「お互いさま」で助け合うまちに 釜石・大平中3年生 学びの集大成、福祉劇披露


2025/10/22
釜石新聞NewS #福祉

福祉学習の集大成として認知症劇を披露した大平中3年生=2025年10月11日

福祉学習の集大成として認知症劇を披露した大平中3年生=2025年10月11日

 
 釜石市大平町の大平中(高橋信昌校長、生徒75人)の文化祭が11日にあり、3年生18人が認知症をテーマにした劇を披露した。力を入れてきた福祉学習の集大成。高齢化が進む地域の一員として「みんなが笑顔で暮らせるまちを」とメッセージを送り、「小さくてもいい、できることをする。あなたは?」と実現に向けた投げかけもした。
 
 文化祭が開かれた同校の体育館。「福祉について学習した3年間の集大成ともいえる『野菊ばあちゃん物語』を上演します」とアナウンスが流れ、舞台が暗転。約40分の劇が始まった。
 
3年間の学びを盛り込んだ「野菊ばあちゃん物語」を上演

3年間の学びを盛り込んだ「野菊ばあちゃん物語」を上演

 
 同校では7年前から、特別養護老人ホーム「あいぜんの里」(同市平田)を運営する社会福祉法人清風会の協力を得て福祉の学習を続けている。現3年生は総合的な学習の時間を活用し、防災、職業といった分野を学ぶほか、福祉についても1年生の時から座学や交流活動を通じて理解を深めてきた。
 
 最終学年となった今年の学習スタートは、あいぜんの里の訪問活動。ソーランなどを披露し、入居者らと触れ合った。市や同法人などが地域づくりのプラットフォーム(土台)として月1回実施する「平田つながるカフェ」の運営にも挑戦。1年次には“お客さま”として参加したが、地域社会の一員としての積極的な関わり合いを目標に企画段階から加わった。
 
助言を受けつつカフェの準備をする中学生=2025年6月30日

助言を受けつつカフェの準備をする中学生=2025年6月30日

 
3年生が企画運営した世代間交流カフェ=2025年6月30日

3年生が企画運営した世代間交流カフェ=2025年6月30日

 
1年生の時は招待者としてカフェに参加=2024年1月22日

1年生の時は招待者としてカフェに参加=2024年1月22日

 
 高齢の地域住民と未就学児との交流を促す催しは大好評。中学生にとっても「『ありがとうね』と言われたのが印象的。すごくうれしかった」「感動がいっぱいの生活をしてもらいたい」と、学習への意欲を高める機会となった。その後、認知症サポーター養成講座とステップアップ講座を受講。認知症の人とその家族の気持ちを共感的に理解し、どうサポートできるかを考え、話し合ったりした。
 
地域住民との交流を深めた3年間。笑顔は変わらない

地域住民との交流を深めた3年間。笑顔は変わらない

 
認知症サポーターステップアップ講座の様子=2025年8月27日

認知症サポーターステップアップ講座の様子=2025年8月27日

 
講義を受け自分たちにできることを話し合った

講義を受け自分たちにできることを話し合った

 
 3年間の学びのまとめが認知症をテーマにした劇の披露。文化祭のほか、市内の認知症サポーターらの研修会で発表することになり、練習に取り組んできた。
 
 迎えた本番。認知症の症状が出始めた高齢女性の振る舞いに戸惑う家族の様子、医療機関の受診を渋った時や食事した後に「ごはんまだ?」と催促された場合の対応など、4つの場面を中心に劇が展開された。悪い対応事例を演じた後に、時間を巻き戻す演出で、関係にしこりを残さずに済む接し方を紹介した。
 
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劇では演出を工夫したりスライドを使って学びを伝えた

 
 声かけする際は「驚かせない」「急がせない」「気持ちを傷つけない」という3つの“ない”が大事だと、せりふを通して発信。認知症の人を地域全体で見守る大切さも訴えた。「みんな違っていい。困った時はお互いさま。できることをして支え合おう」という気持ちが地域に広がることを期待し、幕を下ろした。
 
 主人公「野菊ばあちゃん」役の中嶋真帆さんは「いい劇にできた」と晴れやかな表情で話した。印象深い学びは、認知症になった本人や家族のつらさを知ったこと。少し前まで認知症の家族と暮らした経験も生かし、「大事にしているもの、価値観は人によって違う。だけど、助ける側も助けてほしい側も『お互いさま』を大事にしてほしい。私も対応の仕方を考え、優しく接することができるようにしたい」と気持ちを込め、役を全うした。
 
学びをせりふに込めた「野菊ばあちゃん」役の中嶋真帆さん

学びをせりふに込めた「野菊ばあちゃん」役の中嶋真帆さん

 
 同校の特徴の一つとなっているのが、この福祉学習。劇の構成や演出を担当する森潮子教諭(3学年主任)は高齢化の進行を背景にこれからの時代を考えると、世代や障害の有無を超えた福祉の視点は大事だと指摘する。「知っていると、知らないでは大きな差が出てくる。身近に学習できる環境があれば生かすべきで、つながりを理解してもらえたら」と、生徒たちを見守る。
 
 学びを支えるあいぜんの里の久保修一副施設長や同在宅介護支援センターの高野加奈子所長らも鑑賞し「中学生がここまで熱心に取り組んでくれたのがうれしい」と感心。久保副施設長は「将来、福祉の仕事に就いてほしいとの気持ちはあるが、福祉の視点はどんな仕事にも役に立つ。早いうちからの下積みが脈々と続けば、優しいまちづくりにつながるのではないか」と意義を強調した。
 
 大人たちの思いを生徒たちはしっかりと受け止めている。劇中で町内会長役を演じた生徒会長の三浦孝太郎さんは以前から、高齢者との接し方や世代間の関係などに課題、問題があると感じていて、「中学生のうちから触れ合う知識を身につけられるのはいい」とうなずく。「何事も備えておくことが大事だと思う。何が起きても大丈夫なように学びをしっかり身につけ、対応できるようにしたい」。自身の意識を深めつつ、下級生にも「学習を充実させてほしい」と望んだ。
 
全員が主役。気持ちを一つに合唱を披露した3年生

全員が主役。気持ちを一つに合唱を披露した3年生

 
 3年生による認知症をテーマにした福祉劇は、28日に釜石PIT(同市大町)で開かれる「チームオレンジ交流会」で再上演される。「ベテランの(認知症サポーターの)皆さんに、地域の将来を担っていく私たちが福祉について理解していることを見せられたら」と三浦さん。頼もしさをにじませる。

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