クマによる外傷事案 釜石消防署員が救急活動を検討 県、市の鳥獣担当とも情報共有

釜石消防署が開いたクマ外傷事案の救急活動事例検討会
釜石消防署(小林太署長)は10日、クマによる人身被害の救急対応を考える事例検討会を開いた。県内では今年、死者が出るなどクマによる負傷事案が増加。負傷者の収容から搬送まで救急活動を担う消防署員は、一連の活動の中でさまざまな状況判断や決断が求められることから、今後の活動に生かすために開催した。同署員約30人のほか、県と市の鳥獣担当部署の職員も参加し情報共有。クマによる人身被害対応では二次被害防止の観点からも関係機関の連携が重要であることを再確認し、協力体制強化へ意識を高めた。
会では大槌消防署の和田泰介救急救命士(消防士長)が、県内の狩猟解禁日(11月1日)に大槌町金沢の山林で発生したクマによる顔面外傷事案について説明した。受傷者(70代男性)は仲間と狩猟中、発砲したクマに倒されたところを、別の1頭に襲われ顔面を負傷した。仲間からの119番通報で、同署の救急隊と現場安全管理のための消防隊が出場した。プレアライバルコール(救急隊が現場到着までの間に電話で通報者から情報収集)で受傷者の状態を聞き取り、通報者に圧迫止血を依頼。現場到着後、顔面の複数の裂創を確認した。受傷者は会話はできたが重症状態で、止血や創の被覆などの応急処置を行って病院へ搬送した。

大槌消防署の救急救命士がクマによる顔面外傷事案の救急出場から搬送までの活動について説明した
出場時に県のドクターヘリを要請したが、暴風警報発令中で対応不能とのことで、最終的に県高度救命救急センター(岩手医大付属病院)への陸路搬送を開始した。釜石道で容体が急変したため、直近の医療機関での安定化が必要と判断し、県立釜石病院へ搬送。受傷者は必要な処置を受けた後、同センターへ転院搬送された。
和田救急救命士は時間経過と活動の流れを振り返り、「状況判断と病院選定に苦慮した。クマ外傷時の活動マニュアルや訓練経験がないので、実際に現場に行くと、想像に欠ける点があった」と話した。二次被害防止策にも言及。署内の話し合いでは▽消防車両上部から周辺を監視する人員の配置▽現場近くに住宅がある場合は車両積載マイクで屋内避難を広報▽ポンプ車などへのクマよけスプレーの常時積載―などの意見が出されたという。

事例発表を聞きながら現場活動のあり方を考える釜石消防署の署員ら
同署の佐藤純平救急隊長(消防司令補)は、救急隊の医療機関選定について話した。消防法の改正を受け、本県では2011年に救急搬送実施基準が定められている。搬送先医療機関の選定基準としては▽傷病者または家族などから申し出のあった、かかりつけ医▽搬送時間が最短▽病院群輪番制の医療機関―があり、症状や病態とともに総合的に判断して搬送する。佐藤救急隊長は今回のクマ外傷の病院選定について考察。質疑応答では救急隊の活動人員や重症時の判断などに関し、実際に現場を経験した2人に考えを聞いた。

現場での処置や病院選定について発表者に質問も。事例共有でより良い活動を目指す
釜石消防署の小林署長は「県内のほとんどの消防署ではクマ対策にかかる消防活動や救急活動のマニュアルを作成していない」とし、装備を含む課題を指摘。自治体の中にはクマの緊急銃猟実施の際に担当課の要請で救急車を安全な場所に待機させたり、クマが出没した際、小中学校の登下校時に消防車両が巡回を行う体制をとっているところもあるというが、まだまだ課題は多い。会では県や市の鳥獣担当職員とも情報共有。署員らはクマの習性や追い払いの方法、緊急銃猟の実施基準などについても学んだ。

署員らは市水産農林課の職員からクマ対策の知識も得た
釜石大槌地区では今年、クマ事案での救急出場は釜石市1件(軽傷)、大槌町1件(重傷)。釜石消防署では特異事案があるたびに今回のような署内研修を行い、情報共有や知識習得に努めているが、県や市の関係部署を招いての事例検討会は初めて実施。県沿岸広域振興局保健福祉環境部・釜石保健所環境衛生課の髙橋秀彰課長は「それぞれの組織には強みがある。何より大事なのは連携で、チームで対応することがポイント」と相互協力の必要性を示した。

行政職員との意見交換は貴重な機会。互いの活動を知り、今後の連携に生かす
クマ事案での救急活動は現場周辺にクマがひそんでいる可能性もあるため、二次被害を防ぐための安全確保も重要なポイント。小林署長は「署員も危険を伴う対応。関係機関と連携しながら、任務分担して活動することが大事。状況を見極め、あせらず冷静に」と、よりベストな活動を望んだ。

釜石新聞NewS
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