地域資源掘り起こしの「のろし」に、炭焼きの光景復活〜来春には窯を囲んで交流イベントも、唐丹町山谷
雪景色の中で技術を高める「炭焼き人」(左端・小澤さん、右端・山口さん)
五葉山の麓、釜石市唐丹町の山谷地区で、炭焼き窯から煙がたなびく。山麓一帯の豊富な森林資源を活用した木炭生産が盛んだった地域に、数十年ぶりの光景が復活した。一筋の煙は木炭による住民の交流、歴史と知恵、資源の掘り起こしを目指す「のろし」でもある。
「ドラム缶式」で試験操業
ドラム缶を加工した専用窯は農業小澤孝行さん(78)、ふみ代さん(78)夫妻が住む家の南向きの畑地にある。11月から試験操業を開始。27日には6回目の炭出しを迎え、程よい仕上がりの竹炭が取り出された。
メンバーは小澤さんと唐丹地区生活応援センターの小山善司所長ら職員。“仕掛け人”の元釜援隊、山口政義さん(35)は市の任期付職員として同センターを中心に唐丹のまちづくりを担う。
「古くから山谷、荒金地区は炭焼きが盛んで、山間地の貴重な現金収入だった。木炭は家庭の燃料、製鉄の材料になった。炭焼きは原料の木材資源をもとに、品質の良い炭を造る知識が必要だ。唐丹の自然や資源を掘り起こすには、炭焼きも一つの手段になる」と山口さん。インターネットで技術と用具を調べ、「ドラム缶式」を探り当てた。
石積み、火口を耐火レンガで覆い、選ばれた粘土で包み込む。雨よけの屋根は、強風にも耐えるよう地元の建築大工が腕を振るった。工事は1カ月かかった。
「今回の出来は上々」と炭出しを楽しむ=27日
小澤さんは高齢の両親を介護するため30年ぶりに帰郷し、1998年に夫妻で転居した。自宅周辺に広がる約2ヘクタールの所有地は大半が山林だったが、南斜面を切り開き畑地に変えた。ラベンダーを植栽し、6種の約400株を育て、摘み取り時期には多くの来園者を迎えるまでになった。小規模ながらブルーベリー、イチジクなど果樹も増やしている。
小澤さんは「小さいころ、父親ら家族も炭焼きをしていた。私は食糧や用品を背負って山の奥にある窯まで運んだ。炭焼きの生活は体験しているが、技術は知らない」という。山口さんは木炭製造の原理は理解するが、技術は暗中模索だった。
山谷地区は11世帯が暮らす。80代の男性が炭焼きを経験しており、強力な「助っ人」になった。
サクラなどの小枝、雑木、竹を原料にした5回の試作品は地元の集会行事でも披露された。「(竹炭は)荒れる竹林の整備にもなる」と町内の竹林所有者から譲り受けた。雑木の提供も打診している。竹炭は消臭、水の浄化などに関心を集め、木炭は冬の漁船漁業での暖房用にと要望があった。
この事業は唐丹地域会議(川原清文議長)が進める。ドラム缶式炭焼きは約8時間で完了することから、イベントへの活用も容易。「唐丹の資源、魅力を子どもたちに伝えるとともに、炭焼きを知る年代にも喜ばれるだろう。炭焼きと、炭を使った体験、交流イベントもできる」と山口さん。炭を入れるワラの「炭すご」作りも準備が進んでいる。
炭焼き窯の披露とイベントは、雪解け後の来春を見込む。
(復興釜石新聞 2017年12月30日発行 第652号より)
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