第31回釜石市民劇場、テント劇は今回が最後〜ケアハウス舞台に「認知症と生きがい」コミカルに描く、合唱シーンで大団円


2017/11/22
復興釜石新聞アーカイブ #文化・教育

テント劇の日中公演という制約を逆手に取った演出を、キャストの熱演、観客の好反応が支えた

テント劇の日中公演という制約を逆手に取った演出を、キャストの熱演、観客の好反応が支えた

 

 第31回釜石市民劇場「心に翼を、希望を胸に~てんやわんやケアハウス」(実行委員会主催)は12日、鈴子町のシープラザ遊で上演された。「認知症と生きがい」という現代社会が抱える問題をテーマに、高齢者施設の日常と人々の交流をコミカルに表現。力を合わせ、希望を持って生きる姿を描いた。客席では約260人が舞台を見守り、「翼をください」を合唱するフィナーレでは、出演者の熱演に温かく大きな拍手が送られた。市民劇場は東日本大震災で活動拠点の市民文化会館が被災し、2年の中断を経て再開。大型テントでの上演は今回が最後となる。

 

 ケアハウスのホールを舞台に、「1場」で物語を展開。キャストを兼ねて演出を担当した小笠原景子さん(33)は「客席との一体感と舞台の立体感を目指した」と話す。室内での動きと同時に別の空間で物語が進行。回想シーンが客席の通路も使って演じられ、舞台と観客が一つになった。

 

 出演者の最年少、5歳の久喜愛菜子ちゃんはハウスを退所したお年寄りの孫役を演じた。屈託のない明るさで客席の笑顔を誘い、大きな拍手も沸いた。

 

 主役の若いヘルパーを演じた岡道美咲さん(23)は、入所者に合唱コンクールへの参加を呼び掛けるシーンで、「受け身の人生ではなく、挑戦する気持ちを、苦難に立ち向かう勇気を」とアピール。フィナーレにつながる長いモノローグでは、「人はみな、心の中に見えない翼を持っている」と語りかけた。

 

 1回目からスタッフとして舞台を支えて来た川端州一さん(66)=大渡町=は初めてキャストに挑戦。「本(脚本)を読んで、震災の直前(2011年2月)に亡くなった父を思った。父は認知症を患っていた。その経験が舞台に役立つはず」と思いを込めた。しかし、舞台に立つと、なかなか演技の流れに乗れず、セリフも飛んでしまう。「心臓はバクバク。キャストはもういい」。次回はスタッフに戻るという。

 

 ホームの副長を演じた会社員木川田光成さん(35)は、2004年の舞台から市民劇場にかかわる。震災を機に職場のある遠野市に転居、遠野市民劇場にも参加する。「テントでの復活に思い入れがあった。場面転換のない舞台を、知恵を出し合いながらつくるのは芝居の原点。市民劇は地域の大事な文化」と熱い思いを語った。

 

カーテンコールのあいさつは、テント劇へのお別れでもあった

カーテンコールのあいさつは、テント劇へのお別れでもあった

 

 家族4人で観劇した鵜住居町の石垣邦子さん(76)は「娘が市民劇場に出演したこともあり、何度か見ています。きょうは身近な内容でもあり、心を打たれました。釜石弁のやりとりも良かった。みなさん、上手に演じていました」と拍手を送った。

 

 市民劇場実行委員会の久保秀俊会長(69)は「『先人に学ぶ』をテーマに掲げる市民劇場も、テント劇は今回で最後になる。来年は新しい市民ホールの舞台で再会しましょう」と客席の市民や舞台を支えたスタッフに呼び掛けた。

 

 釜石市民劇場は1986年にスタート。震災後2年の中断を経て2013年からシープラザ遊で再開し、従来の昼夜2回公演を昼の1回公演に縮小し、継続して来た。

 

(復興釜石新聞 2017年11月15日発行 第639号より)

 

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