千田ハルさんに女性文化賞、艦砲記録に力を尽くす〜米田さん(女性史研究家)釜石を訪れ受賞祝う
第21回女性文化賞を受賞した千田ハルさん(中)。贈呈した米田佐代子さん(右)と
終戦間際に釜石を襲った2度の艦砲射撃を体験し、詩人集団「花貌(かぼう)」の活動などで平和の尊さを訴え続けてきた釜石市中妻町の千田ハルさん(93)が、第21回女性文化賞(詩人・高良留美子さん創設)を受賞した。27日、地元有志が開いた受賞を祝う会で、今回から同賞を引き継いだ女性史研究家の米田佐代子さん(83)=NPO法人平塚らいてうの会(東京都)会長=が、賞金と記念品を贈呈。千田さんは「これまで一緒にやってきた仲間といただいた賞。大変ありがたい」と感謝の気持ちを表した。
同賞は、女性の文化の担い手を支援し、その活動に感謝しようと、1997年に高良さん(東京)が個人で創設。20回継続後、健康上の理由などで後継者を望んでいた高良さんの思いを、第13回受賞者でもある米田さんが継いだ。
受賞者選定にあたり米田さんは、2015年に本県で開かれた「第12回全国女性史研究交流のつどい」にゲスト出演し、自身の人生を語った千田さんに着目。昨年9月、釜石入りし、その功績や作品の素晴らしさに触れ、贈呈の意思を強くした。
米田さんは「花貌の活動で多くの戦争体験記録を集め世に伝えてきたことに加え、千田さんの生活実感、平和への願いが込められた文章や短歌に、自分の精神を強く持ち現実に立ち向かおうとする気持ちが見える」と選定理由を説明。千田さんが戦後、戦争の本質を知ろうと一生懸命勉強し、自ら考え行動に移してきた姿勢も高く評価した。
祝う会には、千田さんと共に平和運動に取り組んできた地元関係者ら24人が出席。米田さんから賞金と副賞のリトグラフ(版画)、写真立てが千田さんに贈られ、全員で喜びを分かちあった。
千田さんは1924(大正13)年、釜石市鈴子町生まれ。戦時中、釜石製鉄所にタイピストとして勤務し、45年7月14日、8月9日の米英連合軍による艦砲射撃を体験した。21歳の時だった。戦後、職場に労働組合が結成され、学習会や文化活動に参加。47年、文学や憲法を学んできたサークル仲間で詩人集団「花貌」を立ち上げ、同人誌を創刊。詩や短歌、随想などを発表し続けた。
千田さんらが刊行した「花貌」の冊子
71年からは分冊として釜石艦砲記録集を刊行。95年までの20分冊に延べ300人以上の戦争体験証言を掲載し、合本は全国から反響があった。千田さんは92年から花貌の編集責任者となり、2004年、73号で終刊するまで、文芸によるメッセージ発信に情熱を傾けた。
並行してさまざまな反戦、平和運動にも参加。戦争を知らない子どもたちに戦争体験を語り伝える活動も行ってきた。15年には“卒寿記念”として、絵本「あぁ、わが街に砲弾の雨が降る―釜石を二度も襲った艦砲射撃で千人の命が!」を自費出版。今も「艦砲から助かった命だから」と、平和を守る活動を続ける。
「何も分からず戦争に協力した悔しさが自分の活動の原点。そういう過ちを繰り返さぬよう、今の子どもたちには、よく勉強してもらいたい」と千田さん。自衛隊や憲法に関する国会審議にも触れ、「戦争は絶対ダメ。憲法を守るために今が大事な時。これからの人たちに頑張ってほしい」と願った。
(復興釜石新聞 2018年1月31日発行 第660号より)
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