新想定の地震・津波避難訓練 釜石市民、急ぎ足で高台へ…命守る行動重ね「信じて逃げる」
釜石市内一斉に行われた地震・津波避難訓練。鵜住居地区では住民らが高台の避難場所に向かった
釜石市は5日、全市民を対象にした地震・津波避難訓練を実施した。岩手県が昨年公表した最大級の津波浸水想定を踏まえた訓練で、浸水域の市民は大津波警報、避難指示発令のサイレンが鳴り響くと、高台など市が指定する緊急避難場所に向かった。市内全域での訓練は新型コロナウイルスの影響で2019年以来4年ぶり。浸水域外の市民も自宅や職場などで身を守る行動を実践する「シェイクアウト訓練」、自主防災組織や町内会を中心とした地域ごとの訓練を行った。市の災害対策本部運営訓練、自衛隊による通信訓練などもあり、災害時の公的機関の連携、それぞれの役割や対応を確認した。市によると、避難者数を把握できた59カ所に計1560人が移動した。
高台に避難した鵜住居地区の住民ら。浸水域の市民はそれぞれ近くにある避難場所を確かめた
県が示した新想定を受け、市は津波災害の緊急避難場所全83カ所を地元町内会などと点検し、昨年9月にハザードマップを改訂した。浸水区域に入った緊急避難場所のうち5カ所を敷地内の高台などに変更し、1カ所を新設。中長期の避難生活を想定した拠点避難所は2カ所を廃止し、1カ所を新たに指定している。今回の訓練は避難場所の周知、避難経路や移動にかかる時間の把握などを目的に開催した。
訓練は、午前8時半に東北地方太平洋沖を震源とするマグニチュード(M)9.0の地震が発生して釜石で震度6弱の揺れを観測、3分後に気象庁が大津波警報を発令したとの想定。防災行政無線が知らせた津波到達予想時刻は約30分後の同9時頃。市民らは呼びかけに応じて地震から身を守る行動をとった後、急ぎ足で避難場所や近くの高台に向かった。
子どもも大人も鵜住居小・釜石東中校庭を目指し階段を駆け上がった
海抜約20メートルの高台にあり、鵜住居地区の緊急避難場所になっている鵜住居小・釜石東中学校校庭には住民ら約60人が避難した。東日本大震災の津波で被災し自宅を再建した住民の60代女性は「津波はいつ来るか分からない。防災リュックを玄関に置いたり備えはしている」と防災意識を持ち続ける。校庭に向かうには長い階段を上らなければならないが、「荷物を持って避難する大変さ、どれくらいの時間が必要か分かった」と体に覚えさせた。
鵜小・東中体育館で行われた避難所開設訓練。段ボールベットの組み立てなどを体験した
両校の体育館は拠点避難所でもあり、鵜住居町内会(古川愛明会長、約100世帯)主体の避難所開設訓練が行われた。住民らは段ボールベッドや間仕切りの組み立てなどに挑戦。陸上自衛隊滝沢駐屯地から駆け付けた給水車から飲料水をもらう体験もあった。同町内会副会長の沖寿雄さん(78)は「津波は二度と来てほしくないが、自然災害は人の手ではどうすることもできない。だからこそ備えは必要。練習を重ねていけば、万一の時にスムーズに動ける。信じて逃げることができる」と気を引き締めた。
完成したベッドに乗って感触を確かめる参加者
自衛隊の給水車から飲料水をもらう体験も
市は県公表を受け、昨年4月、大津波警報発表時の災害対策本部を内陸部の小佐野町、市立図書館に設置することを決めた。この日はその運営訓練も実施。市と消防、自衛隊、警察、海上保安部から約60人が参加した。
同館2階に本部室、事務局を設置。警報時の職員参集、津波緊急避難場所からの状況報告、避難者数の集計などを行った。災害時、一般電話が使えなくなることを想定し、消防団や自衛隊による無線、衛星携帯電話の通信訓練も行われた。
市災害対策本部事務局では各避難場所からの避難者数の報告を受けた
本部室には市長以下幹部、関係機関の職員らが参集。訓練状況を見て課題の洗い出しに努めた
今回の訓練では要支援者の避難方法を検討するため、荒川町内会が試験的に車両を使った避難訓練を実施。津波浸水域外の中小川町内会は後方支援のための炊き出し訓練を行った。同本部長となる野田武則市長は「要支援者の車避難、職員の図書館への参集方法など訓練で課題を明らかにし、誰一人として犠牲にならないための対応を考えたい」と話した。
釜石新聞NewS
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