「橋上市場!?」かつての釜石風景 軌跡たどる写真展 懐かしむ声、思い出を共有

サン・フィッシュ釜石で開催中の写真展「橋上市場の軌跡」
かつて、釜石市には全国でただ一つ、橋の上に組み込まれた形の名物市場があった。「釜石の橋上市場」。市中心部を流れる甲子川に架かる旧大渡橋に並行する形の橋上マーケットは、市のシンボルの一つとして市民や観光客に親しまれた。橋の老朽化でJR釜石駅前に移転し20年余り。その流れをつなぐ「駅前橋上市場サン・フィッシュ釜石」(同市鈴子町)で、当時の様子を紹介する写真展が開かれている。
橋上市場は1958年に露天市を原型に誕生。長さ約110メートル、幅約13メートルの場内には魚屋や八百屋はもちろん、衣料品や雑貨、土産物などを扱う店舗、理髪店、食堂もあった。その数、約50店舗。「市民の台所」であり、生活を支える場所でもあったが、河川法上の問題や大渡橋の架け替えに伴い、2003年1月に閉店。45年の歴史に幕を下ろした。
橋と並行し独特の雰囲気をかもす建物、物や人であふれる場内、笑顔の店主たち―。「釜石橋上市場の軌跡」とタイトルが付いた写真展には、当時のにぎわいを写した約60点が並ぶ。開設時の様子や河川法上の問題などで移転・撤去を余儀なくされた経緯、閉店後の事業者らの再スタートについて年表でも紹介する。

写真と年表で橋上市場の歴史を振り返る展示

橋上市場の独特な雰囲気を感じられる写真がずらり
形を変えながらも橋上市場の歴史を受け継ぐサン・フィッシュは03年5月に開業。橋上市場で営業していた店舗のうち15店が入居した。ほか一部の事業者は大渡町にあった空き店舗を活用した「いきがい市場」で営業したが、23年の東日本大震災で流失した。サン・フィッシュは23年目を迎え、現在は海産物などを販売する組合員3店と、食堂やスナックなどテナント10店が営業する。
橋上市場やサン・フィッシュに親しみを持ってもらおうと、施設を運営する釜石駅前商業協同組合(八幡雪夫理事長)が企画。当初、市民らから写真を募る方式でスタートしたものの、震災で写真を失ったり、そもそも当時はカメラを持つ人も少ないなどの理由もあってか集まらなかった。そんな時に、市が写真提供に手を挙げたほか、07年に写真集「釜石橋上市場 追憶の光景」を出版した地元出身の写真家佐々木貴範さんの協力を得、さらに地元酒造会社の浜千鳥の仲立ちで、1人が写真を寄せた。

開設当時の街のにぎわい、活気を伝える写真を展示する

最後の営業日となった橋上市場の様子を捉えた写真も並ぶ
発案したのは組合事務局の30代職員。橋上市場のあった当時は小学生で、親戚が働いていたことからイクラなど海産物をもらったことなどを記憶する。写真展に向け準備する中で、当時を知る組合員や理事から話を聞き、思いに触れ、「橋上市場は特別なものだったのでは」と感じたという。知らない世代が増えていることもあり、まちの歴史を知ってもらう機会に、そして記憶する人たちには懐かしみ、世代を超えた会話のきっかけになればと、帰省客が多くなるお盆の時期に合わせて催した。

買い物に訪れた客や帰省した人らが展示に足を止めている
「懐かしい」と目を細めていたのは、埼玉県草加市の渡辺律子さん(75)。釜石出身で高校時代まで過ごし、先祖の墓参りのため毎年この時期に訪れているという。橋上市場の外観を写した一枚を指さしながら、孫らに今はなき古里の風景を伝えていた。

「孫たちに古里のことを伝えられた」と話す渡辺律子さん(左)
「育った当時、(橋上市場は)普通にあるものだったけど、のちにイタリアと釜石にしかないものだと知った。珍しいものなのだと記憶したのを思い出す。にぎやかで、活気がある街だった」と渡辺さん。時を経た街の様子に寂しさを感じつつ、懐かしい顔や味との再会を楽しみにしているらしく、「釜石に来ると、高校生に戻ったかのように若返る。元気なうちは来たい」と柔らかな笑みを浮かべた。
同じように懐かしむのは、施設内で「七兵衛屋商店」を営む後藤さちえさん(65)。橋上市場から移転した店舗の一つで、「あの頃は本当ににぎやかだった。ちょうど子育て中で大変だったはずだが、苦労を考える暇もなく働いた。立ち止まっていられる状況ではなく、ただ突っ走っていた」と明るく笑う。現在、組合の理事を務め、展示の準備にも積極的に関わった。
海産物や刺身を店頭に並べ、客を迎え続けている後藤さんは、写真展でうれしい対面があった。掲示された一枚に、7年前に亡くなった夫の英輔さん(享年65)の姿を見つけた。「橋上市場にいる自分たちを撮ることはなかったから、こういう写真が残っているのは感激。こういう風に、写真を見て『あ、こんな人いたね』とか話のタネになれば。皆さんの心の中がにぎわったらいい」とうなずいた。

亡夫との思いがけない再会に頬を緩める後藤さちえさん
展示会場には「想い出箱」が置いてある。橋上市場でのエピソードや写真展の感想などを自由に書いてもらおうと、用紙も用意。すでに投書した人もいて、一部が紹介されている。「釜石に来たときは必ず橋上市場に寄っていた。いつも人であふれ、たくさんのお店があって楽しい、独特な、不思議な空間だった」「かまだんごを買うのが好きだった」。足を止めた人たちが掘り起こした記憶をつづっている。

「想い出箱」に寄せられたメッセージを掲示して記憶を共有
写真展は31日まで。施設の営業時間内(午前7時~午後4時)に見ることができる。組合事務局では「これから先のことを考えることも大事だが、昔のことに思いをはせることがあってもいいと思う。釜石を盛り上げた人たちの存在、釜石の商売人のあたたかい人柄を感じてほしい」と期待する。
この企画は、空きスペースを有効活用することで、来場者の滞在時間を長くすることも狙い。「テナント利用、出店者を募集中。短期、チャレンジショップだったり、フリーマーケットや作品展も歓迎」と呼びかける。

釜石新聞NewS
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