釜石での研究成果を報告する中川さん
釜石市に定住し地方創生の研究実践を行う地域おこし研究員、中川優芽(ゆめ)さん(25)=慶応義塾大大学院2年=による成果発表会は23日、市役所で開かれた。東日本大震災で児童全員が無事だった小学校の事例から子どもたちの避難行動を分析。震災前から行われていた下校時の避難訓練が児童の避難行動を促進する要因の一つとの認識を得て、「震災の教訓を他地域にも生かすべきだ」と強調した。
地域おこし研究員は、釜石と同大が締結する地方創生に関する連携協力協定に基づく取り組み。総務省の地域おこし協力隊制度を活用する。任期は2年。
中川さんは静岡県富士宮市出身。静岡県内の小学校で教師をしていたが退職し、同大大学院に入学。教師時代に防災教育の重要性を感じ、かつてボランティアで訪れた震災被災地の釜石で学び直したいと考えたためで、昨年6月に同研究員として着任した。
津波災害の経験がない児童が震災当時にどのような意思決定、避難行動をとったのか―。釜石小児童の作文(避難行動について記述のある52人分)、インタビュー(高校生となった釜石小の元児童13人)から探った。
分析してみると、防災教育によって▽自らの判断で行動する力▽学区内の避難場所の把握▽地震から身を守る方法―など10の概念が児童らに身に付いていることが分かった。避難できた理由として、下校時の訓練が避難につながったとの声が共通していることも把握した。
その上で、南海トラフ地震が想定される静岡県で釜石の研究を生かした訓練を企画したことを紹介した。海からの距離や児童数など釜石小と似た条件の千浜小(掛川市)で今年7月、初めての下校時訓練を実施。掛川市の沿岸部に津波が到達するのは最短で4分と想定されており、訓練で共有した課題を踏まえ、11月には千浜地区の住民らも参加する訓練を行う予定と報告した。
野田武則市長ら市職員約10人を前に発表した中川さんは「南海トラフ地震などで少しでも多くの命が救われるよう、釜石の防災教育、取り組みを他地域に広めていきたい」と力を込めた。
中川さんは来年3月まで同研究員として活動。4月以降は静岡県で小学校教諭として復帰することになっている。
(復興釜石新聞 2019年10月26日発行 第836号より)
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