未来につなぐために… 郷土芸能の担い手育成へ初の体験教室 第1弾は松倉虎舞、太神楽


2025/08/27
釜石新聞NewS #地域

松倉太神楽の獅子頭に目がくぎ付けになる子ども=郷土芸能体験教室、11日

松倉太神楽の獅子頭に目がくぎ付けになる子ども=郷土芸能体験教室、11日

 
 神楽、虎舞、鹿踊り、太鼓…。釜石市には各地に伝わる郷土芸能が多数あり、地域の祭りや祝い事に欠かせないものとなっているが、人口減少や少子高齢化で近年、その担い手の確保が大きな課題となっている。民俗文化財としての価値も高い同芸能を将来にわたって継承するため、市は本年度、一般向けの体験教室開催に着手した。第一弾として11日、体験会を開いたのは甲子町の「松倉虎舞」と「松倉太神楽」。港町のイオンタウン釜石が会場となり、市内外から集まった約130人が両芸能の魅力に触れた。
 
 両芸能は現在、松倉町内会芸能部(小久保謙治部長)が伝承活動を担う。体験会にはメンバー約30人が協力。午前に虎舞、午後に神楽と各1時間実施された。両回とも始めに、お囃子(はやし)を響かせながら館内を練り歩き、開催をアピール。2階イベントスペースに戻ると演舞が披露された。続いて、囃子を構成する和楽器や踊りに使う「頭(かしら)」に触れられる“体験”の時間。来場者は太鼓をたたいたり、笛を吹いたりしたほか、体が隠れる幕のついた頭を実際に動かしてみたりした。両回で約70人が体験した。
 
体験教室に先立ち、お囃子を響かせながらイオン館内を練り歩く松倉町内会芸能部メンバー

体験教室に先立ち、お囃子を響かせながらイオン館内を練り歩く松倉町内会芸能部メンバー

 
午後から行われた松倉太神楽の演舞。「通りの舞」を披露した

午後から行われた松倉太神楽の演舞。「通りの舞」を披露した

 
芸能部メンバーに教わりながら太鼓や笛に挑戦。やってみると「たのしー!」

芸能部メンバーに教わりながら太鼓や笛に挑戦。やってみると「たのしー!」

 
 甲子小3年の森奏心さんは横笛を体験。「お姉ちゃんが吹くのを見てきた。意外に楽しいけど、息を吐くのが難しい」と一緒に体験した友人と顔を見合わせた。会場には帰省客の姿も。栃木県在住の阿部洋一郎さん(57)は釜石南高(現釜石高)出身。同校は松倉地区にあり、「高校生の時、祭りで虎舞や神楽が地域を練り歩いているのを見ていたので、すごく懐かしい」と当時の活気をまぶたに浮かべた。長男真大さん(21)は神楽の太鼓を体験し、「楽しかった」とにっこり。洋一郎さんは「釜石を離れても古里の芸能はやっぱりいいですね。若い子たちが継承しているのも頼もしい」と目を細めた。
 
各芸能のお囃子に欠かせない横笛。「うまく音が出るかな?」

各芸能のお囃子に欠かせない横笛。「うまく音が出るかな?」

 
5つの演目があるという松倉太神楽。しばらく踊られていない演目も今後、復活させたい考え

5つの演目があるという松倉太神楽。しばらく踊られていない演目も今後、復活させたい考え

 
 松倉虎舞は現山田町の大沢虎舞の流れをくむ。大沢虎舞は江戸時代中期、三陸髄一の豪商として名をはせた前川(吉里吉里)善兵衛の千石船が江戸や長崎に交易した際、大嵐に見舞われ、流れ着いた島で乗組員だった大沢の人たちが虎舞を習い覚え、地元に持ち帰り奉納したのが始まりとされる(諸説あり)。演目に近松門左衛門の浄瑠璃「国姓爺合戦」の劇中に登場する「和藤内の虎退治」を描いた舞があり、松倉虎舞は同演目を受け継ぐ数少ない団体の一つ。釜石、大槌地域の虎舞の多くは大沢虎舞から広まったと考えられている。
 
午前に行われた松倉虎舞の演舞。海岸部の虎舞団体の人たちも「この機会に」と見に来たという 写真提供=市教委文化財課

午前に行われた松倉虎舞の演舞。海岸部の虎舞団体の人たちも「この機会に」と見に来たという 写真提供=市教委文化財課

 
間近で見る虎頭におっかなびっくり?!(左)。子虎の頭は小さな子どもでも支えられる(右) 写真提供=市教委文化財課

間近で見る虎頭におっかなびっくり?!(左)。子虎の頭は小さな子どもでも支えられる(右) 写真提供=市教委文化財課

 
 一方、松倉太神楽は甲子町洞泉、関沢地区に伝わる洞関太神楽と対をなすものとされる(夫婦神楽)。洞泉日月神社に伝わる獅子頭に「天保3年」(1832年)と刻まれており、踊られ始めたのは安政(1854-1860)時代と推察される。宿場町として栄えた甲子地域には盛岡の「七軒丁」から芸能者の来訪があったと伝えられていて、盛岡藩主南部利敬の庇護(ひご)を受けた盛岡多賀神楽がルーツとみられる。栗林町の澤田太神楽と同一系統ともいわれている。戦後、衰退したが、昭和50年代に松倉町内会が復活に乗り出し、後継者育成を図りながら活動を続けている。
 
 同神楽の舞い手は現在、地元在住の小久保瑞希さん(26)と、兄で盛岡市在住の小久保友樹さん(28)の実質2人。体験会では5演目の一つ「通りの舞」を披露した。友樹さんは初の体験会を「一緒に継承してくれる仲間を増やすチャンス」と歓迎。歴史ある芸能を次世代につなぐため、「子どもから大人まで興味のある方はぜひ」と地域を問わない参加を呼び掛け。瑞希さんは「子どもたちの『かっこいい』『踊ってみたい』という声も増えてきた。これからは松倉太神楽の存在を市内外にもっと広めていきたい」とし、舞い手の確保など安定的な伝承活動に意欲を見せた。
 
「一緒にやってみませんか?」 松倉太神楽の舞い手、小久保友樹さん(右)、瑞希さん兄弟がアピール

「一緒にやってみませんか?」 松倉太神楽の舞い手、小久保友樹さん(右)、瑞希さん兄弟がアピール

 
将来の担い手が1人でも増えることを願って…

将来の担い手が1人でも増えることを願って…

 
 友樹さん、瑞希さんの父で、同町内会芸能部部長を務める謙治さん(52)は「太鼓も頭もまずは触って、こういうものだという感触を得てもらうことが大事。興味をもってもらう一歩として、今日はいい機会になった」と感謝。今後は“夫婦神楽”の雄にあたる洞関太神楽(活動休止中)の復活に向け、関係者とタッグを組んで取り組みたい意向を示した。
 
 主催した市教委文化財課によると、市内の郷土芸能団体へのアンケート調査では、担い手不足が一番の問題として挙がっていて、その解消策の一助として今回の体験教室を発案したという。手塚新太課長補佐は「初めてのことなので、各団体とも様子見のところはあったと思う。今回の経験で、こちらもより具体的な提案が可能になる。多くの団体に参加してもらえるよう調整を図っていきたい」と話した。

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