震災復興後押し15年 「唐丹ゆめあかり」惜しまれつつ最終回 住民力結集の打ち上げ花火に万感

最後の開催となった「唐丹ゆめあかり」=9日、小白浜漁港
釜石市唐丹町で東日本大震災以降、毎年夏に開催してきた鎮魂と復興を祈るイベント「唐丹ゆめあかり」が最終回を迎えた。津波で大きな被害を受けた地域に明日への希望と活力をもたらした15年―。住民らは終了を惜しみつつも、復興への歩みを支えた地域イベントに感謝し、新たなまちづくりに思いを新たにした。
同イベントは唐丹駐在所連絡協議会(佐々木孝会長)、小白浜町内会(佐々木啓二会長)を中心に組織する実行委が主催。震災があった2011年に、ペットボトルキャンドルを防潮堤などの海岸エリアにともし、犠牲者の鎮魂と復興への祈りを込める場として始まった。13年には、東北の被災地で花火を打ち上げるプロジェクト「LIGHT UP NIPPON(ライトアップ日本)とのコラボが実現。市内外の支援者の協力で、郷土芸能の披露や縁日広場なども開催する一大イベントに発展した。
花火の打ち上げは16年から、地域住民や地元企業、団体などからの協賛金で行われてきた。新型コロナ感染症拡大を考慮し、20年は実行委がイベント中止を決めたが、打ち上げに協力してきた花火業者、芳賀火工(仙台市)が支援を申し入れ、地域限定の“サプライズ花火”として実施。住民の要望を受け、翌21年以降も地域から寄せられる協賛金を原資に打ち上げを継続してきたが、社会情勢の変化で資金確保が難しくなってきたため、実行委は15年目となる本年を区切りに終了を決断した。

これまでの経緯を話し、協力に感謝する佐々木啓二実行委員長(写真左上)。会場には幅広い世代が集まった

地域内外から訪れた家族連れなどが夏の夕べを楽しんだ
9日、イベント会場となった小白浜漁港には夕方から、キッチンカーやアート作品体験のブースが並んだ。辺りが暗くなり始めると、地域住民や帰省客などが大勢集まった。花火の打ち上げを前に、唐丹中(金野学校長、生徒27人)の生徒有志19人が、学校で取り組む「唐中ソーラン」を披露。元気いっぱいの踊りで、地域の盛り上げに一役買った。同町本郷の「桜舞太鼓」を伝承する鼓舞櫻会(佐藤勇人会長)は手踊りも交え、華やかなパフォーマンスを見せた。市内外のイベントに引っ張りだこの同太鼓演奏に盛んな拍手が送られた。

唐丹中の生徒有志が「唐中ソーラン」を披露。アンコールにも応え、2回踊った

生徒らはそろいの長ばんてんを着て、躍動感あふれる踊りを見せた

唐丹町本郷を代表する郷土芸能「桜舞太鼓」は女性陣の手踊りとコラボ
唐丹ソーランを率いた千葉柊瑛さん(3年)は「ミスとかなく、声も出していい踊りができた」と満足げ。震災後に生まれ、幼いころからまちの復興を見ながら育った。同イベントも毎年楽しみにしてきたが、「今年で終わると聞いて悲しい。地域の盛り上げや交流になる祭りだったので…」。次代の唐丹を担う立場として、「今よりも活気づいて楽しく過ごせるまちにしたい」と思いを込めた。
フィナーレを飾る打ち上げ花火は、これまでで最多の約800発。今年は町内外の149人から104万4千円の協賛金が寄せられ、繰越金と合わせ費用に充てた。集まった人たちは震災後の15年に思いをはせながら、夜空を焦がす色とりどりの光を見つめた。

唐丹の夏の夜空を彩った打ち上げ花火。震災犠牲者を追悼し、冥福を祈った

花火は北側防波堤から打ち上げられた。“真ん丸お月さま”とも競演(写真左)
同市平田在住の大和田聡子さん(44)は震災時、唐丹の実家に暮らしていた。長女を身ごもっており、自宅裏の国道に駆け上がり、津波の難を逃れた。守られた命は14歳に…。「この子がいたから(2人とも)助かったようなもの」と当時を振り返った。被災した実家は再建され、両親が暮らす。この日は親子5人で帰省し、3世代で唐丹の復興花火を見納め。15年続いた古里のイベントに「唐丹の結束力を感じる。終わるのは残念だが、また、こうしてみんなが集まれるような場があれば」と願った。
同町本郷出身、在住の新沼みどりさん(41)は「震災後、子どもたちは地元で楽しめる場があまりなかったので、(イベント開催は)ありがたかった。被災して他地域に移住した人との再会の機会にもなっていた」と感謝。本郷地区は子育て世代の人口流出が顕著で、「娘たちが大きくなった時が心配。少子化で学校統合の話もある。自分も育った母校がなくなっていくのは寂しい」と地域の未来を案じた。

唐中ソーランにスマホカメラを向ける人も多数。思い出をしっかり心に刻んだ
佐々木啓二実行委員長(81、小白浜町内会長)は「地域の皆さんの『続けてほしい』との思いが強く、ここまで継続できた。復興に向かう中で、住民の心の支えになってきたのは確か。夏の楽しみの一つではあったが、一応の区切りとした。『また、やりたい』という声が出てくるようであれば、次の若い世代の判断に委ねたい」と話した。

釜石新聞NewS
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