心安らぐ風景ずらり 釜石の画家・桑畑和生さん油絵回顧展 「描く幸せ」尽きることなし
油絵の回顧展を開いた桑畑和生さん(左)
釜石市新町の画家桑畑和生さん(72)は、10月下旬に油絵の回顧展を大町の市民ホールTETTOで開いた。誰もが見覚えのある風景を優しく、おぼろげな線や色彩で描いているのが特徴。その柔らかな風合いが醸し出す「いやしの世界」を多くの市民らが楽しんだ。
桑畑さんが絵を描き始めたのは小学3年生の頃。授業で水彩画を描き、楽しさを知った。油彩の制作は釜石北高時代に本格化。美術部に入り、精力的に取り組んだ。東京のデザイン専門学校を経て、看板デザインやデパートの店内装飾を請け負う埼玉県の会社に勤務。高齢の両親から「戻ってきてほしい」と頼まれ、23歳ごろに帰郷した。
その後は、勤めた会社が倒産するなど苦しい時期もあったが、「描く幸せ」は衰えることがなく、創作を続けた。25歳の時に市内で初個展を開催。1996年に日本美術家連盟会員となり、個展も東京・新宿の伊勢丹デパート本店など全国で展開し、これまで44回を数える。
心あたたまる風景画などが並んだ展示会場
今回は、釜石・大槌在住の作家を紹介する同ホールの自主事業「art at TETTO(アート・アット・テット)」の一環。10回目の企画に声をかけてもらった喜びから、初の回顧展とし、10代から現在までに手がけた風景画など18点を紹介した。
もっとも古い作品は、ルノワールの画集を模写した「青いリボンの少女」。高校3年の時に2日間で仕上げた。「海に安らぐ日」は一番思い入れのある作品。海岸にたたずむ人と空高く浮かぶ三日月が印象的なこの絵は約1年、納得するまで時間をかけた力作だ。
心安らぐ風景が広がる会場で来場者の会話も弾んだ
会期初日に行われた桑畑さんのトークイベント
初日の10月21日にはトークイベントを開き、約20人を前に画家としての歩みを振り返った桑畑さん。「とにかくチャンスに恵まれてきた。人と同じことをやっていては、チャンスは来ない」といい、絵の具がかすれるように塗るという独自の技法を明かした。その技法によって柔らかい風合い、複雑で微妙な色味を表現。穏やかな筆致も加わった「心あたたまる安らぎの世界」を創造する。
思い入れのある作品「海に安らぐ日」と桑畑さん
海、山といった風景画が多く、「実際にその場所に行って目で見て、波の音や風の流れなどその時を感じてくるのが大事」と桑畑さん。そして、その風景の中には必ず人物を描く。草をはむ馬が描かれた「青き空の下で」(釜石・和山高原)や「尻屋崎好日」(青森県・下北半島)にもよく見ると、小さいながら人の存在が確かにある。「風景と人物の好ましい関係にこだわる」のも作風の一つだという。
穏やかな時の流れを感じる「尻屋崎好日」
作品のサイズは6号の小品から120号の大作までさまざま。「年齢を重ね、大きいサイズの作品を仕上げるのは大変」とこぼしつつ、今でも年間300日ほどは絵筆をとる。「命ある限り、描き続けていきたい」。創作意欲は尽きることはない。「せかせかしたことが多い世の中。ゆったりとした気分を味わい、安らぎを感じてもらえるといい」と願いを込め、キャンバスに向かい続ける。
釜石新聞NewS
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