津波・火災…逆境下で立て直した森林組合の軌跡 手塚さや香さん(釜石)、自書寄贈

本を手にする著者の手塚さや香さん(右)と釜石地方森林組合の高橋幸男参事
東日本大震災の被災地、釜石市の森林をめぐる再生と挑戦の物語を一冊の本にまとめ出版した同市在住のライター兼キャリアコンサルタントの手塚さや香さん(46)は9日、自著「つなぐ森林業 海のまちの森林組合、復興からその先へ」を同市に20冊寄贈した。逆境のなかでも果敢に挑戦し、まちをたて直した組織の活動に迫った本に「伝えることが役目。希望を感じてもらえるといい」と思いを込める。
同書は、2011年の震災と17年の大規模林野火災を経験した釜石地方森林組合(野田武則組合長)の復興の軌跡を記す。同組合は、釜石市と大槌町の森林所有者が参加する組織。震災の津波で事務所が全壊し、役職員5人が犠牲になった。組合存続の危機に立たされたが、国内外の企業の支援を受けながら事業を再生。将来に向けた持続可能な林業のため、異業種のアドバイスも受け、課題克服へのアイデアを形にしてきた。

釜石地方森林組合の再生の軌跡を記した本「つなぐ森林業」
復興の途上で発生した尾崎半島の大規模林野火災では約413ヘクタールを焼失。山林経営の継続に苦慮する個人所有者の意識が前向きに変わるよう、負担なく再生できる仕組みを考え、熱心に働きかけをした。火災の被災木の活用も積極的に展開。19年のラグビーワールドカップ会場となった「釜石鵜住居復興スタジアム」の客席シートや諸室の壁材などに使われ、木質化の良さを全国に発信する。
手塚さんは元毎日新聞記者。記者を辞めて釜石リージョナルコーディネーター(復興支援員、通称・釜援隊)となって派遣された森林組合で6年間働き、奮闘を目の当たりにした。2年ほど前に「組織の歩みをきちんと記録して残すべき」といった声が上がり、発起。ちょうど同じ頃、組合再生に向け現場指揮を執ってきた高橋幸男参事(61)が「当時のことを話せるようになった」と話していたのを耳にし、「今がその時」と背中を押され、約20人の関係者にインタビューを重ねて書き上げた。
書籍はPHP研究所刊、四六判280ページ、税抜き1900円。▽海のまちの森林組合▽3月11日のこと▽錯綜(さくそう)する情報と絶望▽森林組合再生に向けて▽バークレイズ林業スクール開講▽地元の木材を復興に使うという悲願▽何度でも逆境を乗り越える-の7章構成。2月27日に発売開始となっている。

「子どもたちに林業の仕事を伝えてほしい」と小野共市長(左)に本を託した
3月9日に市役所で書籍贈呈式があり、手塚さんと高橋参事が出席。応対した小野共市長は「どんなつらい思いをして、そのまちをつくってきたのかが書かれている。災害が多発する中、全国各地で通りうる道なのではないか。全国の災害復旧の教科書のようになれば」と期待した。
市では市内の全小中学校(14校)、市立図書館などに配布する。手塚さんは「小学生が読むのは難しいところもあると思うが、先生方に読んでもらい、一次産業のある地域の豊かさ、林業という仕事を伝えてほしい」と願った。

市役所を訪れて本の説明をする手塚さんと高橋参事

本をじっくりと見入る釜石市の関係者(右)
高橋参事は取材に応じた心情に触れながら、「逃げ出したいと思ったこともあったが、立場上、弱音をはけなかった。本心とのギャップがつらく、悩み続けてきた15年。2年前かな、当時のこと、つらさを本当の意味でさらけ出せるようになった。記録として残ることで気持ち的に少し楽になった」と明かした。
続けて、「災害は多分どこでも起こる。想像できないものも出てくるだろう」と指摘。「その時、確かに絶望感はあると思うが、落ち着いて足元を見て、できることを確実にやっていく。そして周りの力を借りて一つずつこなしていく。特別なことではなく、普通のことで誰にでもできる。それを伝えられたらいい。少しでも希望を見いだせるように」と望みを語った。
本出版に合わせ、クラウドファンディング(CF)を3月末まで行っている。詳しくはCFプロジェクトページ(『つなぐ森林業 ~海のまちの森林組合、復興からその先へ』を多くの人に届けたい – CAMPFIRE (キャンプファイヤー))へ。

釜石新聞NewS
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