アンジェリック 大町に本設店舗、再出発〜人首さん、支援に感謝 お菓子で表す
「これからがスタート。まちの力になりたい」と前を向く人首廣作さん
東日本大震災の津波で釜石市嬉石町にあった店舗が全壊し、大只越町の仮設店舗などで営業を続けてきた洋菓子店「アンジェリック」が7日、大町の本設店舗に移り再スタートを切った。13日からはケーキの販売を始め、本格的にオープンする。店主の人首(ひとかべ)廣作さん(54)は「これからどうするか。うれしさよりも経営の不安が大きい」としつつ、「多くの人の支援でここまで来た。まちなかに店を構えることができたから精いっぱいやらせてもらう。終わりではなくスタート。まちをにぎやかにするため力になりたい」と意気込む。
嬉石町の店舗は父親の金平さんが1961年、和洋菓子を製造する「朝日屋菓子店」として創業した。人首さんは首都圏で電気設備の整備修理などを行う会社で働いていたが、将来は古里に戻るとの思いもあり転職。首都圏の洋菓子店で8年修業し、30歳の時に古里に戻り、朝日屋の洋菓子部「アンジェリック」をスタートさせた。
震災の津波では店舗兼工房が全壊。菓子づくりの道具や設備、レシピをすべて失った。金平さん(享年75歳)と共に母親の英子さん(同71歳)も亡くした。
当初は生活することで精いっぱいだったが、震災直後、がれきとなった店舗の様子を見に行った時、当時幼稚園児だった長男の颯眞君から「パパ、ケーキ作るんだよね」と聞かれ、「もう一度働く姿を見せたい」と再建を決意。2011年12月、鈴子町の商業施設と大只越町の仮設商店街に工房や店舗をオープンした。
その際、修業時代の仲間らから菓子づくり設備の提供を受けるなどの支援を受けた。以前雇っていた従業員らからは、レシピのメモ書きなども寄せられた。人のつながりをこれまで以上に感じ、感謝の気持ちを表すため、「釜石をPRし、まちに貢献できる商品を作りたい」と考えながら営業を続けた。
再開から1年ほどは仮営業でも客足は順調だったが、まちの復興が徐々に進み、立ち寄ることのできる場所が増えると、人の流れが分散。ケーキなどの生菓子だけでは長く続けられないとの思いから、焼き菓子など日持ちし、お土産やギフト用の商品づくりに力を入れ、鉄鉱石をイメージさせる菓子や地元企業と連携した新商品を開発、販売してきた。
「アンジェリック」と大きな文字が目を引く新店舗
それから6年。ようやくこぎつけた本設店舗でのプレオープンに、人首さんは「本設での出発でも、たくさんの人に助けてもらった。自分にできることは、おいしいものをつくること。小さい力だが、地域のため力になれることがあるはず。しっかり前を向いていく」と力を込めた。
新店舗は市街地中心部の大町にあり、周辺には居酒屋、ホテル、復興公営住宅などが建ち並ぶ。生前、金平さんは「(人首さんが作った)ケーキをまちなかで売れば喜ばれるのに」と、よく口にしていたという。「よくやった、良かったな」。そんな両親の喜ぶ姿を思い浮かべ、13日のグランドオープンを迎える。
13日〜15日はケーキなどをオープン価格で販売。来店者へ記念品も用意。営業時間は午前9時から午後7時。
(復興釜石新聞 2017年9月9日発行 第619号より)
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