釜石鉱山の鉄鉱石はどうやってできた? 秋田大 福山繭子教授が現地で初講演 観光ガイド勉強会で

秋田大理工学研究科の福山繭子教授(中)を講師に招き、釜石鉱山について学んだ釜石観光ガイド会勉強会
“近代製鉄発祥の地”として名高い釜石市。その鉄づくりを可能とした大きな要因の一つが、良質で豊富な鉄鉱石(磁鉄鉱)を産出する山があったこと。同市甲子町大橋の釜石鉱山は、盛岡藩士大島高任が高炉を築き、鉄鉱石を原料とした鉄の連続出銑に日本で初めて成功した地で、後に国内最大の鉄鉱山として栄えた。「釜石鉱山の鉄鉱石はどのようにして生まれたのか?」。成り立ちや産出される鉱石の特性を岩石学の専門家から学ぶ勉強会が8月25日、釜石鉱山展示室Tesonで開かれた。
勉強会を開いたのは釜石観光ガイド会。同会と三陸ジオパークのガイドを行う沿岸各地の団体などから計21人が参加した。講師として招かれたのは、釜石鉱山など東北地方の鉄鉱床の研究を続けている秋田大理工学研究科の福山繭子教授。現地釜石での講演は今回が初めて。鉄の起源から釜石鉱山を語る上で欠かせない「スカルン鉱床」、「磁鉄鉱」、「餅鉄」について解説した。

宇宙誕生にまでさかのぼる鉄の起源から解説。「地球が生命の惑星になったのは鉄のおかげ」と福山教授
鉄は地球の質量の約35%を占め、最も多い元素。地球の核の中に約90%が存在し、地殻(表層部)にあるのは5%ほど。資源採掘しているのは地下2キロ程度の深さまでだという。太陽系で最も多い元素は水素で、重い元素になるほど数は少なくなるが、鉄だけは特別に多い。これは鉄の原子核の結合エネルギーが金属元素の中で最も大きく、安定しているためだとされる。
地球はできた当初(約45億年前)は二酸化炭素に覆われていたが、海ができ、シアノバクテリア(藍藻)が光合成するようになると大気中に酸素が増加。約22~23億年前に起こったこの現象は「大酸化イベント」と言われる。シアノバクテリアからの酸素と海水中の鉄が結びついてできた酸化鉄は水に溶けずに海底に沈殿。たまってできたのが「縞(しま)状鉄鉱層」で、これが鉄資源(赤鉄鉱)になる。今使われている鉄資源の9割以上がこのタイプ。

酸化鉄は長い時間の経過で赤色に。鉄資源になる「縞状鉄鉱層」
鉄資源となるものには縞状鉄鉱層のほかに、鉄スカルン鉱床、沈積岩(レアメタルを含む)、砂鉄、褐鉄鉱(冷泉の湧出口に堆積)があり、釜石鉱山はスカルン鉱床にあたる。スカルンは、地下で石灰岩などの炭酸塩岩の地層にマグマが貫入し、石灰岩とマグマが反応して新たな岩石を生成、マグマから分離した熱水が石灰岩を溶かしながら金属元素を含む鉱物を沈殿させる作用。代表的な鉱物はザクロ石や輝石、緑簾石で、釜石鉱山の大峰鉱床はほとんどがザクロ石を含む。金属を多く含む鉱物は鉄鉱石(磁鉄鉱、赤鉄鉱)、銅鉱石(黄銅鉱)、閃亜鉛鉱など。「日本はスカルン鉱床が非常に多い」と福山教授。それを生み出したのは豊富な石灰岩と活発な火山活動で、できる鉱物はマグマの化学組成に依存しているという。

釜石鉱山でも見られる「スカルン鉱床」。石灰岩とマグマが反応してさまざまな鉱物ができた

福山教授は釜石鉱山の地質やスカルン鉱物について解説。「釜石石」と名付けられた新鉱物もあるという
釜石鉱山は、白亜紀に地下深くから上昇してきた花こう岩質マグマが古生代に堆積していた石灰岩層に貫入。接触部にスカルン鉱床が形成された。スカルン鉱床は石灰岩が多い鉱山西側に集中し、鉄鉱石のほか銅鉱石を産出している。佐比内鉱床(角礫スカルン)は地表に出ていて露天掘りが行われた。釜石のスカルン鉱物の特徴は「鉄が非常に多く、ほとんど純粋な鉄」であること。福山教授は専門とする放射年代測定で、同じ花こう閃緑岩でもスカルンを作った蟹岳と作らなかった栗橋では形成年代に約3800万年の差があり、栗橋は蟹岳よりも後に形成されたことを突き止めている。

福山教授の話に興味津々の参加者。釜石鉱山の知識を深める貴重な機会となった
釜石の鉄資源を象徴するものとして興味深いのは「餅鉄」。今も鉱床近くの川で見つかる餅鉄は、鉄鉱石のかけらや塊が川に流されて川底や河岸に堆積したもので、丸みを帯びているのが特徴。見た目は鉄隕石と似ているが、割って中を調べると全然違うものだと分かる。隕鉄は鉄とニッケルの合金(酸素を含まない)であるのに対し、「餅鉄はほぼ純粋な酸化鉄(磁鉄鉱)」だという。
講演で福山教授は、磁鉄鉱と赤鉄鉱の見分け方も教えた。磁鉄鉱は黒色で、磁性(磁石に引きつけられる力)が非常に強い一方、赤鉄鉱は赤褐色や銀灰色で、磁性は弱い(磁石につかない)。参加者は鉱物の表面を条痕板(素焼きの磁器製プレート)でこすり、残った粉の色で判別する方法も体験した。

条痕板で磁鉄鉱をこすってみると黒色の粉が…。赤鉄鉱だと赤褐色の粉末がでる
釜石観光ガイド会事務局次長の海老原清子さん(64)は「磁鉄鉱や餅鉄に触れる体験は来訪者に人気。ガイドをする上でもっと知識を深めたいと思っていた。今日の講演は自分が学んできた内容と答え合わせができ、疑問に思っていたことも教えてもらえた。今後のガイド活動に生かし、お客さまに分かりやすく伝えられれば」と貴重な聴講機会を喜んだ。
講演後は展示室周辺を散策。大規模採掘が行われていたことを示す巨大なズリ堆積場や鉱石の選鉱場跡、釜石鉱山学園(小学校)跡などを見て回った。来年2027年は釜石鉱山で磁鉄鉱が発見されてから300年、近代製鉄発祥170年の節目の年にあたる。参加者は三陸ジオパークのジオサイトにもなっている「釜石鉱山」の価値を改めて実感し、さらなる発信に意欲を高めていた。

釜石鉱山展示室周辺の散策ではズリが積まれた2つの巨大堆積場や水流を確保するための人工滝、釜石鉱山学園跡地などを見学

展示室前から臨む鉄、銅の鉱石選鉱場跡。建屋は解体され、今はコンクリートの基礎部分のみ残る

磁鉄鉱やザクロ石を含む巨大な岩石を観察。磁石を近づけてみる参加者

釜石新聞NewS
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