太平洋津波博物館訪問成果報告〜釜石市内中学3年生の5人、「風化させない」思い新たに
太平洋津波博物館を訪問した感想を発表する生徒たち
釜石市が実施した米国ハワイ州ヒロの太平洋津波博物館訪問視察事業に参加した市内の中学3年生5人は5日、鵜住居町の「いのちをつなぐ未来館」で報告会を開き、野田武則市長ら市関係者、市民らに訪問の成果を伝えた。海外の事例を学ぶことで東日本大震災の脅威を再認識した5人は、会場で報告に耳を傾けた約50人を前に「風化させないためにできることを考えたい」「命を守る活動に生かす」などと芽生えた思いを明かした。
同事業は、震災の教訓や復興の記録を後世に継承する市の取り組みの一環。悲劇を繰り返さないための持続的な取り組みの推進に向け、手法や体制の検討が必要と判断し、地域史をふまえた展示が充実していることで知られる同博物館の訪問を計画した。
今回の訪問(9月2日出国―6日帰国)に参加したのは小林茉央さん、高木海里君、上林励皇我(れおが)君(釜石中)、松下琉奈さん(大平中)、吉田陽香さん(甲子中)の5人。市の特命大使に任命され、将来的な相互協力などを申し入れる野田市長の親書を同博物館の館長に手渡す役目を担った。
同博物館はハワイ州の中で最多の津波被災経験を持つヒロ地区にある。津波による被害を抑えるための教育を重視し運営されていて、1946年や60年にハワイ島を襲った津波の生存者の証言、地震や津波のメカニズムなど科学的な展示を組み合わせている。
5人は現地の学生と津波について学びながら同世代と交流。同博物館は、震災で両石地区から流失した可能性がある視線誘導標を保管しており、展示状況も確認した。
報告会では、同行した市職員が同博物館の概要を説明した後、生徒がそれぞれ視察で印象に残ったことや得た学びを発表。津波の知識や防災の意識がなかったことで被害が拡大した過去の事例と教訓を示す展示、震災を紹介する展示コーナーであらためて感じた津波の怖さを共通して挙げた。
災害についての意識が弱かったと振り返る上林君は「命の大切さをあらためて考えた。防災に目を向けたい」と気持ちを一新。高木君はこれまで取り組んできた防災活動が命を守る取り組みにつながっていることを確信した。
小林さんは「震災は世界に衝撃を与えた災害だったと実感。私たちの役目を考え、行動していきたい」と熱意をアピール。松下さんもさらに学びを深める考えを示した。
吉田さんは、誘導標が漂着したことで世界のつながり、助け合いの大切さを強く意識。交流の継続を期待するとともに、「震災を風化させないためにイベントを通じて伝えていきたい」と力を込めた。
野田市長は充実感をにじませる5人の成長ぶりに頼もしさを感じた様子。「得た学び、世界的視野を伝え、未来館の展示や防災教育に生かしてほしい」と期待した。
(復興釜石新聞 2019年10月9日発行 第831号より)
復興釜石新聞(合同会社 釜石新聞社)
復興釜石新聞と連携し、各号紙面より数日の期間を設け記者のピックアップ記事を2〜3点掲載しています。問い合わせ:0193-55-4713 〒026-0044 岩手県釜石市住吉町3-3