4年ぶり「釜石市郷土芸能祭」 神楽、鹿踊り、虎舞、太鼓 多彩な演舞に観客大喜び
4年ぶりに開かれた釜石市郷土芸能祭。各団体が躍動した
釜石市郷土芸能祭(市、市教委主催)は4日、同市大町の市民ホールTETTOで開かれた。隔年度で開催される同祭だが、前回は新型コロナウイルス感染症の影響で直前に中止を余儀なくされ、今回は4年ぶりの開催。市内から8団体が出演したほか、特別出演として一戸町の1団体が招かれた。延べ約700人が鑑賞し、多彩な芸能が伝承される郷土の魅力を堪能した。
同市では神楽、虎舞、鹿踊り、手踊りなど55の芸能が各地に伝承され、地域信仰とともに受け継がれてきた。無形民俗文化財として県指定が1団体、市指定が13団体ある。同祭は地域に根付く伝統文化である郷土芸能を守り育て、次世代への継承、郷土愛の醸成などにつなげようと1977(昭和52)年度から開始。平成に入ってからは市外の団体も招き、交流を図っている。
26回目の開催となった本年度は市内から、八雲神楽、小川しし踊り(市指定文化財)、松倉太神楽、桜舞太鼓、神ノ沢鹿踊(同)、丹内神楽(同)、両石虎舞(同)、南部藩壽松院年行司支配太神楽(県指定文化財)が出演した。
2017(平成29)年に市指定文化財となった「神ノ沢鹿踊」(同保存会=中村巧会長)は、約330年前に現鵜住居町神ノ沢地区に房州(現千葉県南部)出身者から伝えられたとされる。旧鵜住居村では最も古い芸能。同祭への出演は東日本大震災後の21回公演以来で、文化財指定後は初の演舞となった。
2頭の雄鹿が雌鹿を取り合う戦いの様子を表した踊り「突合い」=神ノ沢鹿踊
激しい踊りの「突合い」は地域の祭りでも最も盛り上がる演目
栗林町の「丹内神楽」(砂子畑共正会=栗澤陽一会長、砂子畑芸能保存会=小笠原昭平会長)は同市の無形民俗文化財指定第一号で、1973(昭和48)年指定。山伏神楽の系統で、約180年の歴史を有する。紀州熊野(現和歌山、三重県南部)をルーツに、明治時代以降は本県の黒森、早池峰両神楽を研究し、現在の形になったとされる。同祭には23回以来の出演。
式舞の一つである「鶏(とり)子舞」。丹内神楽の代表的演目
色鮮やかな装束で華麗に舞う市指定無形民俗文化財第1号の舞を観客が堪能
両石町の「両石虎舞」(同保存会=久保宣利会長)は江戸時代中期から踊られていたと伝えられる。市内の虎舞の中では古い歴史を有し、1998(平成10)年に市指定文化財となった(同年、虎舞4団体指定)。虎頭は木彫りの伝統を守り、相撲の四股を踏むような足さばきで踊るのが特徴。23回以来の同祭出演となった今回は、地域の祭り以外では目にする機会の少ない「刺し鳥舞」も披露し、来場者の注目を集めた。
虎頭の振り方、足の運び方など伝統の形を崩さず、今に受け継がれる両石虎舞
両石虎舞は手踊りも数多く伝承。今回は「刺し鳥舞」(写真)と「甚句」を披露
同保存会の久保会長(50)は「コロナ禍でしばらく練習できない時期が続いた。地域の祭りでの披露は昨年から本格的に再開。今回の芸能祭出演も確実な継承へのいい後押しとなった」と喜ぶ。地域は震災の津波で甚大な被害を受け、人口が減った。加えて少子高齢化が進み、保存会のメンバー確保には苦慮しているという。「これからは、やりたい人がいれば他地域からも受け入れる体制を整えたい。古くから形を変えずにきた伝統の舞を守りつつ、廃れてきた演目の復活にも取り組みたい」と意欲を見せる。
今回の特別出演には、一戸町の「高屋敷神楽」(同保存会=大木勇司会長)が招かれた。同神楽は県指定無形民俗文化財。三明院という寺院の山伏神楽が源流で、同神楽の流れを継ぐ団体は県外にもあるという。同町内の神楽団体の中でも群を抜いた多数の演目があるのが特徴。震災後の2015(平成27)年には、被災した同市鵜住居町にも慰問に訪れている。今回は「権現舞」のほか「鐘巻き御寺」という演目を披露した。
特別出演した一戸町の高屋敷神楽。演目「鐘巻き御寺」の一場面
修業をせずに鐘巻寺に入った娘が鬼人になってしまい、修験者がそれを救うという踊り
観客は市内外の団体による見応え十分の舞台を存分に楽しみ、郷土芸能の宝庫・岩手の素晴らしさをあらためて実感した。一昨年、同市に転居したという高橋弘枝さん(45)は同祭を見るのは初めて。「いろいろな種類を見られて楽しい。子どもが減って継承が難しくなっている団体も多いと聞くが、釜石は幼稚園や小学校でも郷土芸能に取り組むなど伝承に力を入れているのが素晴らしい」と感心。虎舞が大好きな次男(3)に目を細め、「息子にもやらせてあげたい」と親心をのぞかせた。
地域の宝である芸能を受け継ぐ両石虎舞(左)と神ノ沢鹿踊(右)の子どもメンバー
釜石新聞NewS
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