釜石の高校生が考える災害時の外国人支援 「共生」「やさしい日本語」視点に実践


2026/09/01
釜石新聞NewS #防災・安全

防災をテーマに交流する釜石市の高校生と留学生=8月23日

防災をテーマに交流する釜石市の高校生と留学生=8月23日

 
 地震や津波、豪雨など自然災害はいつ、どこで起きてもおかしくない。9月1日は「防災の日」。自らの命と暮らしを守るための備えをあらためて見つめ直す機会にしたい。また、これからの防災に欠かせない視点となるのが「共生」。釜石市の高校生が実践した災害時の外国人支援を考える取り組みから、多様な人々が安心して避難できる地域のあり方を考えたい。
 
 「地震の後に津波がきます。大渡橋の辺りにいたら、どう逃げますか?」。日本語を学ぶために釜石で暮らす留学生に、釜石高校の生徒が問いかける。留学生は渡された市街地の地図を見つめ、高台と思われる場所に印をつける。「いいと思うけど、私だったらここまで逃げる」と別のルートも示す高校生。一緒に考えることで防災意識を高め合う。
 
災害時の行動について意見を伝え合う高校生と留学生

災害時の行動について意見を伝え合う高校生と留学生

 
 8月23日、釜石市国際外語大学校(鈴子町)であったハザードマップ作りの一場面。ネパール出身留学生9人の活動を釜石高の生徒4人がサポートした。企画したのは、釜高3年の佐々木悠衣さん。地震や津波、ハザードマップなどの言葉、緊急時に一時的に逃げる場所(避難場所)と一定期間避難生活を送る場所(避難所)の違いを説明したほか、逃げる準備として用意してほしい防災グッズも紹介した。
 
防災に関する言葉や備えておくグッズを説明する佐々木悠衣さん

防災に関する言葉や備えておくグッズを説明する佐々木悠衣さん

 
留学生が覚えた日本語を書き込んで作ったハザードマップ

留学生が覚えた日本語を書き込んで作ったハザードマップ

 
 今年4月に来日したタマング アイソリャさん(29)、シャータクリ インディラさん(30)は「まだ(日本語を)話すことができない」と首をかしげつつ、「地震と津波のことを聞くことができてよかった」とうなずいた。昨年10月から釜石で暮らすライ ブッダ バハドゥルさん(27)は「何を準備するか、避難場所が近くにあることが分かった」と理解を深めた。
 
防災グッズを確認するゲームで楽しみながら交流

防災グッズを確認するゲームで楽しみながら交流

 
 この活動は7月27日にも行われており、ミャンマーからの留学生も含めた7人と釜高生9人が交流。留学生もよく行く場所というイオンタウン釜石から「逃げる場所」と「津波がどこまでくるか」を考えてマップを作った。内陸部に住む釜高3年の菊池美紘さんは、自身もどこに逃げればいいか悩んだといい、「多国籍の人と共有しながら自分の理解も深められた。分かりやすく伝えるのは難しかったけど、楽しかった。これからも海外の人と関わることはあると思うから、いい機会になった」と受け止めた。
 
留学生の活動範囲を踏まえてハザードマップを作る=7月27日

留学生の活動範囲を踏まえてハザードマップを作る=7月27日

 
 地域や多文化共生の視点から、災害時の外国人支援として高校生ができることを提案したい―。この取り組みは、佐々木さんが学校で進めた探究活動の実践活動。国際政治や世界情勢に関心があったが範囲が広すぎたため、地域に目を向けて気づいたのが「釜石に住む在留外国人が増えているのに、関わりがほとんどない」ことだった。東日本大震災を経験したまちだからこそ、災害時に外国人が抱える困難について考えることは重要だと考え、行動した。
 
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地域の大人の力を借りて探究活動に取り組んだ佐々木さん=7月21日

 
 市の多文化共生推進プラン(第1期・2021―25年)を読み込み、東南アジア出身者を中心に在留外国人が倍増していることや、災害時に「どこに逃げればいいか分からない」「防災無線が聞き取れない」といった不安や困り事があることを知った。市の関係部署の職員への聞き取りも行い、地域住民と外国人が交流できる事業も行っているが、「日本人の参加が少ない」という課題を把握。「行政の支援だけでは限界があり、地域全体で支える必要がある」と考えをまとめた。
 
 そこで大切になるのは、言葉の分かりやすさ。震災の時に飛び交った「高台(タカダイ)へ避難せよ」と聞いた外国人が“陸前高田”に向かってしまったという事例から、佐々木さんは「言葉の分かりやすさは命に関わる」と認識。日本語に不慣れな人にも正しい情報を分かりやすく伝えられる「やさしい日本語」について調べた。
 
 やさしい日本語は、難しい表現を避け、短い言葉で分かりやすく言い換えて伝えるもの。佐々木さんは今回の実践を前に、高校生を集めてミニ講座を開き(7月21日)、ポイントを伝えた。例えば、「高台」は「高いところ」、「避難」は「逃げてください」などと表現。高校生たちはその学びを生かして、留学生とマップ作りを進めた。
 
釜石高校で開かれた「やさしい日本語」のミニ講座=7月21日

釜石高校で開かれた「やさしい日本語」のミニ講座=7月21日

 
 佐々木さんが今回、日本語を学ぶ留学生をターゲットにしたのは「高校生と年代が近い」のが理由の一つ。自分と同様、国際交流に興味を持つ生徒が多く、共に取り組むことでやさしい日本語を実践で学べると考えたからだ。なぜ、やさしい日本語を知ってほしいのか―。「日本人同士でも分かりやすく伝わる表現だから。特別な言葉ではなく、子どもや高齢者とかと話す時にも使えて便利」。多様な人に正確な情報を伝える道具として「日常から意識する大切さ」を広める機会にもしたかったという。
 
 高校生の企画を受け入れた釜国の松島理香子副校長も、年齢の近い若者同士の交流を歓迎した。そして、学校でも避難場所など防災に関する案内はしているが、今回のように留学生自身が逃げる時の行動を考え、マップに母国の言葉で書き込んだりすることは「印象に残りやすく、意識が高まる。地域を知ることにもなる」と評価。教職員らが接するように、やさしい日本語で話しかける存在が増えることに「頼もしさ」も感じているようだった。
 
「互いに理解し学び合い安心して暮らせるまちに近づく一歩に」と願う佐々木さん(右)=8月23日

「互いに理解し学び合い安心して暮らせるまちに近づく一歩に」と願う佐々木さん(右)=8月23日

 
 一連の活動を終えた佐々木さんは「高校生と留学生の接点を作ることができた。関係性が継続してほしい」と期待。大学で学びたいことや将来のビジョンが明確化する好機にもなったようで、「地域共生を支えられるようになりたい」と先を見据えた。
 
 市多文化共生推進プランの第2期(2026年―30年)で目指す将来像は「世界とつながるKAMAISHI」。多様な文化を受け入れ、互いの違いを認め合うことができるまちが目標となっている。
 
 佐々木さんは「専門的な知識や語学力がなくても、同じ地域に住む身近な存在として寄り添えるのが高校生の強み」と考察。そして、普段から「顔見知り」程度でも触れ合っていることで、「いざという時に避難場所まで案内したり、そばにいて安心感を与えたり、高校生だからこそできる支援では」と訴える。
 
 多様な人が暮らす地域で、誰も取り残さない防災とは―。日頃からの備えに加え、いざという時に支え合える関係づくりを考え続けていきたい。

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