徒111人)で1日、スポーツや文化など各種分野で活躍する地域の先輩を講師に迎えてのミニ授業が行われた。同校生徒会が「新たな形で地域とのつながりを深めたい」と発案。思いを聞いた学校関係者が動き、6人の講師を招いての学びの場が実現した。生徒らは地元の“達人”から、豊かな人生を歩む上でのヒントや地域の魅力を聞き、今後の生活や進路への参考にした。
 
 「甲子プロフェッショナルズ~教科書にはない、達人の流儀~」と題した初の企画は、6人の講師が20分ずつ2回行う授業を、生徒が希望する2授業を選択して受けるという形で行われた。講師を務めたのは▽小久保謙治さん(郷土芸能)▽桜庭吉彦さん(ラグビー)▽鈴木光幸さん(絵画)▽千田雅恵さん(読み聞かせボランティア)▽中村ひろみさん(箏)▽藤井サヱ子さん(地域活性化・甲子柿)。それぞれに情熱を持って取り組んできた各種活動から得たものを生徒らに伝えた。
 
はじめに体育館で講師6人が紹介された。生徒はどんな話が聞けるか期待感を高めた

はじめに体育館で講師6人が紹介された。生徒はどんな話が聞けるか期待感を高めた

 
 ラグビー元日本代表で、日本製鉄釜石シーウェイブスシニアアドバイザーの桜庭吉彦さん(60)は「ラグビーを通じて学んだこと」をテーマに授業。競技の特性、精神から自身が得たこととして、▽支えてくれる人に感謝の気持ちを伝える▽互いの個性、違いを理解し、認め合う▽コミュニケーションをとり信頼関係を築く―を挙げた。19歳で初めて日本代表に選ばれ、ラグビーワールドカップ(W杯)に3回出場。ニュージーランド戦で大敗した経験から「負けや失敗にはたくさんの学びがある。苦しい、悔しい時こそ成長のチャンス」とした。釜石市が会場となった2019年のW杯は台風の影響で1試合(ナミビア対カナダ)が中止となった。試合ができなかった選手らは被災地域で泥かきなどの奉仕活動を展開。桜庭さんは「人のために何ができるかを考え、行動してほしい」と願った。
 
桜庭吉彦さんはラグビー競技を通じて得た教訓などを話した。これからの人生に役立つ話が満載

桜庭吉彦さんはラグビー競技を通じて得た教訓などを話した。これからの人生に役立つ話が満載

 
 松倉町内会郷土芸能部長の小久保謙治さん(53)は地域で伝承する太神楽と虎舞について紹介した。松倉太神楽は江戸時代に、盛岡藩の庇護(ひご)を受けた芸能集団「七軒丁」(現盛岡市仙北町)から伝えられたとされる。小久保さんは150年以上前のものとみられる初代の獅子頭を見せながら、「地域の人たちの健康や安全、繁栄を願って演じられてきた」と話した。松倉虎舞は現山田町の大沢虎舞からもたらされ、市内14団体の中でもかなり古いもの。小久保さんは「頭や踊りには代々受け継がれてきた思いが込められる。伝統を継ぐだけではなく、最も大事なのは郷土芸能を通して地域や仲間がつながること。困っている人に手を差し伸べるなど人としての生き方も含めての郷土芸能」と教えた。
 
小久保謙治さんは地域に伝わる松倉太神楽、松倉虎舞について紹介。生徒は郷土芸能が持つ役割などに理解を深めた

小久保謙治さんは地域に伝わる松倉太神楽、松倉虎舞について紹介。生徒は郷土芸能が持つ役割などに理解を深めた

 
 地元の名産「甲子柿」の生産者で、地域資源を生かした震災復興で注目された藤井サヱ子さん(81)は地域への思いを話した。両親の介護を機に2000年にUターン。休耕田をコスモス畑にし、産直や創作農家レストランの開設で地域に新たな風を吹き込んだ。11年に発生した東日本大震災後は、遊び場を失った子どもたちのために公園を整備。隣接する工場の壁に気持ちが明るくなる壁画を施す活動も行った。関係者と「甲子柿を守る会」も立ち上げ、甲子柿を原料とした加工品開発にも着手。一連の活動は地域に人を呼び込むことにつながった。藤井さんは多くの人との関わりに感謝しながら、今後の課題として後継者不足を挙げた。
 
甲子に新たに人が集う場所を作った藤井サヱ子さん(右)。震災後は子どもたちや地域を元気にするために尽力

甲子に新たに人が集う場所を作った藤井サヱ子さん(右)。震災後は子どもたちや地域を元気にするために尽力

 
 生徒らはそれぞれの選択授業で講師の人生や信条、地域の歴史や文化に触れ、多くの発見や心に響くことがあった様子。佐々木美怜さん(2年)は甲子柿と絵画の授業を受け、「自分の強みや趣味を通して人脈が広がり、新しい考えや生活につながっていることが分かった。自分もいい意味で周りを巻き込み、新しいことにチャレンジしたい」と刺激を受けた。地域の人から直接話を聞くことで、「今まで“物”しか見えていなかったが、その裏にある内外の人たちの尽力で今の釜石があることに感謝の気持ちが芽生えた」とも。
 
67歳から水彩画を始めた鈴木光幸さんは入選作品を見せながら、絵画を始めた動機や魅力などを伝えた

67歳から水彩画を始めた鈴木光幸さんは入選作品を見せながら、絵画を始めた動機や魅力などを伝えた

 
甲子小で読み聞かせボランティアを行う千田雅恵さんは絵本の魅力を紹介。生徒も声を出して絵本の世界を楽しんだ

甲子小で読み聞かせボランティアを行う千田雅恵さんは絵本の魅力を紹介。生徒も声を出して絵本の世界を楽しんだ

 
文化箏の教室を開く中村ひろみさんは弾き方を教え、和楽器の音色に触れてもらった

文化箏の教室を開く中村ひろみさんは弾き方を教え、和楽器の音色に触れてもらった

 
 閉会式で講師を代表しあいさつした桜庭さんは「それぞれに得た学びをこれからの学校生活や社会に出た時の参考にしてもらえれば。たくさんの人に支えられて今があるということも今日の授業で気付くことができたのでは。地域に誇りを持ち、ぜひ甲子地区を盛り上げるように取り組んでほしい」と生徒にエールを送った。
 
 同校生徒会はこれまで「てくてくクリーン大作戦」という地域の清掃活動を続けてきたが、クマの出没増で昨年度から実施が見送られていた。同活動は地域を歩いて回ることで、気付かなかった良さを再発見でき、住民とコミュニケーションを取れる機会にもなっていたことから、生徒から復活を望む声が多かった。そこで生徒会執行部が考えたのが、清掃活動に替わる新たな取り組み。学校運営協議会の場で、「地域とのつながりを絶やしたくない」との思いを伝え、協力を願った。生徒会が提案した幾つかの案にアドバイスをもらい、最終的に今回のミニ授業の企画に至った。
 
 生徒会長の米澤悠真さん(3年)は「教科書では学べないことや学校の先生方では教え切れないことをたくさん知ることができた。地域と関わりたいという生徒の声に応えられたのは、(運営協委員や講師ら)地域の皆さんの協力のおかげ」と感謝。自身はラグビーの授業で「目標を達成するために何をすべきか考え行動に移すこと、相手を尊重することの大切さ」を実感。松倉虎舞に参加しており、「地元芸能の由来や踊りの意味を知れた。次に踊る時は今回の学びも生かしたい」と心にとどめた。
 
閉会式では各学年の代表が感想を発表。それぞれに貴重な学びの機会となったよう

閉会式では各学年の代表が感想を発表。それぞれに貴重な学びの機会となったよう

 
 甲子小・中の学校運営協委員で、今回の講師集めに尽力した鈴木みどりさん(69)は「生徒たちは真剣に講師の話を聞いていた。いろいろな分野の方々が集まったので楽しかったのでは。地域の方も甲子の子どもたちを応援したいと講師を引き受けてくれたと思うので、そういう気持ちも受け止めてもらえたら」と期待した。

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