釜石SW第7節 雪の影響で中止の試合を17日に/3日はSMCブース、釜石高震災語り部が地元発信に力
釜石SW対GR東葛の試合開催に向け行われた雪かき作業=3日、釜石鵜住居復興スタジアム
NTTジャパンラグビーリーグワン2部の日本製鉄釜石シーウェイブス(SW)は3日、釜石鵜住居復興スタジアムで第7節NECグリーンロケッツ東葛との対戦が予定されていたが、降雪の影響によるグラウンドコンディション不良のため中止となった。この日の試合は、SWのチームスポンサーで釜石市に工場があるSMC(髙田芳樹代表取締役社長、本社:東京都千代田区)のプレゼンツマッチ。試合はできなかったが、会場内に設けられた同社の出展ブースは大勢の来場者でにぎわった。SWホーム戦で継続される釜石高生の震災語り部活動もあった。チームは地元ゲームを支える全ての人々への感謝を胸に10日、同スタジアムで東日本大震災復興祈念試合(対九州電力キューデンヴォルテクス)に挑む。3日に中止された試合は17日に行われることが決まった(7日発表)。
釜石SWのホームの同スタジアムは1日朝までに降り積もった雪が解けず、試合前日の2日は選手、スタッフらが夕方まで雪かき。当日は、前日夕方のSNSでの協力呼びかけに応えた一般ボランティアや相手チーム関係者らが加わり、早朝から雪かき作業に追われた。キックオフの時間を1時間遅らせ開催への準備を進めたが、午前11時時点の判断で安全が確保できないとして、試合中止が発表された。
両チームの選手、スタッフ、ボランティアらが雪かきに協力
試合開催を願い、懸命に除雪作業にあたる釜石SWの選手ら
100人以上の協力で芝生が見える状態にまでなったが…
今季ホーム2戦目。連敗中のSWは地元での勝利を目指し練習を積んできただけに残念な結果となったが、選手らはグラウンド周辺のフードコーナーに出向き来場者と交流。新たに作成された選手個人のプロフィールなどが書かれたカード(数量限定)を自ら配り、記念撮影などでファンとの絆を深めた。
試合中止発表後、来場者と交流を深める釜石SWの選手ら。SWのマスコット「フライキー」も活躍(写真右下)
会場では選手との記念撮影も行われた
SO中村良真選手は100人以上のボランティアが雪かきに協力してくれたことに「ありがたい。本当にいろいろな人に支えられているのを再認識した」と感謝の言葉。「最善の準備をしてきたので、それを発揮できなかったもどかしさはあるが、支えてくれる皆さんの気持ち、今日できなかった分の思いをしっかり背負って次戦に臨みたい」と1週間後を見据えた。チームを率いるWTB小野航大主将も「結果的に試合はできなかったが、地元の皆さんをはじめ多くの人たちのラグビーに対する熱い思いを感じる機会になった。今季はまだ勝てていないが、悪いことばかりではない。ポジティブな部分をつなぎ、次は応援してくれる皆さんに恩返しできるようにしっかり勝利する姿を見せたい」と誓った。
両チームの選手が並ぶと多くのファンがカメラを向けた
マッチスポンサー「SMC」の社員らも加わり記念撮影
ひな祭りでもあるこの日は、試合後の「ラグビーのまち釜石教室」で女性向けの体験コーナーも企画され、県内唯一の高校女子チームである花巻東高女子ラグビー部が、試合や体験教室のサポートをする予定だった。後藤渚菜主将は「やっぱり試合は見たかったですが…(仕方ない)。(地元岩手の)SWの活躍は自分たちの励みにもなっているので頑張ってほしい」とエールを送った。
空気圧制御機器 世界首位「SMC」が初のマッチスポンサーに うのスタ出展のブース大にぎわい
会社の業務や製品が紹介された「SMC」のブース
3日の試合は、釜石SWのチームスポンサーでもあるSMCがマッチスポンサーとなった。会場内には大型の仮設ハウスが設置され、同社と遠野市のサプライヤー4社が出展。普段、一般の人は見られない業務内容を写真パネルや動画、製品などで紹介した。
SMCは空気圧制御機器製造では世界首位の実績を誇り、国内6カ所の生産拠点のほか海外にも工場を持つ。本県には釜石、遠野両市に工場があり、外国人を含む約2500人が就労。釜石市では5工場が稼働する。
空気圧制御機器は工場の生産ラインなどの自動化に欠かせないもので、あらゆる産業で使われるが、一般の人が目にする機会はほとんどない。今回の出展では同社の使用機材や製品を応用した体験型ブースも展開。子どもから大人まで幅広い年代が、楽しみながらその技術に触れた。
空気の力でペットボトルカーを走らせピンを倒すボーリングゲーム
真空パットを操作しボールやチョコレートをゲット!
SMCとサプライヤー4社のブースは終始、大勢の来場者でにぎわった
新年度、同社に入社予定の大槌高3年の生徒2人は「仕事内容を見て4月から頑張ろうという気持ちが高まった。具体的な説明が聞けたので来て良かった」と目を輝かせた。陸前高田市の平野真綾さん(28)は「日本を支えていただいてありがたい。母も働いているので、どんな仕事なのか分かって感慨深い」と喜んだ。
浦島勝樹釜石工場長は「皆さん、興味を持って見てくださった。これを機に弊社の製品、会社自体の認知度も高まれば」と期待。メインの試合はできなかったが、「少しでも地域貢献につながったならうれしい」と話した。
釜石高「夢団」は祈念碑前で震災伝承活動 新たに4人が語り部デビュー
釜石高「夢団」のメンバーによる東日本大震災の伝承活動
釜石高の生徒有志による防災・震災伝承グループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」(60人)は3日、釜石SWのホーム戦に合わせ、同スタジアムで東日本大震災の経験や教訓を伝える語り部活動を行った。1~3年生9人が活動。生徒たちの呼び掛けに応え、来場者73人が話を聞いた。
スタジアム内に建立されている震災犠牲者の鎮魂、教訓伝承のための祈念碑前で1、2年生の語り部5人が話をした。うち4人はこの日が語り部デビュー。生徒らは2月に経験者から話を聞く研修などを行い、それぞれに語り伝えたい内容をまとめて当日を迎えた。時折、雪が吹き付ける中、生徒らは自分の言葉で「命を守る大切さ」などを伝えた。
避難時に利用する「オリジナル安否札」も配布しながら「語り部活動」をPR
スタジアム内に建てられた祈念碑の前で震災の経験や教訓を伝えた
震災時3歳だった政屋璃緒さん(1年)は宮古市のショッピングモールにいた時に地震に見舞われた。大きな揺れの感覚や周囲のざわつきを覚えているという。伝承活動では「いつどこで被害に遭うか分からない。常に(防災)意識を持っていてほしい」と訴える。宮古からの通学で最初に感じたのは「津波の時、どこに逃げればいいか分からなかった」こと。「普段から初めての場所に行く時は近くの高い所を探しておくといい。いざという時、心の余裕につながると思う」と話した。
双子の妹とともに語り部デビューとなった佐々有寿さん(2年)は祖父の家が津波で流された。がれきの中、祖父宅に置いていたぬいぐるみを探した記憶があるという。自身の唯一の記憶と祈念碑に刻まれた「あなたも逃げて」という言葉を使い、自分の思いを伝えた佐々さん。「命を守る最善の方法は逃げること」と言葉に力を込める。この日は「お客さんの反応が見え、ちゃんと思いが伝わっているのを感じた」。
立ち寄った来場者(右側)は生徒らの話に熱心に耳を傾けた
同震災から11日で13年-。夢団の語り部活動はSWの次戦10日にも同スタジアムで行われる予定。生徒たちの思いを現地でじかに聞いてみては?
釜石新聞NewS
復興釜石新聞を前身とするWeb版釜石新聞です。専属記者2名が地域の出来事や暮らしに関する様々なNEWSをお届けします。取材に関する情報提供など: 担当直通電話 090-5233-1373/FAX 0193-27-8331/問い合わせフォーム