海辺地域の活性化へ 釜石の箱崎・根浜で障害児家族対象に初の“海業”モニターツアー


2025/11/05
釜石新聞NewS #子育て #福祉 #観光

釜石初開催の「海業モニターツアー」で漁船クルーズを楽しむ家族連れ=3日

釜石初開催の「海業モニターツアー」で漁船クルーズを楽しむ家族連れ=3日

 
 海や漁村の資源を活用し地域振興を図る「海業(うみぎょう)」。国が推進し、全国的な広がりを見せる中、本県では2024年度から海での各種体験をメニューとした一般向けのモニターツアーを実施している。釜石市で2、3の両日、開催されたのは障害児とその家族を対象とした初の同ツアー。県内各地から4家族が参加し、漁船クルーズや海の生き物タッチプールなどで楽しい“海旅”時間を過ごした。主催した県農林水産部漁港漁村課は「いずれは各地域で自走化を」と期待を寄せる。
 
 海業は、気候変動による不漁が続く漁業者の所得向上、漁村地域の活性化などを目指す取り組み。1泊2日のモニターツアーはこれまでに大槌町と山田町で開催。3カ所目となる釜石市では鵜住居町の根浜海岸周辺と箱崎町の箱崎漁港が海業推進地区になっていて、現地パートナーの観光地域づくり法人かまいしDMCが企画を担当した。同社は地元の障害児支援NPOと連携し、障害の有無にかかわらず誰でも海を楽しめる「ユニバーサルビーチプロジェクト」を進行中で、その取り組みを海業にも生かしたいと考えた。
 
 参加者は2日に釜石入り。オリエンテーションの後、市内の3宿泊施設に泊まった。3日は2班に分かれ、漁船クルーズとタッチプールを交互に体験した。大槌湾内を巡るクルーズは箱崎漁港から出発。スロープを使って車いすやバギーのまま、家族と一緒に乗り込んだ。船上では船主の説明を聞きながら、リアス海岸特有の景観や定置網漁場を見学。震災後の漁港の復興状況についても教わった。
 
参加者は車いすやバギーに座ったまま乗船可能。いざ、大海原へ!

参加者は車いすやバギーに座ったまま乗船可能。いざ、大海原へ!

 
船上では地元漁師が大槌湾内の漁業や海岸線の景観、震災復興の様子などを説明

船上では地元漁師が大槌湾内の漁業や海岸線の景観、震災復興の様子などを説明

 
大槌町赤浜の名勝「蓬莱島」(ひょうたん島)も海上から見学。シンボルの赤い灯台は震災の津波で倒壊し、その後再建されたもの

大槌町赤浜の名勝「蓬莱島」(ひょうたん島)も海上から見学。シンボルの赤い灯台は震災の津波で倒壊し、その後再建されたもの

 
 船を出した漁業者の一人、柏﨑之彦さん(71、片岸町)は震災前、根浜地区で行われていたグリーン・ツーリズム事業に参加。震災後は復興支援で訪れた人たちなどを船に乗せて案内してきた。「自分たちの仕事や自然を見せられるのはうれしいこと。人とのつながりもでき、その後、交流が続いている人たちもいる」。海業ツアーが事業化され、収入につながることも期待するが、「何より乗った人が喜んでくれるのが一番」とおもてなしの心をのぞかせる。
 
湾内の定置網漁について教える柏﨑之彦さん(右)

湾内の定置網漁について教える柏﨑之彦さん(右)

 
 根浜海岸レストハウスでは、岩手大釜石キャンパスで学ぶ3、4年生3人が準備した“海の生き物”タッチプールを楽しんだ。学生らが釜石の海で釣り上げた魚を中心に16種類の生き物が放たれた。子どもたちは恐る恐る水中に手を伸ばし、魚貝類の手触りを確かめた。
 
岩手大釜石キャンパスの学生らが釣った魚やナマコ、ウニなどが放たれたタッチプール

岩手大釜石キャンパスの学生らが釣った魚やナマコ、ウニなどが放たれたタッチプール

 
マダコの感触にびっくり仰天!笑顔を広げる親子

マダコの感触にびっくり仰天!笑顔を広げる親子

 
 北上市の医療的ケア児、羽藤凰ちゃん(3)は両親、祖母、兄2人と参加した。保育施設での誤えん事故で低酸素脳症となり、後遺症の重い障害のため家族の介助で暮らす凰ちゃん。船上では視線を左右に向け、手に乗せてもらった海の生き物もじっと見つめた。母緋沙子さん(37)によると、凰ちゃんの退院後、宿泊を伴う家族旅行は初めて。これまでは外出の際、あきらめざるを得なかった場面が多々あったが、「漁船に乗せてもらい、人の手を借りれば(凰ちゃん)何でもできるんだ」と実感できたという。宿泊先の宝来館でも積極的に要望を聞いてくれて、夜間に必要な呼吸器など多くの荷物の搬入も手伝ってもらった。「聞いてもらうことで、逆に『これが足りなかった』とか、自分たちも気付けなかった課題が見えた」と話す。
 
初めての漁船クルーズを楽しむ羽藤さん一家。次男杏くんはおひさまの光と波の揺れに身をまかせウトウト?(左)

初めての漁船クルーズを楽しむ羽藤さん一家。次男杏くんはおひさまの光と波の揺れに身をまかせウトウト?(左)

 
さまざまな海の生き物に触れ、たくさんの思い出を作った

さまざまな海の生き物に触れ、たくさんの思い出を作った

 
 兄弟3人で同じ体験をさせてあげられたことも喜ぶ緋沙子さん。海が好きだという長男優さん(10)は初めて見る船上からの景色に目を輝かせ、「水しぶきを飛ばしながら走る船が楽しかった。面白かったのは、漁師さんが教えてくれた鬼の伝説の話。また乗りたい」と心を躍らせた。家族で夢のような時間を過ごせたことに感謝する羽藤さん一家。緋沙子さんは「モニターとしての自分たちの経験が、同じ悩みを持つご家族の役に立てば。当事者家族にとってこうした情報が得られるかどうかも大きなポイント。積極的な情報発信にも期待したい」と話した。
 
 レストハウスでは、箱崎町白浜の漁業者がマダラやアイナメ、イカのさばき方を実演。昼食は参加者全員でバーベキューを楽しんだ。
 
地元漁師が魚のさばき方を実演。プロの手際に興味津々

地元漁師が魚のさばき方を実演。プロの手際に興味津々

 
 県が補助金を入れて行う同モニターツアーは各地区で2年間実施。釜石市では今回の参加者のアンケートをもとに修正を加え、来年度も実施する計画。かまいしDMC地域創生事業部の佐藤奏子さん(根浜・箱白地域マネジャー)は「ユニバーサルビーチの取り組みを土台にした新たなチャレンジ。参加者の声をもらいながら、持続可能な形でどう実現できるか検討していきたい」と今後の展開を見据える。

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