東日本大震災の教訓、世代を超えて 釜石の語り部3人に復興庁から感謝状
感謝状を受けた藤原信孝さん(右)、佐々木智恵さん(中)と娘の智桜さん
東日本大震災の語り部として活動する釜石市の藤原信孝さん(76)=釜石ガイド会、佐々木智恵さん(42)=かまいしDMC=と長女で小学生の智桜(ちさ)さん(10)の3人にこのほど、復興庁から感謝状が贈られた。震災伝承、防災への備えを伝えようと取り組む姿が評価。震災から13年と時が経過する中、3人は「3世代で受賞できたのがうれしい。こんな風に世代をつなげて伝えていきたい」と継続へ気持ちを重ねた。
震災以降、各被災地では多くの語り部が活動。自らの被災体験や地域の被害状況、復旧・復興の取り組みを発信することで、防災の知識の普及に貢献してきた。復興庁では、そうした取り組みに謝意を示し、活動の充実を期待するとともに、記憶と教訓を次代へ伝えて防災・減災対策に生かすため担い手の確保にもつなげようと、感謝状を贈呈。今回、岩手、宮城、福島各県の伝承団体や市町村からの推薦を受け、計52人を選んだ。受賞者は昨年12月に公表され、それぞれに感謝状を伝達。岩手では釜石の3人のほか、宮古、陸前高田、山田の3市町で活動する計4人にも贈られた。
藤原さんは釜石ガイド会に所属して長年、地域の魅力を伝えてきた。震災の津波で被害が大きかった鵜住居町の隣にある栗林町に住み、発災直後は避難者の受け入れなどに取り組んだ。「実体験をしていない」と震災の語り部活動に悩んだこともあったというが、「体験した人がいなくなってからでは遅い。被害状況を目の当たりにした一人として伝えていくことは自分の義務だ」と感じ、活動を重ねている。
鵜住居町を訪れた外国人らに震災の被災状況を説明する藤原信孝さん(手前右)=2014年6月
震災を知らない世代が増える中、語り部活動で必ず話すことは避難訓練の大切さ。大人でも知らないことや勘違いしていることがあると感じていて、「普段の訓練が生かされれば、生きられる。体験、やってみるという備え、心構えを持ってほしい」と強調する。
「伝承は、次の世代につないでいくことが大事」。気持ちを切り替えて活動してきたことが評価され、「地域を代表していただいた」と喜ぶ。そして今回、「おじいさんの私、お母さんの智恵さん、孫のような智桜さんと、3世代で評価されたのはよいことだ」と目じりを下げた。
智恵さんは、鵜住居町の震災伝承施設「いのちをつなぐ未来館」に勤務。来場者への伝承活動は3年目となる。修学旅行などで訪れる児童生徒や、学生らに話す機会が多く、「防災」という言葉に身構える様子が感じられるという。「難しいことではないんだよ。自分の持ち物に何か一つ加えてみよう」などと、身近で取り組みやすい視点をヒントとして残すよう伝え方に工夫。そうした活動が評価され、「励みになる。地震、津波だけでなく、災害全般の防災について伝えていきたい」と気を引き締めた。
いのちをつなぐ未来館で絵本の読み聞かせをする佐々木智恵さん(右)=2023年3月
鵜住居小5年の智桜さんは、感謝状をもらって「うれしいです」と素直に喜ぶ。震災からちょうど3年後の2014年3月11日生まれ。誕生日でもあるその日は、祖母と伯母が津波の犠牲になった日でもあり、家族や学校で日々教えられている「命の大切さを伝えたい」と、智恵さんと共に市主催の研修を受講。「大震災かまいしの伝承者」として2年前の春から活動し、未来館でガイドしたり、企業研修などで語り部をしたりする。
いのちをつなぐ未来館で企業研修の語り部を務めた佐々木さん親子(右)=2023年10月
防災士に必要な救命技能を生かした活動も行う佐々木智桜さん=2024年9月
昨年秋には民間資格の防災士を県内最年少で取得するなど防災学習も深めている。「学んだことをしっかり引き継ぎたい」と気持ちは前向き。語り部は緊張するが、話しているとほぐれてくるといい、「聞き取りやすい語り」を心がける。将来の夢を聞くと、「未来館で働きたい」と即答。英語も勉強中で、たくさんの人に自分の言葉で伝えていくつもりだ。
市役所を訪れた3人。小野共市長らに受賞を報告した
藤原さん、佐々木さん親子は2月20日、釜石市役所を訪れ、小野共市長に受賞を報告した。小野市長は「震災時に何があったのか、学んだことを後世に伝え、つなげていくことが重要。語り部の皆さんが発信することで、災害に備え、考えるきっかけになれば。これからも全国に伝えてほしい」と期待した。

釜石新聞NewS
復興釜石新聞を前身とするWeb版釜石新聞です。専属記者2名が地域の出来事や暮らしに関する様々なNEWSをお届けします。取材に関する情報提供など: 担当直通電話 090-5233-1373/FAX 0193-27-8331/問い合わせフォーム