「三陸ジオパーク」をもっと分かりやすく 釜石の観光ガイドら魅力伝達の手法を模索
釜石観光ガイド会員らが参加したジオセミナー=旧釜石鉱山事務所
約5億年前からの大地の歴史が育んだ自然や風土、産業が魅力の「三陸ジオパーク」(2013年、日本ジオパークに認定)。“鉄のまち”を生んだ釜石市のジオ資源をより分かりやすく伝えるためのセミナーが21日、甲子町大橋の釜石鉱山周辺で開かれた。地元の観光ガイドや関連機関の職員ら24人が参加。地質学や自然災害科学が専門の岩手大理工学部、越谷信教授を招き、価値の再確認と伝達手法の意見交換を行った。
日本最大級の鉱山を有し、「近代製鉄発祥の地」として知られてきた釜石市。その歴史的価値は同市観光の柱で、三陸ジオパークの見どころの一つとなっている。ジオサイトとして紹介される釜石鉱山では鉄や銅などの鉱石が採掘されたが、その鉱床ができたのが今から約1億2千年前。マグマの上昇で熱を加えられた岩石がさまざまな性質に変化したことによる。同鉱山では50種類以上の鉱物が確認され、中には国内で2カ所しかとれない貴重な石も。
釜石鉱山でとれる鉱物について理解を深めるセミナー参加者
ジオパーク認定を受け、同市の観光ガイドはジオの視点を盛り込んだ説明にも力を入れるが、地質など学問的要素が入る内容をいかに分かりやすく伝えるかが課題となっている。その手法を探ろうと今回のセミナーが企画された。釜石観光ガイド会会員で、三陸ジオパーク認定ガイドの資格を持つ菅原真子さん(56)が模擬ツアーを実演。来訪者の興味を引き、理解促進につなげるためのガイドの仕方、今後の発信などについて参加者が意見を交わした。
鉱山施設跡を見学したジオツアー。左下は山の斜面に残る鉄鉱石の選鉱場跡
三陸ジオパーク認定ガイドの菅原真子さん(右から2人目)が模擬ツアーを実演
正面に見えるズリ堆積場は現在、メガソーラー発電所として活用される
参加ガイドからは「地学の専門用語をかみ砕き、(イメージしやすい言葉に)言い換えてあげることが大事」、「釜石ならではのジオストーリー(物語)を作り発信すべき」という意見が。観光関係機関の職員からは「日常生活につながる部分を導入部にすると、(ハードルが高い)ジオの話にも入りやすい。年間を通して足を運んでもらう機会を増やすことも重要」との助言があった。
越谷教授の地質研究室に所属する同大4年の浅野奈美さん(22)は、若者の視点から観光客誘致のアイデアを提言。「写真映えするスポットの積極的発信、鉱山の湧水が有名メーカーの化粧品に利用されている親近感などが、ここに興味を持たせるきっかけになるのではないか。『ジオパークとは何か』という根本的な周知も必要」と話した。
ガイドの説明を聞く(左から)岩手大理工学部の越谷信教授と学生の浅野奈美さん
越谷教授(63)は、北部と南部で大地の成り立ちが異なる三陸地域の特徴について解説した。太平洋赤道近くの大陸の一部だった南部、海底の砂や泥、礁などが起源の北部は、共に長い年月をかけて移動しアジア大陸と合体。日本列島の分離、隆起や浸食で現在の姿になった。北部、南部の接合部で、急峻な山ができたのが釜石地域。越谷教授は「両方の複雑な要素が一カ所に集約している。まさに4億年ぐらいの歴史を体現できる場所。地元の人が知る魅力を内外に広めてほしい」と期待する。
三陸ジオパークの魅力発信について語り合ったフリートーク
三陸ジオパークは13年に日本ジオパーク委員会によって認定されたが、17年に行われた4年ごとの審査では「条件付き再認定」となった。関係機関の連携や周知、活用策など課題改善への取り組みを進め、19年には再認定が決まった。来年は3回目の審査の年にあたる。
三陸ジオパーク推進協議会の土澤智事務局長は、国内最大面積(青森県八戸市~宮城県気仙沼市)を誇る同ジオパークについて、「地域ごと異なる素材に共通テーマを持たせる難しさはあるが、いかに一体性を見い出し発信していけるかが課題。再認定を得られるよう、審査に向けた準備もしっかり進めたい」と話した。
釜石新聞NewS
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