井上マスさん(作家井上ひさしさん母)のミュージカル2年ぶりに 昭和の釜石の活気 舞台で再び


2024/01/31
釜石新聞NewS #文化・教育

パートⅡとして約2年ぶりに上演されたミュージカル「人生はガタゴト列車に乗って」=市民ホールTETTO

パートⅡとして約2年ぶりに上演されたミュージカル「人生はガタゴト列車に乗って」=市民ホールTETTO

 
 作家井上ひさしさん(故人)の母マスさん(1907-91、神奈川県出身)の激動の半生を描いたミュージカル「人生はガタゴト列車に乗って」が21日、親子ゆかりの釜石市で上演された。同市のNPO法人ガバチョ・プロジェクト(山﨑眞行理事長)が主催。2021年10月の初演に次ぐ舞台は新たな顔ぶれも加わり、より音楽色の濃いものに。市内外から約400人が鑑賞し、マスさんの人生をたどるとともに昭和の釜石繁栄の時代を懐かしんだ。
 
 同ミュージカルは、井上マスさんが76歳の時に執筆した同名の自叙伝(1983年刊行)を基にした作品。井上ファミリーの記念館建設を目指す同NPOの山﨑理事長(73)が自ら脚本を書き、劇中歌も手掛けた。震災10年を機に「芸術で釜石を元気に。自分たちの力でできることを」と取り組んだ。
 
 マスさんは若くして夫を亡くし、女手一つで3人の息子を育て上げた。家族の生活を支えるため、薬店や美容室、土建業の経営などさまざまな仕事に従事。事業の失敗、息子たちとの別れなど数々の困難を乗り越えながら、最終的にたどり着いた釜石で焼き鳥屋台を繁盛させ、飲食業での成功を遂げた。釜石は製鉄や漁業で栄え、最も隆盛を極めた時代。
 
釜石へ働きに行くため三男修佑と別れるマス(写真左)。偶然出会った工員が「鉄のまち釜石」について教えてくれた(同右)

釜石へ働きに行くため三男修佑と別れるマス(写真左)。偶然出会った工員が「鉄のまち釜石」について教えてくれた(同右)

 
最初に働いた飲食店では、まちの景気を反映し金払いのいい客が…

最初に働いた飲食店では、まちの景気を反映し金払いのいい客が…

 
 パートⅡとした今回の公演は、子どもから大人まで16人が登場人物を演じた。オーケストラは同市出身の指揮者瓦田尚さんが主宰するムジカ・プロムナード(東京)、釜石市民吹奏楽団員ら地元演奏家計19人で結成。コーラス、舞踊、ダンスで、市内の活動グループから42人が協力した。
 
劇中歌は市内3つのコーラスグループが歌声を響かせた

劇中歌は市内3つのコーラスグループが歌声を響かせた

 
ダンスホールのにぎわいは市内の社交ダンス愛好者が再現

ダンスホールのにぎわいは市内の社交ダンス愛好者が再現

 
女形舞踊で人気の尚玉泉さんも舞台を盛り上げた(写真右)。観客も大喜び(同左)

女形舞踊で人気の尚玉泉さんも舞台を盛り上げた(写真右)。観客も大喜び(同左)

 
 来場者は演劇と音楽で繰り広げられる舞台を存分に楽しみ、たくさんの笑顔を広げた。花巻市から訪れた70代女性は「マスさんの本も読んだ。こういう形でミュージカルってできるんだなあと思って」と感心。市民手作りの舞台に「ほのぼのとしていい。特に小さい子どもたちがかわいくてね」と目を細めた。釜石市の米澤英敏さん(81)は「昔の釜石を思い出すよう。30代のころ、仲間とマスさんの店(バー)にも行ったことがある。活気があり、にぎやかだった時代が劇と音楽で再現され、とても楽しめた。懐かしさでいっぱい」と声を弾ませた。
 
劇中歌「夢の街かまいし」を歌とセリフで…。子どもも大人も心を躍らせる

劇中歌「夢の街かまいし」を歌とセリフで…。子どもも大人も心を躍らせる

 
当時のまちの活気をほうふつとさせる満面の笑顔も!

当時のまちの活気をほうふつとさせる満面の笑顔も!

 
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次男ひさし役(成年)は前回に続き柳谷雄介さんが演じた。歌(写真右上)では美声を響かせ、母マスや女衆との掛け合いも…

 
 舞台には夫婦、親子、兄弟での出演も。次男ひさし(子役)を演じた近藤橘平君(6、小佐野小1年)は、オーケストラにバイオリンで参加した兄一葵君(8、同3年)と兄弟初共演。前回公演では一葵君が同役を演じたが、「今回はオケで」と希望した兄に代わり、弟橘平君が同役に手を挙げた。ひさしの歌(作詞・曲:山﨑眞行)で独唱も披露した橘平君は「最初はドキドキしたけど、一歩ずつ自分なりに頑張ってみたら、ちゃんとできた」。難しかった音程も克服し、「出来栄えは500万99点!?」と胸を張った。
 
「ひさしの歌」を元気いっぱいに歌う近藤橘平君(写真左)。兄一葵君はバイオリンでオーケストラに参加(同右)

「ひさしの歌」を元気いっぱいに歌う近藤橘平君(写真左)。兄一葵君はバイオリンでオーケストラに参加(同右)

 
 4歳からバイオリンを習う一葵君は、今回のオケメンバー最年少で唯一の小学生。「みんなで演奏をつくるのを目標に練習を重ねてきた。『頑張れた』とは言えるけど、もう少し上手に弾けると思う」と向上心満々。ミュージカルは「協力して歌ったり演奏したりするのが楽しい」という。弟橘平君もバイオリンを習っており、兄弟に「次は?」と聞くと「オケで(参加したい)」と口をそろえた。
 
公演を終え、はじける笑顔を見せる(右から)近藤一葵君、橘平君兄弟

公演を終え、はじける笑顔を見せる(右から)近藤一葵君、橘平君兄弟

 
 主人公マス役を演じたのは、東京を拠点に活動するオペラ歌手あすみ和希さん。イタリアオペラで役を演じることが多く、今回は和服での足さばきに苦労したという。母親役も初めてで、「3児の母に見えるよう貫禄を出すのが難しかった」と新たな挑戦を振り返る。マスさんを知る人からも話を聞き、役作り。「マスさんは心(しん)が強く、とても明るい方。本番で私なりのマス像が出来上がった」と明かした。初めての釜石市民との共演も喜び、「エネルギーをもらい支えられた。被災されたが、皆さん本当に強い」と称賛した。
 
マス役を演じたオペラ歌手あすみ和希さん(右)。釜石とつながった縁を喜ぶ

マス役を演じたオペラ歌手あすみ和希さん(右)。釜石とつながった縁を喜ぶ

 
ミュージカルの前には、あすみさんとムジカ・プロムナードのステージも

ミュージカルの前には、あすみさんとムジカ・プロムナードのステージも

 
 今回の公演ではミュージカルに先立ち、主演のあすみさんとムジカ・プロムナードによる歌と演奏のステージもあった。あすみさんは宮澤賢治の「星めぐりの歌」、ジャコモ・プッチーニの「私の愛しいお父さん」など4曲を歌った。ムジカもオケ単体で2曲を披露した。
 
ラストは井上ひさしさんの代表作の一つ「ひょっこりひょうたん島」の歌でお別れ

ラストは井上ひさしさんの代表作の一つ「ひょっこりひょうたん島」の歌でお別れ

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