出来栄え最高「虎舞」生きる勇気に〜絆強める素晴らしい思い出、桜木町仮設団地の住民ら制作


2016/11/16
復興釜石新聞アーカイブ #文化・教育

苦労を重ね、ついに完成させた虎頭を鑑賞しながら会話を弾ませる桜木町仮設団地の住民ら

苦労を重ね、ついに完成させた虎頭を鑑賞しながら会話を弾ませる桜木町仮設団地の住民ら

 

 津波で失った「虎頭」を自分の手で作り上げ、後世につなぐ宝にしよう――。釜石市の桜木町仮設団地(約40世帯)の住民約10人は、今年夏前から小ぶりの虎頭の制作に挑戦。市内の「虎舞」団体に虎頭を提供していた同団地の住民から教えてもらい、このほどやっと完成した。作られた15の虎頭は、初めてとは思えない出来栄え。生命力みなぎる表情が見る者の心を鼓舞し、困難を乗り越える勇気を与えてくれる。

 

 航海の安全や火伏せを祈願し、江戸時代から舞われてきた釜石の虎舞。漁業をなりわいとする沿岸部の家々では、子や孫のために虎頭を所有する家も多かったが、5年前の東日本大震災で襲った津波は、そうした家族の思い入れが詰まった品も一瞬にして奪い去った。

 

 桜木町仮設団地での虎頭制作は、以前からものづくりの活動をしてきた同団地自治会の男性グループ「益荒雄(ますらお)の会」が中心となって企画。「津波で流された虎頭を再び手元に置きたい」と願う住民の声を受け、長年、虎頭制作を手がけてきた同じ団地住民の三浦義公さん(故人)に相談を持ちかけたのがきっかけだった。

 

 震災前、嬉石町に暮らしていた三浦さんは鉄鋼業を営むかたわら、約30年にわたり虎舞で使う虎頭を制作。尾崎町(台村)虎舞などに提供してきた。同会から話を聞いた三浦さんは、忙しい仕事の合間をぬって作り方を実演。手順を学んだ住民らは、三浦さんが作った見本を参考に試行錯誤を重ねながら制作に励んだ。

 

 木材や厚紙で土台を作り、紙粘土で肉付け。工作用のペイント材で色を塗り仕上げた。目はクリスマスツリー用の球飾り、ひげはテグス糸を活用。鋭い歯は木を削って形作った。身近で安価な材料を使い、アイデアを駆使して虎の顔に変身させた技術は見事。仕事の都合で、三浦さんから直接教わる機会は少なかったが、住民同士が協力し合い、立派な作品を完成させた。

 

 三浦さんは病気のため今年6月、58歳の若さで急逝。残念ながら完成品を目にすることはできなかったが、「きっと『よく頑張った』と言ってくれるだろう」と住民らは話す。

 

それぞれに個性が光る住民手作りの虎頭

それぞれに個性が光る住民手作りの虎頭

 

 5日夜、完成した虎頭を団地の談話室に持ち寄った制作メンバーは、互いの努力をたたえながら作品を鑑賞した。土手日出子さん(64)は「こうして並べてみると圧巻。一つ一つ表情も違って素晴らしい。この仮設での思い出、記念になる」と大喜び。森古春雄さん(65)はインターネットの画像で虎の顔立ちも研究し、黄と白色の2頭を制作。「生気にあふれた虎を作るうちに自分自身も生き生きしてくるのを感じた。みんな良い出来栄え。最高だね」と顔をほころばせた。

 

 津波で多くを失いながらも、新たに出会った仲間と心に残る日々を刻み、生かされた実感をかみしめる住民ら。同団地自治会副会長で、「益荒雄の会」発起人でもある菊池政廣さん(75)は「ここまでできるとは思わなかった。釜石人にとって虎は愛着心を感じるモチーフ。今回、虎頭を作ることによって、住民の団結心や絆も一層強くなったと思う」と実感を込めた。

 

(復興釜石新聞 2016年11月12日発行 第537号より)

 

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