津波だ、逃げろ高台へ〜仙寿院で韋駄天競争、教訓胸に駆け上がる
仲良く手をつなぎ、高台を目指して駆け始める=2日午前11時、親子の部のスタート
「津波発生時は一刻も早く高台へ―」。東日本大震災の教訓を未来につなぐ避難啓発イベント「新春韋駄天(いだてん)競走」が2日、釜石市大只越町の日蓮宗仙寿院(芝﨑恵応住職)をゴール地点に行われた。同寺の節分行事として2014年から始まり、7回目の開催。只越町の津波浸水区域から、市の津波避難場所となっている標高約30メートルの同寺まで参加者が駆け上がり、命を守る行動を体で覚えた。
兵庫県西宮市、西宮神社の新年開門神事「福男選び」をヒントにした同行事。今年も6部門で参加者を募り、当日は1歳から64歳まで124人が急坂や急カーブの難コースに挑んだ。
釜石シーウェイブス(SW)RFCの桜庭吉彦ゼネラルマネジャーらの銅鑼(どら)の音を合図に各部門がスタート。只越町の消防屯所付近を出発し、仙寿院境内まで286メートル、高低差約26メートルのコースを懸命に走り切った。沿道では参加者の家族や地域住民らが声援や拍手を送り、只越虎舞の太鼓がゴールを盛り上げた。
各部門の1位には芝﨑住職が「福男」「福女」などの認定書を授与。西宮神社から福の神「えびす天」の木像が贈られた。
1位に輝いた福男、福女、福少年、福親子が勢ぞろい
親子の部1位となった後藤竜也さん(48)、尚希君(12)=花巻市=は4年連続の参加で、「福親子」3連覇。震災の津波で大槌町の実家を失った竜也さんは「初心に帰って逃げることを意識した」、尚希君は「津波が起きても逃げれば命が助かる」と同行事の意義を改めて強く認識し、「来年からは別々の部門で」と継続出場を誓った。
男性29歳以下の部1位の山本雄太郎さん(25)=盛岡市=は、妹恵里さん(23)=同=、父由勝さん(59)=八幡平市=と初参加。恵里さんは女性の部1位で、兄妹で「福男」「福女」のダブル称号を手にした。2人は社会人陸上の短距離アスリート。雄太郎さんは「しんどかったが、必死になればあっという間」、恵里さんは「あきらめたら終わり。勝負の世界も、津波の時も」と、いざという時の心構えを強調。今年6月に県内を巡る東京五輪聖火リレーの一般公募ランナーにも選ばれている雄太郎さんは「地元のイベントに積極的に出ることで、復興や岩手盛り上げの一助になれば」。韋駄天競走の今後に「続けていくことが伝統になるし、震災の記憶も忘れられずにすむのだろう」と思いを寄せた。
同行事は、関東在住の釜石出身者が中心となって結成した「釜石応援団ARAMAGI Heart(あらまぎはーと)」の発案。趣旨に賛同し、主催統括する仙寿院の芝﨑住職は「津波は逃げるしか(助かる)方法がない。震災後に生まれた子どもたちも増えてきた。今日の経験を家族や周りの人に伝えてほしい」と願った。
(復興釜石新聞 2020年2月5日発行 第864号より)
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