幸多き1年へ― 荒川熊野権現御神楽「悪魔払い」 豊漁豊作、火伏せ、無病息災…願い地域巡行

荒川町内会が年始に続ける「悪魔払い」。家々などを回り1年の無事を祈る
釜石市唐丹町の荒川町内会(雲南幹夫会長、80世帯)は11日、新年恒例の伝統行事、“荒川熊野権現御神楽”による悪魔払いを行った。神楽衆約40人が地域の家々や海岸、点在する複数の神社を回り、舞を奉納。厄を払い、新しい年が災難のない穏やかな1年になるよう祈願した。
同市最南端に位置する荒川地区は海岸部から山間部に集落が連なる。住民が信仰する荒川鎮座熊野神社は1187(文治3)年、紀州熊野から分霊を勧請して建立。海上安全、火伏せ、五穀豊穣の守護神として熊野大権現を祭る。この地で古くから受け継がれる年始の行事が、御神楽(権現舞)による“悪魔払い”。新しい年を迎えた家々などを回り、厄払いを行う門打ちだ。
別当の鈴木剛さん(48)宅で天照御祖神社(唐丹町片岸)の河東直江宮司によるおはらいを受けた一行は、熊野権現を化した獅子頭3体を携え出立。海岸部にある熊野神社で舞を奉納後、荒川海岸で「御水(塩)取り」と呼ばれる神事を行った。海水を付着させた笹竹で頭を清め、お神酒、塩を供えて拝礼。海と海神を祭る高台の湊神社に向かって舞を奉納し、海上安全、豊漁を祈願した。

荒川海岸で行われた「御水(塩)取り」。海神をあがめる伝統の神事

海に向かって舞を奉納する「荒川熊野権現御神楽」。海上安全、豊漁を祈願
この後、地区内に点在する各神社、班長宅などを回った。自宅裏に八幡神社がある鈴木賢一さん(80)方では、孫の悠真君(5)が獅子頭に頭をかんでもらい、健やかな成長を祈願。「かみかみしてもらって、うれしかった」と笑顔を広げた。姉の紬心さん(7)は父や中学生の兄が参加する神楽で小学生の女の子が踊る姿を目にし、「自分もいつか踊ってみたい」と目を輝かせた。

下荒川、鈴木賢一さん方で厄払いの門打ち。家内安全、無病息災などを祈る

獅子頭に頭をかんでもらう子ども。邪気を吸い取ってくれるとされる

地区内には山の神(左上)、五葉神社(右上)など複数の神社がある。神楽衆は各所を回り舞を奉納
三陸最高峰「五葉山」の赤坂峠に続く県道沿いでは、山間部にある「山の神」神社まで足を延ばし、舞を奉納。帰路の荒金集会所では、一行を迎えるために食事を準備していた町内の女性11人の前で複数の演目を踊った。同神楽は熊野神社の信仰とともに伝承され、神の使いである御獅子が悪魔を退散させ、安寧の世に導く意味が込められる。現在は同町内会が4演目を継承し、年始の同巡行のほか、3年に一度の天照御祖神社式年大祭「釜石さくら祭り」で踊りを披露している。
豚汁などのお振る舞いのため前々日から準備にあたった小野寺未徳さん(79)は「年に1回のお祭り。若い衆が頑張って踊ってくれた。きっとご利益があると思う」と晴れの笑顔。同地区山間部では農林業従事者も多い。「クマやイノシシ被害もあるが、頑張っている。今年1年、みんな元気で、秋には豊作になれば」と期待した。

笛や太鼓のお囃子(はやし)を響かせながら、荒金集会所に向かう一行

集会所では舞を披露した後、女性たちが準備したお振る舞いをいただいた。室内には小正月のみずき団子飾りも…
4班班長の久保正勝さん(69)方の庭には近隣住民も訪れ、御神楽を楽しんだ。「昔からずっと続いている行事。ありがたい」と久保さん。自身も神楽に長年携わってきた。「昔は若い人たちがもっと多かったが、今は後継者不足で。何とかつないでいってほしいが…」と未来を案じる。神楽衆をまとめる世話人長の久保直人さん(45)は「これ(悪魔払い)がないと1年が始まらない。御神楽は地区住民の団結の証し」と誇りを示す一方で、やはり人材不足を課題に挙げる。「荒川から出ている人たちの協力もあって、今はできているが…。激しい踊りなので、若い人たちの参加が不可欠。地元に残る若者が少しでも増えてほしい。地域の伝統はなくしたくない」と願う。

上荒川、久保正勝さん方で舞を披露。近隣住民も集まり、新年のあいさつを交わしながら交流

威勢のいい舞に太鼓をたたくメンバーも笑みがこぼれる

「元気に育て!」。御神楽は子どもたちの健やかな成長も祈る
荒川地区は2011年の東日本大震災津波で、国道45号東側エリアから今の三陸沿岸道路(震災後に建設)橋脚付近まで浸水。約50戸が被災し、住民数人が犠牲になった。同震災から今年で15年―。町内会の雲南会長(73)は「山に囲まれる荒川地区は沢が多く、豪雨による土砂災害の危険もある」とし、地震津波だけではない自然災害への備えの必要性を認識。地区内には防災士の有資格者が11人いて、「現在、自主防災組織の充実強化を図っているところ」と明かした。町内会は郷土芸能や地域の伝統文化を通じて住民のつながりをより強固にし、コミュニティーの力を防災にも生かしていきたい考えだ。

釜石新聞NewS
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