釜石応援ふるさと大使 書家・支部蘭蹊さん TETTOで初個展 復興支援で結ばれた絆強く
釜石応援ふるさと大使となり、初めて市民ホールTETTOで個展を開いた書家・支部蘭蹊さん
「釜石応援ふるさと大使」を務める宮城県仙台市在住の書家、支部蘭蹊(はせべらんけい=本名・一郎)さん(72)が14日から18日まで、釜石市大町の市民ホールTETTOで個展を開いた。中学、高校時代を釜石市で過ごした支部さんは、東日本大震災後、同期生らと古里へのさまざまな支援活動を展開。被災者らに自らの筆で心を癒やす言葉を贈るなど、明日への希望をつないできた。今回は、被災後に新設された同ホールでの初めての個展。これまでの支援活動で支部さんの作品に魅了されてきた人たちをはじめ、多くの鑑賞者が訪れた。
「書は言葉なり、言葉は心なり」と題した展示会には100点余りが出品された。支部さんの作品は書道を身近に感じられるよう、日常生活で目にできる形に仕上げているのが特徴。額入りや掛け軸のほか、帯地を利用したタペストリー、硯石に刻字した置物、写真に言葉を添えた作品などさまざまな趣向が凝らされている。書かれているのは心を潤す四文字熟語のほか、宮沢賢治や高村光太郎、金子みすゞらの詩、自由律俳句で有名な種田山頭火の句など。支部さん自らが紡いだ文言の作品もある。
さまざまな素材に施した書道作品を展示した支部蘭蹊さんの個展
帯地に歌詞や詩を書いたタペストリーなどが並ぶ一角も(右側)
石巻市雄勝町の硯石(玄昌石)を使った石彫刻字作品なども並んだ
支部さんが目指すのは「見たいと思わせる(目を引く)書道」。楷書や行書、草書など、どの枠にもはまらない自由で独創的な文字が躍る。書き順にこだわらず、絵を描くように創り上げた文字。試行錯誤しながら自分の字体を創る作業は「まるで脳トレのよう」とも話す。「難しい、読めないといった敷居の高い書の時代は終わり。書道になじみがない人でも読める、楽しい、面白い字を創りたい」と支部さん。
もう一つ、大切にしているのが個展の題名にも入る「言葉」。「文字は皆つながっている。ただ字を書くだけではなく、言葉を感じながら書くことが大事」。写真をはじめ、さまざまな素材とのコラボも新たな可能性を引き出す。「写真に言葉をかけてやると、見る人が言葉を媒体にして自分でストーリーを描くことができる」。支部さんは、これまでにない書の楽しみ方も提案する。
珍しい写真と書のコラボ作品はひときわ目を引く
布地の掛け軸などは部屋の居心地も良くしてくれそう
来場者が気に入り購入した作品には予約済の札が…
会場では、気に入った小作品に来場者自らが値段を付けて購入するというユニークな企画も実施した。自分の好きな言葉、名前などをその場で色紙に書いてもらうこともでき、これらの企画で来場者が寄せた代金は復興支援金として釜石市に寄付することにしている。
支部さんの作品の大ファンという市内の高坂タミ子さん(88)は、支部さんが支援活動で釜石に来るたび足を運ぶ。自宅には多くの作品があり、夫婦でそれらを眺めながら穏やかな日々を送ってきたが、昨年、夫が他界。支部さんは今回、「仏心」「流転」の2つの言葉を色紙にしたためた。高坂さん自身がひらめいたという「人生 美の花道」という文言も。「いつも自分の人生に当てはまる言葉を書いてもらえる。夫も『すてきだね』と一緒に喜んでくれた。帰ったら、今日いただいた色紙を供えたい」と高坂さん。支部さんの人柄にも惚れ込み、「これからも応援したい」とほほ笑んだ。
来場者の話を聞き、望む言葉を色紙に書く支部さん。2本の筆で味わいのある線を生み出す
支部さんに色紙を書いてもらった人たちは大喜び
支部さんは転校で大平中に入り、釜石南(現釜石)高卒業までの6年間を同市で暮らした。震災が起こったのは、中学の同期で還暦のお祝いをした後。同期生から連絡をもらい、市内の仮設住宅などを回る活動を始めた。「言葉を書いている間、涙を流す人もいて…。書道は言葉で皆さんとつながっていける。一つの支えができた。それ以来、こちらを向いてできることをやっていこう」と自身の気持ちも定まった。
後に、高校の同期で復興支援グループ「釜南44」も結成。仙台市で開いたコンサートの収益金を寄付したり、釜石市で作品展示や音楽のイベントを開くなど、精力的に活動を続けてきた。2016年からは釜石市民芸術文化祭にも参加。支部さんは各所で書のコラボパフォーマンスも披露している。
宮沢賢治の「星めぐりの歌」も支部さんの筆ですてきな作品に
金子みすゞの詩を木彫刻字した作品。彫る作業も支部さんが手掛ける
今回の個展は、昨年就任した同ふるさと大使としての役割を「活動で示したい」と開催した。年齢を重ねていく中で、自分がやってきたことを次につないでいければとの思いもあった。支部さんは「いろいろな人との出会いが私たちの人生を支える。ここに来て会話をしたり、何か気付きを得て帰ってもらう。そういう場を今後も作っていきたい」と、個展の継続開催に意欲を見せた。
釜石新聞NewS
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