身入りよし「畜養ウニ」 釜石・唐丹漁協、試験出荷開始 評価も上々!通年出荷へ期待高まる
釜石・唐丹町の小白浜漁港で畜養されているウニの水揚げ作業
岩手県沿岸部では海藻がなくなり、藻場が砂漠のようになってしまう「磯焼け」が深刻化し、漁業に悪影響を与えている。要因の一つが、海藻を餌とするウニの過剰繁殖。その一方、コンブなどの海藻を食べ尽くしてしまい餌不足の状態となり、身入りの悪い「やせウニ」が増え、漁業者を悩ませる。そうした中、商品価値のない「やせウニ」を別の場所に移し餌を与えて太らせる畜養が県内各地で進行。釜石市唐丹町小白浜地区では昨年10月から取り組んでおり、2月24日に水揚げ、試験出荷を始めた。関係者が身入りや色付きなどを確かめ、「上々」と“ほっ”とひと息。ウニは出荷時季が限定されてきたが、通年出荷に向けて期待を高めた。
県内各地で進むウニの畜養は、やせウニの有効利用を目的とした県の「黄金のウニ収益力向上推進事業」の一環。畜養で大きくしたウニを通常の夏場以外に出荷することで付加価値を高めるのも狙いだ。2020年度から久慈市の2地区(南侍浜・角浜)、大船渡市三陸町綾里地区で展開。22年度は釜石のほか、久慈2地区、三陸町の越喜来地区で行われている。
いけすから取り出したウニを手に頬を緩める漁業者ら
釜石・小白浜地区で畜養に取り組むのは唐丹町漁協(木村嘉人組合長)の漁師たち。昨年10月下旬に唐丹湾沖合で取ったウニ約6000個(約400キロ)を、小白浜漁港内に設置した2基のいけすに移し給餌を開始。漁協の加工場で出る塩蔵ワカメの端材などを与え、約4カ月間育ててきた。
ウニを割って確認。身入りも色付きも「いいんでない」
身たっぷりの唐丹発・畜養ウニ。漁業者の期待も高まる
24日、漁師らが船でいけすに向かい、水揚げ。出荷に適したウニを見極めて取り出し、殻を割って身入りを確かめた。試験出荷先の旅館宝来館(鵜住居町)の松田一角部長(42)も乗船し、試食。「おいしい。餌はワカメで、自然環境と同じ状態で育っていて、磯の香りもある。思ったより、しっかり育成されている」と評価した。
小白浜漁港内に設置された2基のいけす。背後には漁協の加工場もある
小白浜地区の畜養は、小割式の網いけすが特徴。90センチ四方の小型いけすを4つ連結させた構造で、畜養する数量に合わせ、いけすの連結数を増やしたり、大きさを調節することができる。連結することで強度も増す。ウニの様子を見やすいようにオレンジ色の網を使用。ウニの取り出しが容易で、少量の注文にも柔軟に対応できるという。深さは1.5メートルと2.5メートルのものがあり、収量や育成の違いなどを試験中。手法が確立すれば、天候などに左右されずに安定的な出荷が可能となり、不漁に苦しむ漁業者の収入増が期待される。
給餌の様子。加工場で出た塩蔵ワカメの端材を有効活用する
オレンジ色の網を使い、ウニの様子を分かりやすくする工夫も
県沿岸広域振興局水産振興課の山野目健課長(57)は、いけすについて「単純な構造にみえるが、ウニ養殖としては画期的なもの。ウニが接着する面を増やせ、餌やりも簡単。船上でカガミを使ってとるのではなく、たも網で手軽に取り出せる」と自負する。地球温暖化の影響で海の環境が変化し増えてしまったウニを間引きし、適正化しようとする“黄金のウニ”事業。「やせウニを活用し付加価値をつけて安定的な出荷ができるようになれば、地域の水産振興にも貢献できる」と力を込めた。
宝来館の調理場で出来を確かめる千葉さん(左)、松田さんら
水揚げ後、唐丹町漁協参事の千葉博幸さん(60)が宝来館に直送。調理場で料理長らの「これなら」と声を聞いて顔をほころばせた。当面の取引先はこの旅館が主になり、松田部長は「釜石にいつ来てもウニが食べられる、しかもその日取ったものを―というのが魅力。リーズナブルに提供できるようプラン化したい」と腕をまくった。
「浜に活気を」。畜養ウニを手に期待を込める千葉さん
「コンクリートの上にウニが転がっている感じ」と海の状況を話す千葉さん。「磯焼けが解消されるには5年、10年…年月がかかるだろう。だが、何もせず指をくわえて待っていることはできない」
そんな中で始めた、沖のやせたウニ、ワカメ加工の端材といった商品価値のないものを使った取り組みに手応えを感じている。「通年で生の新鮮なウニを食べてもらえたら」。県の委託で取り組んだ畜養試験は本年度で終了だが、千葉さんは次年度以降も継続させたい考え。ただ、餌の確保や種類、取引先の確保など課題はあり、手探り状態は続く。
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