持ち主不明の寄せ書き日章旗 情報求め、金沢から釜石へ~尾崎神社の押印を手掛かりに


2022/01/14
釜石新聞NewS #地域

寄せ書きが添えられた日章旗(画像)を示す小野さん(前列右)、佐々木宮司(同左)。後列は左から安藤さん、安美留さん、佐々木利恵さん

寄せ書きが添えられた日章旗(画像)を示す小野さん(前列右)、佐々木宮司(同左)。後列は左から安藤さん、安美留さん、佐々木利恵さん

 

 釜石にゆかりのある日章旗ではないか―。昨年12月、北陸地方に住む男女3人が手掛かりを求めて釜石市を訪れた。尾崎神社の押印や約60人分の寄せ書きがあり、「佐々木」「菊池」「吉田」といった釜石でなじみのある名字が多く見られたため。陸上十種競技で活躍した人や「柔道部」という書き込みもあり、釜石製鉄所(現日本製鉄東日本製鉄所釜石地区)に関わりがありそうだとも考えている。

 

 手掛かりを探しに来たのは、石川県金沢市の主婦小野晴美さん(59)、大学教員の安藤竜さん(47)、滋賀県彦根市の会社員安美留久見子さん(35)の3人。観光や歴史研究に取り組む仲間だという。2020年12月に北陸地方の新聞に掲載された、太平洋戦争時に出征した兵士が持っていたとみられる日章旗の持ち主の情報提供を求める記事が気になり、活動してきた。

 

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金沢に届けられた持ち主不明の日章旗(小野さん提供)。右上隅に尾崎神社の押印が入っている

 

 小野さんによると、その日章旗は19年9月に金沢市の尾崎神社に持ち込まれた。日本へ旅行に訪れていた米国人男性が「この旗は尾崎神社で清められた日本の旗ではないか。家族のもとに届けば幸いだ」という手紙を添え、託した。金沢の尾崎神社は寄せ書きにあった氏名を電話帳などで調べたが、持ち主や遺族らしい人にたどり着くことはできず、現在は石川護国神社にある県遺族連合会で保管しているという。

 

 日章旗は縦75センチ、横1メートルで、「武運長久」「盡(じん)忠報国」「千人力」「玉砕」「奮闘祈」など文字が確認できる。右上隅に尾崎神社の押印が入っていて、血痕が数カ所にある。遺族会員ではない小野さんらが熱心に取り組みを続けたのは、書き込まれた言葉、戦地に行くのを見送った人たちが残した思いを想像したから。「敵軍に向けられた恐ろしい言葉。うれしくもないだろうに万歳の文字。生きて帰って―と願って書いた人もいただろう」。旗に込められた思いに突き動かされるように独自に調べ、「釜石」にたどり着いた。

 

釜石にゆかりのある姓が並ぶ(小野さん提供)

釜石にゆかりのある姓が並ぶ(小野さん提供)

 

「柔道部」などの言葉も確認できる(小野さん提供)

「柔道部」などの言葉も確認できる(小野さん提供)

 

 小野さんは釜石の尾崎神社に旗の画像を送るとともに問い合わせをし、昨年8月に押印について「(釜石のもので)間違いない」と確認。石応禅寺(大只越町)の押印や住職らしき名前もあったことから、「釜石ゆかりの旗だ」と確信した。ただ、こうした旗にはふつう、出征する兵士の名前が記されているが、今回の旗には個人名の記載はなく、持ち主を特定することは難しいと考えている。石川の遺族会も「持つべき本人か遺族に直接渡したい」とのことで、現物が釜石に届く見通しは立っていない。

 

 そこで、3人は旗の帰還につながる動きを見つけ出そうと、昨年12月に来釜。4日に市内を回った際、訪問先で対応した人が記名のある男性の遺族らしき人に電話で問い合わせをしてくれたといい、「20歳で出征し、戦地で亡くなった」などと情報を得た。「釜石ゆかりのもの」と認識を確かにし、5日には尾崎神社を訪問。佐々木裕基宮司(56)、妻利恵さん(54)に「この旗は、あるべき場所に納められるのがいいはず。釜石と石川の遺族会でやりとりしてもらえたら」と思いを伝えた。

 

釜石の尾崎神社を訪ねた金沢の3人。持ち主探しに込めた思いを伝えた

釜石の尾崎神社を訪ねた金沢の3人。持ち主探しに込めた思いを伝えた

 

 宮司の母郁子さん(78)は釜石遺族会長で、5日は不在だったが電話で応対。「釜石でつくられたもの。古里に帰って来たいでしょう。戻ってくることで報われるのでは」とおもんぱかり、協力を引き受けた。今後、盛岡市の岩手護国神社や県遺族会関係者らからも働き掛けてもらえるよう要請するほか、釜石市が行う戦没者追悼式などで画像を公開し、より多くの情報を得られるよう取り組みたいとしている。

 

 新たな動きが見え、小野さんは「一日も早く釜石に届いてほしい」と期待。安美留さん、安藤さんは「活動を通じ、いろんな人の人生に関わり、戦争や生きることを考えるきっかけになった。歴史的資料として残してもらえれば」と願う。

 

釜石製鉄所とのつながりを感じさせる名前もある(小野さん提供)

釜石製鉄所とのつながりを感じさせる名前もある(小野さん提供)

 

 釜石新聞NewSにも昨年9月、小野さんから画像の送付と問い合わせがあり、旗に記名のある人と同姓同名の男性(96)を訪ねてみた。「当時は20歳前後。こういう旗にいくつも名を記した」というが、画像を見ても自分が書いたものか判断できない様子だった。

 

 1941(昭和16)年12月8日(現地時間7日)の開戦から、45年8月の敗戦まで続いた太平洋戦争。80年近くを経る中、日章旗の持ち主や遺族に関する情報を得るのは難しい。この旗を持って戦地に赴いたのは誰なのか、どんな運命をたどったのか。名を記した古里の人たちは、どんな思いを込めたのだろうか。

 

 情報提供は、釜石市浜町の尾崎神社(電話0193・22・3095)へ。

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