将棋・小山怜央さん 古里釜石に帰省 プロ合格を報告、活躍誓う「応援力に」


2023/03/31
釜石新聞NewS #文化・教育

釜石市に帰省して地元の子どもたちと指導対局する小山怜央さん(左)=小佐野コミュニティ会館

釜石市に帰省して地元の子どもたちと指導対局する小山怜央さん(左)=小佐野コミュニティ会館

 

 今年2月に将棋の棋士編入試験に合格した釜石市鵜住居町出身の小山怜央さん(29)=横浜市。4月1日付で岩手県初のプロ棋士としてデビューする。新たな舞台への一歩を踏み出す前に、古里に帰省。3月28日は子どもや将棋愛好家らへの指導対局、市長への表敬訪問などで大忙しだった。「おめでとう」「白星重ねて」「もっと強くなりたい」。行く先々で喜びや応援、希望を見いだす声を聞いた小山さんは「困難な時があっても地元の応援を力にし、今後も良いニュースを届けたい」と飛躍を誓う。

 

 小学2年生の頃に将棋を始めた小山さん。中学3年で棋士養成機関「奨励会」を受験するも不合格に終わった。高校2年時の東日本大震災で自宅を失い、避難所や仮設住宅での生活を余儀なくされたが、棋力は磨き続けた。岩手県立大進学後、数々のアマチュアタイトルを獲得。16年には奨励会の「三段リーグ」編入試験に挑戦したが、不合格となった。ただ、社会人になってもプロ棋士という夢を諦めず、アマとして臨んだプロの棋戦で好成績をあげ、編入試験の受験資格を獲得。22年11月から若手プロ棋士相手の五番勝負に挑み、3勝1敗と勝ち越して合格した。

 

将棋教室で特別指導

 

憧れの小山さんと(前列右から3人目)と交流し笑顔の子どもたち=小佐野コミュニティ会館

憧れの小山さんと(前列右から3人目)と交流し笑顔の子どもたち=小佐野コミュニティ会館

 

 合格後の初帰省。28日午前、小山さんは小佐野町の小佐野コミュニティ会館を訪れ、子ども将棋教室に特別参加した。将棋愛好家らでつくる「正棋会」が小佐野公民館と連携して企画する教室には小学生9人を含め20人ほどが集まっていて、「おめでとう」と拍手を添えて出迎えた。そして、時間を惜しむかのように、子ども3人が「六枚落ち」のハンデをもらって対局に挑んだ。

 

 対局後には「感想戦」も。勝負を振り返り敗因となった手などを語り合って、最善手を検討する時間だ。小山さんが「負けました」と発した一局。「完敗だった。金をとられたのが痛かった。いい手をとったね」と声をかけられた中澤朋哉君(釜石小4年)は照れ笑いした。棋士を目指す中澤君にとって、小山さんは夢を実現させた憧れの存在。ハンデありの勝ちは「うれしいけど、ちょっと悔しい。途中、勝ち!と思っていたら、怪しい技を繰り出してきて、ただじゃすまなかった。やっぱり、すごい。もっと強くならなきゃ」と刺激を受けた。

 

将棋愛好家や子どもらを相手に臨む「8面指し」=中妻地区生活応援センター

将棋愛好家や子どもらを相手に臨む「8面指し」=中妻地区生活応援センター

 

子どもも大人も小山さんとの勝負に熱中=中妻地区生活応援センター

子どもも大人も小山さんとの勝負に熱中=中妻地区生活応援センター

 

 午後は上中島町の中妻地区生活応援センターで指導対局。子どもや高齢の愛好家らを相手に真剣な表情で多面指しに臨んだ。小山さんに会うために山田町から駆け付けた斎藤稜平君(豊間根小3年)は「緊張してすごく疲れた。とても強かった。感想戦で攻めのことを教えてもらったから強化したい」と貴重な時間を楽しんだ様子。対局の喜びをかみしめるのは大人たちも同じで、「最高だ」と顔をほころばせていた。

 

市長を表敬訪問

 

野田市長(左から2人目)らと記念撮影する小山さん(中央)=釜石市役所

野田市長(左から2人目)らと記念撮影する小山さん(中央)=釜石市役所

 

 2つの指導対局の合間に、市役所の野田武則市長を訪ねて報告。4月から四段としてフリークラスに参戦する小山さんは「こんなに釜石の方が喜んだり応援してくださっていると改めて感じ、とてもうれしく思います。たくさんの声かけを力に勝利を重ねて少しでも早く突破できるよう頑張りたい」と力を込めた。

 

 同行した小山さんの父敏昭さん(60)、母聖子さん(60)は「諦めず夢をかなえた。試練はあると思うが応援してほしい」と望み、野田市長は「大きな偉業を成し遂げていただいた。勝利した瞬間から釜石の空気が明るい雰囲気に変わった。活躍が市民に元気と勇気を与える。厳しいことは多々あると思うが、市民が応援しているので頑張ってほしい」とエールを送った。

 

土橋さんらから贈られたネクタイを着用。同郷のアーティスト小林覚さんの作品「数字」がデザイン。「白星、数字を重ねて」との願いが込められている

応援への感謝と意気込みを伝える小山さん=釜石市役所

 

 幼少期の小山さんに将棋を教えた土橋吉孝さん(67)=日本将棋連盟釜石支部長=は「成長し、たくましくなった。余力があり、まだ伸びる。白星を稼いで上を目指してほしい。怜央はみんなの目標であり、将棋文化普及の力になる」と期待する。実際、小山さんの活躍により、子どもらの熱の高まりを感じていて、同支部では将棋教室の回数を増やす考え。コロナ禍で開催できずにいた市長杯も4月に予定する。

 

 自身も通った教室に今なお多くの人が集う様子をうれしそうに見つめる小山さん。「こんな、にぎやかな感じが続いていってほしい。子どもたちには、いろんな大会に出て経験を積んで頑張ってほしい。自分も勝負師なので、負けるのは悔しい。またチャレンジさせてください」。控えめながら、将棋にひたむきに向き合う姿勢が印象的だった。

 

応援への感謝と意気込みを伝える小山さん=釜石市役所

土橋さんらから贈られたネクタイを着用。同郷のアーティスト小林覚さんの作品「数字」がデザイン。「白星、数字を重ねて」との願いが込められている

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