「出発合図はエール」藤井叡王、小山四段(釜石出身) 三鉄・宮古駅に登場【釜石新聞NewS記者レポート】
笑顔で敬礼!藤井聡太叡王(中)と小山怜央四段(右)
5月下旬、将棋の8大タイトルの一つ叡王戦5番勝負の第4局が岩手県宮古市で開かれた。6冠を保持する藤井聡太叡王(20=竜王、王位、棋王、王将、棋聖)が来県するとあって現地は大盛り上がり。そして、大盤解説を担当するのが、釜石市出身で棋士編入試験を突破してプロになったばかりの小山怜央四段(29)となれば、同じ沿岸・三陸地域からも熱視線があったはずだ。記者も気になってはいたが、取材範囲外の地域での話題と一歩引いていた…。そこへ届いた「叡王戦対局者の訪問」という三陸鉄道(本社・宮古市)からの情報。2人が一日駅長を務めるとあって「これ、チャンス」とミーハー心全開で行ってきた。
三鉄訪問は、第4局から一夜明けた5月29日。午前9時20分過ぎ、三鉄の制服に身を包んだ2人が宮古駅近くの車両基地に姿を見せた。2度にわたる「千日手」指し直しで長丁場となった熱戦を制し、3連覇を達成した藤井叡王に疲れた様子は見えなかった。むしろ、にこやかな表情。鉄道好きとして知られており、実際の車両に乗り込んで運転体験したり、車輪などをのぞき込んだり、ウキウキ感たっぷりな姿がほほ笑ましかった。
三陸鉄道職員の案内で車両基地を見学。運転も体験したり
敬礼!三鉄の車両前でびしっとポーズを決めた
近くの宮古駅に移動し、ホーム上で三鉄の石川義晃社長から一日駅長のたすきを託された藤井叡王。あいさつを求められると、「ん~…」。映像などでよく目にする、少し間をとって考えを巡らせているようなしぐさを生で拝見。そして続く言葉。「三鉄さんは震災後いち早く運転を再開させ、三陸地域の復興の象徴だと思う。(一日駅長を)しっかり務めたい」。この受け答えに記者は、情報を整理して言葉を選び出したのだろうと、一人感心した。
進行!三鉄宮古駅の一日駅長として出発の合図
午前10時30分、釜石方面行きの発車ベルが鳴ると、小山四段とともに右手を高く上げて出発合図をし車両を見送った。記念撮影に応じたり終始にこやかな藤井叡王。「制服もズボンまで一式用意していただいて、ここまで本格的とは思っていなかった」とうれしそう。声が小さいとの印象があったが、楽しい気持ちが乗った時の声はよく聞こえた。車両基地前構内での運転体験のこと。「まさか…本当に実際の車両でやると思っていなかった。運転免許を持っていないのでいいのかなと…。緊張したが、すごく素晴らしい経験ができた」。ちゃめっ気たっぷりに話し、周囲の笑いを誘った。
「本当に大変な将棋で、苦しい場面も少なからずあったが、その中でなんとか勝ち、防衛できてとてもうれしい」と前日の戦いを振り返っていた藤井叡王。三陸の食も楽しみながら、つかの間の休息を楽しんだ様子。一日駅長の役目を終えると、市庁舎などが入る複合施設イーストピアみやこ前から次なる勝負の場へ向かった。
イーストピアみやこに集まった大勢の市民らが藤井叡王を見送った
そして、釜石市民が注目するのが、4月に本県初の将棋のプロ棋士となった小山四段。デビュー戦は5月23日。ヒューリック杯第95期棋聖戦の1次予選トーナメント1回戦で室岡克彦八段(64)と対戦し、見事勝利。初陣を白星で飾った。
その後に臨んだのが今回の大盤解説。「2回の千日手という大熱戦。最後まで仕事をやり遂げたことにほっとしている」と胸の内を明かした。対局場に足を踏み入れる機会があったといい、「素晴らしく緊張感のある場で、いつか私もその場に立ちたいという気持ちが新たに芽生えた」と刺激を受けた様子。宮古での将棋タイトル戦は10年ぶりだったが、「次は対局者として来れたら最高」と目の奥に熱い闘志を感じた。
三鉄の名札を手に「貴重な体験だった」と話す小山四段
三鉄訪問では「藤井叡王に便乗して体験できたことだが…」と控えめな小山四段。人の話に耳を傾けて言葉を選んで丁寧に受け答えする姿や、冷静な中にも熱いものを持つ雰囲気など、「藤井叡王と似ているのでは」と感じることもあった。勝負の世界は険しいと思うが、地元出身の身近な存在として小山四段を応援し続けたい。そう思った。
一日駅長を務めた2人に感謝する石川義晃社長(右)
「2人の出発合図は震災を経験し、今もなお三陸地域の復興に取り組む全ての人たちのエールにもなる」と石川社長。一目見ようと多くの人が集まった宮古駅周辺。勝負の世界で活躍する人、夢を諦めず実現する人、頑張る若者―そうした存在が地域に活力をもたらすことを実感した一日だった。
釜石新聞NewS
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